M.M 陸軍中野女学校〜乙女一号指令〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
3 4 4 66 〜1 2015/7/25
作品ページ サークルページ
(作品ページと同じ)
ボイスドラマ



<とにかく全体的に動きが細かく、キャラクターに命が込められたかの様で驚きました>

 この「陸軍中野女学校〜乙女一号指令〜」は同人サークルである「そらソフト」で制作されたビジュアルノベルです。「そらソフト」さんの作品をプレイするのは今回が初めてでして、それが今回レビューしている「陸軍中野女学校〜乙女一号指令〜」です。割と目を引く色使いのパッケージ。加えて描かれている女の子もまた目を引く格好をしております。そしてあらすじを読むとどうやら時空を超えるSF要素もあるようです。まったくシナリオの予想が付きませんが、何か心に印象を残してくれる展開が待っていそうです。

 舞台は中野桜学園という女学校です。戦時中は陸軍中野女学校という軍が統括する学校であった事もあり、他の学校とは違うステータスを持っております。その為かこの学校にはサバゲ部というその名のとおりサバゲーを行う部活動があり、そのサバゲ部に所属している4人の生徒がこの物語の主人公となっております。4人とも性格も様々ですが皆仲がよく、この日もいつものようにサバゲ部の活動を行っておりました。ですが練習中に突如不思議な霧に包まれてしまい、目が覚めたら学校のサバゲフィールドとは全く違うところにいました。ここから彼女たちの時空を超えた物語が幕を開けます。

 まず凄いと思ったのは立ち絵の動きの細かさです。冒頭ヒロインが廊下を歩くシーンがあるのですが、遠いところから少しずつ近づいてくる様子が細かく表現されております。その後の会話のシーンでも表情や仕草がコロコロと変わり、時間以上に沢山の差分が作られていることが分かります。加えて随所にムービーを入れたり背景をズームしたりと立ち絵以外での動きも目立ちました。そしてこの作品は全キャラクターに声がついております。動きが細かいことに加えて声もついておりますので、本当に生きているんじゃないかと思うほど臨場感がありました。そしてキャラクター描写が水彩画のように柔らかいのです。これも機械的ではない人間的な印象を与えてくれます。女学生らしい爽やかさとあどけなさを残したテキストも魅力的でした。

 プレイ時間は私で50分程度掛かりました。正直シナリオとしては短いです。加えて内容上あらすじ以上のネタバレはできませんのでここでは伏せておきます。また上で声があると書きましたが、飛ばすことは出来ません。厳密には多少飛ばす事は出来るのですが、ある程度テキストが表示されないと飛ばせません。普段声を無視してポンポン進める人にとってはストレスかも知れませんが、元々短いシナリオですのでノンビリとプレイする事をオススメします。何よりも臨場感溢れるキャラクターを感じる意味でも声の役割は大きいです。是非彼女たちがどのような苦悩を味わうのか、そして物語の結末はどうなるのか想像しなからプレイしてみて欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<直接戦争の真実を肌で感じた彼女たちは、きっとこれから健全な精神で大人になっていくのでしょうね。>

 とても爽やかなシナリオでした。突然戦争真っ只中の中野へ飛ばされても持ち前の明るさを失わない4人。そしてそこで出会ったおばさんや軍人達も悪い人はいませんでした。何よりも市川中佐の軍人としての姿勢や誇りを失わない姿勢が素晴らしく、また一方で適応能力の高さも持っておりとても好感が持てました。戦争に対するアンチテーゼを訴えたシナリオもわかり易く、最後まで楽しませて頂きました。

 私が一番心に残ったシーンは、やはり美雷が「行かないで!」と叫んだシーンですね。幼い時から両親を亡くし祖父と2人で過ごしてきた美雷。そして言葉だけで伝えられた曽祖父である市川雷三の話。おそらく美雷にとって雷三に会えた喜びは、ただ名誉あるご先祖様に会えたという事よりも大切な家族に会えた喜びの方が大きかったのだと思います。心の奥ではきっとさみしい思いを抱えていたんですね。あの「行かないで!」には、行ったらもしかしたら雷三が死んでしまうかもしれないという事を危惧した事に加えてもっと一緒の時間を過ごさせて欲しいという想いがあったのだと思います。そんな美雷の内心を想像して、ちょっとうるっと来てしまいました。

 ですがそんなうるっとした私の気持ちもつかさが言った「平和になったことを知って嬉しい」というセリフで救われました。美雷にとってはひと時の夢のような出来事、ですが雷三にとっては未来は明るく子孫は平和に生きている事を知れた大切な出来事でした。雷三はこれで安心して自分の任務へ臨めますね。そして同時に自分は決して死んではいけないと強く思うことが出来ました。どういう原理でステテコと手紙が帰ってきたか分かりませんが、少なくとも雷三が生きて戦争を終えたことは間違いありませんね。世界線とか細かい事は気にしない事です。この作品は、そんな登場人物達の心情をどれだけ想像できるかが全てな気がします。

 という訳で短いながらも登場人物達の心情がストレートで分かり易いシナリオでした。軍人としての誇り、家族に対する想い、そして何よりも女学生らしい明るくハツラツとした雰囲気が素敵でした。戦争はどんな理由があっても行ってはいけない。それは誰かが犠牲になりどこかで不幸が生まれること。そんな重いテーマをコミカルな雰囲気で伝えてくれました。タイムワープした事でそんな戦争の真実を直接肌で感じた4人、きっとこれからも健全な精神で学生時代を過ごし大人になっていくのだと思います。そんな彼女たちの成長を期待してレビューの終了とさせて頂きます。ありがとうございました。


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