M.M 涙恋花




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 7 7 58 1〜2 2021/10/18
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<4つの花を取り扱い、4つのテーマを取り上げたストレートに響く物語でした。>

 この「涙恋花」は同人サークルである「かしのきかな」で制作されたビジュアルノベルです。かしのきかなさんの作品をプレイするのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とお知り合いの倉下さんの共同で主催している「第一回crAsM.Mビジュアルノベルオンリー」にかしのきかなさんが参加頂いた事でした。このイベントにはありがたいことに30近いサークルさんが参加されたのですが、申し込み時点で半数のサークルさんについてはまだ作品をプレイしておりませんでした。今回取り上げているかしのきかなさんも同様でしたので、まずはサークルさんを知る意味も込めてプレイしてみようと思いました。タイトルから、どこか悲しいお話なのかなと思いプレイし始めました。

 この作品は、全部で4つの物語が収録されております。それぞれテーマとなる花がイメージされており、またシナリオも別々のテーマを扱っております。そして、タイトルに涙・恋とありますように4つの話はどれも恋を扱った悲しいお話となっておりました。主人公も舞台も全く別々の物語です。それぞれ関連もありませんのでお好きな物語から選んでプレイしてみて下さい。4つの物語は、そのメインとなる登場人物を選ぶ形でスタートさせることが出来ます。上から順番でプレイするのも良し、気に入った登場人物から選んでプレイするのも良し、この辺り自由度があるのが嬉しいですね。

 特徴としては、スチルの多さが挙げられると思います。いわゆる一般的なビジュアルノベルと比較して、要になる場面におけるスチルの枚数が多いと思いました。その為、登場人物達がどのような場面なのかのイメージを保管してくれます。スチル鑑賞モードはありませんが、是非一通りご覧頂きたいです。また、立ち絵での登場人物の顔が大きいです。私はメモを取る関係でウィンドウモードでプレイするのですが、登場人物の顔が大きく出るのは嬉しかったですね。フルスクリーンでプレイすると、ちょっとビックリするかも知れません。他にも、BGMはフリー素材を使いつつも使いどころが上手く、透明感のある音楽が場面を盛り上げてくれます。エンディングではボーカル曲も流れ、これがまたシナリオを総括するような雰囲気を出してくれますので是非聞いてみて下さい。

 プレイ時間は私で1時間30分でした。それぞれの物語で20〜30分程度であり、あっという間に読み終わる事が出来ます。また選択肢も幾つかあり、それによって幾つかのエンディングに分かれます。注意点ですが、この作品はツクールシリーズをベースに作っておりますのでノベルゲームとしては色々と不自由する場面があります。例を挙げれば、バックログが読めない、自由にセーブ&ロードが出来ない、マウス操作が出来ないといった感じです。その辺りに戸惑うかも知れません。その分、セーブ画面が出る場面は大事な場面という事になりますので確実にセーブしましょう。そして、是非全てのエンディングを見届けて欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<True EndはTrue End。そこに良い悪いも、好き嫌いも介在する余地など無いのですね。>

 4つの物語を読み終わって、何とも言えない切なさに襲われました。誰が悪いとかそういう事は全然なくて、ただ気持ちのすれ違いとかタイミングのズレが悔しいと言いますか居たたまれないという気持ちになりました。ここではそれぞれの物語について振り返ってみようと思います。

【日向井葵編】
 象徴されている花はひまわり。その名の通り、ひまわりの様な明るい見た目と性格の日向井葵は、ただ単純に真っ直ぐに主人公の事が好きでした。幼馴染ですので主人公の事は何でも知っていて、そしてそれは逆も然りでした。ですが、その心の中に育った恋の感情だけは違っていたみたいです。主人公にストーカーするバイト先の先輩相田に拉致監禁される主人公、それを助けた日向井葵はまさにヒーローでした。ですが、それは同時に日向井葵の恋心と真っ直ぐ向き合うことにもなるのです。決定権を持っているのは主人公でした。日向井葵の恋が重ければ、断れば良いのです。それがHappy EndとTrue Endの違いでした。この場合は、どちらに転んでもどちらかが死んでしまいますのでHappy Endとは言い難いですが、純粋な恋は時に命すらも凌駕してしまうんだなと思いました。

【青鈴龍之介編】
 象徴されている花はブルーベル。謙遜という花言葉がありますが、その通り決して自分の実力を鼓舞する事無く実直な性格な青鈴龍之介に好印象を持ちました。そしてそれはプレイヤーだけではなく主人公も同様だったみたいです。肺がんを患い田舎の病院で静かな生活を送っていた主人公にとって、実直で不器用な青鈴龍之介の姿は惹かれるに値するものでした。また、青鈴龍之介にとっては自分を助けてくれた命の恩人である主人公の父である勝への恩返しの機会でもありました。2人の交際は順調そのもの、それを断ち切ってしまったのはやはり自然の力でした。自衛官としての役割を全うした青鈴龍之介、後は運命だったのかも知れません。Happy EndとTrue Endの違いに、特に意味は無いなと思いました。それまでどう生きたのか、それを問うような物語だったと思っております。

【百合園円編】
 象徴されている花はオトメユリ。これは百合園円の姿を見れば誰もが納得するのではないかと思います。いや、百合園円というよりも主人公ですね。主人公は同性愛者でした。そんな主人公が好きな百合園円、男である百合園円は主人公の恋愛の対象になるはずがありません。そうであるのなら、自分が女になってしまえばいい。それがあの可愛い百合園円の誕生でした。同性愛者は気持ち悪いと、クラスメイトの早瀬朱莉は一蹴しました。まあそれが早瀬朱莉の本心なのでしょうけど、それでこれまでの付き合いも否定されるのは心苦しいですね。そしてそれは、主人公が百合園円を選ぶか選ばないかの選択そのものでした。これがHappy EndとTrue Endの違い、決定権は主人公にあったんですね。どうして性別なんてあるんでしょうね。やり切れない想いを抱えた、一途な人の姿を見る事が出来ました。

【黒宮神薔編】
 象徴されている花は黒薔薇。まさに黒宮神薔の姿そのものですね。自分が達成したい事業の為に全てを注いでいた黒宮神薔、しかしそれは利益を追求するのではなく社員全員の幸せを実現する為のものでした。事実、写真にサービス残業は決してさせませんし、一人ひとりに気配りしていました。ですけど、そんな真っ直ぐな想いも決して届く訳ではありませんでした。副社長の三上秀は黒宮神薔が買収した会社の元社長、自分達が沢山の時間を掛けて手に入れた特許を黒宮神薔に取られた訳です。どれだけ黒宮神薔が理想を話しても、納得できないという気持ちも分かります。ましてや、憎しみに駆られたら中々それを変える事は出来ませんね。Happy EndでもTrue Endでも同じだと思いました。そんな、人間関係のやり切れない場面を見る事が出来ました。

 それにしても、どうしてこの作品では悲劇をTrue Endにしたのでしょうね。誰も死なない、幸せなエンディングの方が気持ちが良いのではないでしょうか。その答えを、ここで議論する事に実は意味なんてありません。True EndはBad EndでもHappy Endでもありません。Trueなのでそれが真実のエンディングなのです。ただそれだけ、良い悪いや好き嫌いで語る事に何も価値はありません。何よりも、この作品のタイトルは涙恋花です。始めから悲劇が約束された物語、そういう意味でHappy EndがTrue Endになる事などあり得なかったんですね。この作り込みに納得いかないプレイヤーの方も多いと思います。そうであるのなら、後は唯受け入れるだけなのだろうと思いました。ありがとうございます。


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