M.M 七宮村連続強姦殺人事件 其ノ壱




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 - - 81 5〜6 2017/1/17
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<強姦や殺人といったおどろおどろしい描写に加え、田舎特有の歪な人間関係を肌で感じて欲しいですね。>

 この「七宮村連続強姦殺人事件 其ノ壱(以下七宮村)」という作品は同人サークルである「黒毛屋本舗」で制作されたビジュアルノベルです。黒毛屋本舗さんの作品をプレイしたのは今作が初めてでして、C91の三日目に男性向け創作サークルの島に配置されておりました。実は私、C91は同人ノベルゲームが一日目だったという事もあり三日目については殆どサークルチェックを行ってませんでした。ですが知り合いのノベルゲーマーの方と共闘する中で今タイトルを知り、ついでに私もプレイしようと思い今回のレビューに至っております。連続強姦殺人事件という事でまっとうな内容ではない事は想像できますが、それ以上に表紙に写っているヒロインのサディスティックな表情にそそられたのがプレイした切っ掛けでした。

 この作品を語る上で絶対に欠かせないのが主人公とメインヒロインの存在です。全てはこの2人から始まりこの2人によって振り回されるのです。主人公である相良康生は何処にでもいる善良な24歳です。その甘いルックスに加え物腰柔らかい性格は誰にでも好感であり、医師免許や教職の心得もある非常にスペックの高い存在。ですがその本質は180度逆転したものでした。何と彼は過去10年間で500人もの人間を殺した連続殺人犯だったのです。その殺し方も残忍で凄惨、しかし相良は明確な殺意など持っておらず人が誰かとお話したいとか触れ合いたいと思うような気持ちで簡単に殺してしまうのです。まさにサイコパス。人間の常識など通じない存在です。そしてそんな相良を歓迎しているのがメインヒロインの七宮依子です。完全無欠なプロポーションを持った七宮村の当主ですが、その腹の中を知ることは出来ず常にサディスティックな笑みを浮かべております。普通であれば10年で500人も殺している殺人鬼を歓迎するはずもありません。依子が相良を歓迎した理由、それはきっとサディスティックな欲望を満たすためだけ。そんな人間離れした2人が出会ってしまい、連続強姦殺人事件の幕が空いてしまったのです。

 特徴は何といっても強姦の凄惨な描写と殺人のおどろおどろしい描写ですね。シナリオ全体のうち半分以上は強姦してるか血が飛び交っているかどちらかだったと思います。それ程までに視覚的に強烈であり、ある程度慣れていないとプレイし続ける事すら出来ないかも知れません。何よりも主人公がサイコパスですからね。その行動原理が一切読めず、それが故に強姦される理由もどのように強姦するかも分からないのです。行動が読めない恐怖。どこから迫って来るか分からない。そんな一寸先は闇の様な状況がより恐怖を増長させているように思えます。もうプレイヤーははなから主人公の行動原理を読もうとしてはいけませんね。どうやったら強姦や殺人を回避できるのか、自分がその場にいたらどう行動したら生き延びれるかだけを考えたほうが良いと思います。

 そしてもう一つ大切なポイントがあります。それは舞台となっている七宮村が極度の田舎という閉じられた舞台であるという事です。メインヒロインの名前が七宮依子であり当主であるという事からこの七宮家が七宮村において重要な役割を持っていることは想像出来ると思います。一つの一族が村全体に影響力を及ぼしている、これ程強力な地縁血縁共同体はありません。そこには少なからず歪な人間関係が存在し、村八分にならないように人の目を気にした生活を送っている住人の姿があります。これが唯のサイコパスによる強姦と殺人であればどれ程良かった事でしょうか。それだけでは終わらない人間らしい血生臭い描写もふんだんに盛り込んでおります。サイコパス特有の人間離れした思考と田舎特有の歪な人間関係も合わせて楽しんで頂ければと思います。

 その他の特徴としましては効果音が挙げられます。この作品、珍しい事にBGMが存在しません。厳密に言えばタイトル画面でメインBGMが流れるのですが、作中ではBGMは存在せず虫の声や風のざわめきなどの効果音のみ流れます。私が点数でBGMを「-」にしているのはその為です。まるで本当に七宮村を歩き回っている感覚を覚えます。そしてBGMが無いという事は場面の状況や登場人物の心理描写をテキストのみで読み解かなければいけないという事です。タダでさえサイコパスな主人公で行動が読めない事もありますので、是非急がずに田舎特有のマッタリした空気に身を任せてゆっくりとクリックして読んでみるのをオススメします。

 プレイ時間は私で5時間15分程度掛かりました。選択肢は一つしかなく、それもシーンを回収する為のもので大筋は変わらず誰でも最後までたどり着く事が出来ます。上でも書きましたが、シナリオの半分以上は強姦や殺人シーンでありそういった内容が苦手な方にはオススメしません。そしてただ強姦や殺人の描写が続く訳でもありません。田舎特有の歪な人間関係も見所であり、時に目を背けたくなるような描写もあります。どこを切り取っても、平たく言えば「強烈」であり印象に残りやすい作品です。だからこそ丁寧に場面の状況や行動原理を読み取って欲しいですね。この作品はまだ其ノ壱です。まだまだエンディングが見えません。ここからどのようにシナリオが展開していくか非常に楽しみですね。かなりオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間の尊厳など、周りの環境で簡単に消えてしまう。これが田舎特有の地縁血縁共同体の宿命。>

 何ともまあ恐ろしい主人公ですよ。作中でも依子が「彼を、人間だと思わないでね?」と言ってましたけど、本当にその通りですね。あんな物腰柔らかい対応をしておいて何の躊躇もなく強姦し殺してしまうんですから。しかもその手口が分からないというのが怖いですね。相良から発せられる獣の臭いの正体もよく分かっていません。本当に相良一人で殺しているのか、何か特別な力を持っているのか。その辺も続編で明らかになってくれればと思っております。

 この作品で一番注目するべきは、やはり小河清蔵と小河愛花が断罪される場面だと思っております。本当、ここに人間の心根の醜さと言いますか田舎特有の村八分を恐れる風土が凝縮されていたと思います。元々犯罪歴のある人間や犯罪に巻き込まれた被害者を匿って生まれた村です。そして村民の生殺与奪は全て七宮家が牛耳っているのです。これでは普通の人間関係は築けませんね。隣に住んでいるのは犯罪者かも知れない、七宮家の機嫌を損ねたら追い出されるかも知れない。いつしか疑心暗鬼になってしまい、それが小河清蔵を中心とした七宮家への反抗という形で表に出てしまいました。

 ですがそれも自分達が不利になると分かると簡単に寝返ってましたね。自分は声を掛けられただけだ、言いだしたのは小河清蔵だ、本当は一緒に行動したくなかったんだ、どれだけ人任せなんでしょうかね。自分の意思なんてこれっぽちも無いんですね。ですけど、これこそが村八分を恐れる精神そのものです。大切なのは自分が生きる事です。そして自分が生きる為には周りの人と協力しなければいけない。その為には自分の主張など何も意味を持たず、ただ周りに合わせて変化を嫌えばいいのです。七宮家が有利と分かればそっちに寝返るのは当たり前でした。正義など、田舎では何も力を持たないのです。

 その為見方を変えれば田舎の人間関係は非常にコントロールしやすいとも取れると思います。事実七宮村の一連の騒動は全て相良と依子の2人の手のひらの上で作られておりました。何という鮮やかな手口でしょうね。相良はサイコパスなだけではなく相当頭も切れる人物でした。わずか数日で村人の人間関係と性格を見抜き、及川雛美と小河愛花を利用して村を分断させる凶行を作り出しました。依子もまたアシェリーの気持ちを完全に把握しており、リストを予め渡すことでアシェリーが自分の手を汚すことを見抜いておりました。自分達はプレイヤーですから根本的に悪いのは相良であり依子である事は分かります。では何も事情を知らなかったらどう行動していたでしょうか。何か恐ろしい殺人鬼が村にいるらしい、そしてその犯人がどうやら最近村に来た相良という人物のようだ、そう聞いてしまえば一緒に行動して相良を弾圧しに行ったかも知れません。この仕組まれた事件。相良と依子が元締めである以上一生解決する事はありませんね。

 もしかしたら依子はこんな歪で陰湿な七宮村に愛想を尽かし壊したかったのかも知れません。結局のところ最後まで依子が何故相良を村に呼んだのかが語られませんでした。ですが、少なくとも村人が死んでいる様子をリスト化したりしている所を見る限り村の崩壊を望んている事は間違いなさそうです。加えて依子はサディスティックです。物語の最後、全てを失った小河愛花が真犯人の正体に絶望し何も出来ない無力な姿を晒している様子を見てほくそ笑んでました。こいつも相良同様十分に壊れてますよ。まだまだ七宮村や七宮家の歴史について語り不足が有るように思えます。それらもまた続編で明らかになる事を願いますね。

 全体を通して、本当に人間の尊厳なんて簡単に踏み躙られる様子が印象的でした。矜持なんて何も意味を持たない。自分の立場も状況によって簡単に変わってしまう。そんな状況が当たり前になれば、唯々生きる為に生きる事が目的になり偉い人に取り繕うだけの人生になってしまいますね。七宮家の言うことが全て。七宮家に逆らう事は死を意味するという事。小河愛花に対する徹底的な無視を見れば一目瞭然ですね。そんな脆い心の隙間に、相良というサイコパスが入り込んだ事で堤が決壊してしまいました。これでとりあえず相良と依子の地位は絶対的なものになりました。誰も逆らおうとする人はいなくなりましたね。これが田舎特有の地縁血縁共同体の成れの果て。人間が人間でなくなる一連の流れでした。

 さて、そんな七宮村ですが思わぬ伏兵が現れてしまいました。それが冒頭登場じた少女Aです。まさか彼女があの状況で病院から抜け出し相良を追いかけて来るとは思いませんでした。しかも相良に会うために彼の真似をして殺人もしてました。この安定した七宮村を壊すのは間違いなく彼女しかおりませんね。ここからどうやって場面が変化していくのか、そして依子の真の目的は何なのか。相良の人を殺す手口と獣の匂いの正体は何なのか。様々な伏線が提示されております。ここからどうやって物語が展開していくかとても楽しみです。続編が出るのをいつまでも待っております。ありがとうございました。


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