M.M らんかつ!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 4 - 68 2〜3 2016/12/10
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意) R-18版

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<乱交と就活という有り得ない組み合わせだからこそ、その両方を楽しんでしまいましょう。>

 この「らんかつ!」は同人サークルである「moarea88」で制作されたビジュアルノベルです。moarea88さんは主に関西を中心に活動している同人サークルさんで、その活動は同人ゲームを作るに留まらず「関西同人ゲーム制作者交流会」「同人ゲーム.fes」「コミックマーケットでの打ち上げの企画」など非常に精力的です。私も過去に同人ゲーム.fesの方に参加させて頂き、小規模ながらも活気ある雰囲気が非常に印象的でした。そんなmoarea88の作品は過去に4タイトル程プレイさせて頂いたのですが、基本的にR-18な作品ですがその内容はコメディ要素満載でを笑わせてくれます。個人的にお気に入りなのは「マラゾネス」という作品でして、短いながらも名言がふんだんに盛り込まれたB級映画の様な内容は唯一無二の物であり最高にテンション上がりました。今回レビューしている「らんかつ!」はmoarea88の作品の中でも比較的初期に作られたもので、タイトルの通りテンション高めの軽いエロゲーなのかなと思いプレイしてみました。

 タイトルにある「らんかつ!」とはズバリ「乱交」と「就活」の合体語であり、その名の通り主人公とその友人が2人組の女の子と乱交するところから始まります。ファミレスでバイトしている主人公康太と一登は就活に失敗した20台前半の若者です。一度は夢やぶれた彼らですが都会に出て心機一転、正社員になるべくバイトをしながら生活しておりました。康太と一登はファミレスの中ではなくてはならない存在。その仕事っぷりは誰もが尊敬するものでした。だからこそ人一倍正社員への憧れを持っており、同じ様な境遇であるダブルヒロインの美々と冴璃に通じるものがあったのだと思います。元々コミュニケーションが得意な2人だからこそ彼女らと意気投合し、ややお約束展開ですが乱交する事に成功しました。この作品は、乱交から始まる20台の若い男女の成長物語なのです。

 最大の魅力は主人公康太の心の葛藤にあると思います。いきなり乱交から始まる展開ですので随分と軽い感じのエロゲーなのかなと思うと思いますが、就活の部分も段階を踏んでしっかりと描かれております。バイト生活から脱出して正社員になりたいという気持ちと、それが簡単に叶わない厳しい現実の間で揺れ動く心の内が丁寧に描かれております。自分は正社員になれないのではないか、バイトでも充分生きていけるから無理しなくてもいいんじゃないか、そんな自分の誘惑と戦い続けるのです。誰もが通った道だと思います。就職したい企業から一発で内定を貰えた人など非常に限られていると思います。幾つもの不採用や書類選考落ち、一次面接落ち、最終面接落ちを経験してようやく内定が手に入るのです。基本はコメディ調のゆるい雰囲気ですが、それでも主人公の気持ちは痛いほど伝わると思います。

 そしてそんな厳しい就活の中に乱交が生きてくるのです。始めは成り行きで乱交に至ってしまった4人。それでもその後彼らの付き合いは続き、いつしか一緒に内定を目指すパートナーとなっていきます。内定を取れないのは自分だけではない、相手も頑張っているから自分も諦めるわけにはいかない、そんな風に気持ちを奮い立たせて頑張るのです。不純ではありますが十分熱い気持ちだと思います。一人では頑張れなくても二人なら頑張れる、四人ならもっと頑張れるのです。そんな友情の現れが乱交なのです。作品のテーマ的には乱交はそこまで大切ではないかも知れません。ですが乱交が無ければ彼らの就活は始まらなかったのです。都合の良い展開ですが、折角ですのでその両方を楽しんでしまいましょう。

 プレイ時間は私で約2時間10分程度掛かりました。途中幾つかの選択肢を経て最終的にはどちらかのヒロインと添い遂げます。それでもこの作品の目標は就活を乗り越えて正社員になる事です。可愛い彼女らとの乱交に入り浸るのも十分魅力的ですが、まずは就活を成功させて彼女のパートナーとして相応しい立場になって欲しいですね。結構専門的な用語が飛んだり時にリアルな設定が出てきますが、割とテンポよく話が進んでいきますのであっという間に終わったという印象を持つかも知れませんね。休日のちょっとした暇つぶしに調度良いと思います。とりあえず軽い気持ちでプレイし始めてみるのが良いですね。コメディありシリアスありなお手頃のエロゲーだと思いました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<康太が就活の中で気づいた大切な事、それは一生忘れる事が出来ないかけがえのないものでした。>

 まずは無事に正社員になる事が出来て良かったと思っております。そして康太は本当に幸せ者だと思います。時にネガティブな感情に支配されそうになりますが、そんな康太の事を周りの多くの人が支えてくれました。康太の就活の成功はもちろん自分の気持ちを奮い立たせた事が一番の理由ですが、同じくらい周りの人の支えがあったからだと思っております。

 康太の中に潜んでいる「澱」、夜の度にヌッと顔を出してくるあの感覚は私にも覚えがあります。ふとした瞬間に過去の思い出したくない思い出がよみがえる、そんな感覚なのだろうと思います。辛い経験って中々忘れる事が出来ませんよね。成功体験よりも失敗体験の方がどうしても頭にこびりつき、一歩足を踏み出すのを躊躇わせます。特に就活は基本的にどの企業もチャンスは一回のみ。失敗など許されないのです。自分の頑張りが報われない評価されない、このやるせなさは誰もが一度は経験した頃があると思いますね。

 ですが康太は1人ではありませんでした。1人どころか、顔をあげれば相談に乗ってくれる同僚や悩みを打ち明けられる友達、常に味方でいてくれる上司がおりました。普通であればここまで手厚い環境はそうあるものではありません。康太も無意識の中で自分の恵まれた環境に気づいておりました。友達の一登が正社員に登用されるために頑張っている姿を見て自分も頑張らないと、美々が資格を持っていて就活に本気な姿をみて自分も頑張らないと、冴璃の夢を追う姿を見て自分も頑張らないと。そんな気持ちが康太を澱の中に引きずり込む事を防いでくれました。

 そして一番の功労者は何と言ってもセンターの職員さんですね。この作品が最後までコメディで楽しめたのは間違いなく職員さんの軽口のおかげです。私がそうでしたが、就活に本気を出せない康太を見て「乱交してる場合じゃないだろ!」って思ったんですね。そして中々採用されない様子を見て「そりゃそうだ」って思いました。ですが同時に気の毒にも思いました。結果として楽しい気持ちになんかなれるはずがなく、ちゃんと正社員になれるのか不安でした。そんな気持ちを職員さんが吹っ飛ばしてくれたのです。「無職!無職!」と無礼にしゃべる姿はリアルにあるまじき発言。そして不採用になった康太に対しても同情することなく次の一手を進めようと変わらぬ態度で接してくれました。きっと何人も同じ様な人を見続けていたんですね。不採用されて終わりじゃないんです。採用されなければいけないんです。だからそれまで諦めてはいけないんです。そんな気持ちが随所に見られました。暗くなってもしょうがないから自分が憎まれ役になってでも明るくなればいい、とすら思っていると思えましたからね。

 振り返れば上げては落とし上げては落とすという王道的な物語展開でした。それでも最後は正社員として採用され新しい一歩に進んでいくというEDでした。自分は一人なんかじゃないし、自分がこれまで歩んできた道のりは決して意味のない物なんかじゃない。大切な人の為に、そして自分の選択が間違いじゃなかったという事を証明する為に面接で訴え続けました。最後の面接で「就活の中で大切なことに気づかれたんですね」という言葉にその全てが込められていると思います。ご都合主義な部分も勿論ありましたが、彼らの心持ちはしっかりと受け継いで自分も生きていこうと思いました。ありがとうございました。


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