M.M マルベリーの花




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 5 6 68 1〜2 2019/5/26
作品ページ サークルページ



<でじたるきゃっとさんらしい「登場人物が動かしていく物語」を楽しんでみて下さい。>

 この「マルベリーの花」という作品は、同人サークルである「でじたるきゃっと」で制作されたビジュアルノベルです。でじたるきゃっとさんの作品は、これまで「リトルウィッチ×コンチェルト!」「スノーフレークのため息」の方をプレイさせて頂きました。でじたるきゃっとさんの作品の特徴として、ヒロインを始めとした登場人物の行動があると思っております。ヒロインの性格やキャラクターは作品によって様々ですが、共通しているのはヒロインが物語を動かしていくという点です。そして、そんなヒロインの姿を見て自分も負けていられないと奮闘する主人公も魅力です。登場人物を動かす事で物語が動いていく、そんな王道的な展開を楽しませて頂いております。今回レビューしている「マルベリーの花」も、やはり主人公とヒロインのキャラクターが物語を動かしていきます。今回どのようなヒロイン像を見せてくれるのか楽しみにプレイ開始しました。

 舞台は、戦争が日常的に起きている西洋を舞台とした現代の物語です。ここでは大人だけではなく子供もまた戦闘要員として駆り出されております。主人公であるニースもまた、少年兵として人を殺す生活を送っておりました。幼くして両親を失ったニースにとって、人を殺す事に何も思う事は無かったのです。そんなニースが受けたレイド作戦、それはとある小さな集落の人間を一人残さず殺すという物。ですがそれもまたニースにとっては普通の日常だったのです。ですがその日は違っておりました。殆どの住人を殺し最後の一人となった少女ヒルデ、彼女を殺そうとした時に過去の記憶が突然蘇りました。自分と似た境遇になってしまったヒルデ、せめて彼女だけは戦争に関係ない生活を送らせたい。気が付けばニースはヒルデを連れて軍を抜け出しておりました。当てもなく彷徨うニースとヒルデ、ここから2人の愛の物語が幕を開けます。

 公式HPの中で、この物語には「魔法」も「奇跡」も存在しないと書いております。その言葉通り、銃で撃たれれば人は死にますし軍という組織から抜け出したニースが安寧な場所を見つけるのは非常に困難です。ですが、その代わりにこの作品には確かな「愛」があると書いております。名声や金がない男女が持ち合わせる事が出来るもの、それは本当に愛くらいしかないのかも知れません。血が繋がっていないニースとヒルデですが、その姿はまるで本物の兄妹の様で誰もが2人の幸せを応援したくなるようでした。2人の間にある愛とは家族愛の事でしょうか?そうであるのなら、家族とはどのような存在なのでしょうか。まだまだ若いニースとヒルデです。その答えは、是非時間を掛けて見つけて欲しいと思っております。とにかく、2人の心の揺れ動きと変化する情勢に注目してみて下さい。最後どのような結末になるのかを見届けられるのは、プレイヤーであるあなたしかいないのです。

 その他の点についてですが、この作品はボーカル曲があり加えて主要人物はフルボイスです。OP曲とED曲はとても優しいサウンドで、2人の間にある愛情がどんな色なのかを感じる事が出来ます。何よりもフルボイスですので、如実に登場人物の心理状態を伝わります。システム面については、基本操作は特に支障ありませんが用語リストやコンフィグを開いた時に注意が必要です。画面を閉じる際に右上の「×」印を押すのですが、誤ってちょっと上にポインタがズレるとウィンドウの「×」印を押してしまいゲームそのものを落としてしまいます。この作品はティラノスクリプトですので、ウィンドウの「×」印を押すと何も警告が無く落ちてしまいます。まあ私はおっちょこちょいだったという話ではありますが、念のため記しておきます。

 プレイ時間は私で1時間55分でした。この作品は章に分かれておりまして、どのタイミングが区切りなのかハッキリしております。サークルさんの想定プレイ時間は3時間ですので、章と章の間で休憩を取るなどのんびりプレイされるのが良いと思います。ニースとヒルデの冒険は思ったよりも長いです。プレイ時間的には大したことないように思えますが、場面転換は多いですし何よりも2人の気持ちの変化もまた複雑です。急ぐ必要はありませんので、是非折角のボイスを聴きながら一文一文読み進めていってみて下さい。「魔法」も「奇跡」も存在しない、だけど確かな「愛」が存在する物語です。簡単ではない何かが待っている予感を信じてみましょう。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人の印象は出会ったその時から始まる。後は、あなたの努力次第でどうにでもなる。>

 ニースが自分の両親を殺した犯人だと知ったヒルデですが、憎しみの気持ちを持とうと思っても持つ事は出来ませんでした。むしろ、憎しみの気持ちを持とうとすると胸が苦しく、それがニースに対する愛情の証拠である事に気付きました。ニースが行った事は決して許されない行為、ですがそれ以上にそれまでニースと触れあってきた時間は掛け替えのないものだったのですね。

 実を言いまして、私はこの作品をプレイして「     聲の形     」(ネタバレにつき反転)というアニメを思い出しました。そしてそのアニメの感想を日記に書いたのですが、その内容の一部がまるっきり同じだなと思いました。以下、その部分を抜粋します。(原文をご覧になりたい方は、アニメのタイトル名を日記で検索してみて下さい)

--------(以下抜粋)--------

 どんな人にも長所と短所があります。そして消し去りたい過去を持っていると思います。もしあなたが現在生活している中で会話している人が、友達が、実は過去にいじめっ子だったと知ったらどう思いますが?許しますか?許しませんか?私の場合は、ただ戸惑うと思います。そんな事聞かされてもどうするの?って事です。何故なら、今その人はいじめっ子では無いからです。そんな自分の知らない過去を聞かされても関係ありません。人の印象は、自分が出会ってからがスタートでそこからの積み重ねだと思います。そういう意味で、小中学校のいじめっ子は今でも大嫌いです。どんなに真人間になったとしても、自分は絶対に会おうなどと思いませんね。そんな風に、自分が自分の抱える弱さを自覚したのなら、その瞬間から変えようと努力すれば良いのではないかと思います。

--------(以上抜粋)--------

 ニースはヒルデの両親を殺しました。例え事情を知らなかったとはいえ、人として許されない事をしました。ですが、ヒルデはそんな事は知らなかったのです。ただ突然不幸がやってきた、それを目の前のお兄さんが拾ってくれた、その後何年も守ってくれた、それだけです。過去にやった事を暴露して懺悔するなんて、それは加害者の自己満足だと思っております。やってしまった事実は消えないのですから、後はその事を噛み締めて今の自分に何が出来るのかを考えて行動するしかないと思います。その行動がどう映るのかは、あなた次第です。許されれば許されますし、許されなければ許されません。それだけだと思います。

 ヒルデの心に残ったのは、ニースに対する愛情だけでした。それは、恋愛もありますが家族愛・兄弟愛と様々な愛が混じっておりました。そしてヒルデが最後にやりたかった事、それはニースに謝りたいという事でした。人殺しと言ってごめんなさい。酷い事を言ってごめんなさい。大切な人だから謝りたい、こんな気持ちを持てる人を憎む必要などないと思います。この作品は、ヒルデが死亡率の高い病気に掛かってしまい最終的には死別してしまう展開が特徴です。公式HPに書いてあった通り、「魔法」や「奇跡」など存在しません。ですが、人間は遅かれ早かれ死んでしまいます。そんな限りある生の中で、ヒルデは自分が言いたかった事を言えたのです。色々な出来事がありましたが、彼女にとって幸せな生涯だったのだと信じております。

 マルベリーの花言葉は「カノジョの全てが好き」「知恵」です。そして、実が熟し黒く染まったマルベリーの花言葉は「私はあなたを助けません」「あなたより生き延びる」だそうです。最愛の人が死んでも愛し続ける、マルベリーにはそんな情熱的な意味が込められておりました。両親を殺され生きる意味を失ったニース、そんな彼はヒルデに出会う事で人間らしい感情を取り戻し、彼女の為に生きようと決意しました。その愛情が朽ちる時まで、ニースは生き続けるのだと思います。この先ニースにはどのような出会いが待っているのでしょうか。ヒルデに向けた愛情を忘れずに、死ぬその瞬間まで前を向いて歩いて欲しいと思いました。ありがとうございました。


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