M.M モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 81 1〜2 2020/10/4
作品ページ サークルページ



<非常に丁寧に作られた雰囲気の中で、恋愛というものを改めて考えさせられるシナリオが待っております。>

 この「モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?」という作品は、同人サークルである「かぷりそふと」で制作されたビジュアルノベルです。かぷりそふとさんの作品は、過去に「夕凪のスノードロップ」の方をプレイさせて頂きました。この夕凪のスノードロップは私にとって非常に運命的な作品でした。何故なら、主人公像が完全に自分と一致していたからです。先を読まなくても主人公が何をするか分かる、こんな感覚は初めてでした。レビューもレビューらしいものではなく、自分自身をどう評価するかという究極的に恣意的なものを書いてしまいました。そんな非常に心を揺さぶってくれたかぷりそふとさんの新作が、今回レビューしている「モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?」です。作風的に夕凪のスノードロップの様な運命感を味わう事は無いと思いますけど、これだけシンクロした作品を作るサークルさんの作品であれば是非プレイしたいと思い始めました。

 主人公である日比谷遙真(ひびやはるま)は、どこにでもいる普通の高校生です。遙真には、幼い時に苦い経験をしておりました。それは、密かに恋心を抱いていた女の子に想いを伝える事が出来ずに離れ離れになってしまった事です。告白しようとしたらその子は逃げるように遙真の傍から離れていってしまいました。この事がトラウマとなってしまい、遙真はそれから恋愛になかなか積極的になれずにいました。それでも人当りが悪い訳ではなく、本当に普通の男子高校生です。物語は、そんな遙真が高校生になり同じ図書委員のクラスメイト高城光太郎や後輩である白崎未空(みく)と花見をするためにとある公園に来たところから動き出します。この公園はまさに遙真が過去に苦い経験をした公園、そこに1人の女の子が佇んでいました。微かに残る面影が遙真の心をザワつかせます。そんな女の子が、転校生として遙真の前に現れたらどうなるでしょうか。これは恋をする事の大切さを訴えたどこにでもあるありふれた物語です。

 世の中、見渡せば必ずと言って良い程恋愛を取り上げたものが目に留まります。それだけ、恋愛は私達人間にとってありふれたものであり同時によく分からないものです。何故恋愛をするのか、恋愛はしなければいけない物なのか、恋愛をすると幸せになるのか、恋愛しない方が幸せなのか、こんな様々な問い掛けに対して誰もが答えを見つける事が出来ていません。何故なら、それが恋愛だからです。恋愛は人の数だけ存在します。世の中に恋愛を取り上げた物語や音楽が溢れているのはその為です。ただ、自分の内なる感情が表に溢れているのです。だからこそ辛く苦しい、それでも恋愛している時間は振り返れば尊いものであればいいと誰もが願っております。ですが今作の主人公である遙真は恋愛至上主義には反対の様です。一度恋愛で辛い目にあっているからですね。それも一つの答えだと思います。果たして遙真はこれから恋愛するのでしょうか。懐かしの公園で出会った女の子は、遙真にとって運命の相手なのでしょうか。是非彼らの行動を通して自分の恋愛経験や恋愛観を考えてみては如何でしょうか。

 とまあこんな感じで作品紹介を書いてみましたが、白々しいですね。何故なら、この作品のタイトルは「モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?」なのですから。今までの流れ的に、懐かしの公園で出会った女の子はモブではありません。主人公くんはきっと遙真なのでしょう。では、このモブとは誰なのでしょうか。上で登場した後輩である白崎未空でしょうか。それともまだ登場しない女の子でしょうか。そもそも女の子でしょうか笑。この辺りは是非プレイして確かめてみて下さい。最後までプレイし全てのエンディングを見た時に、きっと何か恋愛についての答えが提示されると思います。恋愛は誰でもするものですからね、勿論モブでも恋愛するでしょうしね。後は、その恋愛が物語になるのかどうか、そして実るのか実らないのかは本人次第です。そんな感じで少し俯瞰しながら読むのも面白いかも知れません。

 その他の要素ですが、全体的に丁寧に作り込まれております。背景は場面に合っているのは勿論、ゆっくりと動かしてみたり拡大縮小を使い分けていたりとシナリオに合わせて変化させております。非常にスムーズで違和感を感じませんでした。BGMは決して激しい曲や目立つ曲がある訳ではないものの心を落ち着けてくれるサウンドばかりで心地よいです。個人的には、BGMよりも効果音の方が印象に残りましたね。まずは起動した時のサークルロゴ登場時から魅せてくれました。そしてこの作品には声がありボーカル曲があります。やはり声があると登場人物に対する愛着は一入ですね。主人公以外全員に声がありますので、是非そこも含めて登場人物の事を想ってみて下さい。ボーカル曲はBGMと比較して割と乗りやすいポップな曲でした。学園物らしい明るい雰囲気がピッタリですね。プレイしていてストレスなく読み進める事が出来、テキストに集中出来る程度の演出がお見事でした。

 プレイ時間は私で1時間45分でした。選択肢は幾つかあり、それによってエンディングが別れます。この作品、1つのエンディングを迎えると選択肢のヒントを表示する機能が追加されます。これがあれば誰でも絶対に迷わず狙ったエンディングにたどり着く事が出来ます。昨今はビジュアルノベルに選択肢が無いのは当たり前になっており、そうしたニーズに応えた素晴らしい仕様だと思いました。登場人物は可愛いですし、作品に余裕がある感じが伺えます。他の同じ程度のプレイ時間タイトルと比較してきっと長い製作期間が掛かったのではないかと勝手に想像してしまいます。是非そんな細部にまで拘った雰囲気作りを確認してみて下さい。そして、忘れてしまった恋愛に対する想いを蘇らせてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。














































<結局のところ、モブでいるかメインになるかを選ぶのは本人自身なんだなと思いました。>

 物語最後、遙真は自分の事を「どうしようもないロマンチスト」と言っておりました。正直、凄く分かると思ってしまいました。恋愛に対して、やっぱり理想と言いますかこうあって欲しいという願望はあるんですよね。そして、そういう理由が無いと恋愛として成立しないと思う部分もあるんですよね。運命的と言いますか、タイミングピッタリな出来事が起きるとテンション上がりますもの。ですけど、そんな事って滅多に起きませんしこれがいわゆる「恋に恋する」という事なんだと思います。そんな、恋愛のあるあるを沢山見させて頂きました。

 プレイしてみて、割と早い段階でこれは白崎未空の物語なんだなと分かりましたね。当たり前のように傍にいる唯の後輩なのに、明らかに出番が多いんですもの。設定上のメインヒロインは綾瀬栞です。ですけどこの作品でのメインヒロインは間違いなく白崎未空、この瞬間モブは実はメインでありメインが実はモブなんだと思いました。タイトルで言っているモブは、実際のところ綾瀬栞なのではないかと思っております。結局のところ、恋愛でもサスペンスでも立場が変われば結末やジャンルが変わるだけで誰でも主人公になり得ます。もし高城光太郎が実は白崎未空が好きで、そして主人公が高城光太郎だったらこの作品は一気に失恋もの、18禁だったらネトラレ物に代わってしまいます。結局のところ、トゥルーエンディングが未空である以上モブは未空ではないというのが自分の結論です。

 いや、そういう観点で言えばサブエンディングとして綾瀬栞ルートも存在します。ちゃんとルートが存在しているのであれば、綾瀬栞をモブと呼ぶのはあまりにも雑です。となりますと、消去法でこのモブに当たるのはプチ・カプリーヌでバイトしている先輩の高梨さんでしょうか。ああ、何となくしっくりときました。モブは間違いなく高梨さんですね。年の離れた先輩として一線を引いて見守っていた高梨さん、ですが彼女こそある意味一番近い立場で遙真の事を見ていたんですよね。そして、間違いなく遙真に対して恋していた事が分かりました。それなのに、高梨さんルートがあるどころかそもそも本名すら明らかにされていないのです。ああ、確かに遙真が主人公のこの作品において高梨さんはどうしようもなくモブです。冷たい言い方をすれば外野、始めから遙真との恋の土俵には立っていなかったんですね。とまあそんな風に考えてみるだけで、このタイトルに意味が見えてくるという物です。

 結局のところ、自分の事をモブと思っているうちは恋は成就しないというところが本当なんだろうなと思います。好きな人がいて、その人に何も行動せずにただ見ているだけで恋が実る可能性は殆どありません。行動して会話して、少しでも相手の事を分かろうとしないと意識できないからです。片想いしている人が主人公になる事は出来ますが、その想い人にとって主人公はただのモブです。これも、立場が変われば人は主人公にもモブにもなってしまうという事なんだろうと思います。自分にとっての主人公は自分しかいません。ですが、相手にとって大事な人なのかモブなのかは行動しないと変化しません。もちろん行動した事によってモブから脱出できるとも限りませんし、場合によっては悪役になってしまうかも知れません。そんな感じで、モブから脱出しようとする行動の繰り返しの果てにもしかしたら恋が成就するシナリオが待っているのかも知れませんね。

 「モブだけど、主人公くんを好きになってもいいですか?」と問われれば、その回答としては「お好きにどうぞ」という事なんだろうと思います。主人公を好きになるのは自由です。ですけどその好きを自分の目指す形にするのは、あなた自身なんだろうなと思いました。そこで行動した時、あなたはいつの間にかモブからメインになっているかも知れません。恋が突然やってくるように、そしてそれに気が付かないように、モブも気が付かないようにメインになっているのでしょうね。本当、恋って分かりませんね。答えなんてありませんし成就するものかどうかも分かりません。せめて、自分も含め皆さんには後悔の無いような恋をして欲しいなと思いました。そして、モブでいるならモブのままで、モブからメインになりたければその想いが成就する事を祈って、今回のレビューとさせて頂きます。ありがとうございました。


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