M.M ナニシテモイイコ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 7 | - | 76 | 1〜2 | 2023/4/24 |
作品ページ(無し) | サークルページ |
<是非ヒロインであるヒューマノイドのイチコを、隅から隅まで丸裸にしてほしいです。>
この「ナニシテモイイコ」は同人ゲームサークルである「箱入りの桃」で制作されたビジュアルノベルです。箱入りの桃さんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けですが、私とcrAsmという個人サークルを運営している倉下さんで行っているcrAsM.M ビジュアルノベルオンリーに参加頂いた事です。crAsM.M ビジュアルノベルオンリーでは、イベント前に私の方で一部サークルさんの作品をTwitterにて紹介しております。今回レビューしている「ナニシテモイイコ」も対象作品であり、Twitterという字数制限のある中で雰囲気が伝わる様文字に起こしてみました。イベントも終わりましたので、改めて私のHPでレビューとしてまとめております。プレイ前の印象とプレイ後の印象が大きく変わる作品となりました。
この作品は「「人形」に何してもいいお触り陰鬱ADV」となっております。主人公は、とある切っ掛けで表には存在しない「店」に招待されます。そこで待っていたのは、ヒューマノイドと呼ばれている人形の女の子。そう、ここは人形に何をしても良いお店だったのです。ヒューマノイドは、技術の進歩で人間とほとんど変わらない見た目や受け答えが出来るようになっております。あなたは、そんなヒューマノイドに対してお話したり、お触りしたり、時には暴力をふるったりと何をしても良いのです。ヒューマノイドの方も、自分がそういう立場だという事を理解しております。偶然の出会いで知り合った主人公と人形、果たして2人のやり取りの先に待っているのはどのような結末なのでしょうか。
この作品の魅力は、なんといってもヒューマノイドであるイチコとのパートです。主人公は、1回の来店で合計6回の行動を選択する事が出来ます。それぞれ話す・触る・殴るの3種類で、触ると殴るは身体をクリックする事で箇所を選択する事が出来ます。主人公の行動によってイチコの反応は変化し、その後の展開が変わってきます。来店回数も複数あり、選択の組み合わせはほぼ無限大となっております。是非、イチコのストレートな反応と日を追うごとに変わっていく表情に注目してみて下さい。イチコをどのようにするかはあなた次第です。何故なら、彼女はナニシテモイイコなのですから。
その他の点として、人物や背景の描写がお気に入りです。この作品は全体的にクレヨンで描いたような描写となっております。どこか温かみを感じると言いますか、柔らかさを感じる色彩がイチコの魅力を引き出しております。次に、イチコはフルボイスです。イチコの見た目は少女という言葉がふさわしい小さな外見となっておりますが、その声はどこか妖艶と言いますか主人公の心の底を見透かしたかのような魅惑があります。ひとえに声優さんの力量の高さとキャラクターの理解が伺えます。またシステム周りも素晴らしく、この作品はエンディングリストがあるのですがご丁寧に攻略情報を載せております。何しろ選択肢の組み合わせが無限大ですからね。攻略情報を見れば誰でも目的のエンディングにたどり着く事ができ、うれしい仕様でした。
プレイ時間は私で1時間10分くらいでした。この作品には6つのエンディングと23枚のスチルがあり、それら全てを開放するまでの時間となっております。まずは、自分の思うがままに選択してみるのが良いと思います。その後どこかのエンディングにたどり着き、そこから全てのエンディングを開放していくのが良いと思います。またルートによってかなり長さにばらつきがあり、全てのエンディングを見る事で主人公やイチコの背景などが理解できる仕様となっております。イチコの幼い見た目ながらも妖艶な表情が出来る理由は何なのか、そもそもどうして主人公はこの店に来てしまったのか、その全てを明らかにしてほしいです。大変印象深い作品となりました、面白かったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<自分の人生を精一杯生きる、それが出来た主人公と凪子を羨ましいと思いました。>
プレイ前はただイチコに好きな事をするだけの作品だと思っていましたが、まさかここまで深い背景があるとは思ってもみませんでした。傍から見たら不幸な結末かも知れません。それでも主人公も一ノ瀬凪子も自分の人生を精一杯生きて、考えた末の結果でした。自分にとっての大切なものは何なのか、そんな事を考えさせられました。
主人公も一ノ瀬凪子も、共通しているのは幼い時の家族環境の劣悪さです。主人公の母親は感情の起伏が激しく、時には暴力を振られ安心できる環境ではありませんでした。その上実の父親とは離婚し、その後再婚した新しい父親との間に出来た弟とは死別してしまうのです。死別の直接的な原因は母親のネグレクトです。ですが世間はそれを兄である主人公の責任だと決め、それがその後の主人公の人生を決めるものとなりました。折角決まった就職先からは解雇され、付き合っていた彼女から別れを切り出されます。主人公が悪いのではないのです。ただ、これが人生という物なんだなと受け入れるしかない無念さがひしひしと伝わりました。
一ノ瀬凪子もまた、両親が毒親という事もあり早くに親元を離れたい一心で生きてきました。そして就職しやっと自立できる環境を作り上げました。ですが、上司と不倫してしまいその後彼の子供を身ごもってから人生が動き出しました。上司からは別れを切り出され、会社に居られなくなった凪子は退職し女手一つで息子である陽人を育てようと決意します。しかし現実は厳しく、凪子はかつて離れた毒親に頼らざるを得ませんでした。そして、お金は自らがヒューマノイドとなって工面するという大変な決断を下したのです。直接的には不倫した事が原因かもしれませんが、それが全てだとは思っていません。様々な選択の末にこの結末に達してしまったのだろうと思っております。
世の中、順風満帆に人生を進む事が出来る人はほとんどいません。それでも、多少の失敗や挫折を経験するくらいで大体の人は人並みの生活を送れているのではないでしょうか。ですが、主人公と凪子は取り返しのつかない一生消えない烙印を押されてしまったのです。そんな彼らが、どうやってこの世の中に希望を持つ事が出来るでしょうか?主人公も凪子も、もはやこの世界に希望を持っておりません。いつ死んでも構わない、そんな心境になるは当たり前だと思います。だからこそ、こんなクソみたいな世の中で生きるためにはもはや呪われるくらいでないと不可能です。凪子が最後に主人公に送ったのは呪い、主人公はこれからの人生を2人分生きなければいけないのです。
私は、自ら死を選択しそれを実行しようとした2人を素晴らしいと思いました。それだけ真剣に自分の人生に向き合ってきた証拠なのですから。どんな人生を歩もうとも死ぬときは訪れます。きっと自分だったら、いつまでもみっともなく死にたくないと足掻くのでしょう。そんな姿を晒すくらいなら潔く死ぬ、それもまた人生だなと思いました。凪子は自分の子供が成長し今を生きている様子を確認できました。もう彼女に思い残すことはないのです。主人公もまた凪子という自分を理解してくれる存在と出会う事が出来ました。主人公にも思い残すことはありません。後はどのような結末になるのかだけ、それは誰にも分かりません。願わくば生き残った主人公に何か新しい人生の意味が見つかればいいなと思い、レビューの終了とさせていただきます。ありがとうございました。