M.M 夢の中の私




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 7 2 72 2〜3 2017/1/31
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<皆さんが普段「夢」についてどう思っているか、それを整理してから読み始めて欲しいですね。>

 この「夢の中の私」という作品は同人サークルである「みるみるそふと」で制作されたビジュアルノベルです。みるみるそふとさんの事を知ったのはC91の一日目で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。この時に今回レビューしている「夢の中の私」と、C91での新作である「悪魔がくれたモノ」の2作品を手に取らせて頂きました。初めてのサークルさんでしたのでまずは新作である悪魔がくれたモノの方からプレイさせて頂き、死生観についてストレートに表現したシナリオに大変心を撃たれました。すぐに夢の中の私の方もプレイしたいと思ったのですが、気持ちを落ち着ける意味で全く別ジャンルである抜きゲーでワンクッション置き改めてプレイさせて頂きました。

 この作品で取り扱っている題材は「夢」です。ここでの夢とは、未来への希望や願望といった夢ではなくいわゆる睡眠時に見る夢の事です。皆さんは夢を見るでしょうか?そしてその夢は楽しいものでしょうか?ほとんどの人にとって、夢とはランダムなものであり自由に見る事が出来ないものだと思います。そして折角見た夢も朝起きたらその殆どを忘れてしまうのです。夢とはとてもあやふやな存在であり、それが故に科学的にもまだまだ未知の存在であります。現在は睡眠時に脳が記憶を整理している時に見るものという説が有力のようです。それだけ自由に操れないものであり、だからこそ人は夢に夢見るのかも知れません。では、そんな夢が自由に見れるようになったらどうでしょうか?とても楽しいと思いませんか?今回レビューしている「夢の中の私」の世界では夢は自由に見れるものであり、文字通り夢が現実になったかのような世界となっております。

 夢の仕組みが解明され、誰もが見たい夢を見ることが出来るようになった現代の日本。この世界において睡眠はもはや休息ではなく娯楽の時間となっております。好きな夢を見る事が出来る夢のようなディスクが当たり前のように出回り、見たい夢を求めて睡眠を取ったりまた友達と同じ夢を見るなどそれぞれが思い思いの夢を見ております。そんな世界において、主人公である秋山煌は何故か夢を見れないでいました。彼が見る夢は暗闇に包まれているだけの虚無の夢。友達である由紀や啓介から様々なディスクを借りても決して思い描いた夢を見る事はありませんでした。生まれながらの疾患なのか理由もわかりません。そんな周りとの温度差を感じていた煌が、ついに初めて色のついた夢を見る事が出来たのです。ですがそれが彼にとっての新しい生活の始まりでした。初めて見た色のついた夢、そこで出会った少女と夢を巡る不思議な物語が幕を開けるのです。

 最大の魅力はやはり作中でしっかりと定義された夢の設定とそれに振り回される主人公の描写ですね。今まで自由に夢を見る事が出来なかった主人公がついに夢を見る事が出来てはい終わり!なんて事はありません。何故唐突に夢を見る事が出来るようになったのか、そして夢の中で出会った少女は何者なのか、そもそもどうして主人公は元々夢を見る事が出来なかったのか、暗闇に包まれた虚無の夢に意味はあるのか、プロローグだけでこれだけの伏線が張り巡らされております。そして夢についての真実を知っていく中で周りの人が抱えている悩みや苦しみが表面化し、徐々に主人公の夢に対する考え方が変化していきます。物語の始めと終わりで夢に対してどう思うのか。是非プレイヤーの皆さんも自分にとっての夢というものに想いを馳せて読み進めて欲しいですね。

 プレイ時間は私で2時間15分程度掛かりました。選択肢はなく、一本道で最後まで読む事が出来ます。割とサクサク場面が展開していきますので、気を抜くと夢の設定ですとか大事な部分を読み落としてしまうかも知れません。そこまでボリュームのあるシナリオではありませんので、それこそ自分が見た夢を忘れない用にする感覚でじっくりと読み進めていって欲しいですね。またこの作品は女の子については立ち絵とCGがあり、しかも割と登場人物の数も多いです。可愛らしい絵柄を堪能するのも良いと思います。短いながらも誰もが心の中に思っている題材を扱った作品です。きっと何かしら心に残るものがあると思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<時々夢の中で休みながら現実で進んでいく、人生とはそんなものなのかなと思いました。>

 果たして最後、紅葉は死んでしまったのでしょうか。私はそうではないと思っておりますし死んではいけないと思っております。由紀の手で作られた不完全なディスクによって夢の中から出られなくなった紅葉。その間ずっと寝たきりであり一人孤独だった彼女がやっと叶える事が出来た夢、それは最愛の姉と再会する事でした。これが紅葉にとっての夢の終わり。であるなら、いい加減夢から覚めて現実を生きて欲しいですね。

 作中でも由紀が言ってましたが、夢というものは他人に絶対に干渉されない唯一のものです。自分が幸せになる夢だろうが他人が不幸せになる夢だろうが見るのは自由。それは自分だけの世界で閉じた世界だから許されるのです。自分の理想だけをぶつける事ができる存在、まさに夢の様な存在が夢というもの。そんな世界が自分の意志で自由に作れるのであれば、誰だってのめり込んでしまいますね。そして多少の危険を犯してでもより自分の理想の夢を追い求めたいと思うもの。それが由紀の様な存在を作ってしまったんですね。

 では理想の夢を叶えてきた由紀は果たして幸せだったのでしょうか。そうではありませんでした。由紀は確かに自分の理想の夢を追い求めそれを実現してきました。ですがそんな由紀にとってもはや夢は決して手放せない麻薬のような存在にもなっておりました。ダイバーとして他人の夢に潜ることが出来た煌と楓、その存在を知っただけで激怒して追い出そうと躍起になってました。これって、自分が作り上げた王国を脅かす存在に怯えているという事。理想郷に浸かりすぎた結果、あまりにも外敵に弱くなってしまったんですね。夢の中に浸かりながらもそれを脅かす存在に怯える由紀、これが幸せな姿だとは思えませんね。

 逆に理想の夢どころか夢の中に閉じ込められた紅葉もまた幸せとは程遠い存在に見えました。誰にも干渉されない世界、ですがそれは誰とも触れ合えない世界です。そんな世界に一人っきり、普通であれば心を失ってしまい生きる事を諦めてしまいます。ですが彼女は諦めませんでした。何故なら煌が何度か紅葉の夢の中に迷い込んできてたからです。彼女にとって一番叶えたい夢は最愛の姉に会うこと。その夢を叶えるために例え一人孤独でも死ぬ訳には行かなかったのです。紅葉は夢に囚われなかがも、心まで夢に囚われていた訳ではなかったんですね。最後に姉と再会できた表情を見れば紅葉がどれだけ幸せを渇望していたのか、そしてそれが叶えられたのかが分かります。夢の中に浸かりながらも外からやってくる存在を求めた紅葉、これが不幸せな姿だとは思えませんね。

 由紀も紅葉も夢に囚われたとても歪な存在でした。普通の人が歩む囁かな幸せとは程遠い人生です。ではもう彼女たちは普通の人生を歩む事は出来ないのでしょうか。そんな事はありません。むしろここからが彼女たちの本当の人生が始まるのだと思っております。夢の王国の崩壊に怯えた由紀、夢から抜け出せない事に怯えた紅葉、そのどちらの夢もついに終わったのです。覚めることがなかった夢が覚めました。そうであるなら、彼女たちは現実で幸せにならなければいけませんね。紅葉はこんな所で死んではいけないのです。最後、紅葉の夢の中で消えた紅葉を前に泣き崩れた楓。現実世界でも死んでしまったと思った事でしょう。ですが死んではいけないのです。紅葉はただ夢から覚めただけです。きっと、楓の目の前には夢から覚めた紅葉の笑顔が待っている筈です。

 始めは人間の心に訴えかけるシナリオが待っていると思いました。ですが蓋を開けてみればかなりしっかりとしたSFでした。ですが最後に書きたかったのはやはり夢に囚われた人間の心のあり方でした。夢を娯楽として楽しむ、十分楽しい事だと思います。ですが依存しすぎるのは良くないですね。夢はあくまで夢、現実ではないのですから。様々な見方ができる本作ですが、私はこの作品のテーマは「夢から覚めて現実を歩くという事」だと思っております。夢を見る事はとても素晴らしい事。であるなら、その素晴らしさを噛み締めて一歩前に進めるはずです。時々夢の中で休みながら現実で進んでいく、人生とはそんなものなのかなと思いました。ありがとうございました。


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