M.M ファントムゾーン  タロンフィクションズ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 70 3〜4 2023/3/26
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<とにかく不気味で怖い雰囲気作りが徹底していて、主人公視点で緊迫感を味わう事が出来ます。>

 この「ファントムゾーン  タロンフィクションズ」は、同人サークルである「ファントムゾーン 観測室」で制作されたビジュアルノベルです。ファントムゾーン 観測室さんの作品をプレイしたのは本作が初めてです。切っ掛けですが、私と個人サークルcrAsmの代表である倉下さんで行っている「第3回crAsM.M ビジュアルノベルオンリー」に参加頂いた事です。「第3回crAsM.M ビジュアルノベルオンリー」では前段で参加サークルさんの作品を一部Twitterで紹介したのですが、この時はプロローグのみプレイし最後までプレイ出来ておりませんでした。間が開いてしまいましたが、ようやく最後までプレイしましたので今回のレビューとなっております。

 タイトルになっているファントムゾーンとは、超常現象の多発する近未来に提唱された超心理学的な空間領域です。これは今回レビューしている「ファントムゾーン  タロンフィクションズ」のみならず、ファントムゾーン 観測室さん共通の世界観となっております。舞台は今より少し先の未来です。科学技術は発達し、人類が当たり前のように未来へ行く事が出来たりAIがごく自然に日常に入り込んでおります。そして、科学技術の発達と共にオカルトめいた事柄は少しずつその存在意義を失っていきます。もはや誰も、心の底から天使や悪魔といった存在を信じていないのです。だからなのでしょうね、何か超常現象めいた事件が起きてもそれが悪魔が原因だと思わないのは。世界の真実を知っているのは、そんな世界の影=ファントムゾーンを知っているごく一部の人だけなのです。今回は、そんなファントムゾーンシリーズからタロンと呼ばれる悪魔をめぐる物語です。

 主人公であるイゼルダ・アロニカはとある企業に所属しているジャーナリストです。とある切っ掛けで上司から支持され、アンジェロバーレと呼ばれる地へ取材に来ました。アンジェロバーレは人口10万人程度の都市であり、周囲を山と谷に囲まれております。交通の便も決して良いわけではなく、行ってしまえば田舎と呼ばれる地域です。そんなアンジェロバーレですが、人口は少しずつ増えております。理由は、この地に言い伝えられている天使の物語です。なんでも、この地には悪魔が存在したらしいのですがそれを天使が退治したとの事。そんな神秘的な物語に惹かれ、その恩恵に預かろうと未だに多くの人がやってくるのです。ですがそれも言い伝えられてきた伝承、まさか本当に天使や悪魔など存在するはずがありません。そう、思っておりました。あの鉤爪の化け物を見るまでは。。。

 この作品はオカルト・アドベンチャーノベルとなっております。主人公はタロンと呼ばれる鉤爪の悪魔と戦いながら、このアンジェロバーレで起こった事件を調査していきます。あらすじから不気味さが漂いますが、それは作中ずっと続く事になります。どこか暗く気味の悪いなBGM・色彩が狂った街なみ・腹の内が分からない街の人々、そんな様々な背景描写が不気味な雰囲気を作っております。おそらく、この作品をプレイ中は最後まで緊張感を解くことは出来ないと思います。そんな雰囲気作りが素晴らしいと思いました。何よりも、タイトルになっているタロン=鉤爪が最高ですね。メッチャ不気味で気持ち悪いですもの。こんなのに出くわしたら、自分だったら腰抜けてますね。また、アンジェロバーレを巡る謎は主人公視点のみならず複数の視点から少しずつ解明されていきます。この群像劇の形態が良い効果を生み出しており、一つ疑問が解決してまた一つ疑問が現れどんどん深みにはまっていきます。是非主人公イゼルダ・アロニカになったつもりで、このアンジョロバーレを隅から隅まで散策しましょう。

 2点ほど注意点があります。1点目はこの作品のエンジンがティラノビルダーであるという事です。2023年3月地点でもティラノビルダーの不具合は目に余る事となっており、それはこの作品でも同様でした。まずゲームが起動しません、何度か再起動してようやく起動させる事が出来ます。それでも画面外にウィンドウが現れたりと中々プレイさせてもらえません。コンフィグですが、音量設定が出来ません。またバックログがマウスホイールで出来るのですが、出来たり出来なかったりとマチマチです。スキップも既読未読の区別はありません。致命的なのは、選択肢で考えていると勝手に画面が進行し、そのままフリーズしてしまいます。まあティラノビルダーですので仕方がないと言ったところですが、テンポが削がれる機会が多々ありました。2点目は誤字です。多少の誤字は仕方がないと思うのですが、人物名や地名など固有名詞に表記ゆれがあるのは困りました。正式名称が分からないのは考察に支障が出ます。公式HPを見て裏を取りながら注意深く読み進める必要があります。

 プレイ時間は私で3時間10分くらいでした。全部で3つの章で構成されており、平均1時間程度で区切りの良い点まで読み進める事が出来ます。またこの作品は選択肢があり、間違えた選択をするとあっという間にバッドエンドになってしまいます。この緊張感は作品の雰囲気と重なり面白かったです。また途中マップ選択画面が複数あり、自分で舞台を散策している気持ちになれるのは楽しかったです。調べられる要素は沢山ありますが、何しろ油断するとあっという間に鉤爪に殺されますのである意味エンディングまでの難易度は低いかも知れません。攻略よりも、雰囲気とアンジョロバーレの謎を探るのがメインですので是非頑張って頂きたいです。現在BOOTH及びsteamで購入できますので、是非上のリンクからDLしに行きましょう。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<世の中には、知らなくても良い事がまだまだ沢山あるんでしょうね。>

 結局のところ、あの悪魔たちは何者だったのでしょうか?そしてその悪魔に深く関わっている魔術師ロッソやグレゴリオ神父は何故奴らと戦えるのでしょうか?そもそも、街の人は本当にどこまで悪魔の存在を認知していたのでしょうか?まあ、そんな事はもはやイゼルダ・アロニカには関係のない事です。彼女は無事、あの悪魔が蔓延るアンジョロバーレから脱出する事が出来たのですから。

 プレイ後に公式HPをちゃんと見たのですが、魔術師ロッソやグレゴリオ神父はファントムゾーンシリーズ共通の登場人物みたいですね。彼らが何者なのかは、とりあえず他のファントムゾーンシリーズをプレイするまで保留にしたいと思います。あくまでタロンフィクションズはイゼルダ・アロニカ視点での一連の出来事を切り取ったものでした。ファントムゾーンシリーズ全体で見てみたらほんの一部分、まずは悪魔の恐ろしさや世界観が分かってよかったです。少なくとも、何も知らない一般人は決して関わってはいけませんね。正直、イゼルダ・アロニカが脱出できたのは幾つもの偶然と奇跡が重なったからです。普通は何もわからず気が付いたら死んでいます。そして、イゼルダ・アロニカは今後この悪魔たちに関わってはいけませんね。関わっていいのは、それこそファントムゾーンを認知できる人だけなのですから。

 1つだけどうしても気になる事がありました。アンジェロバーレでイゼルダ・アロニカ達は魔王の庭に迷い込みました。この辺りは理屈ではなくそういうものなんだろうと無理やり理解しましたが、どうやらこの魔王の庭の現象はこの時代の科学で捉える事が出来そうです。Episode1の最後、国際火星観測所で規則的な電波を受信しました。その電波は人の声であり、解析してみたらそれはグレゴリオ神父と鉤爪が乗り移ったデオダートの会話でした。私はてっきり、魔王の庭は完全に現実世界の世界とは切り離された知覚できない世界だと思っておりました。ですがそれが近くできたという事は、現実世界と魔王の庭は完全に違う世界ではないという事です。なるほど、それが現実世界から魔王の庭に人が迷い込む理由ですね。この2つの世界は完全に直交していない、この辺りから魔王の庭の解明は進みそうです。

 何よりも、現実世界で祝祭の時に鳴らされた鐘や聖歌の声は魔王の庭に届いておりました。思えばこの時点で2つの世界は直交していない訳ですね。そして、魔術師ロッソやグレゴリオ神父はどうやら現実世界と魔王の庭を行き来できるみたいです。きっと、彼らがファントムゾーンを認知している存在なんですね。とりわけ魔術師ロッソはファントムゾーンをビジネスとして割り切って活用しており、グレゴリオ神父は正義感で悪魔を退治しようとしているみたいです。この2人の関係も気になりますが、何となくお互い良くは思っていないけれども下手に干渉しない関係なんでしょうね。領分が違いますもの。いずれにしても、イゼルダ・アロニカのような一般人には関係ない事。命がある事に感謝して、持ち前のリスク管理能力を最大限発揮しジャーナリストとして活躍してほしいと思います。

 その後イゼルダ・アロニカがこの一連の体験をどのように報告したのかは分かりませんが、何となく通常の記事として世に出すことはしなかったんじゃないかと思っております。はたから見たら完全にオカルトですからね。それこそ、「タロンフィクションズ」という名前のファンタジー小説にするくらいが関の山です。もしかしたら、世の中にある様々なファンタジー小説は作者が言わないだけで実際に経験したことなのかも知れませんよ?何しろ、一般人にノンフィクションと言っても信じるはずがありませんもの。それこそ、ノンフィクションだと主張し続けていたら今度こそ悪魔に嗅ぎつかれ殺されてしまいます。身の程を知り身の丈に合った生活も、悪くないと思います。少なくともイゼルダ・アロニカはそれを痛感したのではないでしょうか。そんな事を思いました。とりあえず、イゼルダ・アロニカの今後の活躍を祈念してレビューの締めとさせて頂きます。ありがとうございました。


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