M.M myちゅ〜部!




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 7 80 2〜3 2020/3/28
作品ページ サークルページ
(作品ページと同じ)




<全体として明るい雰囲気であり、商業的に作り込まれた丁寧さが安心感を与えてくれます。>

 この「myちゅ〜部!」という作品は、同人サークルである「竜田揚げ」で制作されたビジュアルノベルです。竜田揚げさんの処女作であり、手に取った切っ掛けはCOMITIA130で同人ゲームの島を回っている時でした。パッケージを見て、素直に楽しそうだと思いました。元気そうな女の子が前面に出ており、タイトルロゴも元気そうなイメージが出ていてよく合っていると思いました。パッケージの裏に書かれているあらすじを読めば、どうやら夏の田舎島を舞台としたボーイミーツガールであるとの事。夏の田舎を扱った作品は私の大好物ですので、これだけでテンションも上がってしまいました。明るそうな雰囲気に少し見え隠れする影の部分、最終的に彼女たちの笑顔を見る事が出来るのかを確かめるためにプレイし、今回のレビューに至っております。

 主人公である久坂海人(くさかかいと)は、本州から300km離れた東京都九条島にすむ学生です。九条島は人口5,000〜6,000人が住むそれなりに大きな島で、本州から300kmも離れている為気候はやや亜熱帯のようです。そんな島ですので娯楽は数える程しかなく、海人の趣味もまた釣りとこの島の風土を体現した様子でした。ある日海人がいつもの通り浜辺に釣りに行くと、そこに1人の女の子がいました。赤い髪に蒼い瞳のその少女の名前は凪坂メアリ(なぎさかめあり)、なんとイギリスからやってきた帰国子女です。とある理由でこの九条島に引っ越し、クラスメイトとして海人たちと生活する事になります。メアリにはやりたい事がありました。それは有名人になる事です。そして、有名人になる為に選んだ方法はマイチューバーになる事。1つ上の先輩である笹原匁女(ささはらもんめ)や、幼馴染である水無瀬願依(みなせねがい)を加え、忘れられない夏の思い出を刻む物語が幕を開けるのです。

 パッケージを見た時から楽しそうな雰囲気だなとは思っておりましたが、それはプレイする事で確信に変わりました。全体を通して、BGMや効果音や動きを用いて明るい雰囲気を作るよう演出しております。個人的に良かったと思ったのはデフォルメキャラが動く場面ですね。子芝居のようにデフォルメされた登場人物達が動く様子はそれだけでホッコリさせてくれますし、何よりも今の状況を端的に説明してくれます。BGMや効果音はフリー素材が多いですが、使い方が上手で違和感はほとんど感じません。主人公海人を中心に基本的にノリが良いキャラクターが多いのも、全体の雰囲気を明るくしている要因になっております。夏という開放的な時期であり、自然豊かな田舎という土地柄ですので、是非舞台・登場人物の両面からこの作品の明るさを堪能して下さい。

 あとは、単純に作り込みが丁寧だと思いました。言ってしまえば、教科書の様なボーイミーツガールだと思いました。OPムービーはかなり動きが激しく、物語の絶妙なシーンでスチルが挿入されます。上でも書いたデフォルメ絵の演出も商業的であり、プレイ本数の多い方であればどこかで見たことがある展開だなと思うかも知れません。同人ビジュアルノベルにおいて商業的という言葉は別に誉め言葉でも何でもありませんが、少なくとも私はサークルさんがそうした商業的な作り込みを意識していると思いましたし、それが達成されているとも思いました。そういう意味で、プレイしていての安心感が違いましたね。丁寧にエンディングまでプレイヤーを運んでくれる、そんな安心感がありました。スチルも人物から背景から非常に綺麗でしたし、システム周りも整っておりました。ティラノという事で少し不安があったのが正直なところですが、そんな心配は必要ありませんでした。

 プレイ時間は私で2時間30分でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。この作品は基本的に明るく楽しいボーイミーツガールですが、それだけでは物語にはなりません。起承転結、それぞれの登場人物には人には言えない秘密があり、それがこの作品の物語を動かす鍵になります。マイチュー部を通して心を通わせる登場人物達、それでも彼らは普通の思春期の学生ですので、もしかしたら皆さんも同じような悩みを持った事があるかも知れませんね。もし自分だったらどう行動するか、相手はどんなことを考えているのか、そんな事を想像しながら読むのも楽しいかも知れません。何度も書いておりますが、全体として楽しい雰囲気であり安定感のある作り込みとなっております。是非一度しかない夏を彼らと一緒に楽しんでみて下さい。面白かったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<海人の人を大切にする気持ちが周りの人を動かしており、だからこそのマイチュー部だったなと思っております。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、全体的に明るい雰囲気であり最後まで楽し気な様子が印象的でした。途中、願依に起きた悲劇やメアリが経験した別れなどドラマティックな場面もありましたが、逆にそれらがあったからこそ最後の晴れやかな笑顔に繋がったのかなと思っております。悩みを理解し、それを分かってくれる人がいるという事は本当に幸せな事だなと思いました。

 当たり前の話ではありますが、この作品の主人公は海人ですので物語は海人を起点として始まります。ですが、ここまで海人が彼女たちの半生に関わっているとは思いませんでした。特にメアリについてはもはやメアリが生きるための目標そのものであり、そんな10年前の約束を果たす為に九条島にやってきたなんて驚きました。それだけ海人の事を信頼していたという事であり、複雑な家庭環境もありある意味第三者である海人くらいの立場の人の方が調度良かったのかも知れません。幼い時の病弱なイメージは無くなり、自分に自信がある晴れやかな姿は間違いなくメアリ自身の努力によるものです。ですが、その努力を下支えしたのは海人の言葉であり、その事を思い出すまでに多くの時間を費やしました。根本的には思春期の男女ですので、どれだけ取り繕っても限界があります。そうであるのなら、素直になって気持ちを伝えあうのが一番ですね。これからもメアリは海人のお姫様になるべくマイチューバーとして活躍していくのだと思います。

 幼馴染である願依の方はより深刻でした。何しろ、掛け替えのない双子の妹を失っているのですから。ここで田舎の島という設定が活きてくるとは思っても見ませんでした。田舎のイメージと言えば、伝承・家柄・閉鎖的といったものが少なからず上げられると思います。願依はある意味そうした田舎らしいものを全て受けた存在であり、それが故に一人暮らしを選び人との深いかかわりを避けておりました。そりゃそうですよね、自分が人魚伝説の存在そのものなんていう人たちと一緒に居られるはずがありませんもの。だからこそ、そんなまやかしの様な物はちゃんと言葉を交わせば一瞬で解決してしまうのです。自分と向き合い、家族と向き合った願依はやっと本当の意味で呪いから解放されたのかも知れません。再び家族が同じ家で過ごすのも時間の問題ですね。そして、そんな願依を支えたのもやはり海人でした。海人がちゃんと話を聴いてくれたからこそ、父親に逢いに行く事が出来たのだと思います。本当、海人がいてこその「myちゅ〜部!」だと思いました。

 そういう意味で、匁女が最初から最後まであの立ち位置を崩さなかった事が凄いと思いました。私というより皆さんもそうだと思うのですが、メアリ・願依とそれなりのエピソードがありましたので必ず匁女についても何かしらのエピソードがあると思っておりました。ですがそんな事は無く、先輩としてちゃんと後輩たちを導く存在でした。匁女は基本的には面白い事を好むだけのハチャメチャな先輩です。ですが、一人ひとりの事をちゃんと見ており、狙い通りか分かりませんが結果として3人を導いておりました。もしかしたら、匁女はこんな風にみんなで何かをする機会をずっと待っていたのかも知れません。何だかんだでメアリと海人が想いを告げる事が出来たのも匁女のおかげ(というより策略)でしたからね。こんな物語の結末を彩るエピソードすら匁女の手のひらの内だったなんて、もう笑うしかありませんね!

 最後、海人は自分がやりたい事のヒントを見つける事が出来ました。今まで特に何の事は無く生きてきた海人でしたが、それでも周りの人を大切にして自分が大事にしたいものを守りたいという気持ちを持っておりました。今度は、そんな海人の優しさを自分自身に使う時なのかも知れませんね。映像技術を学ぶためには絶対に島の外に出なければいけません。技術の発達でオンラインでも出来るのかも知れませんけど、やはり生の人と会話をする事が一番です。その時が来るのはもう少し先ですので、まずはマイチューバーメアリの下で馬車馬のように働くんですね。もしかしたら、海人の人生はここを起点として動くかもしれませんからね。ありがとうございました。


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