M.M もみじ色の子どもたち
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 5 | - | 62 | 〜1 | 2018/8/18 |
作品ページ | サークルページ |
<暗い雰囲気で統一された世界観で生きる少女から、思い出の大切さを受け取って下さい。>
この「もみじ色の子どもたち」という作品は、同人サークルである「KITY」で制作されたビジュアルノベルです。KITYさんの作品は過去に「学級日誌」という作品をプレさせて頂きました。シンプルなタイトルに緑が一面に広がった爽やかなジャケットでありながら、人間の弱さに向き合う厳しくも心に残るシナリオが待っておりました。今回プレイしている「もみじ色の子どもたち」は、そんな「学級日誌」のパッケージ版に同梱されていた作品です。順番的には先に「もみじ色の子どもたち」を制作されたみたいで、また人生観を語るシナリオが読めるのかなと期待してプレイし始めました。
主人公である優生は人を殺します。ですが、それは自分が生きる為に仕方がなく殺すのです。今日もナイス・パーソンの目を避けながら、水とクスリを求めて人を殺し続けます。ある日、優生は1人の女の子と出会いました。名前は百合子と言います。自分を見た者は生かしておけない、それは百合子も分かっておりました。それなのに百合子は何も抵抗しないのです。そして、そんな百合子を優生は奇妙に思いました。いつでも殺せるから、そんな免罪符と共に優生と百合子のほんの些細なエピソードが幕を開けるのです。
全体的に非常に暗い雰囲気が支配しておりました。勿論、その暗い雰囲気こそがこの作品の魅力ですので、それが徹底されていたのが良かったかなと思います。システム周りは最低限の要素が揃っており、テキストを読む分には何も支障はありませんでした。他にも印象的なセリフやフレーズが沢山あり、メモを見返したらプレイ時間に対してかなり多くの言葉が積み上げられておりました。シンプルながらも言いたい事が凝縮された作品だと思いました。
プレイ時間は私で40分程度でした。選択肢はなく、1つのエピソードのみですので最後まで一気に読めると思います。また、この作品は現在フリー公開されております。そしてそちらには立ち絵などの素材が揃っておりますが、学級日誌に同梱されているバージョンには立ち絵やタイトル画面はありません。それでも、立ち絵はフリー素材を使用しておりますので玄人プレイヤーであれば立ち絵は無くても問題ないと思いました。テキストがしっかりしており言いたい事が伝わりましたのでそれで十分でした。それ以外の何かを求めるのは、少し厳しいかも知れません。ちょっとした時間で何か物語を読みたいといった方にオススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<たとえちっぽけな思い出でも、必ずや掛け替えのない物になると思います。>
紅葉の花言葉は「大切な思い出」だそうです。人間、多かれ少なかれ、良いも悪いも、生きていれば必ず思い出を持つと思います。その思い出を抱え自分のものにする事が出来れば、人は生きていけるのでしょうか。
自由に生活していたのが一変、ナイス・パーソンという上位の存在によってその全てが奪われました。ディストピアの中で出来る事は、ただナイス・パーソンの顔色を窺って機嫌を損ねないようにするだけでした。顔色を窺う、だからと言ってそれを決してナイス・パーソンがちゃんと判断を下すわけではありません。優生の父親が殺され妹が居なくなったのは他ならる周りの人が忖度した結果でした。ここまで命が軽くなった世界で、笑う事など出来るはずがありませんね。笑顔など必要ない、必要なのは水とアリス・マジックのみ。その事は、優生はもちろん百合子も理解しておりました。
百合子もまた、この世界には先が無い事は分かっておりました。僅かな食料と水を身体を使って手に入れる生活、それももう限界に来ておりました。百合子・ユカ・カエデが死んでしまうのはもう時間の問題、それでも百合子は決して悲しい顔をしてはいませんでした。百合子には既に大切な思い出がありました。それが分かったから、もうこのディストピアな世界で生きる事に未練が無かったんですね。そして最後、もしかしたら自分が信頼できる人に殺してもらえるかもしれない。そんな事さえ優生には期待したのかも知れません。
優生は最後、百合子・ユカ・カエデを殺しました。ですが、それは決して悲しい別れではありませんでした。百合子は死に場所を求めておりました。そして最後に出会った優生と、思い出を作る事が出来ました。「笑えてるわよ、あなた」このセリフが大切な思い出を作る事が出来た証ですね。こんなちっぽけな思い出、ですがそれさえあれば決して寂しくはありません。優生にこの際待っている未来は決して明るいものではないでしょう。すぐにでもナイス・パーソンに殺されるかも知れません。ですが、もう大丈夫です。優生は確かに大切な思い出を手に入れたのですから。皆さんも、ちっぽけで構いませんので何か大切な思い出を見つけてみては如何でしょうか。それが、必ずや掛け替えのない物になると思います。ありがとうございました。