M.M りかラバ! -REKINDLING LOVERS!-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 83 5〜7 2021/2/6
作品ページ(BOOTH参照) サークルページ DL版

体験版



<学園らしい楽しさを十二分に味わう事が出来る、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる作品です。>

 この「りかラバ! -REKINDLING LOVERS!-」は同人ゲームサークルである「ますみソフト」で制作されたビジュアルノベルです。本作はますみソフトさんの1stプロジェクトであり、初めて触れたのはCOMITIA134で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。とてもシンプルなパッケージ、何かコミカルで明るそうな作風なのかなと思いました。とても手作り感を感じ、ダウンロードが当たり前になりつつある現代においてこのCDケースは私にとってとても嬉しいものでした。奇しくもCOMITIA134が開催された2020年秋は新型コロナウィルスの感染拡大が一時的に緩んだ狭間のタイミング。そんな時に開かれたイベントでこの作品に出会えた事もまた運が良かったと思っております。それでもこの作品のジャンルは「嘘と現実のADV」となっております。普通の学園ものでは終わらない事は明確です。果たしてどんな物語が待っているのか楽しみにプレイし始めました。

 この作品の舞台である卯月夢見野学園のキャッチコピーは「夢が叶う学園」です。ここでは誰もが夢を持つ事が許され、そしてその夢の実現の為に自由に活動する事が出来ます。主人公である永井と真衣のところにも、この卯月夢見野学園への招待状が届きました。半信半疑に思いながらもこの学園に編入し、ここで掛け替えのない体験をしていくのです。クラスメイトであるあゆみ、永井の幼馴染である奈津美、何かと構ってくるみらい、他にも個性的な登場人物に囲まれた学園生活はどのように帰結するのでしょうか。そしてこの学園で発せられる不思議な力である「夢見の力」、その正体は何なのでしょうか。ドタバタしながらも、楽しくそして思い出に残る物語かここから幕を開けます。

 まずもって印象に残ったのが構成です。この作品は全部で12+αの話で構成されております。それぞれの話はプレイ開始時に選択する事が出来、アニメの1話を見るような感覚でプレイする事が出来ます。各話でシナリオが完結しておりますので、プレイするリズムが大変掴み易いです。1話から順々にプレイしていく中で、少しずつ登場人物のキャラクターや学園のしくみ、夢見の力について理解する事は出来ると思います。私も1話プレイして休憩をはさみ、そしてまた1話と計画的に進めていく事が出来ました。不思議と、話を重ねていく中で愛着がどんどん湧いてくるんですよね。このプレイヤーをいつの間にか引きつけるのも、この区切られた構成によるものが大きいのではないかと思っております。始めから全体のスケールが分かる作品というのも珍しいと思いますが、だからこそ安心感を感じる事が出来ました。

 最大の魅力は登場人物のキャラクターです。この作品の特徴として、登場人物の立ち絵が全員デフォルメ絵で表現されている点があります。その分判別が非常につきやすく、顔と名前が即座に一致すると思います。何よりも、メインとなる5人の登場人物がみんな個性的です。引っ込み思案な永井、少し斜に構えている真衣を中心に、誰にでも明るく接してくるあゆみ、先輩として色々とアドバイスしてくれる奈津美、からかいながらも世話を焼いてくれるみらい、こんな5人が揃えば何も起きない筈がありませんね。ビジュアルノベルらしく髪の色もバラバラです。加えて、立ち絵のないサブキャラクターも皆一言では言えない魅力を持っております。これら沢山の登場人物がいる事で、確かにここは学園なんだなと思う事が出来ると思います。学園らしさと言いますか、楽しさを十二分に味わいどこか懐かしい気持ちにさせてくれると思います。そんな素敵な登場人物の姿を見てみて下さい。

 プレイ時間は私で6時間くらいでした。上でも書きましたが、この作品は全部で12+αの話で構成されております。各話おおよそ20〜30分でプレイする事が出来ますので、是非プレイ開始したら最低限1話は終わらせるようにするのが良いと思います。選択肢も殆どありませんので、実際のところセーブフォルダはほとんど使用しませんでした。これもまた、テンポの良い構成と思わせる要素だと思います。BGMも非常にとっつき易く、何度も聴いているうちに謎の親近感を覚えると思います。最後までプレイして、スッキリと言いますか登場人物の生き方に喜びを覚える事が出来ました。読後感も良いですので是非あなたも彼らと一緒に楽しい学園生活を送ってみて下さい。そして、夢を叶える事について考えてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「君の事、愛しているから」「君が、君だから、君がいいんだ」>

 凄く素敵な作品でした。始めは良く分からない学園に放り込まれて戸惑いましたが、徐々に慣れていき突発的な出来事が起きてもそれを楽しんでいる自分がいました。そして明かされる永井の過去と学園の真実に驚き、同時に彼らの決断が眩しく思えました。夢を見る事を諦めた彼らは、あの学園を卒業する事で再び社会に巣立っていくんですね。

 私が人生において信じている事に「幸せは夢に向かって進んでいる時」という物があります。よく幸せになる事は夢を叶える事だと言う言葉を聞きます。確かになりたい物になれたりやりたい事が出来る事は幸せだと思いますが、それを達成してしまってめでたしめでたしでしょうか。夢を達成しても人生は続きます、つまりそこからまた新しい夢に向かって進まなければいけないのです。だからこそ、夢を実現する事が必ずしも幸せとは限りません。夢を実現しようとして突き進んで達成出来なくても、その途中の歩みは楽しかったのではないでしょうか。それが、私にとっての幸せの一つの答えだと思っております。卯月夢見野学園では、想いが強ければ夢見の力で大概の夢は叶ってしまいます。ですが、振り返れば夢見の力を使った人で誰一人として幸せになれた人はいませんでした。むしろ、どこか虚無と言いますか言いようのない喪失感を味わっておりました。もしかしたら、卯月夢見野学園の卒業というのは夢を叶える事では無くて追いかけ続ける事の大切さを理解したら出来るのかも知れません。

 永井は無味乾燥な日々を過ごす20代の若者でした。転売という褒められた行為ではない方法で日銭を稼ぎ、コンビニでちょっと買い物をするだけの日々です。夢が無いのは勿論ですが不安も無い、灰色の人生と言えると思います。そんな永井の人生に色を染めたのは、同じく灰色の人生を送っているあゆみでした。お互いに似た者同士、そんな不思議な間柄の関係が夜の公園で繰り返されました。ですが、それはお互いに傷を舐め合うだけの時間だと自ずと気付いてしまったんですね。何も生産性が無い、こんな関係を続けても意味がない、だからこそどこかで変化を起こす事が必要でした。選択肢で幾つかのエンディングが用意されておりましたが、メインルートとしては一度離れた2人が卯月夢見野学園で再会するという物でした。そして、お互いに夢の大切さを知って卒業していくのです。永井が選んだのは、みらいという少女を助ける道でした。

 最終話、卯月夢見野学園は卯月恭子の理論によって作られた仮想空間である事が明らかにされました。そして、その目的はみらいという少女の目を覚まさせる事でした。みらいはいわゆる植物状態と呼ばれる状態でしたが、実際のところ自分の力で目を覚ます事が出来ました。ですがみらいはそれを拒んでおりました。母親である恭子の事を信じておらず、それが同時に人間を信じないという固定概念になってしまっていたからです。学園での、どこか冷めた様なみらいの表情にはそんな理由がありました。それを、永井は溶かしたいと思いました。自分が好きになり愛した女の子を救いたいと思いました。私、この作品の中で一番好きな言葉は永井が言った「君の事、愛しているから」「君が、君だから、君がいいんだ」です。理由なんて要らない、君だから愛している、こんなにストレートで響く言葉はありません。ちょっと感動してしまいました。だからこそ、みらいが目を覚ました後の永井の行動に本当の愛を感じました。みらいに会わずに立ち去るなんて、まるでゲームの主人公みたいじゃないですか!

 幸いな事に、このりかラバ!はまだまだ終わらなそうです。最後の最後、第12/9話アナザーでやっと姿を見せた永井の真の姿。それを見たのはもうひとりの主人公である岬真衣でした。私もこの瞬間まで忘れておりました。この作品の主人公は永井だけではなく真衣もそうなのだと。ここから、いよいよ真衣の逆襲が始まります。逆襲というよりも、真衣がメインとなるシナリオですけどね。卯月夢見野学園で、それこそ夢の様な時間を過ごし再び現実へと帰ってきた真衣です。あの時の記憶が嘘だったかの様にまたいつも通りの生活を送っておりました。ですが、気まぐれでやって来たパン屋さんにいたのはあの永井でした。現実に夢が追い付いた瞬間でした。ここから、再び夢を目指す真衣の物語が始まるのです。このレビューはここまでにして、ここから直ぐに続きをプレイする事を約束してレビューの締めとしたいと思います。ありがとうございました。


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