M.M 老人ホームでラブロマンス オバァちゃんに恋せよっ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 7 | 7 | 76 | 1〜2 | 2021/1/3 |
作品ページ | サークルページ(Twitter) |
<タイトルの雰囲気通りまずもって明るく楽しい作品ですので、是非その個性の強さを堪能してみて下さい。>
この「老人ホームでラブロマンス オバァちゃんに恋せよっ」という作品は同人サークルである「サークルフォーリナー」で制作されたビジュアルノベルです。サークルフォーリナーさんの作品をプレイしたのは今作が初めてで、触れた切っ掛けはデジゲー博2020でサークルを回っていた時でした。デジゲー博2020は、その名の通りデジタルゲームオンリーの即売会となっております。主にシューティングなどの動的ゲームを頒布するサークルさんが多く、ビジュアルノベルを頒布するサークルさんはそこまで多くはありません。それでも今回は比較的多く、加えて個性豊かなタイトルが多い印象でした。今回レビューしている「老人ホームでラブロマンス オバァちゃんに恋せよっ」はまさにその最たるもので、もうタイトルだけで面白そうと思ってしまいましたね。果たしてどんなシナリオが待っているのか楽しみにプレイし始めました。
主人公は一ノ瀬源太郎という名前で90歳のおじいちゃんです。老人ホームに入っており、お酒が大好きでまだまだ元気いっぱいです。源太郎は一人の女性に恋をしておりました。その方はおトメさんと呼ばれており、こちらも齢92歳になります。老人ホームではマドンナと呼ばれておりますが、早くに夫を亡くしており今は未亡人です。元々源太郎はおトメさんを知っていた訳ではありませんでした。切っ掛けは外で日課の散歩をしていた時、たまたま怪我をした猫を獣医に連れて行った事でした。親切心で獣医に連れて行った源太郎は、なんと徘徊老人として通報されてしまいます。結果として猫は助かりましたが理不尽な扱いを受けた源太郎、そんな時に出会ったのがおトメさんでした。年甲斐もなくおトメさんに恋をしてしまった源太郎、おトメさんに振り向いてもらうためにしたのは・・・何とバンドを組んでアピールする事でした!この作品は、好きな人に真っ直ぐなとあるおじいちゃんの生き様を描いた物語です。
まずもってタイトルが最高ですね。もう直球も直球ですので、掴みは完璧でした。そしてそんなタイトルの通り、本当に老人ホームに住むおじいちゃんが同じく老人ホームに住むおばあちゃんに恋する物語が始まるんですもの。この作品は純愛ですね。ですけど、そこは唯の純愛ではなく老人を主人公とヒロインにしたなりの面白さが含まれております。まずもって、ブラックジョークが面白いです。上でも書きましたが、散歩しているだけで徘徊老人扱いされたり、他には「おトメさんと脈はあるかの?」と言えば「おトメさんは死んではおらんぞ!」って返ってきますしね。これ以外にもチラホラとブラックジョークを交えており、良い具合にハマっておりました。後は行動に遠慮がありません。作中でしょっちゅう「迷ったらすぐやれ!」というセリフが飛び交い、老い先短い源太郎は次々と行動していきます。この勢いも面白くて魅力でした。
後はBGMの使い方が上手だと思いました。上でも書きましたが、この作品は源太郎がバンドを組んでおトメさんに振り向いてもらう物語です。初めてのバンドですので、どんどん勢いで新しい事に挑戦していきます。そこには成功もあり挫折もあり色々なドラマが目まぐるしく展開していきます。そんな場の雰囲気を、コロコロと変化するBGMで上手く表現しております。この変化がテキストのテンポと上手くシンクロして、本当に作品全体のテンポ感の良さに繋がっておりました。これは間違いなく製作者のセンスが良かったから実現した事だと思っております。そして、後半では実際にバントとして歌った曲をボーカル曲として流しております。この辺りのリアル感もお見事だと思いました。
プレイ時間は私で1時間10分程度掛かりました。選択肢は無く、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。実際のところ、もっと短いと思ってしまいました。それだけテンポ感が良く、飽きる事無く勢いで最後まで読む事が出来たからです。基本的には恋愛を取り扱った作品ですので、展開は読みやすく行動原理も分かりやすいです。しかし、そこはおじいちゃんとおばあちゃんを取り上げただけのオリジナリティがあります。中盤の展開は、少しウルッとしてしまいました。そんな癖のある内容ではありますが、基本的にコメディ調であり楽しく読めますので是非その明るさを感じて頂ければと思います。久しぶりに同人ゲームらしい作品に出会えました。ありがとうございました。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<本当の幸せは、やりたい事をやろうと動き出せる人に対して舞い降りるのだと思いました。>
ネタバレ無しでも書きましたけど、本当に明るくて楽しい作品でした。無事に恋が成就したのは勿論嬉しかったですが、それ以上に源太郎たちのバンド活動で沢山の人の人生が良い方向に変化していったのが素敵でした。本当、人生はいつまでも続くので最後まで自分らしく生きたいと思いましたね。
この作品をプレイして一番心に残った言葉は「人生は例え90歳になっても続いていく」でした。私も今は35歳で社会人として仕事をしながら生きておりますが、いつかは退職する時が来ますので仕事は出来なくなります。もしここで仕事だけしか生き甲斐が無い人だったら、退職後が本当に消化試合になってしまうかも知れません。作中でも、源太郎と哲夫と宏は元気ですがそれ以外の老人の半分は認知症だったりで生き甲斐のない人が多かったです。後は、この老人ホームにいる人が独身だったり早くに配偶者を亡くしていたりという事も関係しているのかも知れません。例え趣味が無くても、すぐ傍に話が出来る人が入ればそれだけで生き甲斐という物です。それすらなくなりこのまま死ぬまで一人だと悟ってしまったら、何事に対してもやり甲斐を感じないかも知れませんね。そんな、人生において最も大切な物を教えて貰った気がします。
そして、生き甲斐を持たなければいけないのは老人だけではありませんでした。むしろ、若い人こそ持たなければ生きていけないとすら思いました。老人ホームの職員である佐々木翔太は20代でありながら死んだ目で仕事をしておりました。元々バンドを組んでいましたがそこから離れてしまい、そのまま特に趣味もない生活を送っておりました。仕事では主任に怒られ、介護者にも小言を言われ、確かにこれが一生続くと思うと死んだ目になるのも分かる気はしますね。また、楽器屋の店員さんも虚無感を覚えておりました。趣味としてゴルフはありますが、どうやらそれが生き甲斐という訳でも無さそうです。何よりも、仕事があり趣味がありながら虚無感を覚えているという事は幸せではないのかなと思ってしまいます。他にも、ライブ会場で出会った若者など人生に悩んだり虚しさを感じるのは老人だけではない事が良く分かりました。この辺りは誰もが共感し理解してくれるのではないでしょうか。
だからこそ、源太郎たちがバンドを組み実際にライブで演奏した事の衝撃は大きかったです。正直言って、90歳から何か新しい事をしようとしてそれが実現する事は極めて難しいと思います。まずは体がもう老化しておりますからね。加えて感性や行動力も鈍っていると思いますし、何よりも志を共にする同志を見つける事が大変だと思います。ですが、それでも源太郎は実現しました。始めは90歳のおじいちゃんバンドが出ると聴いて冷ややかな態度をしていた周りの人も、実際にライブ会場や老人ホームで演奏する彼らを見て考え方が変わりました。誰もが源太郎たちを素直にカッコいいと思いましたし、もっと自分達も人生を頑張らなければと思いました。やっぱり、やりたい事に対して真剣で真っ直ぐな人の姿はどんな形であれ立派ですし尊敬に値すると思いますね。そりゃ、おトメさんも惚れなおすという物です。
もう一つ好きな言葉に「人生はいつまで経ってもアマチュア」がありました。これは言い換えれば、人生はどのタイミングから新しい事を始めても良いという事だと思います。後は、本人がやるかやらないかですね。確かに世の中的に奇抜な事をやろうとすると色々言ってくる人はいると思います。ですけど、そんな言葉は無視ですね。大事なのは自分がどうしたいか、そしてそれが出来る行動力があるかです。本当の幸せという物は、やりたい事が出来ているかやりたい事をやろうとして行動出来ている人に対して当てはまるのだと思います。例えやりたい事が成功しなくても、成功する為に努力する姿だけでも輝いているというものです。私も好きな事をやりつつも世間体を気にしている部分があります。完全の周りの目を無視する事は出来ないかも知れませんが、せめて好きな事に対しては真剣に向き合って楽しみたいと思いました。ありがとうございました。