M.M 旭日ニ戀露ス




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 8 73 6〜7 2018/12/3
作品ページ サークルページ
(作品ページと同じ)



<日露戦争という歴史の転換点を学び、国と大切な人の為に戦う彼らの姿を感じてみて下さい。>

 この「旭日ニ戀露ス(読み方はきょくじつにこころあらわす)」という作品は同人サークルである「startrip」で制作されたビジュアルノベルです。startripさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けは、デジゲー博2018というイベントに参加した事でした。デジゲー博は秋葉原で開催されている同人・インディーズゲームオンリーの即売会です。全部で100以上のサークルさんが参加しております。ですがノベルゲームのサークルさんの数は割合的に少なく、今回は10サークル程度だった気がします。逆にその分全てのサークルさんをじっくり見る事が出来、密度の濃いイベントでした。今回レビューしている「旭日ニ戀露ス」もまた、そんなデジゲー博の中で見かけた作品です。明治時代、とりわけ日露戦争に焦点を当てた作品という事で、その歴史的背景を学ぶ意味も込めてプレイしてみました。

 時は明治時代中期という事で、日清戦争が終わった直後の激動の時代でした。主人公である板垣琴(名称は変更可)は一介の看護婦です。そんな琴に元に一通の手紙が届きます。それは召集令状、いわゆる赤紙と呼んでいるものです。どうして自分の元に赤紙が届くのが、そんな疑問と共に琴は召集令状に書かれた場所である佐世保へと単身向かいます。そこで久しぶりに再会した恩師である高木先生、そして慣れない町で出会ったのは3人の将来有望な若者でした。若きエリートである秋山真之、ロシア帰りの血気盛んな広瀬武夫、日清戦争での実績もある佐藤鉄太郎、彼らとの出会いが琴の人生を大きく変えて行くのです。日露戦争へと向かっていく日本の一場面を切り取った、国と大切な人の為に生きる物語が幕を開けます。

 この作品の特徴は、とにかく日露戦争というものを丁寧に表現している点です。登場人物には、東郷平八郎など実在の人物も登場しております。そして、実際にバルチック艦隊などの戦いを場面として描いております。その描写や歴史的背景は史実であり、歴史に矛盾する事無く物語を描いております。また、描いているのは史実だけではありません。明治時代中期という時代の文化や産業もリアリティがあり、何よりも登場人物の日本に対する忠誠心と軍人としての正義感に心を打たれました。誰もが国の事を思い仲間の事を思っている、この作品には唯の恋愛アドベンチャーでは終わらない魅力が沢山詰まっております。基本的には、選択肢を選ぶ中で攻略対象の好感度を上げていく事が目的です。ですが、それ以上に彼らは何故国のために戦うのか、そして主人公もまたどうして彼らと共に船に乗るのか、そういった部分を是非登場人物の気持ちと共に感じながら物語を読み進めていって欲しいです。

 その他の特徴として、明治時代という歴史を学べる仕掛けが施されている点があります。この作品は、章が終わる直前に小休止と称して明治時代の歴史や文化、経済や学問などを問題形式で学ぶ事が出来ます。その問題の数は非常に多く、全部で100以上もあります。ジャンルも上で書きました通り多岐に渡っており、もうこのまま歴史の授業に取り入れて良いのではないかと思う程です。勿論、ちゃんと問題に正解する事がハッピーエンドへ向かうカギとなっております。間違った方は、是非復習して正しい答えを見つけていきましょう。私自身日本史は中学以降ちゃんと学んできませんでしたので、分からない部分が多く結構苦戦しました。おかげ様で、少しだけ詳しくなれた気がします。

 注意点としてシステム周りがあります。この作品は元々スマートフォンでのプレイを想定しているのか、画面は縦長です。ですがそれだけではなく、キーボード操作を一切受け付けずマウスの左クリックのみで操作する事になります。ホイールでの進行やエンターキーは使えないという事です。また、ノベルゲームにおいて個人的に必須だと思っているバックログ、既読スキップがありません。その為読み飛ばした文章を再度読むにはどこかでセーブしてそこからやり直すしかなく、またうっかり未読の文章をスキップしてしまう事もあるかも知れませんのでその時の同様です。加えてUnityですので、非アクティブでは動作が完全にストップしてしまいます。その為スキップしながら別の作業が出来ません。この作品は選択肢が非常に多いので、繰り返しプレイを大変に思うかも知れません。後は、私だけかも知れませんがWindows10では20分位の間隔で動作が停止してしまいます。何度も再起動する事になりましたので、念のため小まめにセーブする事をオススメします。

 プレイ時間は私で6時間10分程度でした。3人の攻略対象でそれぞれ2時間といった感じです。この作品は章立てされておりますので、休憩を取るにはこのタイミングが調度良いです。またセーブスロットは30あるのですが、全ての選択肢をセーブしていくと絶対足りなくなりますので、完全クリアを目指したければ選択肢を選びその後好感度を確認して正解の選択肢を選び続けるのが良いと思います。難易度はそれ程高くはありません。繰り返しプレイすれば誰でもハッピーエンドにたどり着けると思います。大変なのはシステム周りですね。スマートフォンでのプレイでしたら、もう少し快適なのかも知れません。私のようにメモを取りながらプレイする訳でなければ、もしかしたらスマートフォンの方が良いかも知れませんね。何れにしても、日露戦争という歴史上の出来事をリアルタイムで感じる事が出来ます。日本人として、必ず押さえるべき歴史の転換点を是非学んでください。非常に勉強になりました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<気が付けば傍にいるのが当たり前になっている。そのタイミングを掴んだからこそ、彼らは添い遂げられたんですね。>

 素直にキャラクターに感情移入出来ました。それぞれがそれぞれの立場で日本の為に戦う、そして大切な人の為に生き残ると誓う、そこには何も邪な気持ちなどありませんでした。自分が進むべき道の途中で、たまたま傍にいた人がたまたま大切な人になったのだと思いました。

 私は日本史に疎いので、実際に日露戦争で戦っている戦艦の中に看護婦がどのくらい同乗していたのかは分かりません。ですが、終わりの見えない期間、緊張感を強いられる場面、そして何よりもロシアという大国と戦うという恐怖の中で、琴のような真っ直ぐで可愛い看護婦が乗船していたら、それだけで十分に大きな力になるだろうと思いました。実際、佐藤ルートで琴は三笠から一時的に朝日に移動しました。そしてその後再び三笠に帰るとなった時、多くの船員からその別れを惜しまれました。その気持ち、よーーく分かりますね。ただ傍にいてくれるだけでいい、そういう人って必ずいると思います。

 そして、秋山・広瀬・佐藤の3人は一般の船員よりも大きな責任と期待を背負っておりました。3人とも若くして頭角を現し、その実力を多くの方に買われております。部下には頼りにされ、上官には信頼される、だからこそ必ずやこの戦いで勝たなければならない。その重みは中々想像する事は難しいですね。そんな重責を背負わされているからこそ、中々弱音も吐き出せないのは想像できます。悩んでも、何とか一定の解決策を自分の中で見出さなければいけない。そのプレッシャーも相当大きかったのだろうと思います。そんな3人が唯一何でも話せる相手、それが船に同乗しておりながら唯一軍人でない存在、琴だったのだと思います。

 別に、初めから3人は琴と一緒にいたいと思っていた訳ではありませんでした。あくまで、自分達と同じく日本の為に共に戦う同士としての認識でした。それは第二章の最後で秋山が琴にしっかりと確認しております。船に乗る以上男も女も関係ない、等しく日本の為に共に戦う志を持っている人のみが乗船できる。その心意気を琴から感じたから、3人は琴を認め共に時間を過ごしました。そして徐々に変化していく戦況、死んでいく部下や上官、そんな中でも変わらず傍にいたのが琴でした。いつの間にか、琴が傍にいるのが当たり前になっていたんですね。人が人を好きになる瞬間って、本当にタイミングなんだと思っております。どこかのタイミングで、自分に好きか嫌いかと問いかけられる瞬間が、きっと分かれ目なんだと思っております。秋山・広瀬・佐藤の3人も、琴もその瞬間をしっかりと掴んでくれました。

 物語最後、日露戦争が終わって琴が自分の未来を選ぶ選択肢が必ずありました。私、正直この選択肢についてはどちらを選んでもエンディングの重みに差があって欲しくなかったと思っております。ですがこの作品はラブストーリーです。大切な人と添い遂げる事がハッピーエンドです。ですが、大切な人が自分を認めてくれたからこそ、そんな自分の誇らしいところを守っていきたい。これもまた、一つの愛の形だと思いました。何れにしても、日露戦争という激動の戦いを乗り切り、やっと一息つく事が出来ました。後は、大切な人・失いたくない人と共に過ごせればそれだけで幸せですね。日本の為に戦う姿、愛する人の為に戦う姿、そのどれもが印象に残りました。ありがとうございました。


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