M.M パンドラの夢


<ループアドベンチャーというもの>

 このゲームをプレイしたきっかけは、友人が強くオススメしたことです。私の中でも存在は知っていたのですが、あまり注目していませんでした。今回良い機会だと思ってプレイしてみました。結果として、非常に感動するものになりました。

 このゲームは「ループアドベンチャー」というジャンルになっていますが、その名の通り同じ一週間を繰り返してプレイすることになります。あまり見ないジャンルですし、こういった特殊なものはシナリオや設定がしっかりしていないと決して良い作品にはならないものです。しかし、プレイした感想としてはループアドベンチャーというジャンルの面白さや良さというものを良く理解していると思いました。それはシナリオが良いという事は勿論なのですが、それ以外の要素についても本当に良く考えられたものでした。

 その要因として挙げられるものとして、まずBGMがあります。このゲーム、基本的なノリは笑いを誘う内容になっていますが、同じ一週間を繰り返すということで主人公やヒロインなどの登場キャラクターはその非現実さにデジャヴなどの戸惑いを感じることになります。その心情や場面の変化をうまく表現しています。そして、このゲームのBGMの最大の特徴として、昔からの有名なクラシックを使用しているということです。これは捕らえ方によっては作曲をあきらめた「逃げ」として捕らえられるかもしれませんが、実際ゲーム中で聞いてみますと、これがゲームの雰囲気と非常にあっているのです。この珍しい試みも体感する価値はあると思います。

 その他の要因として、背景があります。何度も言うようですが、このゲームはループアドベンチャーとなっています。しかし、厳密に毎回同じループではなく、設定や状況は毎回変わります。その移り行く変化を丁寧な背景で表現しています。それは同じ場所の背景でも、色合いや物の設置位置などの些細な変化をしっかりと表現しています。こういう部分を丁寧表現することによって、ループアドベンチャーというものの魅力を表現しているのだと思います。

 そしてシナリオですが、これは繰り返される日常の中で主人公が感じるデジャヴの原因をさぐりながら読み進めていくものです。それなりに謎解きの要素も入ってきますが、普通に読み進めていくと話の中に引き込まれるように読んでしまうと思います。そして、全てが終わったときに待っている感動はなかなか他の追随を許しません。純粋に感動したい方には本当にオススメの作品です。

 結果としてあまり目立たない作品ですが、こういったものが俗に「隠れた名作」と言われる物だと思います。私の中でも自信を持ってオススメ出来る作品ですので、時間に余裕のある方なら是非やってもらいたいです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<無限ループを取り上げた理由>

 このシナリオを非常に簡単に言ってしまえば「夢オチ」です。実際夢を見ていたわけではないのですが、スウの中に流れる櫻の「夢織り」の血によって、各キャラクターは現実世界から切り離された世界で無限に続くループを体験することになります。そして、エンディングでは何事も無かったかのようにこれまでの日常に戻ります。しかし、これを唯の夢オチとして処理するには余りにも簡単すぎます。

 そもそもこの無限ループの中に取り込まれた原因は、スウの中の夢織りの血が各ヒロインの心の葛藤に反応したからです。そして、その全てが簡単に解決できない様な願い事ばかりですが、各ヒロインは主人公と共にその心の葛藤を克服して現実世界に返っていきます。まさにここにこの「パンドラの夢」のテーマが隠されていると思います。

 そして、この「心の成長」というテーマを描くために用意された舞台が「無限ループ」です。これは一見都合の良い世界観に見えますが、実際心の成長を描くという意味では非常に良い世界観だと思います。そして、これを唯のループで終わらせないようにしっかりと一本のシナリオを用意して、ある種の謎解きゲーの要素を加えてプレイヤーを引き込みます。このシナリオのつくりは本当に素晴らしいと思います。

 そして、誰もが心に響いたと思われる「4000日」の時間。私は実際「スウの心の葛藤」はどのように晴らされるのかが正直楽しみでした。その答えがこの4000日です。私の中では、唯単にスウのバッテリー切れが原因で現実世界に戻ったのだとは思いません。「夢を見ました」というスウの言葉、これがスウが4000日掛けて捜し求めていた答えだと思います。これにたどり着いたおかげでようやくスウも心置きなく死ねたのだと思います。

 夢織りの力については他の解釈もあるかと思いますが、私としては「心の成長の為に背中を押してあげるもの」という解釈をしました。櫻は残念ながら不幸な終わり方をしてしまいましたが、むやみに利用しようとせず、夢織りの力は唯それがそこに存在することに意味があるのだと思います。そんな夢の世界の物語、私は決して忘れることは無いと思います。


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