M.M Polar Star




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 7 80 1〜2 2018/12/10
作品ページ サークルページ(作品ページと同じ)



<落ちついてすんなりと頭の中に入ってくるテキストから、登場人物が抱える悩みを掴み見届けてあげて下さい。>

 この「Polar Star」という作品は同人サークルである「Toward Dawn」で制作されたビジュアルノベルです。Toward Dawnさんの作品は今作が処女作の様でして、過去に参加した幾つかのCOMITIAの中で手に取らせて頂きました。可愛らしい女の子が背中合わせで物憂げな様子で立っており、その背景には無数の星々が浮かぶ空模様が描かれております。とても綺麗なジャケットで、その印象で手に取らせて頂いたのだと思います。実は手に取らせて頂いたのはCOMITIA123だったと思っているのですが、恐らくCOMITIA125、COMITIA126にも参加されていたと思っております。折角感想を伝える事が出来る機会があったのにいつまでもプレイしないのは良くない、そう思い今回プレイさせて頂きました。

 主人公である霧原優人はどこにでもいる普通の高校2年生です。霧原は漫画を描くのが好きです。高校でも文芸部に所属し、大好きな漫画を描いております。ですが、幾つかのコンクールに応募しても結果は落選。漫画家になる夢に迷いが生じておりました。加えて両親からの受験に向けた叱責も厳しくなっており、ますます自分のやりたい事が分からなくなっております。そんな霧原が、バイトの帰りにふと近所の神社に立ち寄りました。すると、そこには1人の勝気な女の子が座っておりました。彼女の名前は星奈(読み方はせな)。その姿は、もう一人の文芸部員である緋月詩織とそっくりだったのです。星奈は「生きる意味」を探しておりました。そしてそんなフワッとした探し物を手伝うと霧原は約束します。果たして探し物は見つかるのでしょうか。冬の冷たい空気の中に、何か温かいものを探す物語が幕を開けるのです。

 この作品の一番の特徴として、分かり易いテキストがあると思っております。当たり前の事を書くのですが、主人公が高校生で文芸部に所属していて、同じ文芸部に緋月詩織という子が所属していて、友達として一ノ瀬幹彦というキャラクターがいて、といった情報が非常にすんなりと頭の中に入ってくるのです。テキストが分かり易いというよりも、テキストが落ち着いていると言った方が良いのかも知れません。決して場面転換が遅いという訳でもありません。それなのに落ち着いて読みやすいテキストでした。正直これ以上この感覚を言葉で言い表すのが難しいのですが、不思議な体験でした。いつの間にか、各登場人物の背景や性格や目的などが分かっているのですから。センスが良いテキストとはこういう物を言うのかも知れません。

 その他の点として、BGMやボーカル曲がオリジナルです。落ち着いたテキストと同様に優しめな曲が多く収録されておりました。そして、そのBGMをそのまま切れ目なく流して物語導入からタイトル画面が出る演出があるのですが、痺れてしまいまいた。スッと入り込むタイトル画面があまりにも自然で、思わず「綺麗!」って呟いてしまいましたからね。冬らしい温かさを感じる事が出来ます。後は全ての登場人物にボイスが収録されております。同人ビジュアルノベルにおいてボイスがある作品は割合が少なく、ましてやフルボイスですのでかなりの労力が掛かっている事が想像できます。おかげ様で、声によりより具体的に登場人物のイメージが確立できました。

 プレイ時間は私で1時間20分程度でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。この作品は、タイトルにあります通り北極星を巡る思春期の男女の物語です。星を見上げる事で叶う願い、星を見上げるだけでは叶わない願い、夢と現実、そういったロマンを感じる事が出来る物語となっております。思春期の男女ですので、平穏な学戦生活で物語が終わる筈がありません。時に衝突したり、時に笑い合ったり、恋をしたりされたり、何が起こるか分かりません。それでも、北極星はいつまでも変わらずそこに存在し続けます。彼らが求める生きる意味とは何なのか。その答えを北極星は教えてくれるのか。そして主人公はどのような答えを見出すのか。是非見届けてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<北極星には絶対に手が届かない。それが分かったのなら、苦しくても見切りをつけて北極星が照らす道を歩くしかありませんね。>

 最後までプレイして、ここまでテーマが明確に表現されている作品もそうあるものではないと思いました。「生きる意味とは何か?」という問いかけの答え、それは「自分で見つけるしかない」というある意味残酷とも取れるかも知れないものでした。そして、それを見つけたのであれば後は前に向かって進むだけです。これを現実世界で達成する事の、どれだけ大変な事か。

 緋月詩織は姉の事を慕っておりました。それなのに、そんな姉からの逆恨みでいじめを受けてしまいました。星奈は、そんな詩織を助ける為に生まれた人格です。性格こそからかい上手で面倒くさいですが、ちゃんと詩織を大切に思っておりました。ですが、星奈はあくまで裏の人格です。詩織の問題が解決してしまった以上、いつか消えてしまう存在です。そうであるのなら、せめて人格が残っているうちに自分の生きた意味を知りたいと思うのは自然な事だと思いました。そんな時に出会ったのが主人公である霧原でした。そして、霧原と付き合っていく中で気付いてしまったのです。自分の生きる意味を他人に分からせるなんて、意味のない事なんだと。

 上でも書きましたが、この作品のテーマは「生きる意味は自分で見つけるしかない」だと思っております。それと同じくらい大切なテーマがありました。それは「自分の存在が他の誰かを縛る事は、とても辛い事である」という事です。不思議なすれ違いですよね。霧原は星奈の事が好きです。だからこそ星奈の事を忘れたくないと思うのは自然だと思います。ですが、星奈はそんな風に自分の存在が他人の生き方を縛るのが許せないと言いました。これを、霧原は理解できませんでした。ですが、同じように霧原に惹かれるように無理やり星奈を演じた詩織を見て、やっと理解出来ました。詩織は霧原が好きです。だから霧原が好きな星奈に似せようとするのは自然な行為です。ですけど、そんな風に自分らしさを亡くしてまで自分に合わせられても、迷惑なだけです。もう、こればっかりはしょうがないのかも知れません。何故なら、好きの気持ちが重なっていないのですから。

 北極星は、誰にでも平等にその輝きを見せてくれます。ですが、同じく誰にでも平等に手の届かない存在です。そんな北極星を手に取ろうとしてもがかれても、北極星にとっては迷惑なだけかも知れませんね。大切なのは、自分だけの北極星は自分の胸の中にしまっておくことなのかも知れません。実物を求めるのではなく、心の中にイメージする事。そして、そのイメージが照らす道をただひたすらに歩いていく事。それが生きる意味の答え、もっと言えば人生の真理なのかも知れません。霧原は漫画家になる道を星奈から教えてもらいました。霧原にとっての北極星は星奈の言葉です。それなら、手に取るのは北極星ではなく北極星が照らす道の先にあるのも、それはすなわち星奈ではなく漫画家になる事です。苦しいですね、本当は北極星が欲しいのに、それは絶対に叶わないのですから。それでも、星奈がいなくなったからといって詩織に逃げなかった霧原は立派だと思います。彼なら、どんな形であれ何か自分の人生において答えを見つけてくれると信じております。

 振り返れば、物語の構成としては非常にシンプルなものでした。漫画家を目指していた主人公がその進路に迷っていたら、神社で出会った女の子が道を照らしてくれたので、その道を歩く決心を固め歩み始める、そんな物語でした。多重人格など様々な要素はありましたが、それは本質ではありません。そんな、シンプルで且つ分かり易いシナリオとテーマを、落ち着いたテキストと穏やかなBGMで彩ってくれました。どこか切なさを残しながら、未来へと進んでいくホロ苦さも感じました。刺さる人にはグッサリと刺さるんだなと思いました。それでも、登場人物達は苦しみながらも前に進む決意を固めたのですから、自分達プレイヤーもこの作品を北極星として前に進まなければいけませんね。人生においてとても大切な物を学ばせて頂きました。ありがとうございました。


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