M.M 寝たきりな僕はアンドロイドの君と出会う




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 84 3〜4 2020/1/15
作品ページ サークルページ



<実際の寝たきりの方やヘルパーの方が監修している、リアルを描いた物語が幕を開けます。>

 この「寝たきりな僕はアンドロイドの君と出会う」という作品は、同人サークルである「アトリエATIC」で制作されたビジュアルノベルです。アトリエATICさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはC97にて同人ゲームサークルの島を回っていた事でした。その時アトリエATICさんに顔を出したのですが、そこには1台の分身ロボットがいました。サークルさんに話を聞いたところ、この作品は分身ロボットの先にいる方が製作された様です。分身ロボットについてはかつてNHKで特集を見た事もあり知っておりましたが、まさかC97の場面でお会い出来るとは思っても見ませんでした。そして作品のタイトルは「寝たきりな僕はアンドロイドの君と出会う」です。きっとこの作品には製作者のリアルな経験や想いが詰め込んである、そんな確信と共に手に取らせて頂きました。

 舞台は2040年の日本。その日本では13年前に大規模な震災が発生し、今なお多くの方が震災の苦労から抜け出せずにいます。ですがテクノロジーが進化した日本ですので着々と復興は進み、少しずつ日常を取り戻しております。主人公である乃潟箝杜(のがたかんと)は、寝たきり生活を送っている18歳の少年です。大震災で両親を亡くし、今は施設で生活しております。介護士であり友人であるヴァシリコ・印空・元昭(いんから・もとあきら)や、施設長である宮本温子などに支えられながら慎ましい生活を送っておりました。カントとヴァシリコは、大震災が発生した日に慰霊碑に花を手向けに行きました。その帰り道、突風で飛んでしまったひざ掛けをとある少女が拾ってくれました。彼女の名前はカナタ、何かを思ったカントはカナタに声を掛けます。この彼女との出会いから、カントの運命が変わり出すのです。

 冒頭書きましたが、この作品の主人公は寝たきりであり介護が無いと生きていけない少年です。そして、実際にこの作品は寝たきりの方やヘルパーの方が監修をしております。つまり、ここで描かれている事が真実でありリアルという事になります。物語はフィクションですが、きっとこの作品を通して実際の寝たきりの方やそれを支える介護者の実態を伝えたかったのだと思いました。併せて、寝たきりの方でも健常者と同様に自分の人生がありやりたい事があるという事も伝わりました。Twitterでも書いておりましたが、現在のテクノロジーの発達は目まぐるしく、分身ロボットを自分の意思で動かす事が出来るようになっております。そして、実際に分身ロボットを通して仕事をしている寝たきりの方も沢山います。自分の夢ややりたい事を達成する事が、かつてよりも可能になってきているのです。この作品を通して、そんな夢のある未来を感じて頂ければと思います。

 最大の特徴は、主人公を始めとした登場人物達の心理描写とリアルな生活描写にあります。基本的には主人公の一人称で物語が進みます。介護者がいないと外に出る事すら出来ないという申し訳なさや、アンドロイドを通して広がる世界に対するワクワク感が素直に伝わると思います。また日々のリハビリや淡を吸引する描写など寝たきりの方の実際の生活を表現しており、そういう事もあるんだなと学ばせられます。アンドロイドがいる近未来のフィクションですが、それ以外の部分が限りなくリアルですので非常に身近な世界に感じました。他にもBGMや背景描写はオリジナルですので独自性を感じました。特にBGMや効果音の使い方はお気に入りで、場面場面での登場人物達の気持ちが伝わりました。シナリオ以上に演出に時間を費やしていると感じました。

 プレイ時間は私で3時間20分程でした。選択肢もあり、エンディングも幾つかあります。特に終盤にかけて重要な選択肢が待っており、プレイヤーがどのように思うかによって選択は分かれると思います。是非、自分が主人公だったらどんな選択をするかを真剣に考えてみて下さい。ゲームですので選択肢にやり直しは効きますが、実際の人生ではやり直しは効きません。そう思えば簡単に選べない、そんな選択が待っているかも知れません、生きるという事、幸せという事、社会の中にいるという事、そんな事を真剣に考える切っ掛けになると思います。非常にオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人生は選択の連続であり、どの選択にも意味がある。そのくり返しが自分の人生を生きるという事なんですね。>

 物語最後、カントは自分にとって最大の選択を迫られました。今まで自由に動けなかった人生から脱出するのか、自由に動けなくても大切な人と一緒に生きるのか、どちらかを選ぶ事しかできないという事実こそが本当に切ないと思いました。正解不正解など無いんだと思います。何故なら、それがカントにとっての人生であり幸せなのですから。

 この作品は近未来の日本を舞台としておりますが、本当これだけのテクノロジーがある社会になったら沢山の人の人生が変わると思いました。ましてやアンドロイドを自分の媒体として自由に動き五感も共有できるようになったら、もう本当に人間と変わらないなと思いました。今ですら、視線の動きだけで分身ロボットを動かし自分の声を届ける事が出来ます。自分で自由に動けるという事、自分で自由に主張できるという事、ここから本当の意味で人と社会との繋がりが出来るのかなと思いました。健常者でも障害者でも、社会と繋がりたいという気持ちは同じですね。

 作品全体を通して、カントの「申し訳ない」という言葉が印象に残りました。別に、周りの人は嫌々カントの世話をしている訳ではないのです。何も後ろめたい事は無い、それでも申し訳なさを感じるのは、自分が彼らに対してtake出来ていないからだと思います。たとえ相手がそんな事気にしないと言ったとしても、どうしても気にしてしまうのが本当だと思います。誰かに何かを与えたい、社会に影響を与えたい、それが出来て初めて対等であり自分らしさが表現できるのかなと思います。それを与えてくれる存在が分身ロボットであり今作でのアンドロイドです。こんな夢の様なテクノロジー、絶対に失いたくないと思うのが本当だと思います。

 ですが、今作のアンドロイドであるカナタは普通のアンドロイドとは違っておりました。それは心を持っているという事です。茶畑教授の技術により心を手に入れたカナタ、その為これまで淡々とこなせた任務を行えなくなりました。自分らしさを失ったと思うようになり、アンドロイド失格だと思いました。その通りだと思いまいた。何故なら、この瞬間カナタはアンドロイドから人間になったのですから。心を持つという事は自分らしさがあるという事、そして自分で自分の行動を選択し決断できるという事です。そこに理屈などありません。理屈なく心のままに選ぶ事が出来る、それが人間の特権なのかなと思っております。

 そしてそんなカナタがやりたい事は「守りたい人を守る」という事でした。人を殺してきてそれが使命だと思っていたカナタですが、そんな過去を受け止めこれからは多くの人を守りたいと思うようになりました。カナタは記憶を失い本来のアンドロイドに戻りカントと出会ったと思いましたが、そんな事はありませんでしたね。自分が殺戮兵器であると自覚しつつも誰かを守る存在でありたいと願ったカナタは、最期カントという大切な存在を守る為に自分の身を犠牲にしました。こんな事、人間でも出来ませんね。カナタは人間以上に人間らしいアンドロイドだったと思っております。

 そんなカナタです。もう一人の人格を持った人間以外の何物でもありません。だからこそ、最後の選択肢は重いと思いました。この作品は自分にとって本当に大切な物を見つける事が目的です。たとえ自分が自由に動けなくても自分を支えてくれる人と一緒に生活するのか、自分で自由に動けて自分で新しい幸せを探す人生を歩むのか、真剣に悩んだからこそ周りの人もカントの決断を尊重し支えたのだと思います。こんな選択、もう認めるしかありませんね。何故なら、それがカントの人生なのですから。どんな人間にも人生はあり経験がある、そして心があるという事を改めて感じさせられました。そしてそんな人たちと関り与え与えられながら生きているのが社会だと思いました。私も、人生様々な選択が散らばっている中で決して後悔しない選択を選んでいきたいと思いました。ありがとうございました。


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