M.M Remember11 -the age of infinity-
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
9 | 8 | 8 | 89 | 30〜35 | 2018/1/28 |
作品ページ | ブランドページ(なし) |
<雪山を駆け回り、記憶の迷路を駆け回り、幾つもの選択肢を駆け回り、その先に待っているものは……?>
この「Remember11 -the age of infinity-」という作品は、かつて2007年2月から2012年までサイバーフロントにより運営されていたコンシューマーゲームのブランドである「KID」で制作されたビジュアルノベルです。過去に発表された「Never7 -the end of infinity-」、「Ever17 -the out of infinity-」に続く、いわゆる「infinity」シリーズの第3作となっております。「infinity」シリーズの魅力は、壮大なSFアドベンチャーとプレイヤーの斜め上を付いてくる禁じ手の様なトリックにあると思っております。私自身過去にプレイした事があるタイトルは「Ever17 -the out of infinity-」のみですが、美少女ゲームとしての面白さと十分なプレイ時間、そしてSFとしての面白さに溢れておりました。その上でプレイヤーの度肝を抜くトリックに完全にやられてしまい、今でも印象的に残っている作品の一つとなっております。そんな「infinity」シリーズという事で非常に大きな期待を持っておりました。
そしてこの作品をプレイする切っ掛けは、「infinity」シリーズだからという事ともう一つありました。2017年の暮れですが、Twitterの方で「自分が100本目にレビューする作品名を予想し正解したら、正解者がリクエストした作品1つをレビューします!」という企画を行いました(企画についてはこちらからどうぞ)。そして、見事正解された方が4名おりました。その中の1名が選択されたのがこの「Remember11 -the age of infinity-」だったという事です。正直な話、ありがたかったです。選択するタイトルは本当に正解者任せだったのですが、自分が過去に「Ever17 -the out of infinity-」をプレイされた事、いつかは「Remember11 -the age of infinity-」をプレイしてみたいと思っていた事を組んで頂いたのかも知れません。やりたいと言っていつまでも動かない自分の尻を叩いて頂きました。そうであるのなら、心置きなくプレイしてやろうという事で集中してプレイし始めました。
時は西暦2011年1月11日 火曜日。羽田空港を飛び立った小型旅客機CRJ110「HAL18便」は、主人公である「冬川こころ」を乗せて一路日本列島の最北端「稚内」を目指していました。ですが、同機は原因不明のトラブルに巻き込まれ、雪深い山脈にそびえる「朱倉岳」に墜落してしまいます。九死に一生を得たのはこころ・黄泉木・黛・ゆにの4名。ですが、そんな彼女らに襲いかかる恐怖はここからが本番でした。雪山の恐ろしいまでの寒さ・吹雪・暗闇・徐々に少なくなる暖と食糧。神経をすり減らしながらも救助隊が助けに来てくれることを必死に待ちます。ですがそんな彼女らの前に恐ろしい事実が突きつけられました。避難小屋にあったのは2011年7月4日の新聞、どうして未来の新聞があるのでしょうか?そして、その記事には「旅客機墜落事故の乗員乗客は、ゆにを除いて全員死亡」と書いてありました。4人の死亡原因は墜落そのものではなく雪崩事故。雪崩の発生日は、6日後の1月17日。これは誰かの悪戯でしょうか?そして、もしこの新聞が本物だとしたら、彼女らは死んでしまうのでしょうか?
この作品にはもう一人の主人公がいます。その舞台は日本海に浮かぶ絶海の孤島「青鷺島」。そこには周囲を高い壁に囲まれた閉鎖施設「スフィア」があるだけでした。その施設が建てられた目的は、今は明かすことが出来ません。ある日、その「スフィア」にある時計台から一人の男性が転落します。この男性がもう一人の主人公である「優希堂悟」でした。転落の原因は不明、決して自殺を図った訳ではないのです。奇跡的に生還を果たした悟、ですがその後幾度となく身の危険にさらされる事になります。果たして誰が悟の命を狙っているのでしょうか。閉鎖施設である「スフィア」は、その名の通り高い壁に囲まれ誰も出入りする事が出来ません。つまり、犯人は「スフィア」内にいる穂鳥・内海・ゆにの誰かに違いないのです。ですが、どれだけ調べても誰が犯人か分かりません。誰もが疑わしく、誰もがアリバイを持っているのです。果たして悟は生き抜くことが出来るのでしょうか?
そしてこの作品の一番の醍醐味、それは主人公である「冬川こころ」と「優希堂悟」が人格交換するところです。人格交換するタイミングは全くの謎、何の前触れもなく突然2人の体が入れ替わってしまいます。唯でさえ過酷な環境なのに唐突に体が入れ替わる、戸惑うのは本人だけではありませんね。こいつは本当に信用できるのだろうか?多重人格障害か何かなのだろうか?いやそれすらも実は演技なのか?そんな空気感が作られていきます。それもこれも、雪山や閉鎖空間という特殊な環境が作り出しているのです。普通であれば考えられない様な思考の渦に巻き込まれるのです。ですが、唯一彼らの行動を俯瞰できる存在が一人だけいます。それは今目の前にいるあなたです。こころと悟のそれぞれの視点で描かれる事実を把握し、何としても彼らを不幸にしないで下さい。それが出来るのは、あなたしかいないのです。
他にも、冬という厳しい気候を表現した演出が大変印象的でした。乗っていた飛行機が事故に遭い、極寒の雪山に放り出されるこころたち。何とかたどり着いた避難小屋ですが、日に日に減っていく薪や食糧に嫌が応にも絶望感が包みます。そして外を見れば白一色の景色、5m先すら見えない、声も聞こえない、そんな風景が怖かったです。かと言えば気まぐれに覗く晴れ間に喜び、外を散策する様子も印象的でした。どちらにしても、雪山という自然の力にただ為すすべもなく振り回されるのです。逆に、悟がいるスフィアは暖房が行き届き寒さとは無縁の環境です。ガチガチに震え寒さに耐えるこころが悟と人格交換し、一時の暖かさに涙したかと思えばまた雪山に戻される、この絶望感を想像しきるのが難しいですね。雪山の寒さ、白さ、冷たさ、暗さ、怖さ、そういったものを味わって頂ければと思います。
プレイ時間は私で32時間30分程度でした。ちなみにこれは全てのエンディングを確認するまでの時間です。この作品はクリアリストについて非常に丁寧に提示しており、読んだテキストレベルまで表示しております。どういう事かと言いますと、テキスト全ての行を読まないと100%にならないのです。私はエンディングは全て確認しましたがテキスト既読率は98%でした。流石にこれ以上極めるのは時間的に意味がないかなと思いここで終わりにさせて頂きます。と言うよりもエンディングだけでも33個ありますからね。その殆どが生還できないエンディングですが、是非全ての結末を見届けたいと思いひたすら雪山の中を駆けずり回りました。最後までプレイして、その先にプレイヤーに待っているものは何なのでしょうね。詳しくはネタバレ有りで書きますが、これはプレイした人だけの感想があると思います。プレイ前から賛否両論が入り混じる作品である事は知ってましたが、なるほど納得しました。何れにしても「infinity」シリーズらしい作品だなと思いました。
最後に注意点があります。プレイしていけば自ずと分かりますが、この作品はとにかく選択肢の数が多いです。セーブスロットは60個用意されているのですが、全部使っても一周分の選択肢場面をセーブする事が出来ません。分岐を総検証するなどほぼ不可能です。加えてこの作品には人格交換があります。今あなたが選択した行動に対して相手がどう行動してくれるのか分からないのです。そこまで想像して選択肢を選ぶ、非常に難しく同時に非常に面白いと思いました。まさにノベル”ゲーム”と呼ぶに相応しいですね。せめてグッドエンディングについては自力でたどり着いて欲しいです。それ以外のエンディングについては、各種攻略サイトを参考にして良いと思います。そして戦慄して下さい。そして気づいて下さい。この作品に仕掛けられた恐ろしいテーマに。記憶の迷路の先に待っているもの、そしてそれをどう捉えるのか、頑張って下さい。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<登場人物を生かすも殺すも、全てプレイヤーの気持ち次第。それを分かって選択肢を選んでますか?>
ネタバレ有りのテキストを書く前に、1つだけどうしても吐き出したい事を書いておきます。これは自分が物理屋であり原子核物理学を専攻していた頃の成れの果てです。レビューの本質とは全く関係ありませんので悪しからず。
--------(以下反転)--------
量子テレポーテーションで時間軸を傾ける?あんた、そんな事したら空間軸と時間軸が直交しなくなるじゃん。そしたらそれぞれの単位ベクトルの内積が0にならないから干渉し合うよね?そんなんで量子テレポーテーション出来る訳ないじゃん?いいよ、これはフィクションだから。SFだから。ファンタジーだから好き勝手書いても。でもね、現実に実証されている理論使うんだったら、その辺の理論武装くらいちゃんとしろって話よ。こんなちょっと物理かじった一般人にまでバレるようじゃダメでしょ。確かに量子力学は哲学的要素入ってるよ。けど、実証されてるんだからいつまでも哲学じゃないんだよ?榎本がドヤ顔で時間軸を傾けた瞬間、流石に「はああああああああ(怒)」ってなったわ!Ever17でも思ったけど、その辺の詰めの甘さが気になるんだよなぁ。
--------(以上反転)--------
最後までプレイし終わって、さて何を書こうかと小一時間悩んでしまいました。作中の謎について触れればいいのか、悟編のグッドエンディングのあの結末について考察すればいいのか、まだ語られていない事実について語ればいいのか、それもまた面白いと思います。ですが、そういう行為は先人の方々や既に行ってきましたので多くは触れません。私がメインで書きたいこと、それはこの作品がプレイヤーにさせた作業の意味についてです。この作品で私たちプレイヤーが行った行為、その真相の何と残酷な事か。
ネタバレ無しでも書きましたが、この作品においてこころ編と悟編の事象を正確に把握できる存在は目の前にいるあなたしかいません。これって、裏を返せば彼らの行動を操れるのも目の前のあなたしかいないという事です。初めてプレイした時、私は雪山の中でこころを凍死させてしまいまいた。その次は蹉跌を踏まないと別の選択肢を選びましたが、今度はこころが殺されてしまいました。そんな事を何回か繰り返し、何とかこころ編のエンディングにたどり着きました。それでも物語は終わりませんでした。終わらないどころか、ここからようやく悟編を見れるようになりました。この時点でまだ半分です。
実は私、悟編に初めて入ってなんと一発でグッドエンドにたどり着いたんです。自分でも「運良かったな〜」って思いました。まあ、エンディングの真相についてはその後色々と考察する事が多かったですけどね。それでも一通りこの「Remember11 -the age of infinity-」という作品をなぞれたなと安心しました。ですが、この作品にはこれ以外にも沢山のエンディングがありましたので一通り全部埋めようと思いました。きっと、そのどれもが死ぬエンディングなんだろうなと思い、まずは軽く幾つかの重要な選択肢をわざと間違える方法で進めました。
ですけど、そうしていく中で気付きました。これはどうしても「こころ編と悟編を行き来しないと埋まらない」と。それぞれの編で一生懸命努力しても、どうしても限界があります。当然ですね。一週間という時間をこころと悟の2人でほぼ半分ずつ過ごしているのですから。その為、一通り片方の編でエンディングを埋めた後は、ワザと片方の編で死ぬ状況を作ってもう片方の編でその時間まで生き延びるという作戦を取りました。これが結果として正解で、順調にエンディングを埋める事が出来ました。ですけど、こうしてエンディングを埋めていく中で気付いてしまったんです。これって、始めこころ編をグッドエンディングでクリアしなければ悟編でどれだけ頑張っても絶対にグッドエンディングにたどり着けないんだな、と。
それに気づいた時、正直ゾッとしたんです。どれだけ自分の努力で生き残ろうとしても、周りの環境がそれを不可能にしている。そして、その環境を作ったのは他ならぬ自分なのです。あれだけ始めはお互いの登場人物を生かそうとしたんですよ。それが一転殺そうとしてますからね。しかも、殺し方が2種類あるんです。自ら死にに行く方法と、檻を用意してそこに来るのを待っている方法と。この2つ目の方法が恐ろしいですね。何度も書いてますけど、本人の努力ではどうしようもないんですもの。いや〜上手いなと思いました。初回プレイでグッドエンディングに行かないと悟編に行けない、このシステムにも裏にはそういう意味があったんですね。ちゃんとこころ編で生き残る下地を用意してあげる。その上で悟編に導く。優しいですねスタッフの方々。少なくとも、これで自分の努力でグッドエンディングにはたどり着けますもの!
正直時間が掛かりました。悟編のエンディングを見るために一旦こころ編をプレイして下地を用意して、改めて悟編をプレイする。こころ編のエンディングを見るために一旦悟編をプレイして下地を用意して、改めてこころ編をプレイする。ここまで時間をかけて苦労してしんどい思いをして、待っているのは予定調和の死ですからね。一番報われないのはプレイヤーですよ!だってエンディングを迎えなくてもエンディングの中身を知ってるんですもの!詳しくは触れませんが、「Ever17 -the out of infinity-」もプレイヤーをゲーム中に取り込む事が印象的な作品でした。そして、この「Remember11 -the age of infinity-」もまたそういう意味ではプレイヤーをゲーム中の取り込む事に成功した作品だと思います。彼らの運命を握っているのは全てプレイヤー、生かすも殺すもプレイヤー、下地を用意して後はその通りに登場人物が動くのを調整するだけ。一つ高い次元にいるプレイヤーだからこそ出来る仕掛けでした。これこそまさに「infinity」シリーズ!天晴れでした!