M.M バッドエンドじゃ終われない




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 4 - 59 〜1 2020/5/4
作品ページ(なし) サークルページ(Twitter)



<折角良い設定と登場人物なのに、システム周りで台無しになっているのが勿体ないですね。>

 この「バッドエンドじゃ終われない」という作品は、同人サークルである「Dreamin' ice rabbits」で制作されたビジュアルノベルです。Dreamin' ice rabbitsさんの作品をプレイしたのは本作が初めてです。切っ掛けはC97にて同人ゲームの島を回っている時でした。率直に言って、タイトルに惹かれました。バッドエンドになるんでしょうけどそれでは終わらない、では果たしてどんなバッドエンドになるんだろうって想像力を掻き立てられました。パッケージも、夕暮れの海に佇む物憂げな表情の登場人物達が印象的でした。そして、表には3人しか登場してませんがパッケージを開けるとあと1人の姿が見えるのです。間違いなく恋愛要素が絡んでくる事は想像出来ましたが、それだけではない伝奇要素もあるのかなと想像しました。それ以上の情報はありませんでしたので、何れにしてもプレイしなければこれ以上の事は分かりません。ハッピーエンドが待っている事を信じてプレイし始めました。

 主人公である日比谷翼には好きな女の子がいました。名前は莉奈と言いまして、翼と幼馴染でいつも傍にいました。莉奈はツンデレな性格ですのでいつも翼には辛辣にあたりますが、誰がどう見ても愛情の裏返しだという事が分かります。いつか結ばれたいと思っている翼ですが、それとは別に大きな悩みを抱えておりました。翼には1人の妹がいました。名前は椿と言いまして、重い病気を患っており余命一ヶ月と宣告されておりました。それでも兄を心配させまいと気丈に振る舞いますが、体力の低下や症状の悪化は抑えられません。そんな、やりきれない思いと何とかしたい思いを胸に秘めておりました。そんな翼が自室に戻ると、そこに一人の女の子が寝ておりました。彼女の名前は柊、どうやら柊を認知できるのは翼唯一人のようです。その柊が、翼に悪魔の契約を持ち出しました。周りの人間を不幸にすれば、妹の命を助けられるかも知れないと。自分の大切なものを掛けた物語が幕を開けます。

 全体を通して、システム周りに不便さを感じました。まず始めに、テキストがウィンドウ画面に収まっておらず全文読む事が出来ません。幸いバックログを表示させることで確認する事が出来ますが、不便ですので是非解決して欲しいですね。続いて、物語途中で進行する事が出来ませんでした。これはC97のパッケージ版での事象で、後日サークルさんに問い合わせをしたのですがその際に修正版を頂く事が出来ました。それでも途中画面が暗転のままな場面もありましたので、再修正頂ければと思います。そしてこれが一番良くないと思ったのですが、セーブ&ロードが出来ません。幸い物語の長さが短かったので使用する事は無かったのですが、長かったら致命的でしたね。一応スキップ機能もあるのですが、未読も既読もスキップしてしまうみたいですので放っておく事も出来ません。一度全体的にブラッシュアップして頂ければと思います。

 プレイ時間は私で45分程度でした。選択肢はなく、クリックのみでエンディングにたどり着く事が出来ます。上記の通りシステム周りに不便さを感じましたのであまり物語に没入する事は出来ませんでした。それでも、登場人物のキャラクターは立っており主人公の行動に一貫性がありましたので読んでいて納得感はありました。タイトルにある「バッドエンドじゃ終われない」の意味も回収できましたので、良くまとまっていたと思います。それだけにこのシステム周りは残念でした。エンジンがティラノビルダーという事で不都合が多いのかも知れませんが、是非その点を改善して頂き再び読み直してみたいと思いました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<不器用な人たちが、本当に好きな人の為に行動する姿勢が印象的でした。>

 いやー翼の決断は潔かったですね。大切な妹の命を救うために全てを犠牲にする、その信念は本物でした。命が救われるのであれば自分の気持ちなど幾らでも捨てて構わない、その覚悟の大きさに柊も絆されたんですかね。不器用な人ばかりな作品だと思いました。

 振り返ってみて、登場人物全員が自分の気持ちに素直になる事が苦手な人ばかりだったなと思っております。莉奈は典型的なツンデレでしたし、シュウは女の子である事を隠してましたし、椿は生きたいと願いつつもそれを口に出す事を憚ってましたし、それぞれがそれぞれの事情を抱えて生きている様子が印象的でした。その中でもやはり柊の境遇は堪える物がありました。生まれる事すら叶わず、その上翼の部屋からずっと出られないのは大きな孤独だったと思います。唯一顔を合わせる翼も自分の事に気付いてくれず、同じ双子の椿ばかり目に掛けてもらって嫉妬するのも無理は無いと思いました。そんな翼とやっとコンタクト取れるようになったのです。もしかしたら、あの不幸ポイントは柊なりの甘えだったのかも知れませんね。もちろん不幸ポイントが貯まらなければ椿は助けられませんし、その為に悪役を演じる事は必須だったのだと思います。それ以上に、自分に目を向けてくれることが素直に嬉しかったのではないでしょうか。

 それにしても、大好きな人を振らなければいけないのは本当にきつかったと思います。もちろん自分が叶えたい夢が潰えた事も辛いですが、振った後でも彼女たちとの関係が完全に離れる訳ではありませんからね。特に椿は同じ屋根の下で生活してますし、折角命が助かったのにその後口もきいて貰えないなんで悲し過ぎます。翼も覚悟の上での行動だったと思いますが、いざ体感するのと想像するのとではやはり差はあるのでしょうね。これは確かにバッドエンドですね。私、もし翼がたとえ周りの女の子から嫌われても本人が納得しているならハッピーエンドでも良いんじゃないかって思いました。バッドエンドもハッピーエンドも、見方が変わればどっちにもなり得ますからね。ですが、今回の場合は明確にバッドエンドだと思いました。ヒロインは傷付いた、翼も納得していない、プレイヤーも後味悪い、これで終わるのかなと思ってしまいました。

 ですけど最後、正ヒロインの莉奈が現れてくれました。翼からあれだけ強烈な振り方をされても、心のどこかで違和感を持っていたのかも知れませんね。私の好きな人はこんな風に無慈悲に人を悲しませたりしない、そんな気持ちが電話を取った理由なんじゃないかって思ってます。完全に翼の事を嫌いに想えば、電話すら取ろうと思いませんからね。そして、ちゃんと電話先の相手の言葉に耳を傾けてくれんだんですね。柊もまた、本当に翼の事が好きだから残された時間で自分が出来る事を考えたのだと思います。不幸ポイントが溜まって消えると同時に実体を持つようになった柊、その最後の時間を本当の意味で翼に使う事が出来ました。よくよく考えれば、翼の事を一番身近で見ていたのは柊ですからね。自分が翼の事を好きだからこそ、翼の莉奈に対する気持ちも痛いほど理解出来たのだと思います。バッドエンドを目指したシナリオでしたけどバッドエンドじゃ終わらせない、そんな心意気を感じるシナリオでした。ありがとうございました。


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