M.M 図書室のネヴァジスタ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 10 9 94 35〜40 2018/12/26
作品ページ サークルページ



<圧倒的なボリュームと人物描写、そしてBGMを始めとした雰囲気に、出し惜しみする事無くのめりこんでみて下さい。>

 この「図書室のネヴァジスタ」という作品は同人サークルである「TARHS Entertainment」で制作されたビジュアルノベルです。私にとって、この「図書室のネヴァジスタ」という作品は特別な意味を持つ作品でした。自分の事になりますが、私は去るC94に向けて「ビジュアルノベルをレビューするビジュアルノベル(以下ビジュアルレビュー)」という作品を制作しました(ふりーむ!様でのダウンロードページはこちらからどうぞ)。そして、ビジュアルレビューをC94で頒布するにあたりちょっとした遊びを加えました。それは、頒布する全てのパッケージに番号を付けて、後ほど発表した番号と同じものを持っている方が指定したタイトルをプレイするというものです。正直、名乗り出る方が居なくても構わないくらいに思っていました。ですがその後C94が終わってから3日目経過し、当選された方から返信を頂く事が出来ました。そして、その方が指定された作品が「図書室のネヴァジスタ」であったという事です。

 私自身、「図書室のネヴァジスタ」という作品は知っておりました。同人ビジュアルノベルという世界に関わってきて数年の月日が経過しておりますが、その中で知り合った方々から必ずと言って良い程この作品の話題が出てくるのです。そして、その誰もが「図書室のネヴァジスタ」について熱く熱く語られておりました。ある方はキャラクターについて、ある方はカップリングについて、ある方はシナリオ展開について、話せば話すほど深く深く潜っていきます。それだけ印象的な作品であり、心に残るものなんだろうなと朧気ながら思っておりました。Twitter上でもフォロワーの多くの方のプロフィールに「ネヴァ」の文字がありますからね。女性向けの同人ビジュアルノベルとして一二を争うくらい人気のある当作品を、いよいよプレイする事が出来る喜びを同時に感じておりました。そしてこれ程の作品であれば、私が2018年の最後にプレイするタイトルとして調度良いとも思いました。

 2018年ですが、10本に1本の割合で必ず「自分にとって特別なタイトル」を交えてプレイしてきました(Twitterでの告知はこちらからどうぞ)。特別とは、知り合いからのオススメ作品であったり、時々突発的に行う企画の中で指定があった作品であったりと様々な理由があります。その中でも、上で書いた「ビジュアルレビュー」の中で行った企画の当選作品ともなれば、特別の重みは一入でした。必ずどこか象徴的なタイミングでプレイしようと思っておりました。私にとって2018年を振り返る中で一番の出来事は「ビジュアルレビューの作成とコミケへの参加」です。そんな2018年の締めくくりの作品としての「図書室のネヴァジスタ」、そんな重みも加えて「いざ!」という気持ちでプレイし始めました。大分余計な前置きが長くなってしまいましたが、改めてここから「図書室のネヴァジスタ」のレビューを書いていこうと思います。

 「図書室のネヴァジスタ」は女性向けの同人ビジュアルノベルです。ジャンルはサスペンスであり、ネヴァジスタと呼ばれる謎の本を巡る事件に、様々な人物の思惑や気持ちが絡み合う作品です。とある山の上に存在する名門男子校・光智学院高校。そこには、人知れず語られる七不思議がありました。天使の片腕が机の上に置かれるとその人は死んでしまう、真夜中に覗くと鏡の中の自分に話しかけられ答えると吸い込まれて偽物と入れ替わってしまう・・・そんなどこにでもある七不思議ですが、それを裏付ける様な不穏な噂も蔓延っておりました。そして、図書室にあると言われるネヴァジスタと呼ばれる本もそんな七不思議の1つです。この本に登場する人物は全て同じ名前です。ですが、その中に必ず1人、読み手と全く同じ境遇を歩む人物がいるのです。そして、物語に引き摺られた人は、そっと居なくなってしまうのです。今回、このネヴァジスタに呼び寄せられたのは、主人公である新任教師の槙原渉と雑誌記者である津久居賢太郎、そして幽霊棟と呼ばれる建物に住んでいる辻村煉慈・茅晃弘・久保谷瞠・白峰春人・和泉咲の5人の学生でした。彼ら登場人物に共通するのは、呪われた少年と言われている行方不明の御影清史郎。全ての真実が明らかになり、ネヴァジスタの中身が語られた先に待っているのは、誰もが目を背けたくなる答えだったのです。

 ネヴァジスタの魅力を、一言で言い表すのは大変難しいです。何故なら、一言でなどとても語る事が出来ないからです。主人公と5人の学生を中心とした個性豊かな登場人物の描写、歴史ある学園を印象付ける沢山の背景、物語を盛り上げるBGMとボーカル曲、そして効果音を始めとした細部に渡る雰囲気作り、そのどれもがネヴァジスタと呼ばれる物を表現しております。この作品の特徴として、プレイ時間が大変長い事が挙げられます。そして、その多くが登場人物達の会話と心理描写に費やされております。ですが、その中で少しずつ明らかにされていく真実と登場人物達の心の内をバラしていく過程が大変面白く、ずっと釘付けになってプレイしてしまいました。気が付いたら抜け出せなくなってしまっているんですね。1つのエンディングにたどり着いてもまだまだ謎は解明されていない、むしろ謎が明らかになる事で新たな謎が生まれてしまう、そんな終わりの見えない展開にワクワクが止まりませんでした。こんな濃密なシナリオとプロットであるのなら、いつまでも終わらないで浸りたいとすら思いました。

 私が特に印象に残ったのはBGMとボーカル曲でした。この作品は、一部を除きフリー楽曲を使用しております。勿論フリー楽曲だからといって劣るという事は一切ありません。選ばれた楽曲には統一感があり基本ピアノを中心としております。名門校らしい雰囲気だと思いました。そして、そんなBGMの中に自然と混じって突然流れる幾つかのボーカル曲。力強い女性ボーカルが大変印象的で場面を盛り上げてくれました。凄いと思ったのは、出し惜しみをしない事ですね。序盤でも中盤でも関係なく、ここぞという場面で惜しみなくボーカル曲を入れ込んできます。初めてボーカル曲を聴いた時に「え!?こんな曲こんな序盤で使っていいの!?」とすら思いましたからね。思えば、この出し惜しみの無さが私をネヴァジスタの世界へ引き摺りこんでくれたのかも知れません。またボーカル曲は勿論BGMもお気に入りの曲が多く、特定の曲では暫く放置してずっと聞きこんでました。個人的には、「eden」というBGMが一番のお気に入りでした。あのじわじわと盛り上がってくるベースラインとバスドラムが癖になります。ボーカル曲は、ほぼ全部と言っておきます。

 そして、やはり登場人物のキャラクターには触れざるを得ません。この作品は主人公と5人の学生というメインキャラクター全員が男性です。10代後半の学生5人を中心に、主人公の2人もまだ20代と若く、剥き出しの感情がぶつかり合う事は避けられません。そして、5人の学生と主人公2人はみんな外見も中身も個性的で、必ずやプレイヤーの皆さんにとってもどこか引っかかる存在になると思っております。女性向け作品という事でBLに近いものがあると思いましたが、この作品はサスペンスであり恋愛アドベンチャーではありません。純粋に、男性の登場人物達のぶつかり合いを見届けて下さい。個人的には、「辻村煉慈」という登場人物が一番のお気に入りかも知れません。あくまで個人的にですからね。

 プレイ時間は私で37時間10分掛かりました。この作品は選択肢の数も大変多く、またエンディングの数も20以上用意されております。ちゃんと考えて選択していかないといわゆるトゥルーエンドにはたどり着けないと思います。ですが、タイトル画面でエンディングリストを確認する事が出来ますので取りこぼしを見つけるのは容易いと思います。セーブフォルダも100個用意されておりますので、惜しみなく活用してください。また、途中で章が変わる場面が明確に分かりますので一息つくタイミングも分かり易いです。とにかく長いですので、地道に状況を整理しながら少しずつ進んでいくのが良いと思います。そして、エンディングを迎えるたびに頭の中で状況を整理して次へ進んで下さい。この作品、特定のキャラクタールートという形をとっておきながら結果としてネヴァジスタ全体の謎が少しずつ明らかにされていく構成です。登場人物の皆さんを愛して、そして子供と大人の狭間の中で生きるしかなかった彼らを見守ってあげて下さい。素晴らしい作品でした。


→Game Review
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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<大人になるとは「信頼し続ける」という事。それが相手に伝わったから、安心してネヴァジスタに行く事が出来た。>


「貴方は、望んで大人になりましたか?」


 このレビューを書いている現在、私は33歳となっております。世の中的にはおじさんと呼ばれ出す年齢ですし、そろそろ人間ドックも始まろうとしている中年です。実際、33歳らしい振る舞いなんて全く分かりません。周りにいる同年代の立派な人達を見ると、ホント凄いなと常々思い時に自己嫌悪に陥る事もあります。それでも、色々と社会や仕事と折り合いを付けながら、そして自分が大切にしているものを守りながらそれなりに健やかに生きております。自分が大人か子供かどうか、そんな事は皆さん勝手に決めて下さい。少なくとも、自分にとってそんな事にあまり意味はありませんので。

 すみません、突然自分の事を書いてしまいました。ですが、この作品を通してどうしても「大人と子供」という事を考えなければいけないと思ってしまいました。図書室のネヴァジスタEDの最後に私達プレイヤーに向けられた冒頭の問い、これに向き合い少しでも思うところを持つ事がこの作品をプレイする事の意義だと思っております。望んで大人になった人って、どの位いるのでしょうね。私なんて気が付いたら大人と呼ばれる年齢になってましたからね。そもそも、自分の事を「大人になった!」と自信を持って宣言出来る方もどの位いるのでしょうね。きっと、人生の中で一生答えなど出ない事柄なのかも知れません。むしろ、答えなど出なくても良いので、頭の中で考え続けながら日々の生活を送る事が大切なのかなと思っております。

 ですが、この作品に登場した人物達は、皆そんな余裕をもって大人を目指す事が出来ない人達ばかりでした。槙原渉も、津久居賢太郎も、辻村煉慈・茅晃弘・久保谷瞠・白峰春人・和泉咲も、勿論御影清史郎も、みんなどうしようもない理由で大人にならざるを得なかったんだなと、改めて振り返って思っております。優秀な教師でありたいという想いが先行し古川鉄平を犯罪者にしてしまった槙原渉、社会の為にという気持ちを持ちながら自分の記事によって人の人生を振り回してしまった津久居賢太郎、彼らも26歳という大人と呼ばれる年齢ですが、生き急いで無理やり大人を振る舞っているだけの、まだまだ子供でありたかった人達なのかなと思っております。それでも、ネヴァジスタの事件を通して学生たちと触れ合い、その中で自分が大切にしたいものを見出していきました。その過程が、人を本当の意味で大人にするのかなと思いました。

 それでも、5人の学生と御影清史郎はまだ10代後半です。別に、大人になる必要なんてなくまだまだ子供らしく振舞っても赦されます。ですが、彼らがこの作品の中で一番大人らしく振舞っていたと思いました。津久居賢太郎を監禁しながらも、ちゃんと殺さず食事を与えたりお風呂にいれたり、交代で見張りを付けたりと、私には凄く立派だなと思いました。途中愚痴を漏らしたりいざこざもあったりしましたけど、やるべき事をやって清史郎との約束を守っておりました。何よりも、彼らは幼い時から家庭環境で大きな変化を体験しておりました。弟が死んでしまったり、自分が姉と父親の間に生まれた子供だったり、孤児で誰にも相手にされなかったり、目が見えず記憶障害を抱えていたり、新しい母親に恋をしてしまったり、そんな大変な状況だったのに誰も手を差し伸べなかったから、早く大人になって一人でも生きていかなければいけませんでした。子供を無理やり大人にしなければいけない社会って、何なんでしょうね。

 そして、そんな彼らを導くべき存在としての父親や母親もまた、大人と呼ばれる年齢でありながら葛藤を抱えておりました。私は初め、ネヴァジスタは彼ら子供たちと槙原渉のお話でありそれ以外の方は直接的には関わっていないと思っておりました。ですが、それはとんでもない思い違いでした。彼らの父親の世代から、誰にも漏らす事が出来ない出来事が起きておりました。きっと、心のどこかでネヴァジスタを恐れていたんですね。辻村一のネヴァジスタに、全てが書かれているんですもの。神波誠二が神波京子と辻村一の子供だなんて、神波誠二と辻村煉慈が兄弟だなんて、誰がこんな結末を予想したでしょうか。大切な恩師である大澤誠二先生を間接的に殺してしまった彼ら、そしてそれを逆恨みした神波京子、その怨念を忠実に引き継ぎ時間を掛けて復讐を達成してきた神波誠二、みんなみんな無理しすぎなんですよ!みんな抱えすぎ!大人らしく振舞う事にいっぱいいっぱいなんですよ!本当、誰か1人でもいいから腹の内を話せる人がいたら、きっとこの悲しみの連鎖はどこかで切れていたんでしょうね。

 ですけど、そんなひどい人生でも、ちゃんと成長していくんですね。彼らの子供たちはしっかりと幽霊棟で生きてました。そして、そんな彼らを本当の意味で大人にしてくれたのが槙原渉でした。彼の行動に、この作品においての大人の定義を見出せると思います。大人とは「信頼し続けること」なのではないでしょうか。槙原渉の生き方は確かに不器用です。要領も良くなく、空回りする事ばかりです。それでも、彼は自分の中で失ってはいけないものをちゃんと持ち続けてくれました。古川鉄平の事件を切っ掛けに自分の生き方に疑問を持った槙原渉、それでも幽霊棟の5人に出会い、ネヴァジスタの事件に巻き込まれていく中で自分が目指す物は間違っていないと信じる事にしました。その想いが5人を、そして御影清史郎を救いました。立派な先生です。直に付き合うと多分色々と暑苦しく面倒くさいんでしょうね。それでも、私はこういう人の方が信頼できます。これからも、不器用ながらも真面目な先生として頑張っていくのだと思います。

 そして、そんな槙原先生に見守られていると分かったからこそ、幽霊棟の5人も安心して大人になる事が出来たのだと思います。この人だったら信頼できる、もっと言えば背中を預ける事が出来ると思いました。今までは不安定ながらも1人で立ち続けなければいけないと粋がっていました。あまりにも不安定で痛々しい感じでした。ですけど、今は槙原先生や津久居賢太郎がいます。だから、これで安心して大人になれると思いました。だから、清史郎のワインを飲めたんですね。結果として清史郎の思い込みによって死んでしまいますが、その死に顔は穏やかでした。人を信頼した表情でした。願わくば、ネヴァジスタでは周りの人を信頼しながら生きていて欲しい、そう素直に思いました。

 すみません、これ以上書いても同じことの繰り返しになりそうですのでこの辺りで締めたいと思います。ネヴァジスタを巡る一連の事件を、様々な視点を通しながら少しずつ解明していく様子はサスペンスとしてとても魅力的でした。全ての登場人物が関係し、誰もが傍観者ではない構成に脱帽でした。そして、その中で大人になる事を妥協しないプロットで書ききったテキストは、一字一句に想いが込められておりました。登場人物の個性とキャラクターも魅力的で、様々な角度から楽しめるビジュアルノベルだと思います。BGMやボーカル曲の全ても愛おしい、なる程これが噂のネヴァなんだなと分かりました。2018年と、発売から8年ほど遅れてでしたがようやくプレイする事が出来ました。面白くそして温かい作品でした。彼らの生き方を見て、自分も何か1つ大切な物を胸に込め、そして誰でも信頼できる人を見つけたいと思いました。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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