M.M サイコロジック・ラブコメディ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 7 81 8〜9 2015/8/22
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<狂気の果てに待っている結末、それを見届けられるのはプレイヤーしかいない>

 この「サイコロジック・ラブコメディ」は同人サークルである「initial」で制作されたビジュアルノベルです。「initial」さんの作品過去に「HappySisterUtopia !」の方をプレイした事があり、鈴音れな氏のプニプニした可愛いキャラクターとのイチャラブがとても印象的な作品でした。余りにも王道イチャラブなシナリオだったという事でこういう路線のサークルさんなのかなと思っていたのですが、次に発表されたこの「サイコロジック・ラブコメディ」は一転、どこか狂気じみた雰囲気に全く別物の印象を受けました。キャラクターは引き続き鈴音れな氏という事で可愛さは保証されておりますが、この可愛いキャラクターが果たしてどのような姿を晒すのが緊張してプレイしてました。

 カナリアと呼ばれる特殊な能力を持つ人間が存在する世界。彼らの力は一般人と比べて突出しているものであり、海汐地区はそんなカナリア達が自分の力を制御するために用意された街です。主人公である平柏陽希もまたそんな海汐地区に住む学生であり、彼もまたカナリアでした。幼なじみである海汐空や妹である平柏深月と共に平穏な学園生活を送っておりました。そんな陽希がとある切っ掛けで自分の記憶を失ってしまいます。目が覚めた陽希がいたところは見知らぬ施設。そこで陽希は同じく記憶を失った少女・ユイカと出会うことになります。彼女もまたカナリアであり、彼女との出会いが平穏な学園生活を変化させていきます。

 予め断っておきますが、この作品には流血や暴力シーンが多数登場します。鈴音れな氏の可愛らしいパッケージだけを見て内容を把握しないでプレイすると、開始5分で衝撃に包まれます。加えてこの作品はR-18です。Hシーンもただ主人公とヒロインがイチャイチャするだけのものではありません。ネタバレになりますので具体的には書きませんが、慣れない人にとっては割とトラウマになるようなシチュエーションもあります。逆に言えばそういった流血や暴力シーン、Hシーンも効果的に活用したシナリオだという事です。狂気の果てに何が待っているのか、是非この不思議な能力を持つ人物たちがたどり着く結末を見届けて欲しいですね。

 シナリオそのものについてですが、上で狂気と書きましたがそれ以上に状況整理にかなり時間が掛かるかもしれません。主人公が記憶喪失系のシナリオって、往々にしてとんでもない設定が伏せられていたり主人公を含めた全ての登場人物が大切なものを隠しているパターンが多いです。明かされていく事実が本当に真実なのか、そして新たに生まれる謎をどのように解釈していくか、メモを取りながらプレイすると整理しやすいかと思います。後は視点変更にも注意が必要ですね。基本は主人公視点で語られるのですが、結構な頻度で視点が変化します。そしてこの時に語られる内容が物語の核心を突いていたりします。それでもシナリオは一本道で最低限の分岐しかありませんので、是非時間をかけて世界の謎を探って欲しいですね。

 プレイ時間は私で8時間30分程度掛かりました。この作品の特徴として始めから全てのエピソードを選ぶことが出来るという事が挙げられます。つまり最後のエピソードを選んでしまえば始めからいきなり物語のエンディングを見れてしまうという事です。何故このようなシステムにしたかは終盤明らかになりますが、まずは何も考えずに一から順番にプレイして下さい。平均で10分弱で終わりますので区切りよくプレイ出来ます。そしてこの作品にはいわゆるセーブロードがありません。一見不便に見えますがエピソードそのものが短いので実は一回もセーブする必要がないのです。是非自分の時間と相談して計画的に進めて頂ければと思います。可愛らしい絵柄の裏に隠された真実はかなり斜め上の展開で驚くと思います。それでも彼らの結末を見届けられるのはプレイヤーしかいないのです。混乱しながらも状況に向かっていく登場人物達を支えてやってください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<あなたは今の幸せに納得し妥協していますか?それともまだ見ぬ幸せを求めて足掻きますか?>

「諦めたくないのなら抵抗し続けるしかない」

 幸せになるって、そんなに難しい事なのでしょうか。幸せになるって、そんなに壮大な事なのでしょうか。現実の人生において「自分は幸せだなぁ」って断言できる人って殆どいないと思います。嫌なことばかりですし後悔も数知れないと思います。それでも日常のほんのささやかな楽しみを積み重ねながら人生を歩んでいくのだと思います。この作品って、今の境遇に皆さん一人一人が納得できるかどうかを問うているのだと思いました。

 陽希と空がたどり着いた歪んだ関係、ご主人様とその飼い犬なんてまっとうではありません。ですがそう思っているのは外野だけであり、本人達にとってはあれこそがたどり着いた正しい結末であり正しい幸せのカタチなのです。納得してるんですよね。最後のデートの姿なんて、とても幸せそうな表情ではありませんか。あの姿を見て、誰が水を挿そうと思うでしょうか。納得しているのなら、後はそっとしておくしかないのです。例え社会的に認められなくても、本人たちが幸せであればそれで良いのです。

 深月も自分の欲望の果てを突き詰めました。こっちは逆に納得するところを探すのではなく唯々忠実に自分の欲望を満たすために行動し続けました。始めは物に始まり、次は状況、そして人とその欲望は留まるところを知らず、最後に残ったのは陽希と2人っきりの生活でした。そしてその欲望の最後の果てがあの殺し合いでした。相手の全てを知りたければ殺すしかない、それを忠実に実行した結果でした。3人のシナリオの中で一番分かりやすかったと思います。ここまで純粋な世界が存在するんですね。陽希に殺される直前の深月の表情、なんて幸せそうなのでしょう!あれが真実の愛なんですね。あれだけ相思相愛であれば、世界なんて本当にちっぽけなものなのかも知れませんね。

 ですが、このシナリオの最後の結末は違ってました。最後の直前、永海に全てを任せるか自分の手で幸せを掴むかを選択する場面、あれって与えられた幸せで妥協出来るか出来ないかの選択だと思いました。完全に絶望的な状況、それでも永海は2人だけの世界を保証してくれるのです。勿論自由はありません。自分の意志もありません。一生閉じ込められたままです。それでもささやかな幸せだけは保証されるのです。後は自分が納得し妥協出来るかだけでした。その結果があのセックス三昧の生活でした。本当に気持ちよさそう!あれもまた幸せのカタチ。例え永海の計画の手のひらの中だったとしても、本人たちが幸せならそれで良いのです。

 そしてそれでも諦めきれなかった結末があの逃避行でした。気づいているでしょうか?あの結末だけ、唯一幸せになっていないんですよね。愛する家族も幼馴染も失い、常に組織から追いかけられる日々。カナリアのほとんどは死んでしまい、一般人から疎まれるのです。それでも陽希とユイカは諦められなかったのです。彼らの目指す本当の幸せを求めて、最後まで抵抗する道を選びました。果たして彼らは納得できる幸せにたどり着けるのでしょうか。本当の幸せなんて、存在するのでしょか。どこかで疲れ果ててしまったとき、どうするのでしょうか。余りにも絶望であり余りにも救いのないエンディングでした。本当にこれで終わりかよ……って暫く放心してました。

 それでもこのエンディングをトゥルーに設定したのは、夢を諦めてはそこで終わりなんだという事を言いたかったからなんだろうと思っております。頑張って足掻けば、もしかしたら自分の本当の理想にたどり着けるかも知れない。たとえ可能性は限りなく0%でも、0%でない限り叶うかも知れない。そんな希望を語っているのだと思いました。あの絶望的な状況でもし陽希とユイカが本当の幸せにたどり着けたら、それは私たちにとってこれ以上ない希望と勇気になるでしょうね。正直余りにも分の悪い賭け。ほぼ0%の確率です。普通は妥協するんです。無理矢理にでも納得するんです。そうでないと、先が辛いですから。本当の幸せとは何か、人生とは何か。彼らの生き方は間違いなく私達一人一人の生き方の究極的な形。皆さん一人一人の人生なのですから、最後には是非後悔のないよう選択していって欲しいものです。そのような事を思いました。ありがとうございました。


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