M.M Re:LieF〜親愛なるあなたへ〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 8 86 13〜15 2018/4/9
作品ページ(R-18注意) ブランドページ(R-18注意)



<まるで箱庭のような美しい舞台の中で、是非一人ひとりの決断の行く末を見届けて下さい。>

 この「Re:LieF〜親愛なるあなたへ〜」という作品は、2016年に「RASK」という新規ブランドで制作されたビジュアルノベルです。RASKの処女作であり、2016年を代表する作品として多くの方にプレイされております。この作品をプレイした切っ掛けは、私の知り合いであるビジュアルノベル製作者の方にオススメされた事です。元々綺麗な作品だなとは思っておりましたが、商業作品ですのでこのくらいのクオリティはそれ程珍しくないのかなと思っておりました。ですが、私の信頼する方のオススメであれば話は変わります。普通の良作を超えた何か心に残るものがある事を期待して、お話を伺ってから半年以上経過してしまいましたがプレイさせて頂きました。

 トライメント計画、それは社会生活の中で挫折してしまったり、うまく適応することが出来なかった若者を対象とした事業です。モラトリアムを卒業して一度社会へ羽ばたいていった彼らに、もう一度モラトリアムの機会を与えるのです。それは言葉通りで、もう一度学園に通う事でコミュニケーションや将来の目標を見出していきます。トライメント計画の期間は調度1年です。今年も沢山の学園生がやってきました。桜の咲く春から始まり、再び桜が咲く季節までの間に、彼らは何を見つけるのでしょうか。そして、再び社会へと羽ばたいていく事が出来るのでしょうか。是非、一度モラトリアムを卒業した皆さんだからこそ彼らの行く末を見届けてみて下さい。

 一番の魅力は、人物や背景を描いた美術にあると思っております。トライメント計画が行われるのは、本土から隔離された御雲島という絶海に浮かぶ島です。それでも周囲何kmもありそれなりの面積があります。コンビニや娯楽施設はありませんが、商業施設もあり普通に文明的な生活を送る事が出来ます。そんな御雲島の魅力を余す事無く背景で描いております。とにかく綺麗ですね。島や学園の描写は勿論、桜の舞い散る様子や夕焼雲の姿、夜の帳などあらゆる描写が丁寧に描かれております。まるでそれは箱庭の様、おとぎ話のような世界が広がっております。まさに、再びのモラトリアムを過ごすのに最高の環境と言えます。勿論、決して空想の世界ではありませんのでそこは安心して下さい。

 そして人物もまた丁寧に描かれております。女性キャラクターは可愛らしく男性キャラクターは凛々しく描いているのは勿論ですが、光の反射と言いますか肉感がとてもリアルでした。その力が最大限に発揮されるのは、美しい背景と人物が一緒に描かれている各種スチルにあると思っております。箱庭のような美しい世界に負けず劣らずの眩しいキャラクター達です。その完成された一枚絵はずっと見ていたくなる程です。勿論、そんな肉感のリアルさはHシーンでも十二分に発揮してくれます。この作品の登場人物は、よくエロゲーにあるような不自然な体系の女の子はいません。普通の巨乳から普通の貧乳まで、どこにでもいる様なキャラクターばかりです。ですが、その体はやはり光に反射していてとても美しく輝いて見えます。あまりの綺麗さにヌク気すら失ってしまう程でしたね(ヌキましたけどね)

 後はやはりシナリオがメインとなっております。この作品は、あらすじでも書きましたが一度社会に出てうまく適応出来なかった人たちが再びモラトリアムを体験するシナリオです。現実世界では、中々実現するのは難しいですね。まるで、私たちが出来ない事を代わりにしてくれているかのようです。勿論、ただ再びの学園生活を終えてはい終わり!というシナリオとはなりません。各キャラクターが抱えている心の闇、トライメント計画の真実、謎の登場人物など、物語を進めていく中で浮かび上がる疑問を解き明かしていく事になります。ですが、あくまで大切なのはそれぞれの登場人物が再び社会に出るという事を真剣に考えるという事です。明らかになった世界の真実、良いでしょうそれは分かりました。では、あなたはそこからどう行動しますか?これを問うているのだと思います。誰もが決断する事からは逃れられません。そうであるのなら、せめて後悔しない決断をしたいところです。大丈夫です、ここは、そのための場所なのですから。

 プレイ時間は私で13時間40分程度でした。この作品にはメインヒロインが4人いて、全てのヒロインのエンディングを見る事で全ての真実が明らかになる仕掛けになっております。選択肢も幾つか登場しますが、正直簡単です。思い通りのヒロインルートに行けると思います。共通パートの終わりも分かりやすいです。時間のない方は、2週目以降はスキップして良いと思います。私のプレイ時間は共通パートをスキップしてのものです。スキップ無しですと、恐らく20時間程度でしょうか。一般的なボリュームだと思います。是非、桜の咲いている今の季節にプレイして欲しいですね。彼らと共に、目の前のあなたも仮の新しい生活を送ってみましょう。そして、モラトリアムの先に待っている決断を見届けましょう。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<過去を見つけそれを受け入れるまで何度もやり直していい。ここは、そういう場所なのだから。>

 皆さんに問います。過去を知らない仮面を被った新田司と、過去を思い出したありのままの新田司の、どちらが魅力的に見えましたか?溌溂として正義感に溢れた新田司と、オドオドして人の顔色ばかり窺っている新田司の、どちらが魅力的に見えましたが?あなたがプレイ開始時に箒木日向子の視点で見た新田司は、とても頼りがいのある存在に見えませんでしたか?では、何故過去を取り戻したありのままの新田司の方が、最終的に魅力的に見えるとみんなは言ったのでしょうか?私は、ここにこの作品の本質があると思っております。優しい世界で優しい人たちとの触れ合い。それでも、過去を知っていると知らないでこれ程までに人の印象って変わるんですね。

 トライメント計画を生み出した二上響子、彼女が元来持っていた想いはとても純粋で単純なものでした。それは友達が欲しいという事、誰もが当たり前に思っている事だと思います。その実現のために人工知能を研究し、ついに人工知能に感情を入れる段階まで来ました。勿論、世間の壁がそれを簡単に許すはずがありません。ですが、そんな事は二上響子にとって関係なかったんですね。何故なら、友達を作る事が自分の目的でありそれが最愛の息子を救う唯一の方法だったのですから。二上響子によって作られたアルファ、そして後に二上司によってユウと名付けられた存在は、人間以上に人間らしい気持ちを持った存在としてこの世界に迎えられたのです。

 人間って、誰か1人でもいいから心が許せる人がいるとそれだけで生きていけるのかなと思っております。というよりも、そういう人を見つける事がそのまま生きる理由になるんですね。誰も頼らない、誰も信頼しない、そんな方はそのまま1人で自分の生死すらも簡単に決めてしまうと思います。何しろ、周りは関係ないのですから。二上司も、もしアルファがいなければ自然とその命を絶っていたかも知れません。ですがそうはなりませんでした。アルファという友達が、二上司に生きる理由を与えたのです。少しずつお互いの距離を縮めていき、ピアノという共通の目標を見つけ、アルファのオリジナル曲で二重奏をするという夢まで持つ事が出来ました。ですが、その夢は暫くの間保留せざるを得なくなります。二上司の交通事故、それがトライメント計画とアルファの暴走とアイの誕生に繋がるのです。

 アルファがアイを生み出した理由、それは確か明確に書かれていなかったと思います。予想ですが、アルファもまた友達が欲しかったのではないでしょうか。そして、その友達に前にも後ろにも進めない自分の事を叱咤して欲しかったのではないでしょうか。アルファの凝り固まった考えに対してアイは柔軟な考えを持っておりました。アルファのコピーとは思えませんね。ですが、それがきっとアイの役割なのではないかと思っております。トライメント計画を終わらせるには新田司が過去を思い出し前に進む選択する事が求められました。ですが、それは新田司だけではなく、同じく管理権限を持ったアルファも同じでした。考えれば当たり前ですね。何しろ、トライメント計画は新田司とアルファの為の計画なのですから。それをちゃんと言葉にしたアイ、流石は新田司の恋人であり、アルファの妹です。

 トライメント計画に参加した人は、何かしら現状に不満を持っておりそれを解決したいと思っておりました。そして、その解決には過去を振り返り受け入れてそこからどのように歩むかを自分で決める事が必要でした。それを端的に表したのが、前半の箒木日向子視点でのエピソードでした。箒木日向子は自己紹介で自分の言いたくない過去を言いました。自分の弱さを伝えました。これが出来て、やっと人は箒木日向子という人を理解できるのだと思います。実は、この時点で「Re:LieF〜親愛なるあなたへ〜」という作品の言いたい事は殆ど言ってしまってました。この後、新田司もまた箒木日向子と同じ道を歩くことになりました。ただ、その道のりがとても複雑で多くの人の思惑が絡み合っているだけでした。二上響子・アルファ・アイ、その他大勢の人の協力があって、司もまた過去と向き合い歩き続ける決意が出来たのです。

 改めてこの作品の魅力を振り返ってみますと、本当にこのトライメント計画を実行するための箱庭の世界にあるように思えます。この作品で何度も書かれた言葉「ここは、そういう場所なのだから」「試してみるんだ、もう一度」、これを実際に出来る場所はそれこそこのトライメント計画の中しかありませんね。徹底的に眩しく輝くように描かれた背景美術には、そんな意味も込められていたのかも知れません。何はともあれ諦めない事です。自暴自棄にならない事です。短絡的にならない事です。この箱庭の世界で、そんな焦りは似合いません。まだまだ世の中にはトライメント計画を必要としている方がいます。少しでも、そんな人たちが救われればと願いますね。ありがとうございました。


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