M.M 日曜日の八百屋




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 6 7 80 8〜10 2012/8/17
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<霊能バトルものでありながら日常感を重視した穏やかな作品>

 この「日曜日の八百屋」という作品は同人サークルである「十三妹(読み方はシーサンメイ)」で制作されたサウンドノベルです。C78から少しずつシナリオを追加しながら発表されており、コミティア99で完成版が発表されました。私が初めて触れたのはC82の時であり、いつものように島サークルを巡回しているときに偶然目についたのが切っ掛けでした。カラフルな登場人物が集合したパッケージはそれだけで明るい雰囲気を感じましたし、タイトルもどことなく個性的な感じがしましたのでプレイしてみたいと思いました。感想ですが、個性的なキャラクターが織りなす日常の会話がとても楽しい異能バトルものでした。

 この作品の最大の魅力は間違いなく主人公である日野悠子のパーソナリティだと思っています。OHPを見ればわかりますがこの主人公はいわゆる貧乏浪人生でして、作中でその貧乏性っぷりを如何なく発揮してくれます。それでいて素直でサバサバな性格ですので思い切りが良く、他の登場人物をどんどん巻き込んでいきます。この貧乏性という性格と思い切りの良さのマッチングが非常に爽快でして、異能バトルものという非日常的なシナリオの中でも決して日常感を失う事が無く終始軽い雰囲気で楽しむ事が出来ました。

 この作品はとにかく日常感をどのように出すのかを重視している感じがしました。上でも書きました主人公のパーソナリティも日常感を出すために一役買っているのですが、それ以外にもシナリオ展開に関係ないようなどうでもよい会話が非常に多いんです。特に今回は主人公が貧乏性ですので予備校の帰りにタイムセールに間に合わないとか、朝食のメニューで玉ねぎしかないとかそんな会話が永遠と繰り広げられています。それ以外でも「サブシナリオ」という形で本編とは別に日常の様子を切り取ったエピソードが多くありました。この作品を語るうえでこの日常感を無視することは出来ず、穏やかな雰囲気を堪能してこそシナリオを楽しむ事が出来るのかなという感じでした。

 後は途中途中で場面の切り替わりがハッキリわかるのが嬉しいですね。OHPでも書いてますが、この作品はシナリオを進めるとタイトル画面が変化する仕様になっています。そしてそのタイトル画面が変化するタイミングがとてもハッキリしており、シナリオも調度区切りのよいタイミングになっています。そういう意味で一気にプレイしても構わないかもしれませんが、タイトル画面が変化するタイミングで休憩をはさみ、日常の様子をマッタリと堪能しながら進めるのも味があって良いかも知れません。ちなみにタイトル画面が変わるタイミングはシナリオにもよりますが30分〜1時間30分といったところです。そういう意味で私も平日の仕事のある日に自宅に帰ってきてからタイトル画面が変わるまでプレイして1日ずつ進めていきました。忙しい人にはちょうど良い構成だと思いました。

 ちなみにタイトル画面が変わるまでのシナリオの構成も良く考えております。上でも書いたタイトル画面が変化するまでのシナリオの中で日常のシーン、バトルのシーン、エロのシーンと絶妙に織り交ぜておりましてそれだけでサウンドノベルとしての面白さを一通り堪能する事が出来ます。そういう意味でタイトル画面が変わるタイミングでの後味が非常によく、スッキリと気持ちを切り替えてゲームを一時中断できます。この辺りのシナリオ構成も忙しい人向けだと思いました。

 という訳でとても個性的な内容でしたがシナリオ構成や登場人物について良く考えられている作品だと思いました。とにかく場面転換までの流れが良くまとまっており、忙しい人には非常にやり易い作品だと思いました。いわゆる大作というものではありませんが、何か軽い気持ちで気軽にサウンドノベルをプレイしたいという方におススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<何気ない日常の積み重ねが信頼関係を作るんですね。>

 いや〜最後までマッタリとプレイさせて頂きました。主人公を始めとした個性的なキャラクターのオンパレードでありながらマッタリした日常の会話、得てして背後要因を把握し難い傾向にある異能バトルものでありながら分かり易いシナリオ展開、そして最後のいささぎとの別れのシーン、それらが絶妙に組み合わさって1つの作品として良くまとまっていると思いました。

 ネタバレなしでも書きましたがやっぱりこの作品の魅力は主人公のパーソナリティとマッタリとした日常感ですね。曜日を重ねていくごとにキャラクターが追加されていきましたがそんな新キャラたちに翻弄されることもなく逆に主人公に巻き込まれて展開される日常感でしたからね。あとあの軸のブレない徹底した貧乏性は実際のところ高校を卒業したばかりの女の子とは思えませんね。完全な専業主婦の様な性格のギャップも魅力の一因だと思っています。

 そんなマッタリした日常を演出する上でメインになるのはやっぱり悠子といささぎの会話ですね。悠子の徹底した性格といささぎの適当なノリの間で繰り広げられるバカな会話、これが始まらないと日常感のスタートが切れないと思うのですよ。悠子の悠子でいささぎの傍若無人っぷりにイライラさせながらも何だかんだで付き合ってますし、いつの間にかそんな様子も日常として組み込まれていましたからね。そしてそんな悠子といささぎの中にあずさや顕も加わって、ますます日常感が増していくわけですね。

 だからこそたまにガチな霊能バトルシーンが入ると気が引き締まるんですね。この作品の登場人物、基本的に個性的で適当なのですが霊能バトルでは全員で協力して解決に努めるんです。この辺りのコンビネーションは見事ですね。完全にお互いの性格を熟知してお互いを信頼したバトルでしたからね。思い違いとか裏切りとか一切ありません。ひょっとしたら日常的な部分でお互い関わる時間が多いからこそ得られた信頼関係から来るのかも知れません。

 そしてそんな日々の信頼関係の積み重ねがあったんだな〜と感じたのは、やっぱり最後の悠子といささぎとの別れのシーンでしたね。普段あれだけ小言を言っていささぎを厄介者みたいに扱ってたのに、イザいなくなってみると途端に寂しくなるんですからね。それでいて最後のバトルで再登場した時に悠子の喜びっぷりも一入でした。そしてその後に待っている50年の分かれ、確かに別れは寂しいですがこの2人ならきっと気長に再開できることを待ってるんでしょうね。それでいてきっと再開したら喜びを分かち合うのは一瞬で、直ぐにあの五月蠅い小言を言い合う日常に戻るんでしょうね。

 という訳で何気ない日常の大切さを感じる事が出来る作品でした。個性的な登場人物も最終的には全員自分の気持ちにけじめをつける事が出来ましたし、後味の良いシナリオでした。プレイ時間も手頃でしたので忙しい人に是非プレイしてほしい作品だと思いました。楽しかったです。


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