M.M 夏色夜行




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 7 2 69 1〜2 2017/3/6
作品ページ(なし) サークルページ(R-18注意)



<夏の雨の雰囲気を最大限に感じて、自分のペースで男の娘を染め上げてみてください。>

 この「夏色夜行」という作品は同人サークルである「BlackCamellia」で制作されたビジュアルノベルです。BlackCamelliaさんと初めて出会ったのはC90で同人ビジュアルノベルの島サークルを回っている時でした。毎回私が同人ビジュアルノベルの島を回るときは節操なく気になった作品を手に入れさせて頂いているのですが、男の娘に特化したサークルさんは流石に片手で数えるほども無く印象に残っていた事を覚えております。その時手に入れさせて頂いたのが今回レビューしている夏色夜行であり、男の娘がメインに描かれているパッケージと夏色夜行という指摘なフレーズがどのように繋がるのか楽しみにプレイ始めました。

 主人公である梶原透真はどこにでもいる普通の社会人です。小さな古めかしいアパートに一人暮らしをしており、昼は仕事をして夜は一人帰ってきて適当に飯を食べ寝るという質素な生活を送っております。ですが透真はその生活を嫌っているわけではなく、むしろ一人暮らしの悠々自適さを満喫している程でした。そんな透真が住むアパートの前にはバス停があります。随分と年季の入ったバス停で、雨が降れば雨漏りしてしまい中で待っていても濡れてしまう程。その日も透真は雨の中帰宅してアパートに入るところでした。バス停の中に1人の女子学生の姿。ですがその姿は透真の知っている人物でした。それはイトコである御影艶(みかげつや)、彼はれっきとした男なのです。この出会いが透真と艶の奇妙な同棲生活の幕を開ける事になるのです。

 この作品のジャンルは「18禁男の娘純愛ノベルゲーム」です。つまりパッケージに大きく写っているヒロイン♂とHする事が決まっているという事です。それでもただ甘甘なHをするだけの作品でない事は、ヒロイン♂の表情を見れば分かります。どこか生気が抜けているかのような眼、全体的に灰色を基調としたパッケージ、何か重大な過去を背負いそれがトラウマになっている事が想像できます。この作品はとにかくヒロイン♂である艶に対して主人公である透真がどのように接するかが全てです。艶が抱えているトラウマを癒してあげるのか、それとも男の娘に欲情しその思いの丈をぶつけてしまうのか、その選択はプレイヤーのあなたに委ねられているのです。

 この作品の魅力として夏の描写を表現した効果音とBGM、そして詩的に場面や心情を説明するテキストが挙げられます。夏といえば重さすら感じるような太陽の光のイメージが強いですが、この作品での夏は雨の景色が舞台となっております。その為作中の多くの時間で雨音が鳴り響き、ピアノを基調とした穏やかなBGMが流れます。ですがBGMは穏やかだけではなく短調のものが多くどこか悲しみを感じさせ、それが艶の心情を表現しているかのようです。それでもHシーンを始め透真と心を通わせる場面では長調の曲が流れ、プレイヤーを安心させてくれます。テキストは直接場面を説明するものよりも比喩を用いているものが多く、詩的な印象を受けます。透真が艶に染まっていく様子を「真夏の中に真っ逆さま」と、男の娘との背徳な行為を行っている自分を「ひび割れた氷の上を歩く」といった感じです。こういったテキストが至るところで見受けられ、夏の雰囲気を感じながらどこか非現実的な印象を思い起こさせます。それもまた男の娘らしさなのかも知れません。いつの間にか作品の雰囲気にのめり込んでしまう事間違いなしです。

 プレイ時間は私で1時間10分でした。この作品の最大の特徴としてストーリーボードが挙げられます。この作品に選択肢は存在しません。ですが1つの場面が終わればその箇所のストーリーボードが埋まり、その先どのルートを進むのか自分で選択できるのです。非常に分かりやすいシステム。完全攻略までの道筋が全て確認する事が出来ます。私のように全てのルートを確認したいと思っているようなプレイヤーには最高に親切なシステムですね。是非全てのビジュアルノベルで何らかの形で取り入れて欲しいと思いました。場面が終わりストーリーボードに戻ったタイミングで休憩を取るなども良いかも知れません。是非自分のペースでプレイし自分のペースこの男の娘を自分色に染めてみてください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<真の純愛は性差すらも超える。そこにあるのはただ純粋に向けられた愛しさのみ。>


「僕にとって、艶は艶だ。男とか女とか、そんなものは超越して僕は彼の闇に触れたいと思い、そして実際に今腕の中にいる。」


 ラブラブルートに入り初めて艶の体の傷跡を見た後のHシーンでのセリフです。最後までプレイしてみて、結局のところこの作品は全てこのセリフの中に集約されるのかなと思っております。男の娘を題材にした作品で始めから終わりまで透真と艶のHシーン三昧のシナリオでしたが、透真にとって割と早い時期で男の娘という属性は意味を持っておりませんでした。確かに「18禁男の娘純愛ノベルゲーム」の名前に相応しいシナリオだと思いました。

 正直な話、プレイする前は男の娘とどんなシチュエーションのHシーンが見れるんだろうという期待のみ先行しておりました。主人公が男の娘のアナルに入れるのは勿論、逆に主人公が入れられて新たな性感に目覚めるみたいなシチュエーションくらいは普通に入っているのかなと思ってました。ですが実際は男の娘という要素は殆ど始めのHシーンで出し尽くしてしまいましたね。艶からのキスに感じてしまい狼狽した透真。その時点で引き剥がす事は出来ましたがそうはしませんでした。理由は2つ。1つは艶のテクニックがとても良かった事と艶の眼が動物のように死んていた事です。この時点で透真は艶が男とか女とかどうでもよくなっていたんですね。その瞬間、この作品は男の娘ビジュアルノベルの体を失ってしまったように思えます。

 振り返ればどのHシーンも男の娘でなくても良いものばかりでした。女の子との違いは自分が射精するかしないかくらいでしたが、絶頂の合図として射精するか潮を吹くかの違いしかなければそこに男の娘と女の子の違いはありません。結局のところ可愛い女の子の格好をしているキャラクターを主人公が愛するか、それとも陵辱するかの違いでした。基本的に攻めるのは透真、ちんぽを突っ込むのがおまんこではなくアナルであっただけでした。シチュエーションとしては和姦もあれば青姦もあり、ご主人様プレイもありその数はとても多いものでした。大切なのはそのシチュエーションに男の娘の要素があるかどうかではなく、相手が艶であるかどうかという事でした。

 この作品は、男の娘だろうと女の子だろうとそこに愛しさや欲情を感じれば性別の違いなんて関係ないという事を立証した作品ともとれます。そういう意味でプレイヤーが心を寄り添い考えるべき相手は主人公である透真だと思っております。透真もまたヒステリーな母親の元に育てられました。きっと人並みよりも母親の愛情というものを受け取る事が出来ず、自分の内なる欲求を押し殺してきた日々を送っていたのだと思います。彼女が出来ても別れたのは、そういった相手に求めるものの違いが生じたからなのでしょうか。だからこそ、艶の様に何でも受け入れてくれる、自分を頼ってくれる存在が欲しかったのだと思います。最終的にはプレイヤーの判断で3つのエンディングに別れました。愛するか、調教するか、艶の父親のように成り下がるか、全てに共通するのは艶に対する素直なまでの愛しさ。後は、その愛しさを受けた艶がどう思うか次第でした。

 この作品は抜きゲーではありません。恐ろしいまでの純愛ゲーです。数々のHシーンは全て透真と艶の関係を最もわかりやすく表現したもの。そこにあるのは肉欲を超えた神聖な本能でした。それはもはや性差すらも超越したもの。究極の純愛とも言えるかもしれません。さて、あなたは初めにどのルートを選択したでしょうか。どのルートに行っても透真と艶の閉じた世界が待っていたと思います。そしてあなたが期待した通りに艶は振舞ってくれたでしょうか。もしそうではないなら、まだまだ艶に対する愛情が足りませんね。夏の雨に打たれながら、再びこの神聖な舞台へと帰ってくる事を祈っております。ありがとうございました。


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