M.M 三ツ者の微笑




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 7 7 89 8〜11 2013/1/5
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<史実に忠実な圧倒的にストイックで丁寧なシナリオに感動しました>

 この「三ツ者の微笑」という作品は同人サークル「Effort」で制作されたサウンドノベルです。私が初めて知ったのはC83で同人ゲームの島サークルを回っているときだったのですが、昨今よく見かける非日常的日常な学園ものですとか近未来設定の終末ものですとかそういった流行ではない正当な歴史ものをテーマにしたサウンドノベルという事で目に留まりました。感想ですが、正直圧倒的な歴史的裏付けに基づいたストイックなシナリオに感動してしまいました。

 この作品に登場するヒロインは戦国時代の有名武将である武田信玄の五女である松姫です。主人公は千曲という名の架空の忍びなのですが、この千曲が仕える人物が武田家家臣の重鎮である秋山信友でありその銘により松姫と出会う事になります。以上の点からも分かります通りこのシナリオは実際に起きた歴史上の出来事になぞらえて書かれており、歴史に矛盾の無いように物語が展開されております。私はあいにくそこまで歴史に詳しいわけではないのですが、史実に基づいたシナリオですので武田家とその周辺を取り巻く状況について理解する事が出来ました。

 とにかく凄いのがシナリオライターの圧倒的な歴史に対する認識力です。史実をもとにしているので実際に起きた合戦や領土侵略などについても本当に歴史通りに書かれているのですが、まるでNHKの大河ドラマを見ているような登場人物のリアルさに驚きました。当時は戦国時代、武士は家臣に対して忠誠を誓うものでありそれが出来なければ切腹という忠義に誠実な世界でした。それは武士のみならず武田家ゆかりの物であれば当然家に対して忠誠を誓うものです。そういった現代社会では見る事が出来なくなった日本人らしい誇り高い様子が表現されておりました。これは何よりもシナリオライターが正しく歴史を認識していることの表れでありますし、当時の人物がどのような事を思ったのだろうという事に思いをはせる事が出来ているということです。

 非常にストイックなシナリオでした。当然ギャグや萌え要素は一切ありません。あくまでリアルに拘ったサウンドノベルでした。ですがここまでストイックに歴史に拘ったサウンドノベルは初めてであり、他では読む事のない唯一無二の文章だと思いました。サークルの真剣さが伝わる作品でありましたしこういったスタイルの作品が今後もたくさん出て欲しいと素直に思いました。そんなストイックな文章で描かれる主人公と松姫の愛の物語です。ネタバレになりますので中身は言えませんが、人によってはハンカチを用意してプレイした方が良いと思います。

 この作品は全部で6つの話で構成されており、それが3枚のディスクに分割されて発売されておりました。コミケの単位で新作が発表されていき、今回私が知ったC83のタイミングで全6話が出揃ったという事でタイミング的にもバッチリでした。ちなみに各話が終わってからは毎回次回予告が入っております。次回作の登場人物のセリフがハイライトで流れていき、その当たりの演出もこだわっていると思いました。後は背景などは実際にモチーフになった風景を撮影してそれを加工したものの様です。文章のみならずそういった素材にまで拘っておりますので注目するべきポイントは非常に多いです。現在即売会の中でのみ入手できるようですが、是非万人にプレイしてい貰いたい作品ですね。感動しました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<どんなに辛くても、死んだ者たちの為に生き続けなければいけないんですね>

 感動しました。正直泣きそうになりました。千曲の不器用ながらも人として武田家や松姫を愛する気持ちや、自分の思いを押し殺しても武田家の為に忠義を尽くす松姫の気持ちに心打たれました。こういった日本人らしい忠義に誠実な世界は心のぶつかり合いであり、否応なしにプレイヤーの心を震わせます。

 歴史を知っている人ならばもうプレイする前からこの物語は悲劇しか待っていない事が分かっていると思います。最終的に武田家は滅亡しヒロインである松姫は尼として出家する未来が確定しております。さらに主人公である千曲は三ツ者という忍びです。忍びというものは表舞台に姿を現すことは許されず、ましてやヒロインとあまりにも身分が違いますのでどんなに本人たちが望んでも一緒に余生を送るエンディングはあり得ないと思うでしょう。私もそんな悲劇が描かれるのかなと思いハラハラしながらプレイしてましたが、それだけに最後に韮崎の桜の木の下で再開したシーンは素直に嬉しかったですね。

 この物語のテーマは主人公である千曲の人としての心の成長だと思います。幼いころに家族を殺されその後は三ツ者として心を殺して修行する日々を送りました。そんな中で出会ったヒロインである松姫は主人公に対して忍ではなく人として接し、無邪気な愛情を注いでくれます。それが故に千曲は忍としての自分に自信を失い一時は松姫のところから離れますが、忍である以前に人であるという教えで迷いを振り切り最終的に武田家と松姫の為に忠義を尽くすわけです。そんな主人公の心の移り変わりを全6話使って表現されており、実際の歴史上の出来事の中で矛盾なく表現してくれました。

 正直千曲と松姫はどのような結末を迎えるか予測が出来ませんでした。やはり千曲は忍という事で武田家及び松姫の為に命を落とすのか、命は落とさなくても二度と2人は再開することは出来ないのか、再開して慎ましくも幸せな余生を過ごすのか、様々な予想が頭の中を巡りました。ですが正直これらどのエンディングになっても問題ありませんでした。個人的にはハッピーエンドであってほしいと思いますが、こればっかりは本人達の気持ち次第ですのでそれを純粋に尊重したいと思えました。それ程までにこの作品のシナリオには説得力があり、プレイヤーを納得させる力があると思います。

 そしてエンディングですが、どんなに辛くても死んだ者たちの為に生き続けるという結末でした。武田家は松姫を含め生き残った人物は殆どおりません。それは最後まで家臣の元につき死を共にするという人物が多かったからです。ですが千曲と松姫にはそんな生ぬるい事は許されず、全ての出来事をこの目に焼き付けその語り部になりながら供養していく余生を選びました。辛いですね。家系の物や信頼のおける者たちが皆死んでしまったのに自分は死ぬことは許されない訳ですからね。ですがそんな辛い人生を選択してこその千曲と松姫だと思いました。戦乱の中であった2人、この2人が再開し余生を共に過ごせるというエンディングだけで個人的には大満足です。タイトル通り三ツ者の微笑を取り戻す物語でした。ありがとうございました。


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