M.M Psyche Girls
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | - | 71 | 1〜2 | 2018/1/12 |
作品ページ | サークルページ |
<個性豊かな魔法少女たちと、それ以上に主人公の肝っ玉の大きさが魅力的な作品でした。>
この「Psyche Girls」という作品は同人サークルである「みるみるそふと」で制作されたビジュアルノベルです。みるみるそふとさんの作品はこれまで「夢の中の私」「悪魔がくれたモノ」をプレイさせて頂きました。どちらの作品も人生観をテーマにしており、短いながらも1つ訴えるものがある印象深い作品でした。そんなみるみるそふとさんのC93で頒布された新作が今回レビューしている「Psyche Girls」です。設定を楽しみつつその裏のテーマを掴みたいと思い、プレイを始めました。
「Psyche」とは「魂・精神・心」という意味の英単語です。サイキックと聞けば馴染み深いでしょうか。その名の通り、この作品に登場する女の子はみんな魔法が使えるのです。主人公である安曇慧はどこにでもいる普通の男子学生です。冬休みに入り、暇を持て余した慧はブラリと外に出かけます。そこで幼馴染である桐野桂香の母親と出会い、桂香を探して欲しいと頼まれます。桂香を探している途中で喫茶店に立ち寄るのですが、そこで銀髪碧眼の女の子と出会います。突然彼女は手品と称して目の前のココアを消してみせたのです。そんな魔法のような光景に見とれていたら、今度は本当に魔法の存在する世界に飛んでしまいました。冒頭の慎ましい日常は一瞬で消え去り、魔法で戦う世界に飛び込んでしまったのです。
この作品の魅力はやはりタイトルにもなっている魔法少女達ですね。突然主人公の前に現れた銀髪碧眼の女の子、彼女に連れて行かれた世界には他に3人の魔法少女が待っておりました。それぞれ見た目も使う魔法も立場も様々です。それでも自分の目的の為に魔法を使う姿は素直にカッコいいと思いました。ですが、割と展開が速いですのであまり彼女たちの心理描写に深堀する余裕が無かったかも知れません。ただ可愛いだけの女の子ではない事は分かるのですが、もっと彼女たちを好きになる為の時間と余裕が欲しかったですね。
そして個人的にはそんな魅力ある彼女たち以上に主人公の慧が印象的でした。慧は普通の男子学生でした。ですが突然魔法が当たり前に存在する世界に飛ばされるのです。普通であれば動揺し狼狽するところですが、この主人公、非常にマイペースなのです。魔法を見ても「あー、本当に魔法なんだー」といった緩い反応、後に自分にも魔法の力が宿っても「ま、こんなものかな」と興奮する様子がありません。肝っ玉の大きさを見せつけてくれます。まさに主人公に相応しいですね。それでも周りにいる魔法少女たちのぶっ飛んだ様子に的確にツッコミを入れたりと、ノリの良い様子もありとても好感が持てました。もちろん、そんなヤレヤレ系だけで終わる事はありません。エンディングで迫るとある決断ではしっかりと覚悟を持って答えてくれます。これもまた、主人公らしいと思いました。
プレイ時間は私で2時間30分程度でした。選択肢が幾つかあり、全てを選ぶことでそれぞれの女の子の持つ魔法の意味が理解出来ます。ほとんどが共通パートですのでシナリオの大筋は変わりませんが、特定の選択肢でのみエンディングが変化します。そしてそのエンディングがTrue ENDですので是非探し当ててみて下さい。選択肢の数は決して多くありませんので総当りでたどり着けると思います。上でも書きましたがこの作品は登場人物が魅力的でありながらシナリオ展開は比較的速いです。その為True ENDを見ないと結局何が言いたかったのか分からないまま終わってしまいます。唯のキャラゲーで終わらせないためにも、是非隅から隅まで歩いてみて下さい。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<自分の意志で選択し自分の道を歩む。その何と怖くそして尊い事か。>
「この選択が正しいかは分からない。」人生というものは常にその連続だと思っております。未来の事なんて誰にも分かりません。今あなたの隣にいる人の気持ちですら分からないのです。そんな世界だからこそ、自分の意志で選択し前に進むことが大切なんだなと思いました。
全ての分岐を検証した結果、エンディングは2つのみでした。そしてその2つのエンディングはそのまま自分の気持ちに嘘をついたかつかなかったかという違いでした。自分に優しくし導いてくれる紗衣、それは突然魔法のある世界に飛ばされ右も左も分からない慧にとって救いのような存在でした。そんな右も左も分からない世界に連れてきたのは、他でもない紗衣という事に目を瞑って。ケイトにとっても、アイリーンを倒すという明確な目標がある事で自分の進むべき道がハッキリしておりました。その進むべき道が、本当に正しいのかどうかという事に目を瞑って。結局のところ、本当に向き合わなければいけない部分に向き合う勇気を持つことが大切でした。
人生も本当にそんなものだと思います。自分で考えるよりも、誰かに道を示して貰った方が絶対に楽です。何故なら、皆と同じ道なら少なくとも爪弾きにはされないからです。また、その道が間違っていたとしても自分に道を示した人の責任にする事ができます。自分で決断しないという事は失敗しないという事です。そしてそれは同時に成功もしないという事なんですね。人生に何を求めるかは人それぞれです。安定を求める人、刺激を求める人、正解不正解などないのだと思います。ですが、世の中でいわゆるパイオニアと称される人は、間違いなく自分の意志で人生を開拓し自分で道を作っている人だと思うんです。
物語最後、アイリーンの忠告に対して耳を塞いだ慧とケイトは紗衣の指示通りアイリーンを倒しました。めでたしめでたしです。そして慧は紗衣が作ったゲートを通って元の世界へと帰って行きました。ですが、その先は本当に元の世界でしょうか。そして、仮に元の世界でなかったとしたら慧は紗衣を責めるのでしょうか。私は責めないと思います。というよりも、責める気力すら沸かないと思います。何故なら、慧は自分で選択しなかったからです。常に力のある存在、居心地のいい存在の言葉を鵜呑みにして自分の考えを放棄してきました。そんな慧が紗衣に騙されたとして、不満に思いつつも言葉にする勇気はないと思います。そういう人生を歩んだからです。
逆にアイリーンの忠告を素直に聞き、自分の意志で選択した慧とケイトは強かったですね。自分の命を顧みなくても紗衣を倒そうと奮闘しました。特にケイトは自分の力を慧に託しました。それだけの強い意志、自分で選択した道でないと発揮できませんね。もしかしたら結果として紗衣に負けてたかも知れません。たとしても、きっと後悔は無いのだと思います。それが自分で選択するという事。勇気も入りますし心も震えると思います。だからこそ、その結果はどんな形であれ尊いのです。結果が綺麗なものが尊いのではなく、素直になったものが尊いのだと思います。
元の日本に帰ってきた慧、目の前には幼馴染の桂香がいました。あの魔法の世界は何だったのでしょうか。もしかしたら夢なのかも知れません。桂香は始めから行方不明になどなっておらず、普通に街を歩いていただけなのかも知れません。それでも、今当たり前に過ごしてる何もない日々もまた、慧が選択した末の現在です。隣に桂香という幼馴染がいる、その事をかけがえなく思う日がきっと来るはずです。今後慧と桂香がどうなるかは分かりません。恋人になるかも知れませんしならないかも知れません。それでも、慧と桂香は決して後悔する未来は歩まないと思います。何故なら、自分の意志で選択する事の大切さを知っているのですから。ありがとうございました。