M.M 汝が正解なりや




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 4 - 73 1〜2 2016/12/8
作品ページ(なし) サークルページ



<テキストのみで構成されたシステムはプレイヤーをも上手く取り込んだセンスある演出です。>

 この「汝が正解なりや」は同人サークルである「カナラズ」で制作されたビジュアルノベルです。カナラズさんの作品を手に取ったのは今作が初めてでして、C81で島サークルを回っている時に手に取らせて頂きました。C81は2011年の冬コミという事で今からもう5年前の作品になりますが、ついこの前に未プレイの作品を整理している時にふと目に止まったのがプレイした切っ掛けです。「汝が正解なりや」という人狼ゲームを彷彿とさせるタイトルとCDのイラストがどことなく良質なミステリと言いますか頭脳ゲームをイメージさせ、気に入りそうという印象を持ちましてインストールしてみました。

 舞台は近未来の日本。主人公であるディックは目を覚ますと何もない空間におりました。そこは自分が思考した物事が文字として投影される世界、技術が進歩した仮装世界だったのです。そしてディックと同じ空間にはアレックス、ベティ、カルマの3人が存在し、ここから1つのゲームが始まります。それは人工知能探し。ここにいる4人のうち、たった1人だけ人工知能が紛れ込んでいるそうなのです。お互いに顔も身分も分からない存在。加えて文字だけでしか相手の事を推し量れない存在です。制限時間は4人で会話できる7時間のConversation timeと自分ひとりで思考できる3時間のPrivate timeを計7回繰り返した後に、それぞれが人工知能だと思う存在を指名します。果たして誰が人工知能なのでしょうか?ディックは人工知能を当てることが出来るのでしょうか。緊張感を持ちながらも、他愛のない会話が繰り返される不思議な時間が幕を開けるのです。

 この作品の魅力はとにかく登場人物があてもなくダベるだけの様子を表現したテキストです。上でも書きましたが4人は意識だけの世界におりますので、当然プレイヤーにも彼らの姿は見れません。主人公ディックと同様にプレイヤーも文字だけの情報で誰が人工知能なのかを探らなければいけないのです。彼らは始め自己紹介を行い、その後は特に話すこともないので唐突にしりとりなどを始めます。ですがそんな他愛のない会話の中にお互いの人間性が少しずつ暴かれ、やがてお互いがお互いの個性を認識していくのです。時間が経過していくと共にしりとりだけではなくロールプレイを始めたり人狼ゲームを始めたりと徐々にフランクになっていく4人。ですがこれはあくまで人工知能を当てるゲームです。是非テキストの細かいところまで目を配り、誰が人工知能なのかを予想しながら読み進めて欲しいですね。

 そしてチャットのように展開されるゲームという事でゲーム画面もまるで本当のチャットのように進行していきます。クリックしていくとどんどん画面の下にテキストが追加され、過去のテキストは上へと押し上げられます。その為この作品にはいわゆるバックログは存在しません。むしろバックログという概念が不要なのです。過去のテキストを見返したければホイールで振り返れば良いし、シナリオを進めたかったらクリックを再開すればいいのです。この辺りのシステム周りもまたこの作品の魅力ですね。プレイヤーをも巻き込んだ工夫されたシステムであり、センスの良さを感じました。

 プレイ時間は私で約1時間50分程度掛かりました。一日経過に約15分といったところでして、テキストだけですが決してダラダラと続く印象はありません。各日のConversation timeをその後のPrivate timeで振り返ってくれますので区切りが分かり易いですので、一日終わるごとに伸びをしたり体をほぐしながら読み進めていけば良いと思います。後半になるにつれて徐々に確信めいた会話になっていきますので、尚の事一日ごとに状況を整理していくのが良いですね。短いながらもテキストの魅力に溢れた作品でした。オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間以上に人間らしいロボットなら、それはもはやロボットではないのではないでしょうか?>

 まさか最後の最後でロボットの人権問題にまで発展するとは思いもしませんでした。ゲームが進行していく中でプレイヤーもまた人工知能の目星を付け、最後7日目が終わったら選択肢が登場して誰が人工知能なのかを選択させるものだと思ってました。それでも前半の思考世界と後半の現実世界は決して切り離された別の世界という事ではありませんでした。むしろディックにとって前半の思考世界の経験こそが、現実世界で生きる為の糧になったのです。

 ネタバレ無しでも書きましたが、とにかく前半の思考世界でのテキストが楽しかったです。始めは何故か平仮名を遣うカルマが怪しいだろうと思ってましたが、会話を進めていく中で意外と常識的な事に気づいていつの間にか違和感が無くなってました。むしろまともだと思っていたベティが実はかなり感情に揺さぶられる性格だと知って別の意味で愛着が湧きました。その後もアレックスと一緒に茶化されたりとまるで気の知れた友達のような会話、そりゃロボットであるディックにとってあの空間は何度も振り返るに値する楽しい時間だったろうと思います。

 結論としてディックを含めアレックス、ベティの3人が人工知能でした。そしてこの7日間のゲームはそんな人工知能である彼らが人間社会に出てやっていけるかを確認する試験でした。結果として7日目を待つことなく3人は合格、私が試験官でもそうしたと思います。だってもう人間と全然見分けが付かないんですもの。むしろ普通の人間以上に愛嬌があって自分がその場にいたら絶対に友達になりたいって思いましたからね。その後試験に合格した3人はそれぞれ人間社会へと出ていき、それぞれの立場で働く事になりました。世の中の人も、言われなければ彼らが人工知能だなんて気がつかないでしょうね。3人とも人間以上に人間らしい人工知能だと思います。

 だからこそディックは疑問に思ったのかも知れませんね。自分は何のために生きているのだろうか。ロボットに人権はないのかと。会社の為に働きながら給与や休憩時間はなく、24時間行動を監視され自由に出歩く事が出来ない彼ら。唯一の楽しみであるお昼ご飯に自分の存在を植え付ける姿に私も疑問を感じました。ディックの「日常に名残が欲しい」というセリフはディックだけではなく全ての人工知能の心の叫びに思えます。確かに彼らは人間ではありませんが、人間と見分けが付かないのです。ではどこからが人間でどこからが人間ではないのでしょうか?非常に哲学的な問題であり、立派な人権問題だと思いました。

 そして同じ気持ちを抱いたロボットたちがどうやら動き出したみたいです。水面下で準備が進んでいるロボットの反乱行動。ですがそれもまた人間によって見透かされているみたいです。急遽呼び出されたアレックス、ベティ、ディックの3人。当然同窓会の様に旧交を暖める為に呼ばれた訳ではありませんでした。カルマが言う「せかんどすてーじ」では何が待っているのでしょうか。私には彼ら3人こそが人間とロボットの繋がりを結びつける重要なファクターに思えてなりません。緊急メンテナンスも嘘でしょう。エレベータに乗り合わせた謎の女のセリフな何なのでしょうか。こんなワクワクさせる幕引き、是非続編が出て欲しいものです。とても楽しい時間でした。ありがとうございました。


→Game Review
→Main