M.M 蟲ッ刻 第一章【孵】




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 7 - 75 2〜3 2016/2/8
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<とりあえず何も分からなくていいから最後まで読め。そして第二章を渇望せよ。そんな声が聞こえてきそうです。>

 この「蟲ッ刻 第一章【孵】」は同人サークルである「ヨツツジエコー」で制作されたビジュアルノベルです。ヨツツジエコーさんの作品では過去に「蟲ノ目」の方をプレイさせて頂き、独特のデフォルメされたキャラクターと中二心をくすぐる蟲の設定、そして驚きが驚きを呼ぶ怒涛の展開に非常に興奮してプレイした事を覚えております。蟲ノ目の発表から暫くは即売会を始めお見かけする事がありませんでしたが、C89にて久しぶりにお会いすることが出来今回レビューしている「蟲ッ刻 第一章【孵】」を手に入れる事が出来ました。蟲ノ目同様のデフォルメされたキャラクターに懐かしさを覚えつつ、今回はどのような展開になるのか楽しみにしながらプレイを始めました。

 メインとなるキャラクターは姫子(きこ)、心魅(ここみ)、奈々々(ななな)の3人の大学生です。そして舞台は本州から遠く離れた絶海の孤島である「神ッ刻島」です。3人は夏休みを利用してこの都会の喧騒から遠く離れた島にバカンスに来ておりました。広大な自然に美味しい食事、時の流れそのものがゆっくりな島で自由気ままに時を過ごす3人。ですがこの島にはとある伝承が息づいておりました。それは「二十五日様」という神様の存在。毎月二十五日には島の人は誰も外に出ることはありません。何故なら、二十五日様を見た人は必ず死んでしまうからです。ですがそんな恐ろしい伝承も3人にとっては興味の対象。それでも島の人の言いつけを守り何事もなくバカンスは終わるはずでした。……いやいや、何事もなく終わるはずがありませんでした。3人はまるで運命であったかのように島の伝承に巻き込まれてしまいます。果たして二十五日様とは何者なのか。そして3人の運命はどうなるのか。自由に妄想しながら読んで欲しいですね。

 最大の特徴はもう見たまんまですね。デフォルメされたキャラクターは蟲ノ目と同様で、伝奇系の設定に非常にマッチしております。物語を読み進めていけば分かりますが、タイトルにあります通りこの作品には「蟲」と呼ばれる異形の者が登場じます。この蟲ですが想像以上に異形でして、人間的な価値観で立ち向かおうとしても全く歯が立ちません。常識外の存在だけにそれだけ圧倒され、いつの間にか魅了されていると思います。そんなファンタジーな存在にこのデフォルメされたキャラクターが実に相性が良いんですよね。この作品はファンタジーであり異能伝奇系であるという事を全身で表現しております。まずはキャラクター描写に慣れ、人物に慣れ、そして設定に慣れてください。いつの間にか蟲ッ刻の世界にのめり込んでいると思います。

 そしてこの作品はミステリーです。物語開始から僅かずつですが伏線を匂わせる描写が登場していきます。そしてその僅かな伏線が綻びとなり、次第に修復できなくなるくらい大きな穴になっていくと思います。何故この時彼女はこういう行動をとったのか。あの時見えた景色は何だったのか。そして3人以外に登場してくる人物はそれぞれ何者なのか。いったいこの神ッ刻島という決して大きくない島に、どれだけの思惑が混在しているのか。考えれば考えるほど分からなくなると思います。勿論まだ第一章ですので謎は謎のまま終わります。ですがそうした小さな疑問点もいつかきっと明らかにされる時が来ると信じております。まずは真っ直ぐに終わりまでプレイし、圧倒的な世界感に浸ってみてください。

 プレイ時間は私で2時間30分程度掛かりました。とにかく先が気になってクリックしていたらいつの間にか終わってました。そして何も分からないまま呆然としてしまいました。確かに第一章ですので謎は謎のままでいいのですが、余りにも唐突すぎで何が謎だったかすら分からなくなってしまいそうです。ですがそれこそがヨツツジエコーさんの狙いなのかも知れません。とりあえず何も分からなくていいから最後まで読め。そして第二章を渇望せよ。そんな声が聞こえてきそうです。皆さんも私と同じように第二章を求める難民になって下さい。一緒に悶々しましょう!そして全員でこの作品のゴールまで走り抜けましょう!


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<姫子には今度こそ、ポジティブな気持ちで王蟻と出会い手を取って欲しいと思いました。>

 突然ですけど、私「闇落ち」って実はかなり苦手なんです。悪堕ちはそれ程苦手ではないんですけど闇落ちは結構心にズッシリと来るんです。一般的に悪堕ちは外的要因によってダークサイドに落ちてしまう事で、闇落ちは自らの意思でダークサイドに落ちてしまう事です。そうです。私が闇落ちが苦手な理由は、自分の意思でこれまで持っていた価値観や常識を捨ててしまい過去に私が知っていた存在がいなくなってしまう事を寂しく思ってしまうからなんです。

 まるで誰かの手のひらの上で踊らされているかのように離れ離れになってしまった3人。そして王蟻との出会い。姫子にとって余りにも突然の展開で始めはただ逃げ出したいと思うだけでした。ですが王蟻が持っている寂しい・悲しい・悔しいといった負の感情、そしてそんな負の感情の象徴である二十五日様、その姿はかつての自分の姿に重なるものでした。思い出してしまったんですね。大学デビューして過去の自分を捨て去ったと思っていたらそんな事はありませんでした。そしてそんな負の感情に当てられて王蟻や二十五日様に同調してしまい、気が付けば自分の意志で蟲付きになる事を選んでました。もはや体はボロボロで戻るに戻れない状態、そんな姿すら嬉しく思っていたのかも知れません。かつての大学生だった姫子は、この時確かに死んでしまったのです。

 冒頭で何が言いたかったのかと言いますと、私は姫子は闇落ちしたと思っているという事です。実際のところ姫子を闇落ちと呼ぶかどうかは色々と意見が分かれると思います。そもそも蟲を悪と考えているのは人間だけであり、もっと広い視野で考えれば蟲の存在が逆に人間をここまで発展させたと言えます。そんな蟲に傾倒する事は果たして悪でしょうか。蟲付きになって、結果人間社会を離れ壊す事になってもそれは悪い事なのでしょうか。そういった善悪の考えは自分がどの立場で物を言っているかで決まりますので、蟲の立場で言えば姫子の行動は正義なのかも知れません。それでも私が姫子が闇落ちと言い切るのは、姫子が蟲付きになる事を選んだ動機が余りにも悲しく後ろ向きだからです。

 姫子が王蟻や二十五日様に同調したのは、自分が捨ててしまいたかった暗い過去にそっくりだからでした。過去の自分を乗り越え友達に囲まれた生活をしたいと思っていた姫子、ですがそのポジティブな気持ちは結果として同じく自分のネガティブな気持ちに負けたのです。加えて自分の親友であるミコもナナも死んでしまったという事実が後押ししました。傍から見れば負の感情を持っている王蟻や二十五日様に手を伸ばせる優しい少女ですが、動機や境遇が余りにも不遇で悲しくなってしまいました。そんな気持ちで蟲付きになったからなのでしょう。後半最後に忌神楽の手によってわけのわからないままに死んでしまいました。何故姫子は死んでしまったのでしょう。忌神楽が強かったから?それもあるでしょうが、やはり友達を信じられなかった負の気持ちがあったからなのだと思っております。

 この作品は異能×伝奇系バトルミステリーですので第二章以降もそうした蟲付き同士の戦いが行われるのだと思います。姫子が過去の自分に負けず王蟻を跳ね返る展開が待っているとは思えません。ですが願わくば、もっとポジティブな気持ちで王蟻を受け入れて欲しいと願っております。一緒にいてあげるだけではなく、自分が包み込んで解決してあげるくらいの気持ちが見たいのです。ネタバレ無しでも書きましたがまだ第一章です。事実関係も他の2人がどうなったかも分かっておりません。まずはそういった事柄を把握し、その上で姫子に再び選択が与えられるのを祈っております。


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