M.M Phantom 〜Phantom of inferno〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 8 - 92 25〜35 2006/5/17
作品ページ ブランドページ 通販



<ある一点へのこだわりが生む感動>

 今や誰でも知っているであろう一流のブランドである「Nitroplus」、それの処女作がこの「Phantom 〜Phantom of inferno〜」です。非常に話題性があり面白いという話も多く聞きましたので、絶対やらなければいけないのだという妙な使命感と共にプレイしてみました。結果として、ただただ驚かされたという感想が残りました。

 ホームページにもありますように、このゲームはアメリカのマフィアという現実にはあるのでしょうが日常生活からはかけ離れている世界が舞台となっています。そのため、シナリオや登場人物に関しては自由に考えてゲームを作っていって良いと思いますが、設定だけはしっかりと描かないとどこか地に足が着かない印象のゲームになってしまうと思います。しかし、Nitroplusがどれ程の資料を集めたのか分かりませんが、このアメリカのマフィアという設定に関して非常に厳密かつ正確に描いています。そして、このアメリカのマフィアという世界観を徹底的に描いたという一点が、このゲームの最大の魅力であり全てといっても良いかもしれません。なぜなら、アメリカのマフィアという一見分かりそうで分からない世界を、音、絵など様々な演出で表現しているからです。

 始めに音についてですが、BGMが作品の雰囲気を掴んでいるのは勿論なのですが、ここで素晴らしいと主張するのは効果音についてです。このゲームはアメリカのマフィアということで、様々な銃器が登場します。そして、それぞれの銃器に対応した多くの効果音が必要となります。この点においてNitroplusは非常に大きなこだわりを見せていまして、全ての銃器にそれぞれの発砲音やトリガーをセットした音を用意しております。これは一見あまり意味の無い事のように思えるかもしれませんが、こういった細部にまで見せるこだわりはプレイヤーに徹底した現実感を植え付け、シナリオに引き込む要因となります。他にも、普通に日常に流れる効果音についてもこだわりを見せており、全体として本当に良い世界観を演出しようとしていることが分かります。

 次に絵についてですが、これも先程の効果音と同様に非常に徹底した世界観を生み出す物となっています。しかし、この絵に関してのこだわり具合は効果音のそれよりもずっとすばらしい物になっています。まず始めに背景ですが、決して丁寧に描いているわけではありませんが、実際のアメリカの雰囲気を表した物となっています。そして、場面によっては実写の背景も登場し、これがまたリアリティを出す物となっています。そして背景以外についてですが、とにかく凄いの一言です。登場する銃器は全て「3D」で登場します。それは、CGや立ち絵に関わらず、全ての場面においてそうなっており、これは銃器に限らず車やその他の物についてもそうなっています。この徹底的な現実感は他に類を見ず、プレイヤーをPhantomの世界に引き込む事間違い無しです。

 そしてシナリオですが、ホームページにもありますように主人公は日常の世界から突如アメリカのマフィアという世界の中に飛び込んでしまいます。そんな現実には無い不幸な境遇を、巧みな文章力とシナリオでプレイヤーに簡単に受け入れさせてくれます。そしてその独特の引き込む文章力はシナリオ全土に共通であり、十数時間かかるシナリオが短く感じてしまうと思います。そしてもう一つの特徴として、登場キャラクターがカッコいい事です。これはビジュアルがどうとかの話ではなく、単純にその生き方やシチュエーションに感動するからです。これはこのゲーム独自の特徴であり、シナリオライターの力量を感じざるを得ません。

 とにかくありとあらゆる面において非常に高レベルに出来上がっています。私が思うこのゲームの最大の魅力である「徹底的な現実感」という物が本当に心に残ると思います。名作といわれる所以は伊達ではありません、時間を見つけて今すぐにでもやって欲しい一作です。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<恋愛要素の履き違え>

 このシナリオを終えて思ったことは、やはりカッコいいということでした。主人公がファントムになるまでを描いた第一章、インフェルノでの生活とそこからの逃亡を描いた第二章、そして最後に真の自由を掴むための第三章、どこにも落ち度は無く、ただただ圧倒されてシナリオを読み進める事が出来ました。その魅力の原因は、やはりシナリオ中で丁寧に描かれている人間の心情の書き方にあると思います。苦しみを受け入れて歯を食いしばって次の一歩を踏み出すという描写を、時にはストレートな言葉で語られる事もあり、時には動作や隠喩を利用して語られる事もありますが、とにかくそれを表すテンポ感が非常に心地良いです。キャラクターの心情が真っ直ぐに私の所に飛んできて、シナリオの先が気になってどっぷり浸かってしまいました。

 正直、あのマフィアの世界観のどこまでが真実でどこからが仮想なのかは私には知る芳もありません。それでも、あれが現実であっても無くてもあの世界観を作り出したNitroplusは素晴らしいと思います。キャラクターの描き方も相まって、十分私をPhantomの世界の中に引き込んでくれました。そんなPhantomですが、一つだけ気に入らない点がありました。それは、恋愛の描き方です。

 このゲーム、前半は恋愛的な要素は殆ど顔を見せず、徹底的に現実感を表に出していますが、後半になってくるとヒロイン別のエンディングを用意する過程の為か、結構恋愛的な部分が顔を出してきます。私は別にPhantomに恋愛要素が入ってはいけないとは思ってはおりません。しかし、今まで過酷な生活を強いられてきた主人公が、第三章でいよいよ自分達の居場所が突き止められたという場面で、恋愛事に関してはいかにも普通のギャルゲーの様に振舞うのです。正直、第三章のHシーンはどれも蛇足だと思いました。そして、エレンエンディング以外のエンディングはいかにもとってつけたような印象を持ちました。正直、シナリオの始めからエレンを中心として進んでいった以上、やはりエレンエンディング以外は私の中では納得いかない物がありました。

 とは言え、全体で見ますと今言った事はそんなに大した問題ではありません。というのも、私がこのPhantomというゲームで一番魅力的だと思ったことはやはりこの徹底的な現実感だからです。今様々なジャンルのギャルゲーが世に出ている中、こういったある意味ストイックなゲームは早々あるものではありません。Nitroplusのこの姿勢を、是非とも今後とも続けていってもらいたいです。


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