M.M ナツと5つの願いごと




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 6 69 〜1 2018/8/12
作品ページ(無し) サークルページ(R-18注意)



<青が印象的な島の中で、是非青臭い2人が歩む道のりを見届けて下さい。>

 この「ナツと5つの願いごと」という作品は同人サークルである「WhiteLily」で制作されたビジュアルノベルです。WhiteLilyさんの作品は過去に「沙織お嬢様の屈辱」をプレイさせて頂きました。沙織お嬢様はいわゆる復讐系のR-18作品でしたが、単純に主人公がヒロインに復讐するだけのお話ではありませんでした。エンディングの形が様々あり、どのエンディングが幸せなのかは本人たちにしか分からない。そんな歪んだ男女の気持ちが印象的な作品でした。今回レビューしている「ナツと5つの願いごと」は、青が印象的な海の中心に立つヒロインの姿が明るいイメージを与えてくれるパッケージです。ですが、そんな明るいだけで終わるシナリオにはならないだろうという予感がありました。どのようにプレイヤーを裏切ってくるのか(勿論いい意味で)、それを楽しみにプレイし始めました。

 主人公である峰岸はやては高校3年生です。彼が住んでいる御伽島は四国と本州の間にある小さな離島であり、自然豊かな風景と神霊の宿る島という伝承以外は何も目立ったものがありません。その為過疎化が進んで、今や人口の9割はお年寄りばかりです。はやてには10年前まで一緒に住んでいた幼馴染がいました。名前は新垣ナツと言います。彼女もまた、過去に島を離れてしまいました。それでも子供ながらに再会する約束をした2人、その願いは突然かなう事になったのです。高校生最後の夏休み直前、突然帰ってきたナツは幼い時の面影を残しつつも見違えるほどの美人になってました。それでもはやてとの想いでは残っておりました。そして、忘れられない5日間の生活が幕を開けるのです。

 この作品のジャンルは「R18純愛ノベルゲーム」となっております。その名の通り、何もない離島で再会した幼馴染の恋愛模様が赤裸々に描かれております。そして離島ですので、学校の先生も生徒も島の住人も皆2人の事は知っているのです。人も島も、全てが2人の味方。そんなシチュエーションの中で、ナツがはやてに手渡す「願いごと」が掛かれたカードには当たり前の想いが綴られておりました。まずは、青空しかない島の雰囲気を感じ、そして甘酸っぱい2人の恋愛模様を感じてみて下さい。しかし、パッケージの裏には「終活」という言葉が書かれております。果たして2人の純愛の先には何が待っているのでしょうか。ハッピーエンドかバッドエンドか、どう思うかはプレイヤー次第なのです。

 特徴としては、島の魅力である青空の描写が挙げられまず。背景は幾つかのフリー素材を含めているのは分かりましたが、少なくとも島の青さを表現している背景の精密さと言いますか色の濃さは他の背景とは明らかに力の入れ方が違っておりました。たったの1枚でプレイヤーの目を引く事が出来る、そのような力強いものもありました。この舞台がどのような離島なのかが良く分かりました。後は、物語の要所要所で的確にスチルを入れてくるのが上手いと思いました。この作品は主人公と幼馴染との純愛を、1日1枚提示される願いごとカードを起点として展開されていきます。つまり、5日間の物語です。その1日1日の中で象徴的な場面には必ずスチルがあります。非常にプレイヤー目線の演出だと思いました。

 プレイ時間は私で50分でした。選択肢はありません。一気に読んでしまえばあっという間に終わってしまうと思います。ですが、この作品において急いで読むという事に意味はありません。島の青さ、夏の青さ、そして2人の青臭さを全身で感じる事が肝要です。そして、是非最後までプレイして2人が選択する決断を見届けて下さい。5つの願いごとのうち、始めの方は本当に初々しいものばかりです。という事は、最後の方はそんな事にはならない事は容易に想像できると思います。その厳しい願いごとに対して、果たしてはやてはどのような決断をするのでしょうか。そしてナツとどのような未来を歩むのでしょうか。是非楽しんでみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<青臭い2人がお互いの事を理解し言葉にする、ここから2人の未来は始まったのですね。>

 この作品のテーマは決断だと思っております。10年振りに幼馴染と再会し、2人だけの結婚式を挙げたはやてとナツ。戸惑い急展開ながらもはやてはこの現実を受け入れナツを受け止めようと決意しておりました。ですが、最後に突き付けられたのは「私を、忘れて」というお願い。始めはそのお願いの通りナツを忘れてしまいました。その時はやては気付きました。自分は、決断していたと思っていただけで何も決断していなかったという事に。

 ネタバレ無しで私は2人の恋愛を青臭いと言いました。それは若さとひた向きさもそうですが、お互いがお互いに一番言いたい事を相談出来ない様子をみてそう思ったからです。ナツは自分の余命がもう短い事をはやてに言う事が出来ませんでした。言えないまま、綺麗なままの自分を見てそのままでいて欲しいと思っておりました。その気持ちは、ナツの間違いない本心なのだと思います。ですが、果たしてそれははやてにとっても同じ願いなのでしょうか?もしかしたら、はやてはたとえナツの元気な姿が見れなくなっても一緒にいたいと思うのではないでしょうか?

 そして、同様にはやてもナツに自分の気持ちをぶつける事を恐れておりました。ナツの告白を聞き、私を忘れてと願ったナツに対して「嫌だ」という事が出来なかったのです。何故できなかったのでしょうか。それは恐らく「嫌だ」という事でナツの自分に対する気持ちが揺らぐのを恐れたのではないかと思います。百歩譲って突然の告白に戸惑ったとしても、少なくとも綺麗なまま死にたいというナツの気持ちとはやての気持ちは一致していませんでした。ナツの言う通りにはやてはナツの事を忘れました。それが1回目のエンディングの姿です。これを見て、皆さんはトゥルーエンドと思ったでしょうか?思わなかったと思います。

 ですが、はやてはナツの日記を読む事が出来ました。出会った時から、ナツの抱えているものを知る事が出来ました。人によっては、それはズルいと思うかも知れません。ですが、同時に仕方がないとも思うのです。はやてはまだ高校3年生です。突然の事態に正しい決断を出来るだけの覚悟も経験も不足しております。そうであるのなら、先に日記を読んで理解して考える時間位与えてあげても良いと思いました。考えた上で、ちゃんとはやてはナツに「命を諦めないで、一緒に生きよう」という事が出来ました。そして、ナツもはやての言葉に覚悟を決める事が出来たのですね。お互いがお互いの事を理解し言葉にする、ここから2人の未来は始まったのですね。

 手術を受ける事を決意し、再び離れ離れになったはやてとナツ。ですが、もうそこには先が見えない朧げな毎日はありませんでした。はやては親の仕事を継ぎ島で生きる決断をしました。ナツは自分の病気に向き合い少ない成功率の手術を乗り越えました。再びの夏、再会した2人はどこか大人びて見えました。思い出補正だけではない、ちゃんと自分の気持ちを整理し相手を理解する事が出来た2人です。そんな、決断する事の大切さと相手に気持ちを伝える事の大変さを見る事が出来ました。それを、一度バッドエンドを見せて再プレイさせる演出、流石はWhiteLilyさんだと思いました。夏らしい、爽やかな気持ちになる事が出来る作品でした。ありがとうございました。


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