M.M りんどうの雫 Ver. KISARAGI


<高校生らしい悩みと葛藤を感じながら、是非彼らの未来を想像して読んで欲しいですね>

 この「りんどうの雫 Ver. KISARAGI」は同人サークルである「FROSCH&SCHAFE」で制作されたビジュアルノベルです。FROSCH&SCHAFEさんと初めて出会ったのはC87で島サークルを回っている時でして、その時に入手したのが「りんどうの雫 Ver. KISARAGI」でした。シンプルなパッケージにどこか惹かれるものを感じ、今回のレビューに至っております。感想ですが、高校生らしい悩みと葛藤が印象的なあっさりと読めるシナリオでした。

 主人公である長谷和樹は高校2年生です。高校1年の時にサッカー部に所属しており放課後は毎日ボールを追いかける日々を過ごしておりました。ですがとある理由でサッカー部を辞めることとなり、現在はどこか退屈な日々を過ごしております。そんな主人公が通っている高校には竜胆祭という文化祭があり、他の高校と比べて生徒の自主性を重んじる校風もあって大変な盛り上がりを見せてくれます。物語は主人公がそんな文化祭のクラス実行委員になり、パートナーであるヒロインの如月玲奈と一緒に過ごすところから始まります。

 最大の魅力ですがやはり高校生らしい悩みと葛藤ですね。主人公は本意ではない理由でサッカー部を辞めている為どこか煮え切らない思いを抱えておりました。加えてそこまで自己主張する性格でもありませんので周りに流される事も多く、自分の気持ちを表に出せず後悔する場面もありました。ですが今回文化祭のクラス実行委員になることはそんな後ろ向きな主人公にとって一つの転機となります。果たして主人公は後悔のない高校生活を送れるのか、パートナーである如月玲奈とはどのような間柄になるのか。彼らの未来を想像しながらプレイして頂ければと思います。

 プレイ時間は私で50分程度でした。この作品は副題に「Ver. KISARAGI」とありますので恐らく今回は如月玲奈のシナリオしか無いのだと思います。事実物語途中にはメインヒロインとなるキャラクターが何人か登場しており、今後彼女らとの物語も読めるものと思われます。気が付けば終わってしまう短さですのでどうしても物足りなさも感じてしまいましたが、是非今後の展開に注目していこうと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<女々しい主人公が少しでも自分で決断した時、それが物語の終了の時でした>

 随所に主人公の女々しさが出ておりましたね。前の彼女である中曽根佳代に出会えそうになったら逃げる、一年先輩の志保が充実した高校生活を送っていた様子を聞いて嫉妬する、サッカー部に残らなかった事を後悔し続ける、如月玲奈の告白に前のトラウマを蘇らせて返事を渋る、人によってはイライラする性格だったかも知れません。ですが高校生なんてこんなものだと思います。こんなふうに多かれ少なかれ後悔を抱えながら大人になっていくのだと思います。ですが最後の最後で自分なりの答えを出すことが出来ました。あの後如月玲奈とどのような間柄になるのか分かりませんが、少しでも自分で決断した事で前向きな結果になるのではないかと信じております。

 という訳で主人公視点の生活を描いた夏の物語でした。正直に言えばもっと具体的なエピソードが欲しかったなと思っております。途中小説や絵画の話が出ておりましたが、具体的な作品名などは挙げられておらず印象が薄くなってしまった感じがしました。また登場人物達との会話もどこか事務的な印象で、もっと日常的な会話とか生々しさがあればグッと感情移入できたのかなと思っております。まあ、上でも書きましたが基本主人公は女々しい性格なのでそんな日常会話を見せつけられてもイライラするだけかもしれませんけどね。とりあえずはこの位のバランスで調度良かったのかもしれません。

 果たして如月玲奈の書いた海の絵とはどのような絵なのでしょうか。物語の冒頭、中曽根佳代から振られた場所は波の音が響く海岸でした。このことからも主人公は少なからず「海」というものに対して良い印象はもっていないと思われます。もしかしたら、如月玲奈が描いた海の絵を見ることで、自分自身のトラウマを克服しようと思ったのかもしれませんね。そして如月玲奈のお願いとは何だったのでしょうか。あれだけ普段気丈に振舞っていた彼女のお願いです、とても気になりますね。いつか語られる日が来るのでしょうか。そうでなくても、プレイヤーに想像させる事が一つの目的なのかもしれませんね。

 そろそろまとめようと思います。水彩画の様なプニプニとした触感を感じさせる立ち絵はそれだけで愛らしく、どのキャラクターにも好感を持てました。BGMも割と多ジャンルでして、中には琴線に触れるものもありました。その為時間の経過を感じることなくシナリオにのめり込むことが出来ました。是非他のヒロインのエピソードが出ることを強く望みますね。女々しい主人公がどのように成長してくのか、楽しみにしております。


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