M.M 未完成の「ねがいごと」 01. サイドヒラカレルハコノ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 6 | 4 | 73 | 1〜2 | 2017/9/11 |
作品ページ | サークルページ |
<テキストに独特の言い回しがありますが、慣れる頃には必ず登場人物の事を好きになっていると思います。>
この「未完成の「ねがいごと」 01. サイドヒラカレルハコノ」は同人サークルである「しれせせ」で制作されたビジュアルノベルです。しれせせさんと初めて出会ったのはC92で同人ゲームサークルを回っている時でした。何かを訴えるような視線で手を伸ばしてくる少女の姿、そして右側ににじみ出ている不気味なモヤのようなもの、学園という日常を舞台としながら非日常へと誘ってくれる雰囲気を感じました。そしてタイトルは「未完成の「ねがいごと」」です。ねがいごとに未完成という事があるのでしょうか?何か人生観に訴えてくるシナリオを期待してプレイし始めました。
主人公であるニノ森二人はどこにでもいる普通の高校一年生です。彼には幼い頃から心の中に持っている願い事がありました。それはとてもささやかなものであり、同時に掛け替えのないものでした。ですがその願い事は未だ叶えられてはおらず、変わらぬ平凡な日常を送っております。夏休みが明けまたいつもの高校生活が始まろうとしているこの時、学校では一つの都市伝説が噂されておりました。それは「ねがいごとを叶えるかみさま」の存在です。ですがそれはあくまで都市伝説です。ニノ森は気にする事もなく、先輩であり幼馴染である六花夢見といつもの日常を過ごしておりました。しかし、火のないところには煙は立たないものです。運命に導かれるように、ニノ森のねがいごとは叶えられてしまうのです。日常から非日常へと足を踏み入れてしまった時、ニノ森の人生はどう変わっていくのでしょうか。
人間誰しも願い事を持っていると思います。それは小さい時に夢に描いた憧れの職業から始まり、年齢を重ねていく中でより現実的に具体的に変化しつつも、決して消える事なく願い事は有り続けると思います。もしかしたら、人間が人間であるという事は願い事を持っているという事なのかも知れませんね。願い事がない、そんな人生に意味はあるのでしょうか。例え壮大な夢だったとしても、持っていると持っていないとで生きる意味は変わってくると思います。そして、大人になっていくに連れて願い事を叶える事はとても難しいという事に気付きます。並大抵の努力では叶えられないのです。歯を食いしばって願い事を叶えようとする人、何となく難しいなと思って日々何気ない日常を過ごす人、願い事に対する行動も人それぞれ変わってくる事と思います。では、仮に無条件で願い事を叶えてあげるという誘いがあったらどうでしょう?誰もが怪しいと疑うと思います。では、それが人間ではなくかみさまからの誘いだったらどうでしょう?是非自分の事と捉えて読み進めて欲しいですね。
最大の魅力は登場人物のパーソナリティです。主人公であるニノ森二人は傍から見たら唯のやる気のない男子学生に見えます。それこそ最近のラノベにありがちなダルイ系の主人公のようです。ですが、彼には光る特徴がありました。それは困っている人をどうしても見過ごせないという事です。そして、そんな二ノ森の目に留まったのが今作のメインヒロインでありパッケージの表紙を飾っている一ノ瀬コトミです。彼女もまた願い事を持っておりました。そしてそれは思わぬ形で叶えられてしまいます。思春期の男女がそれぞれ自分の持っている願い事に振り回される様子は、彼らの人間味に溢れた姿を曝け出させ目を離す事が出来ません。運命に翻弄されつつもそれに抗う姿を見届けて欲しいですね。
またこの作品はテキストに大きな特徴があります。言ってしまえば、主人公の内面の語りが非常に多いのです。殆どの場面で主人公の内面の語りが入っており、思春期特有の物の考えや妄想が嫌でも見えてしまいます。その為テキストに対してシナリオの進行は思ったより遅く、人によってはイライラするかも知れません。特に序盤はまだこの作品のテキストや雰囲気に慣れておりませんので尚更です。このテンポ感の悪さが、果たしてこの先の伏線になっているのか、それともサークルさんの特徴なのかは今のところ分かりません。なにはともあれ慣れる事です。慣れた頃にちょうど物語がいい具合に動き出している頃だと思います。
プレイ時間は私で約1時間30分程度掛かりました。選択肢はありません。この作品は「未完成の「ねがいごと」」の第一章に当たります。ねがいごとの真相は何も分からず、主人公やヒロインの紹介がメインとなっております。まずは作品の雰囲気を掴んで下さい。そしてテキストに慣れてください。それが分かってくる頃には、きっと登場人物の事を好きになっていると思います。シナリオはまだまだ続きますがちゃんと区切りの良いところで終わりますし、この第一章の中でも一つ伝えたいテーマを感じる事が出来ました。続きが気になる終わり方でしたので、これからの展開に期待ですね。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<大切なのは自分の気持ちに素直になり曝け出すこと、それを一ノ瀬コトミは化物の手と二ノ森二人から教わりました。>
「かみさま」によって「ねがいごと」を叶えられてしまった二ノ森二人と一ノ瀬コトミ。人の持つ力を超えた能力を持ってしまいましたが、それでの人間らしさが無くなる事はありませんでした。むしろ能力を持ったことでより人間らしい魅力が光ったかのように思えました。第一章ですのでまだまだ物語は続きます。それでも二ノ森二人と一ノ瀬コトミにとっては、自分の願い事を見つめ直し人生を再スタートさせる良い切っ掛けになったのではないかと思っております。
幼い頃から絵の才能に溢れ、純粋に大好きな絵を描き続けることが出来た一ノ瀬コトミ。ですがその絵の才能が金になると分かったとき、周りの環境がずっと同じである事は叶いませんでした。ただ絵が好きで描いていた一ノ瀬コトミに対して、周囲の反応は驚く程変化してしまったのです。父親は居なくなり、母親はお金の事しか考えられなくなり、そして一ノ瀬コトミは友達を失いました。それでも高校生活からやり直そうと思い母親のそばを離れてひとり暮らしを始めました。ですが一ノ瀬コトミの絵の才能がまたしても友達を失う切っ掛けとなってしまったのです。一ノ瀬コトミがかみさまに願ったこと、それは恐らく「絵を描ける手なんか無くしてしまいたい」だったのではないでしょうか。絵が描けなければ元の生活に戻れる、そう思ったのだと思います。
結果として一ノ瀬コトミは手を無くするだけではなく人の能力を超えた大きな力を手に入れてしまいました。それはもはや人のものと思えるものではなく、ビルすら軽々を壊す姿はまさに「ばけもの」そのものでした。そんな自分の姿に更に絶望し、このまま死んでしまおうと思いました。ですがそれを救ってくれたのが二ノ森二人でした。彼は始めから一ノ瀬コトミの化物の手なんか見てませんでした。彼が見ていたのは一ノ瀬コトミという人間そのもの、彼女の内面しか見ていなかったのです。そしてこれこそが一ノ瀬コトミが求めていたものであり、同時に彼女が乗り越えなければいけない課題なのかな思っております。
恐らくですけど、仮にかみさまが純粋に一ノ瀬コトミから絵の才能だけを無くしたとしても、その後一ノ瀬コトミに友達は出来なかったと思います。自分を押し殺し周りに合わせて取り繕うことしか出来なかった一ノ瀬コトミ、例え絵の才能を失ったとしてもその振る舞い方は変わらないと思います。自分の気持ちに素直になり相手とぶつかる事、これを避けていては絵の才能があるないに関わらず友達になる事は出来ないのです。自分は絵を書くのが好きだ、そしてあなたと友達になりたい、だから私の手を取って下さい。こんな一ノ瀬コトミのありのままの言葉を、きっと友達も求めているのだと思います。今まで絵の才能のせいにして自分の気持ちを外に出すことをしてこなかった一ノ瀬コトミ、今回絵の才能を失いしかも化物の手を身につけてしまいました。それでも自分の事を信じてくれた二ノ森二人を見習って、ここから自分の人生を再スタートしていくんですね。
「未完成の「ねがいごと」」はまだ始まったばかりです。かみさまの正体も、ねがいごとの真実も、二ノ森二人が叶えたねがいごとも分かりません。一ノ瀬コトミが手に入れた化物の手が今後どうなるかも分かりません。全ては始まったばかり。それでも二ノ森二人と一ノ瀬コトミの目標は明確になりました。かみさまの正体を見つける事、そして自分の気持ちに素直になる事です。人間にとって一番大切な事を見つけた一ノ瀬コトミ、これからどのような運命が待っているのか分かりませんが、今度こそ大切なものを見失わないように頑張って欲しいと思いました。ありがとうございました。