M.M 旭日ニ戀露ス弐 春日ト日進
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 7 | 8 | 79 | 6〜7 | 2018/12/8 |
作品ページ(なし) | サークルページ |
<前作と比べ格段に進化したシステム周り、そしてより人間味を感じるキャラクターと共に日露戦争の歴史をなぞりましょう。>
この「旭日ニ戀露ス弐 春日ト日進」という作品は同人サークルである「startrip」で制作されたビジュアルノベルです。タイトルから想像された通り、この作品は前作である「旭日ニ戀露ス」の続編です(旭日ニ戀露スのレビューはこちらからどうぞ)。日露戦争という激動の時代を生きた男女の物語を描いた「旭日ニ戀露ス」、それを別の視点から表現しているのがこの「旭日ニ戀露ス弐 春日ト日進」です。主人公も攻略対象の人物も全く新しく変わっておりますが、歴史的背景はそのままでありまた軍人として看護婦としての矜持もまたそのままの熱量がある作品です。
物語のプロットも前作「旭日ニ戀露ス」と非常に似ております。主人公である平野ちさ(変更可)はとても快活な性格の看護婦です。ある日、ちさの元に一通の封筒が届きます。それは、従軍看護婦としての出頭命令でした。戦争なんて自分には縁のない存在だと思ってちさにとって青天の霹靂。それでも、密かに「外に出たかった」という願望を持っていたちさにとってこれは決して悪い知らせではありませんでした。期待と不安、様々な気持ちを抱えて長崎県佐世保市へと向かったのです。そこで出会ったのは3人の軍人でした。立場も性格も全く違い彼らとの出会いが、ちさの人生と日露戦争の歴史を作っていくのです。
基本的な雰囲気や世界観については、上でも書きましたが前作とほとんど同じです。その為ここでは前作と今作の大きな違いについて書かせて頂こうと思います。前作に登場した主人公や攻略対象ですが、私の目線では皆それなりにしっかりした人格や考え方を持っている人ばかりでした。言ってしまえば「優秀」な人材だったのです。その為、物語としては非常に美しいと思いましたが、完全に「実際の史実をモチーフにしたフィクション」だなと思いました。ですが、今作の主人公と攻略対象は前作と比べ明らかに「優秀」な人材とは言えません。ちさはよくミスをしますし、攻略対象もまだ候補生だったり、どことなく覇気を感じなかったり、彼らが日露戦争の勝利の立役者になれるのかと言われると首を傾げます。ですが、逆に人間味があり物語としてはこちらの方が先が読めず楽しそうと思いました。まさに前作の別の角度の物語と呼べると思います。
次に「旭日ニ戀露ス」で特徴的だったクイズですが、勿論継承しております。ですが前作と比べ、ジャンルや歴史の取り扱いの幅が大変広がっております。教科書的な問題だけではなく、娯楽など大衆的な分野も増えており素直に勉強になりました。そしてこれが一番の特徴ですが、主人公と攻略対象との会話の流れの中でクイズが出題されるのです。問題→回答→答えという明確な区分ではなく、1つのテーマについて雑談しながらその中でクイズが提示され解いていきます。ここにも物語性があり読んでいてとても自然でした。後はクイズ中(作中では小休止の時間)はセーブ&ロードが出来ません。一度クイズが始まったら5問全て解き終わるまで途中退席は出来ないのです。ここにも、前作にはないこだわりを感じました。
そして個人的に一番嬉しかったのはシステム周りの改善です。前作については、バックログが無い、キーボード操作を受け付けない、既読スキップが無い、非アクティブでは動作が止まる、Windows10では定期的にアプリが停止するといった不具合がありました(後日、パッチを当てる事で幾つか改善する事を伺っております)。ですが今作ではバックログ、非アクティブでも止まらない、アプリの停止は起きません。まずはこれだけで読み飛ばしたテキストを見返す事が出来ます。加えて、今作では選択肢を選んだあとに好感度の変化があったらそれがアイコンとして見えるようになりました。前作では選択肢を選んだあとに好感度を確認する作業が必要でしたが、それが無くなったのも嬉しかったですね。非常にストレスなくプレイ出来ました。
プレイ時間は私で6時間20分程度でした。3人の攻略対象でそれぞれ2時間といった感じです。このボリューム感も前作と同じですね。併せて、選択肢の多さに対してセーブスロットの数がやや足りない印象ですので特徴的な選択肢の場面でセーブするような工夫が必要かも知れません。それでも、上でも書きましたが好感度に変化があるとアイコンが出ますので確実に好感度管理は楽です。章立てされておりますので、自分の区切りの良いタイミングで休憩を取りながら読むのが良いと思います。前作と比べより人間味のあるキャラクターによるもう一つの日露戦争の姿、是非楽しんで頂ければと思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<自分の気持ちが受け入れられないかも知れなくても、それでも曝け出せる人の方がカッコよいと思いました。>
華々しい成果を上げたとして知られている戦艦三笠や第一艦隊の裏で、確かな存在としてあり続けた春日と日進の姿を見る事が出来ました。どの船に乗っていても、どんな役割が与えらえたとしても、誰もが日本という国に対する誇りを持っておりました。そんな素敵な空気感を、今回も楽しませて頂きました。
ネタバレ無しでも書きましたが、率直に岡田や高野に対しては「頼りなさそう」って思ってしまいました。前作では3人とも気質は違えど全員自信を持っており、絶対的な安心感を持っておりました。だからこそ、琴も彼らの事を信頼し慕ったのだと思っております。ですが、今作はある意味真逆の構成でした。どちらかと言えば、ちせの方が持ち前のテンションで彼らを引っ張っていった感じでした。そして、気が付けばお互いが無くてはならない存在になっている。そんな恋愛シミュレーション的な展開が印象に残りました。
個人的には特に岡田中佐の事が好きです。クールに構えていてその実はちゃんと実力があり、まさに「能ある鷹は爪を隠す」を体現しているかのような存在でした。ですが、その心の奥底にはある意味無常とも言える悟りの境地を持っておりました。人は所詮1人、もともと浮世に未練はない、愛も温もりも必要ない、そんな岡田中佐だからこそ自分だけの世界観・何となく近寄りがたい雰囲気を作れたのだと思います。もちろん、日本国としては有能であり忠誠を誓っていれば個人が何を考えていても良いのかも知れません。岡田中佐など、まさにその典型です。それでも、ちさそんな岡田中佐の事を放っておけませんでした。彼女の明るさが、テンションが、易々と岡田中佐の心を突いてきたのです。
ちさとの出会いが、岡田中佐の気持ちにも変化をもたらします。岡田中佐は、自分は愛や温もりなど要らないと思っておりました。ですが、それはどうやら本心ではなかったみたいです。本当は、誰かに自分の気持ちをぶつけて求める答えが返ってこない事を恐れていただけでした。最後、バルチック艦隊の到着予測をした岡田中佐は「私は臆病者の気持ちが良く分かる」と言っておりました。この時点で、自分が臆病者であり心からちさの事が好きだという事を自覚していたんですね。結局岡田中佐は最後の最後まで素直になる事が出来ませんでした。それでも、ちさの「はっきり言って。」の一言が最後の心の壁を壊してくれました。
私も良く分かります。自分の正直な気持ちを曝け出して、もしそれが世の中から拒絶されたらどうしようと。もし自分の気持ちが社会から否定されたら、自分なんか生きる意味なんて無いんじゃないかって思ってしまいます。それだったら、本心は隠してそれとなく周りに合わせて重大な決断は適当な理由を付けて先送りすればいい。そう考えても何も不思議ではありません。だからこそ、そんな自分の剥き出しで生身の部分を受け入れてくれる人がいたら、もう好きになるしかないですね!イケメンで自信がある姿だけがカッコよいのではありません。自分の気持ちが受け入れられないかも知れないと思いながらも、それを曝け出せる勇気を持っている人の方がカッコよいと思います。もう、岡田中佐はちさから離れられませんね。ゾッコンってやつです。最も、それはちさも同じでしょうけどね。死がふたりを分かつまで、末永く幸せであって欲しいと思いました。ありがとうございました。