M.M Quartett!


<漫画を見ているような疲れない文章と生音の魅力>

 この「Quartett!」は、知る人ぞ知るブランドである「LITTLEWITCH(リトルウィッチ)」から出されたサウンドノベルです。LITTLEWITCHと言えば、その独特の絵柄とこれまた独特のシステムにあると思っております。ある程度ギャルゲーの世界にいれば、この絵を見て一目でLITTLEWITCHだと気づく事が出来ると思います。それ程までに個性の光るブランドであり、LITTLEWITCHでしか出せない雰囲気というものが確実にありますので非常に貴重な存在であると思っております。

 私の中でのLITTLEWITCHのイメージはどうしても西洋とかおとぎ話とか言った感じですね。その理由はやはりその水彩画の様な独特のキャラクターデザインです。いわゆる萌え絵とは一味違っており、ギャルゲーの世界の中ではよく言えば個性があり悪く言えば異質です。だからこそ固定ファンも多いと聞きますし、作品の作りにブレがありませんので確実にファンを増やしていると思います。

 そんなLITTLEWITCHの作品の中で、私が一番にやろうと思っていたのがこの「Quartett!」です。私の中でおとぎ話のイメージが強いLITTLEWITCHの中で、音楽をテーマにした学園物という事でしたのでまずはやってみようと思っていました。特にこの絵柄で「音楽」をテーマにしていると聞き、さらには舞台が西洋という事でプレイ前から既に世界観に対する掴みは最高得点です。周りからも良作の声を聞いていましたので、世間の評価以上に期待してプレイに望みました。

 まず驚いたのがLITTLEWITCHオリジナルのシステムである「フローティング・フレーム・ディレクター(略称FFD)」システムですね。基本的にアニメーションなど動きのある映像は使っておらず全て一枚絵です。ですが、その一枚絵をヌルヌル動かす事で、まさに動く漫画の様な印象を持ちました。さらに、文章は全てその動く一枚絵に描かれている登場人物からこれまた漫画のように吹きだしで出てきます。動く漫画とは上手く言ってますが、この形容がピッタリですね。そしてこの吹きだしにセリフが出るというのがもう1つの良さを引き出しています。それは、下にウィンドウで文章が表示されるのに対して一回一回で目に入る文章量が少ない事です。これは一目見たときに入る情報量は少ないという事を意味しており、一般的なサウンドノベルと比べて殆ど疲れません。ねこねこソフトでも「文章を読ませる事を阻害する要素をテキストから出してはいけない」という精神を持っており、一目に入る文章は最大2行までという独自の改良を行っていましたが、この吹きだしに僅かなセリフを入れて幾つも展開するFFDシステムはそういう意味で完全ですね。文章を読んでいて疲れないシステムは大事だと実感させられました。

 次に驚いたのはBGMです。やはり音楽を中心に物語が構成されているという事でBGMの多くは生音でした。今更の説明ですが、「Quartett(カルテット)」とは4重奏という意味で第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの4つの弦楽器で構成されています。作中でも多くのQuartettの曲がありましたが、何とその全てを生音で録音しBGMとしています。この拘りは流石ですね。伊達に音楽をテーマにしてるだけの事はあります。もちろんQuartett以外のBGMもあるのですが、その全てが西洋で学園物である雰囲気を壊す事の無い上品なものばかりです。

 という訳でテーマ性に非常に合致したシステムと音楽であり、音楽に重きを置いている私にとっては非常に満足のいくものでした。惜しむらくは、そのシナリオの長さですね。フルコンプリートに要した時間は私で7時間でした。正直思ったより短いと感じるでしょう。これは先に書いたFFDシステムの影響もあると思います。もっともっと、このQuartett!の雰囲気の中にいたかったというのが残念な点ですね。世界観入り浸る前に終わってしまったという印象でした。

 とは言えこれ程までに洗練されたシステムは初めてであり、なるほど多くの固定ファンがいる理由も納得できました。とにかく疲れません、読みやすいです。サウンドノベルの新たな手法を垣間見る事が出来ました。オススメですので興味があれば是非プレイしてもらいたいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<たかが音楽、されど物語は全てそこから始まる>

 物語の主軸は、主人公であるフィル・ユンハースがマグノリア音楽院に入学しとあるQuartettのメンバーに入り、様々な困難を乗り越えてマグノリア・カルテット・コンクールに出場するというものです。基本的にこの流れは変わらず、3人のヒロインでもちろん物語は違いますがゴールは同じです。そういう意味で人によってはボリューム感の無いシナリオだと思った方もいたのでは無いでしょか。ですが、この物語全てに関わっているのは音楽です。そして、そんな音楽をテーマにしたからこそのシナリオだったと思っています。

 音楽は芸術でありますので、その良し悪しは音楽そのものを評価する事でしかできません。事実世の中でプロの音楽家として活躍している人は純粋に自分の音楽が認められた人であり、今の地位に就く為に想像を絶する努力をしてきているはずです。一方音楽はビジネスになりますので、そのあたりは裏で何らかの力関係が働いています。このあたりは音楽に関わらず何でもそうですね。本来評価されるべき音楽そのもの以外の要素が評価に関わる理不尽さ、それもまた音楽業界の顔なのかもしれません。

 本作は、そんな音楽業界を取り巻く表と裏の顔をテーマにしたシナリオでした。1つは演奏家としての実力の差がコンプレックスになり心のすき間が生じてしまう物語であり、1つは金になるキャラクターばかり登用して純粋に音楽を楽しめなくなった人を音楽で説得するものであり、最後の1つは音楽によって心を奪われ本当に愛するという事を見失った人との苦悩を描いた物語です。そのどれもが音楽業界の持つ独自性から端を発する物ばかりだなぁと思いました。

 しかし、そんな音楽によって人と人との心に軋みが生じてしまう訳ですが、それを解決できるのもやはり音楽なのですね。音楽とは「音を楽しむ」と書きます。つまり本質的には楽しむものなんですね。金や他人の評価などを気にするものではなく、ただ楽しむ事が出来ればそれが全てのはずです。そんな音楽の原点を教えてくれる存在が、主人公であるフィル・ユンバースです。彼がこのQuartettに加わらなかったら、彼女たちは音楽の本来の目的である楽しむことに気づくことが出来なかったかも知れませんね。そういう意味で、フィル・ユンバースは何も特別なことはしていないのですが、他人から見ればすごい人物だと思ったでしょう。

 一番最後のFinaleで「たかが音楽」と言っていました、まるで自分たちが作ってきた物語を否定するかのような言葉ですね。ですが、この作品の登場人物は全てそのたかが音楽に翻弄され、今の人生がある人物ばかりです。それ程までに音楽の持つ魅力は大きいものであり、深く付きあおうと思えばいくらでも深く付き合えるものだと思います。

 まとめます、音楽業界の持つ表と裏の世界に翻弄されながらも自分の気持に整理をつけてやはり音楽の中で生きていく事を選ぶシナリオ、非常によく考えられておると思いました。そのシナリオを支えるシステムとBGMも見事でした。音楽とは本質的に楽しむものであるということを、私自身を思い出すことが出来ました。ありがとうございました。


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