M.M Rewrite




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 10+ 9 92 45〜50 2020/4/30
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<シナリオライターが変わっても、この作品は間違いなくKeyの作品だなと胸を張って言う事が出来ます。>

 この「Rewrite」という作品は、美少女ゲームブランドである「Key」で制作されたビジュアルノベルです。ビジュアルノベル業界において、Keyの名前を知らない人はいないのではないでしょうか。いわゆる「泣きゲー」「感動ゲー」と呼ばれるジャンルの先駆けを作ったブランドであり、Keyの前身であるTacticsの時代から「moon」「ONE〜輝く季節へ〜」などの作品を手掛けており、keyの処女作である「Kanon」から今日に至るまで幾つもの有名な作品を手掛けております。私はこれまでkeyの作品では「Kanon」「AIR」「CLANNAD」「リトルバスターズ!」の4作をプレイしてきました。全ての作品に共通している点として、シナリオが壮大で泣かせに来ている事は前述しましたが、音楽があると思っております。主題歌はどれも耳に残る美しいフレーズのものが多く、特に「鳥の詩」はネットでは国家と称される程のヒットとなっております。そしてBGMは麻枝准氏や折戸伸治氏に代表されるピアノを中心としたサウンドが多く、個人的にもこれまでプレイした作品の中でBGM単体で最も好きな作品は「CLANNAD」だったりします。シナリオと音楽で独特の個性と人気を作り上げ、現在も第一線で活躍しているブランドです。

 今回レビューしている「Rewrite」は、そんなKeyの作品の中では異質なものであると思っております。私が初めてRewriteを知ったのは、確か2008年4月1日のエイプリルフール企画だったと記憶しております。実際はエイプリルフール企画などではなく本物の企画ではあったのですが、シナリオライターに「家族計画」「CROSS†CNANNEL」を制作された田中ロミオ氏、「ひぐらしのなく頃に」を制作された竜騎士07氏の名前があり、こんなドリームチームが実現するはずがないという先入観と4月1日という日付がエイプリルフール企画と思わせたのだろうと思われます。それでも実際に上記の2名と都乃河勇人氏を加えた3名体制でのシナリオはどんな形になるのだろうと思ったのが本当のところです。それでも評判は良くその後アニメ化などもされ間違いなくKeyを代表する作品であると確信し、必ずやプレイしなければと思っておりました。麻枝准氏や折戸伸治氏も継続して参加しておりますし、果たしてこれまでのKey作品とテイストは違うのか、何をテーマとしているのかといった点にも注目してプレイし始めました。

 舞台である風祭は文明と自然の調和を図る都市として、世界的に有名なところです。街には緑が多く、しっかりと管理された森も存在しております。特に年1回行われる収穫祭には何十万人という人が訪れ、大変な賑わいを見せております。主人公である天王寺瑚太郎は、そんな風祭にある風祭学園に所属している2年生です。性格は基本的にお茶らけていてどこか真剣みに欠ける軽い感じで、クラスメイトと仲良くしようとしても上手くなじめず中途半端な青春を送っておりました。それでもそんな瑚太郎の傍にはヒロインである神戸小鳥がいて、瑚太郎の事をよく理解しており寂しさは感じておりません。そんな2人の当たり前の日常が続くと思っておりました。ある日、瑚太郎は近くの森に入った際に心霊現象のような体験をします。そして、その原因を探るべくオカルト研究会の会長と言われている千里朱音に相談します。そして、ひょんな切っ掛けで何故かオカルト研究会に所属する事になり、神戸小鳥を始め鳳ちはや、中津静流、此花ルチアを加えた6人で様々な現象を探る事になります。それは瑚太郎が求めていた青春の日々そのものでした。ですがそれもずっと続くものではありませんでした。やがて知る事になる世界の真実、それを目の当たりにしたとき、オカルト研究会はどうなってしまうのでしょうか。

 起動して直ぐ、ああ確かにこれはKeyの作品だと思いましたね。それはタイトル画面で流れる「旅」という曲のお陰でした。旅は麻枝准氏の作曲であり、ピアノを使用した楽曲です。非常に透明感があるサウンドや変拍子にしている構成が麻枝准氏らしいと感じました。その後のテキストでも、日常パートでの関西系独特のノリはKeyの特徴であり懐かしさすら感じました。またネタバレ無しでは書けませんが、扱っているテーマもこれまでのKey作品に通じるものがありました。テキストのテイストは違っても総合的にこれはKeyの作品であると言えるものでした。そういう意味で、是非これまでのKey作品のファンはもちろん、初めてkey作品をプレイされる方でも問題なくプレイ出来ると思います。Key作品独特の透明感、ノリ、BGM、それを新しいシナリオライターのテイストで是非楽しんでみて下さい。

 またそれ以外の部分で動きの演出があります。Rewriteでは非常に多くのエフェクトが使われております。風を切る様子など動きの雰囲気をエフェクトで保管する事によってより臨場感を高めておりました。そして最大の演出はマッピーという地図アプリを使用したマップ探索システムです。これは実際に地図の中をマウスで散策して、特定の場所で発生するイベントを読むという物です。街を歩いている雰囲気が伝わり、隠しイベントもふんだんに取り入れておりますのでゲーム性があります。他にも、オカルト研究会らしく様々なミッションを集め調査するといったサブイベントもあります。これはシナリオの本筋には関わりありませんので気楽にプレイする事が出来ます。そういった要素を総合的に楽しみつつ、Rewriteの世界観を楽しんで頂ければと思っております。

 プレイ時間は私で47時間30分でした。正直言って、非常に長いと思いました。ですがこれもまたkey作品の特徴と言えるかも知れません。「AIR」は私で40時間、「CLANNAD」は60時間程度掛かったかもしれません。Rewriteの場合は共通ルートで約10時間、そこから個別ルートでそれぞれ5時間といったところでしょうか。また上でも書きましたが、マッピーによる探索システムやオカルト研究会のミッションを集めるイベントなどもありますので選択肢の数は非常に多いです。セーブフォルダは全部で200個用意されておりますが、私は200個では足りませんでした。各ヒロインのルートに行く事はそこまで苦労しないと思いますが、単純に選択肢が多いので時間が掛かります。2週目以降は既読スキップも使えますが、固有のイベントが多いのでその恩恵を受けれるのは3周目くらいからかなと思っております。雰囲気に慣れない人はやや苦痛に感じるかも知れませんね。それでも、是非最後までプレイして主人公瑚太郎の運命を見届けてみて下さい。そして、Keyらしいテーマを感じ何か一つ持ち帰ってみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人類の可能性を示す事、それ篝の為ではなく自分達の未来の為に必要な事だったんですね。>

 この作品は環境問題を扱った作品なのでしょうか?それとも世界平和を扱った作品なのでしょうか?確かにそういった側面はあると思いますが、もっと単純にこの作品は星と人間の関係を描いた作品だったのではないかと思っております。星がありその中に人がいる、だからこそ星だけでも人だけでも物語は完結しないという事を感じました。

 皆さんは今この世に生きていて、地球や月に命があると思っておりますでしょうか?恐らくそういった事を思っている人はほとんどいないと思います。何故なら、命は生命が宿しているものであり地球や月は生命ではないからです。「地球は泣きもしないし笑いもしない」という言葉やこれに類する言葉を様々な場面で見ますが、これは地球が生物ではないという事を示した物であり多くの人が納得すると思います。Rewriteの世界では星は生きておりますしそれを具現化した篝という存在もあります。その為、人知を超えた圧倒的な篝という存在を巡ってガイアとガーディアンという2つの巨大組織が誕生しました。Rewriteの世界は人々の意識無意識に関わらず星は生きている物であり、間違いなく篝という存在を中心に世界は生きているのです。天変地異も謎のウィルスの出現も、Rewriteの世界ではもしかしたら星によるものとして扱われるのかも知れません。

 ですが、皆さん今の地球に生きていて本当に星に命はないと言い切れるでしょうか。今このレビューを描いている2020/4/30は新型コロナウィルスが世界中に蔓延している時代であり、あっという間に世界経済をストップさせてしまいました。原因はもちろん新型コロナウィルスそのものですが、どうしてこのようなウィルスというものが存在するのでしょうか。他にも、夏になれば超大型の熱帯低気圧が襲撃する割合が多くなるように感じます。猛暑日も年を重ねる毎に長くなり、人類が文明の力無しに生きていく事すら危うくなっていると感じております。これもまた科学的に説明できるのですが、そもそもどうしてこのような状態になってしまったのでしょうか。もしこれが、星による人への報復だと言われたらどう思うでしょうか。くだらないと思うでしょうし笑うと思います。ですが、そんな事は関係なしに今目の前で起きている災害に対応しなければいけないのです。星による報復であったとしてもなかったとしても、結局人は人の力で未来へ進まなければいけない事に変わりは無いのです。

 篝が求めていたのは一貫しておりました。それは良い記憶を持つという事、では良い記憶とは何だったのでしょうか?それは人類の可能性が示される事でした。ある意味、篝という存在があるだけRewriteの世界は優しいと思います。篝が登場したらいよいよ地球がヤバい、そう人は瞬時に理解する事が出来るからです。そして良い記憶を紡ぐ事が出来れば地球が滅びる事など無いのです。篝を消滅させるとか篝に全てを委ねるとか、そういう思考停止で後ろ向きな解決策ではなく人類が未来に生きる事が出来る可能性を示す、その為には1人が頑張るだけではなく全人類が協力して頑張る事が必要でした。それは何万何億それ以上ある無数の可能性の中のホンの1つ2つかも知れません。事実、月の篝はその可能性にたどり着くまで途方もない時間を掛けました。それでも見つかりましたので、人類は必ずや自分達の可能性を未来に残す事が出来るのです。むしろ、そうしなければいけない事が義務なのではないかと思いました。

 上で新型コロナウィルスや熱帯低気圧の話を出しましたが、これもまたそうした人類が未来に可能性を残す為に訪れた試練なのではないかと思っております。新型コロナウィルスについては、各国の対応がまちまちだったり責任はどこにあるのかを探っていたりという場面も見られました。ですが、そんな風に決断や責任を周りに押し付けるのは実は簡単だったりします。そして、他人事には目を向けず自分勝手に生きる事も出来たりします。ですが、それではこの災害を乗り切る事は出来ないのです。乗り切る事が出来ないという事は、それ即ち人類が滅びるという事です。ではどうすればいいのでしょうか?それは、人類1人1人がよく考えて自分だけではなく人が未来でも生きていける様に模索する事です。今であれば、人との接触を避けて外出をせず家に閉じこもる事です。自分勝手な判断で外に出てはいけないのです。まだ実体の分からない敵なのですから、専門家の話を愚直に聴いて自分のエゴを出来るだけ抑える事が求められるのです。これを全員で行う事が、人類の可能性を示すという事なのではないでしょうか。

 瑚太郎は、ガイアにもガーディアンにも属する訳ではなく両方の中立の立場として篝のサポートを行いました。それは誰もなし得なかった事でありやろうともしなかった事です。ですが結果としてその瑚太郎の行動から人類の可能性を見出す事が出来ました。瑚太郎はその命を全て書き換えてしまいましたが、ヤスミンが記録として残してくれました。そしてそれはガイアとガーディアンが残した技術を融合したもの、即ち命そのものを糧とする技術でした。これによって、人類は新しいステージへと上がる事が出来合わせて未来への可能性を示す事が出来ました。やっと、良い記憶を星に覚えさせることが出来たんですね。その為に、瑚太郎は何度も失敗をしました。5人のヒロインとのエンディングはそれなりに幸せなものでしたが、人類にとっての幸せではありませんでした。そうした可能性のある様々な事象を集め、月の篝が答えにたどり着いたからこそ、瑚太郎は最後良い記憶を示す事が出来たのだと思います。Terra編にて、ほぼすべての選択肢が自動で選ばれました。これは月の篝がたどり着いた事象をなぞっているからだと思っております。意味のない選択肢などない、それら全ての積み重ねがゴールへと繋がったのです。

 最後、オカルト研究会の皆が瑚太郎を使い魔として復活させてくれました。そして、もう一つの約束である月の篝に会いに行きました。人類の可能性は提示出来ましたのでもう篝が現存する意味はありません。恐らく月の篝も同時に良い記憶を共に月に消えたのだと思います。ですが、月に篝がいた証をちゃんと残してくれましたね。そしてそれをオカルト研究会が見つける、こんな素敵なエンディングはありませんね。自分を何度も書き換えて、その繰り返しでやっとたどり着いた世界です。それは人類が皆協力してくれたから成し得た結果です。人はきっとまた争いますし視野が狭まって簡単な道へと進んでしまうと思います。それでも再び人類は協力して、未来への可能性を示してくれると信じております。ありがとうございました。


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