M.M 世界には不思議が多い




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 - - 54 〜1 2017/11/24
作品ページ(無し) サークルページ(無し)



<テキストに優しさを感じる、サークルさんの真摯な気持ちが込められた作品です。>

 この「世界には不思議が多い」という作品は同人サークルである「マンヂョバストネートイ」で制作されたビジュアルノベルです。マンヂョバストネートイさんと初めて出会ったのはCOMITIA122で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。COMITIAは年4回開催される創作オンリーの即売会なのですが、全体の割合として同人ゲームのサークル数は少なめであり、必然的に全てのサークルさんをじっくりと回ることが出来ます。COMITIA122でも1つ1つのサークルさんをじっくりと回らせて頂いている中でマンヂョバストネートイさんと出会いました。何も印刷されていない簡素なレーベル、TwitterのIDが手書きで書かれたメモのみという作り込みです。それでもサークルさんが「プレイヤーに元気を与えたい」という気持ちで作ったという言葉が印象に残り、急いでプレイしてみました。

 主人公は4月に入社式を控えた学生です。モラトリアムの終わりを目前に控え、社会に出ることへの不安を抱えておりました。そしてそんな主人公をずっと支えてくれたのは父親でした。父親もまた、大事に育ててきた息子が家を出て社会人として生きていく事に不安と寂しさを感じておりました。そして、母親は既にこの世にいません。それでも父親のそばにはいつも母親の写真があり、2人で息子の事を支えてきました。物語は、そんな人生の転機を目の前に控えた2人がある不思議な出来事に遭遇するところから始まります。全ての心に不安を抱えている人達に贈る、優しい物語が幕を開けるのです。

 正直言いまして、ビジュアルノベルとしては面白みに欠けます。この作品にはBGMなどの音がありません。加えて背景も青空1枚のみで変化せず、キャラクターの立ち絵もありません。場面転換もなく、あるのはテキストの羅列のみです。そのためビジュアルノベルらしさを求める人にとっては退屈に思うと思います。ですが、この作品はノベルであり一番の魅力はテキストです。開始2分で主人公と父親の誠実さが伝わり、真摯にこの作品を受け止めなければという気持ちになる事が出来ます。何よりも、学生から社会人になるというプロセスは世の中のほとんどの人が経験する出来事です。そんな誰にでも訪れる人生の転機、その不安を払拭し元気を与えたいというメッセージが伝わります。

 プレイ時間は私で20分程度でした。選択肢もなく、本当にあっという間に終わってしまいます。ですが短いからこそ伝えたいことが明確であり、ストレートにプレイヤーの心に入ってくると思います。物語性やロジック性は確かに少ないかも知れません。可愛い女の子が出てくる訳でもありません。だからこそ、久しぶりに純粋にテキストに集中して読んでみては如何でしょうか。この作品はサークルさんの処女作だそうです。また1作目です。言ってしまえば、主人公のように初めて社会に出るようなものです。ましてや同人ゲームですので、クオリティについて言及するのに殆ど意味はありません。この作品をステップにして、是非2つ目3つ目と新しい作品が生まれる事を願っております。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<世の中って、不思議で意外とどんなことも、どうにかなるように出来てるんだよ。>


「いいや、寂しいね」


 少し自分の話ですが、私は父親とあまり腹を割って話をしないまま社会人になったと思っております。嫌われている訳ではありませんでしたが、割と放任主義と言いますか自分の進路に対して何も言うことはなかったのです。今思えは、それは自分の事を尊重してくれる優しさだったんだなと思っているのですが、それ以外にもどこか気恥ずかしさがあったのだと思っております。だからこそ、この作品の父親の様に息子に寂しいと声に出して言える関係が羨ましいと思いました。

 そしてそんな素直な2人が素直に不安と寂しさを口に出している状況を、天国の母親は心配していたのでしょうね。今自分が行かなければ絶対に後悔する、そんな気持ちがあったのだろうと思います。この作品には、人生において大切にしたい言葉が幾つも出てきました。「頑張ることがあるのなら、頑張らないとだめ」「生きるのは選択の連続で、後悔の連続」「幸せだと誇れるように」それらは全てエネルギーを使う事ばかり。だからこそ人生は輝いて幸せに繋がるのだと思っております。そんな母親からのエールは確かに息子と父親に伝わりました。家族の暖かさも感じる事が出来ました。

 最後にこの作品を象徴する言葉が語られました。それがタイトルにも書いている「世の中って、不思議で意外とどんなことも、どうにかなるように出来てるんだよ。」です。人生には無限の可能性があります。ですがその無限の可能性は良い事もあれば悪い事もあるのです。通勤中に怪我をするかもしれません。病気になるかもしれません。リストラにあるかも知れません。それでも、意外と生きていけるんですよね。失敗をして全てを失ったと思っても、そこまで歩いた軌跡は決して失いません。ゼロになったら、また一つずつ積み上げていけばいいのです。人生はそんな積み上げの連続です。そして、その先に幸せは待っているのだと信じております。ありがとうございました。


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