M.M パルフェ 〜ショコラ second brew〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 8 85 25〜35 2010/8/10
作品ページ(R-18注意) ブランドページ(R-18注意) 通販



<純愛ゲーとして非常に洗練された傑作>

 この「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」は、2005年に老舗のメーカーである「戯画」から発売された作品です。シナリオライターはエロゲー界でも非常に多くのファンがいる「丸戸史明」であり、その安定したテキストは非常に有名です。戯画はバルドフォースに代表されるゲーム性に特化したゲームが注目されがちですが、丸戸史明シナリオの純粋なサウンドノベルも一方で人気があります。感想としましては、純愛ゲーというものの1つの到達点を見ることが出来た気がしました。

 この「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」というゲームは舞台がお店という事で非常に雰囲気を重視した作品となっております。「ファミーユ」という西洋アンティーク喫茶という事である種の非日常的な世界観を作っております。それでもそこで働いている人物は紛れもない普通の定員であり、箱庭のような世界観の中にしっかりと現実性を残している点がポイントです。つまり、基本的にには普通の日常を生きている人物が贈るとある喫茶店の物語であり、雰囲気にお膳立てされてはありますがそういった意味で一般的なサウンドノベルと違った印象をうけることはありません。

 ですがそういったある種の非日常的な雰囲気が確実にシナリオの方向性を決定づけていると言えます。この「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」ですが、まさに「純愛ゲー」の鏡と言えるシナリオです。複数のヒロインがいる中で選択肢により特定のヒロインとの物語を紡ぐ、こういった多重恋愛マルチシナリオは一般的ですが、純愛ゲーを語るには主人公とヒロインの物語に泥を塗る展開は厳禁です。もちろんシナリオ上必要な演出なら無問題ですが、無意味な設定やギャグ要素はある意味純愛ゲーの神秘性を損ねてしまう可能性が考えられます。そういった不必要な要素を極力排除し、徹底的に純愛ゲーとして仕上げてきた雰囲気を感じました。

 そしてこの「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」はいわゆる「萌えゲー」とも違う雰囲気を持っています。もちろん「ねこにゃん」の描くそれぞれのヒロインは魅力的であり萌の要素も含んでいますが、このゲームのヒロインはそういったキャラクター性で主張するというよりもパーソナリティで主張します。つまりシナリオ重視であるということです。純愛ゲーは、無論主人公とヒロインの心の紡ぎ方を描いたゲームですのでキャラクター性だけではどうしても不十分です。そのキャラクター性を裏付ける比較的長く説得力のあるテキストが不可欠です。そういった純愛ゲーとして持ち合わせているべき要素をしっかりと持っています。

 そんな真っ直ぐな雰囲気とシナリオを合わせ持ったこの「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」ですので、シナリオの全体的な起伏としてはそれ程多い訳ではありませんが最後まで飽きずにプレイすることが出来ます。とりあえず「ファミーユ」の雰囲気に触れる、そしてそこで働いているヒロインたちのパーソナリティーに触れるその段階で気にいっていただければ、間違いなく全ヒロインの全シナリオを飽きずにプレイすることが出来るでしょう。それほどまでにこの「パルフェ 〜ショコラ second brew〜」が創りだす純愛ゲーとしての雰囲気は素晴らしいものです。

 そんなゲームですので、是非サウンドノベルの原点に立ち戻りたい方、あまりサウンドノベルをプレイして無く一般的で無難な作品をご所望の方、是非オススメです。何か刺激のあるゲームを求めている方には物足りないと思います。とりあえず温かい気持ちになることだけは間違いありません。是非「ファミーユ」にご来店して頂き、一息ついてみては如何でしょうか。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<言葉で伝えることの大切さ>

 全ヒロインのシナリオを終えて思ったことは、やはり「自分の本当の気持ちは言葉にしないと相手に伝わらないのだなぁ」という事です。そんな当たり前の事がこの作品のテーマだと思いました。

 実際プレイしてみて、確かにシナリオにそれ程真新しさは感じませんでした。基本的にヒロインと心を通わせ、主人公と二人で幸せな未来へと進んでいくシナリオでした。ですが、その心を通わせるという事は実は思っているよりも難しいという事です。実際多くのシナリオで、主人公もヒロインもお互いの本当の気持ちを誤解しており、そういった小さな歪が気持ちのすれ違いにつながっていきました。それならば、お互い素直になって本音で語り合えば言いわけです。ですがそれが出来ない理由が本人達にありました。

 人に嫌われたくない、こういった考えは誰しもが持っていると思います。自分の正直な気持ちを告白して、それを相手から拒否されたときの心の痛みは計り知れないものです。それは一般的に会話レベルでも相当のものですし、ましてそれが「恋愛」となればずっと心に抱え込んでしまうような傷になってしまうかも知れません。だからこそ、人は自分の心を守るために本音で語ることに抵抗感を持っている訳です。「言わなくても分かるでしょ!」というセリフなんかはそういった人の本質の象徴的な一面の現れかも知れません。

 そして、今作の主人公ですが過去にそういった経験をしている為になかなか自分の本心を相手に言葉で表現する事が出来ずにいました。言葉で表現する代わりに体で表現してしまって、傍からいれば相思相愛の関係に見えますが当人たちは実はその多くを語ってはいなかったわけです。だから、自分たちの関係に転機が訪れたとき、自分はどのように振る舞えばいいのか相手に対してどのような言葉をかければいいのか分からなくなります。要するに「不安」なわけです。何故なら相手の気持ちがわからないからです。こういう事をお願いしたら嫌われるだろうか、無理を言ったら自分の事を負担に思ってしまうだろうか、困った時に手を差し伸べてくれれうだろうか、遠くに行ってもお互いに思い続けることが出来るだろうか、こういった不安をずっと心の底に抱えている訳です。

 だからこそ、お互いに本音で話さなければいけないのです。心でぶつかり合う事で、本当の意味で相思相愛の関係になれるのです。相手の心がわかればそれは絶対的に信用できる、そしてそれは相手が自分の対してもそう思えている事の現れである、これこそ信頼関係だと思います。結局信頼関係さえあればたいていの事は乗り越えることが出来ます。仮に短期的には出来ない難しいことでも、二人三脚で頑張っていこうという気持ちを持てます。この物語は、そういった人付き合いの中で心を通わせることの大事さを問うたもののように思えました。

 そういう意味で、純愛ゲーでありながらHシーンの多さが気になりましたがこれもきっと最終的に言葉で伝えないと通じ合わないという事を表現したかったのかもしれません(ということにしておきます)。ましてや一回目のHシーンの多くは結構なし崩し的に始まりましたので、毎回毎回唐突だな〜って思ってました。そんなだから、玲愛シナリオ一回目Hシーンの後の「結局のところ私の事どう思ってるの!?」発言には思わずガッツポーズをとりましたね。よく言った!これこそこの物語のテーマ性だ!って一人で盛り上がってました。

 後はシナリオで思ったことをつらつらと。やはり里伽子シナリオは厚みがありましたね。物語前半の伏線が綺麗に回収された気がしました。そしてこの里伽子シナリオは一度言葉で伝えようとしておきながらそれを拒絶された前提から始まります。「分かってるつもり」が最悪の結末に向かってしまった訳ですね(BAD END)。そしてそれはお互いさまだったかもしれませんが、やはり最後言葉でぶつかり合う事でお互いの信頼関係を作り上げたエピローグは見事でした。そして由飛シナリオですが、この子は逆に自分の気持ちを正直に主人公にぶつけるというこの作品中ある意味異質なシナリオでした。そういう意味で、後半自身のトラウマに向かい合ったとき、あそこまで主人公は自分の身をささげて彼女を支えることが出来たのでしょう。ある意味里伽子シナリオとは真逆の設定だと思いました。

 まとめます。比較的最近のゲームでありながら純愛ゲーとして大切なものを教えてくれたシナリオには心温まるものがありました。そして言葉で気持ちを伝えることが人と分かりあえる手段であるというテーマ性を、かわいらしいヒロインの物語で表現してくれました。傑作です。ありがとうございました。


→Game Review
→Main