M.M お前のノベルゲームが完成しない理由




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 6 - 70 〜1 2024/12/31
作品ページ サークルページ



<決して綺麗事など無い、えるりんご式のリアルなノベルゲーム制作ハウツーものです。>

 この「お前のノベルゲームが完成しない理由」という作品は、同人サークルである「えるりんご」で制作されたビジュアルノベルです。えるりんごさんの作品はこれまで数多くプレイさせて頂き、今作で8作品目となります。ここ最近はえるりんごさんがコミケや各種即売会に参加するたびに売り子をさせて頂いており、またその度に新作をリリースされている制作ペースに驚きつつ感服しております。今回レビューしている「お前のノベルゲームが完成しない理由」はC105の新作です。えるりんご式ノベルゲーム制作のハウツーものとなっており、もしかしたらこの制作ペースを維持する秘訣が描かれているかも知れませんね。私はメインでビジュアルノベル制作は行いませんが、過去に1つだけビジュアルノベルを制作した事もありますのでどのようなものが興味がありプレイしてみました。

 この作品のジャンルは「ノベルゲームを作るノベルゲーム」です。主人公である夏都はノベルゲームが好きな大学生であり、自分もノベルゲームを作りたいと思っておりました。ですがこれまでノベルゲームを作った経験は無かった為、友人である冬夜にノベルゲーム製作のいろはを教わる事にしました。冬夜は大手同人ノベルゲームサークルのサークル主ですので、これで夏都もノベルゲーム制作出来る事間違いなしですね!ですがそう思っていた夏都に冬夜は、

「ノベルゲーム制作なんてやめとけ」

と一言言い放つのです。果たして夏都のノベルゲーム制作はどうなってしまうのでしょうか。

 私も常々ノベルゲーム制作者は神か何かだと思っております。ゲーム制作なんて、特殊なスキルがないと絶対に出来ないと思ってますからね。昔1つだけ制作した「ビジュアルノベルをレビューするビジュアルノベル」(ふりーむ!様へのリンク先はこちらからどうぞ)はスクリプトを組むという事はどういう事だろうという事を体感する為の実験的作品でしたので、とてもノベルゲームを制作したという事は出来ません。ですけど、全てのノベルゲーム制作者は始めからノベルゲームを作れた訳ではないのもまた事実です。日進月歩で積み重ねてきた結果が、自分が手に取っているビジュアルノベルなんだろうなと思っております。だからこそ、ノベルゲーム完成までの道のりは生半可なものではありません。事実、作中で主人公の夏都は何度も冬夜に厳しく責められます。逆に、この程度の壁を超えられないのならノベルゲームは本当に作れないという事なのでしょうね。綺麗事ではなくちゃんと事実を発信している事がありがたいと思いました。

 その他の要素として、BGMや背景など全てえるりんごさんのオリジナルとなっております。作中でも素材の作り方について言及しており、それを自ら実践している訳ですので素晴らしいですね。ネタバレ無しなので言えませんが、特に後半で表示される背景はまさに自ら制作するという強みを前面に出しており思わず笑ってしまいました。BGMも場面や夏都の心理描写に連動しており、使い方が上手だと思いました。数こそそこまで多い訳ではありませんが、適切に使う事で効果的に登場人物の心理描写を表現しております。個人的には中盤で冬夜が夏都に語りかける場面とBGMとの調和が良いと思いました。

 プレイ時間は私で40分でした。選択肢は無く、一本道で最後まで読む事が出来ます。ノベルゲームを制作するフェーズに応じてチャプターが分かれておりますので、またやり直したいときにどこから始めればよいか分かり易くて親切ですね。そして、プレイし終わった後にはとても大きなお知らせが待っておりました。この作品が、もしかしたら唯のハウツーものではなく一年後には伝説の作品になるかも知れません。改めてえるりんごさん自身がどのようにノベルゲームを制作するかを描いた本作、もしかしたら自身のノベルゲームの作り方を顧みる事で次のステップへ繋げる狙いもあるのかも知れませんね。是非多くの方にプレイして頂き、ノベルゲーム制作とは何ぞやという事を感じてみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<創作で大切なのは自分を信じる事、本当にそれ以外必要ないんですね。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、本当中途半端な気持ちなら「ノベルゲーム制作なんてやめとけ」と引導を渡すのが優しさだと思いました。それだけノベルゲーム制作はやる事は多く、だからこそ最後まで走り切るのは難しいですからね。テクニック論よりも、心構えの部分を是非参考にして頂ければと思いました。

 つまるところ、冒頭で話していた「何のためにノベルゲームを作るのか」という事が全てなんだと思います。例えば、SNSで有名になりたいとかお金持ちになりたいという動機でノベルゲームを作るのであれば大変コスパが悪いです。それはこの作品を最後までプレイすれば一目瞭然ですね。何よりも、SNSで有名になるとかお金持ちになるという事は自分では制御できません。これも作中で言ってましたが、自分で制御できる範囲で始めるのが一番です。夏都が「自分がプレイしたいから」と言ってましたが、こういうのが究極的だと思います。なんといっても、自分が動機ですからね。心なしか、冬夜の表情も満足げに見えました。

 他にも、制作していて誰もが通る道を先取りして教えてくれました。例えば「本当に面白いのかな病」は一度陥ると抜け出すのが大変そうです。SNSが発達した現代、どうしても他の人の活動や発言が見えてしまいますからね。人と比べる事を完全に排除する事は非常に困難です。そういう時こそ、冒頭の「何のためにノベルゲームを作るのか」を思い出すんですね。もし夏都の様に「自分がプレイしたいから」であるのなら、他人の目を気にする必要は本来無い筈です。それを、冬夜が適切なタイミングでアドバイスしてくれたからこそ、夏都は最後までノベルゲーム制作を走り切る事が出来たのかなと思っております。

 振り返れば、冬夜の口からはノベルゲーム制作だけに留まらない言葉が数多く出た気がします。「世の中のコンテンツは何かと何かの組み合わせ」「創作の世界では好き勝手生きたい」「退路は残しておく」「時には休まないと人間ってダメになっちまう」などは、普段仕事をしている人にとっても心に残る言葉ではないでしょうか。誰かの人生を生きるのではなく自分の人生を生きる、その本当の意味を教えてくれている気がします。創作だって、やらなければいけない訳ではないですからね。あくまで自分がやりたいからやっている訳で、その進め方を誰かに強制される謂れはありません。きっと冬夜のような良き理解者が必ず現れると思っております。

 他にも「完成されたゲームを出すことが、本当の意味で約束を守る行為」「ゲームができなくなった時も作品に会えるようにしたい」「完成させないと見えない景色」など、えるりんごさんの創作に対する想いが滲み出ているのも良かったと思いました。本当に自分自身が自分の作品を愛していて、だからこそ妥協したくないという意識を感じました。少し本作から逸れますが、えるりんごさんは即売会に出る以上は絶対に新作を用意したいという拘りも持っているみたいです。確かに私自身も即売会に参加して、毎回同じポスターの使いまわしで同じ頒布物というサークルさんを見かけるとガッカリします。どんなに面白そうなコンテンツでも、繰り返されると陳腐化するんですよね。その辺りの、ある意味自分に対するプロ意識の様なものも垣間見れました。

 この作品を通して、改めてノベルゲーム制作には熱量が必要という事を教えて頂きました。無から何か創作物を生み出すには、自分の中にある強い想いが必要だと思っております。そして、そうした熱量は必ず作品に現れます。テンプレや流行に乗っただけの作品は、本当に心に響きません。粗削りでも最後まで完成させて発表割いた作品は、絶対に誰かの目に留まります。そしてその誰かには、自分も含まれている事を忘れてはいけません。自分であれば絶対に裏切りませんからね。そういうもので良いと思います。私も、この作品を通して自分がレビューを書いている理由を顧みる事が出来ました。自分がやりたかったからでした。そんな、創作の本質を教えてくれた作品でした。ありがとうございました。


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