M.M ニンサンバケシチ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 - - 65 1〜2 2019/6/29
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<一言で言えば不気味。シュールと言えるかも知れません。そんな独特の雰囲気にハマりました。>

 この「ニンサンバケシチ」という作品は、同人サークルである「蟻喰いマムシ」で制作されたビジュアルノベルです。蟻喰いマムシさんの作品をプレイするのは今作が初めてです。切っ掛けはCOMITIA128で同人ゲームの島サークルを周っている時でした。パッケージを見てビックリしました。何しろ、マグロの頭がドーンと描かれてあるんですもの。そして、この作品のジャンル名は「本格派和風ツナホラー」です(一瞬ツナマヨに見えてしまいました)。ツナホラーって何なんですかねぇ。このジャケットとジャンル名だけで既に十分ホラーな気がします。全くシナリオが読めない作り込み、間違いなくインパクト的に成功ですね。後はどのようなシナリオが待っているのかを確認するべくプレイし始めました。

 主人公である能崎は大学生です。能崎が通っている近江大学は関西圏でもトップクラスの実力を持っており、その中でも水産学部は群を抜いて偏差値が高い事で有名でした。水産学部でメインに研究しているもの、それはマグロです。様々な研究室でマグロを研究しており、この実績によって卒業生は様々な企業や研究室からオファーが来るのだそうです。そんな将来有望な水産学部ですが、最近奇妙な噂が流れております。それは、学部生が消えるとその分マグロが増えるのだそうです。学部生の間で、その噂は「マグロ隠し」と呼ばれておりました。そんなオカルトめいた噂のはずだったのですが、同じタイミングで同じゼミ生の乃州さんが消えてしまいました。そして気が付いたら一匹増えているマグロ、噂が噂でなくなってしまったのです。能崎は噂の真実を探ろうとするのですが、そこには非常に根の深い真実が張り巡らされておりました。

 とまあ、そんな感じで純正なホラーのようなあらすじとなっております。ですが、その実態は純正なホラーとは程遠いとんでもないものでした。まず、登場人物の立ち絵があり得ないです。能崎が所属する唯野ゼミの唯野教授ですが、何と顔がスプーンです!比喩でも何でもなくスプーンなんです!思わず画面に突っ込みを入れてしまいました。そして、ゼミの同級生に山本・桃野・海野の3人がいるのですが、それぞれアフロに白目・マネキン・禿なんです!冗談ではありません。後は実際に見て確かめて下さい。もうこの立ち絵のせいで、物語に入り込めないんですよね。気になり過ぎて。恐ろしいインパクトでした。しかも肝心のマグロではないんですよね!コメディなのかホラーなのか良く分かりませんが、とりあえず凄い作品だという事が分かりました。

 そしてシナリオですが、ホラー要素というよりもミステリー要素の方が強い感覚でした。怖い気持ちよりも好奇心の方が勝ってしまったんですね。あらすじで書いたマグロ隠しという噂、始めはこの出来事を探って消えてしまった乃州さんを見つけてそれでハッピーエンドかなと思っておりました。その調査の過程で、様々なホラー要素が待っておりました。ですが、そんな単純なシナリオではありませんでした。一言で言えば、不気味。この不気味さがある意味ホラー要素なのかも知れません。ちなみに、この作品にはBGMがありません。ただ、セミの音が鳴り続けるだけです。この無常感と言いますか何にもすがれず取り残されている感もまた、不気味だと思いました。シュールとも言えるかも知れませんね。そんな独特の雰囲気を味わってみて下さい。

 プレイ時間は私で1時間25分でした。この作品には始め選択肢はありません。何とも後味の悪いエンディングが待っておりました。ですが、その後再プレイしたらこれまで無かった選択肢が登場し始めました。そのような感じで、周を重ねる毎に選択肢が増えていき最終的にシナリオの全貌が明らかにされるという仕掛けです。まずは登場人物の顔と名前を覚える事ですね。度肝を抜かれますから。そして雰囲気に慣れる事ですね。そこまできて、ようやく設定に深い所に潜っていけると思います。周を重ねていくうちに、気が付けば作品に取り込まれてしまうかも知れません。むしろそれこそがこの作品の目的かも知れません。是非、あなたもマグロ漬けになってみては如何でしょうか。今日はマグロを食べます。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<最後の最後でニンサンバケシチになる事から逃げる事が出来た真田、彼女の人生はここから始まるんですね。>

 最後までプレイして、思ったよりも壮大なシナリオでビックリしました。不老不死を目指す桃野・マグロおじさん・真田、その過程の中で歪んでしまった常識、利用されたマグロ、この作品はそんな人知を超えた物を求めた人間の愚かな姿を表現したのかも知れません。

 タイトルになっている「ニンサンバケシチ」とは、漢字で書けば「人三化七」となります。意味は、人間が三割・化物が七割のような姿をしている事、非常に見た目が醜い様、となります。歌舞伎で使われている言葉であり、私も今回の作品で初めて知りました。そして、意味を知って何となくこの作品の言わんとしている事と合致しているなと思いました。始めは、マグロ人間の姿を意味しているのかと思いました。ですが、最後までプレイしてそれが見た目の問題ではなく内面の問題だという事が分かりました。常識では考えられない発想や行動、その振る舞いそのものがニンサンバケシチでした。

 不老不死を目指す、この事そのものはとても尊い思想だと思います。ある意味人類の夢ですからね。誰もが一度は憧れたのではないでしょうか。ですが、その不老不死を目指すために桃野・マグロおじさんは人間を犠牲にする事を良しとしました。不老不死になるような人間は選ばれた一部の優れた人間でなければいけない、そんな身勝手な理論を振りかざしたのです。彼らの自分勝手な思想の為に、沢山の学生が犠牲となりました。オカルトとして流れていた噂の正体は、桃野・マグロおじさんの研究の果ての姿だったのです。

 ですが、そんな桃野・マグロおじさんの姿は見た目も非常に醜い物でした。どれだけ不老不死を実現できたとしても、その先に待っているのは恐らく見た目に対する耐えがたいコンプレックスでしょう。それこそ、桃野は本当に立ち絵の様な禿のマネキンま姿なのかも知れませんね。マグロおじさんはその言葉通りの見た目でした。そんな歪な存在になってしまった桃野・マグロおじさん、もはや戻る事は出来ませんでした。加えて、彼らには潔く死ぬ事すらも許されないのです。作中でも、不老不死を目指して長生きしてしまった自分達は死ぬときもゆっくりと死んでいくと言っておりました。生きるも地獄で死ぬのも地獄、もはや頼るのは能崎が考え出した4つ目の理論くらいしかありませんでした。

 ですが、能崎はしっかりと「不老不死は遠慮します」と真田に伝えました。そしてこんな研究は闇に葬ろうと決意しました。そうなってしまえば、桃野もマグロおじさんも死ぬしかないですね。この不老不死の研究に関わった全ての人を巻き込んで死のうとしました。本当、最後まで身勝手でワガママだと思いました。身も心もニンサンバケシチになってしまっては、もうどうしようもありませんね。最後桃野・マグロおじさんを地下に残して、真田と能崎は生還しました。そしてこの事件を切っ掛けに水産学部は廃部となりました。ある意味夢の様な時間、水産学部そのものがオカルトの様な存在だったように思えてなりません。

 最期、中途半端な生をまとってしまった真田は能崎に「終わりの日まで付き合ってくれる?」とお願いしました。それは、自分はもう普通の人間生活に戻れないという事、それでも誰かに見届けて欲しいと願っている事、そんな気持ちの表れだと思っております。真田もまた、一人で逃げてそれでもけじめを付けなければいけないという葛藤を抱えていたのですね。水産学部を卒業しても水産学部を離れる訳にはいかない、そんな心の中が見えるようです。真田が幸せになるのかは分かりません。それでも能崎という理解者が傍にいる事は間違いなく幸せな事です。これからの彼女たちの人生が楽しみですね。ありがとうございました。


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