M.M Minstrel-壊レタ人ギョウ-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 85 8〜9 2020/5/10
作品ページ サークルページ



<人間になりたい人形である主人公ロマの成長を、宴さんらしいテキスト描写で丁寧に描いております。>

 この「Minstrel-壊レタ人ギョウ-」という作品は、同人サークルである「宴」で制作されたビジュアルノベルです。宴さんの作品では過去に「クリアレイン」をプレイさせて頂きました。宴さんは、現在はサークル活動は行っておらず商業で活動しているそうです。クリアレインをプレイした時も思いましたが、非常に読み易いテキストと人物を丁寧に描く様子がとても印象的でした。現在クリアレインは絶版でありダウンロードもなく、中古屋では数万円の高値が付いているそうです。確かにこれだけ力のあるライターさんの作品であれば納得だと思いました。今回レビューしている「Minstrel-壊レタ人ギョウ-」は、クリアレインの一つ前の作品です。実は私、このMinstrel-壊レタ人ギョウ-をフォロワーの方から誕生日プレゼントとして頂いてしまったのです。クリアレインで実績はお墨付きですし、これは嬉しいと思いプレイするのを楽しみにしておりました。

 主人公であるロマは、人形です。この世界では、人形師と呼ばれる人が作る人形が当たり前に社会で存在しております。それは見た目には殆ど人間と区別がつかない精巧なものです。それでも、人間の命令以上の行動は出来ないという点で人間と人形で明確に線が引かれております。それでも、主人公ロマは人間になりたいと強く願う人形でした。ロマは、リーベと呼ばれる銀髪の美しい吟遊詩人の少女と共に旅を続けます。リーベの素性をロマは知りません。何故ロマと旅をしてくれるのかも分かりません。ですが、そんな事はロマには関係ない事でした。ロマはリーベを守りたいと思っておりました。その気持ちだけで、一緒に旅をする立派な理由でした。それは人形が人間に服従する以上の何かを感じさせます。人間になるという夢を叶える為に、そしてリーベを守る為に、2人の結末の見えない旅は続いていくのです。

 クリアレインの時も思いましたが、宴さんの作品はテキスト描写に特徴があります。基本的なテキストはウィンドウに表示されるのですが、会話についてはまるで漫画の吹き出しのように画面にポンポンと表示されます。明確に会話と地の分を区別しており、誰が喋っているのか一目で分かるようになっております。もちろん、バックログでちゃんと読み返す事が出来ますのでそこは安心です。そしてこれも特徴なのですが、含みを持たせているテキストには文字の上に点が表示されます。読みながら「ん?」と考えさせてくれるのです。これについては人によって賛否両論かも知れませんね。「その位の伏線、自分で気付けるわ!」という強気のプレイヤーにとっては少々お節介かも知れません。実際、点の数は思ったよりも多くどれが伏線でどれがそうでもないのか、それとも全て大事なのかがちょっと間際らしかったです。ですが、間違いなく飽きさせない工夫であり宴さんらしさだと思いました。

 そして、人物描写がとても丁寧でした。この作品は、人形と人間という相容れない存在が共存する世界を舞台としております。その為、必然的に人形と人間が衝突する場面が多々ありその度に人形も人間も自分らしさというものを自信に問いかける事になります。そんな繊細で揺れ動く気持ちの変化の表現が必然だったからこそ、宴さんのテキストが光るという物です。特に主人公ロマは始めから自分の存在に疑問を持っておりますので、この作品の中で最も気持ちが安定しない存在と言えるかも知れません。Minstrelは、ある意味そんなロマの成長物語と捉える事が出来ます。私たちは人間ですが、この作品を通して人間らしさというものについて再発見出来ると思います。是非人形であるロマの視点に立ち、ロマの抱える苦悩や周りの人の苦しみなどを感じてみて下さい。もちろん、ロマ以外の登場人物についてもしっかりと掘り下げております。むしろ、ロマ以外の登場人物がいるからこそロマは変化できるというものです。上記の伏線も多数散らばっておりますので、その辺りも楽しんでみて下さい。

 プレイ時間は私で8時間40分でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。物語の大半は、ロマとリーベの旅の軌跡となっております。2人が立ち寄った場所ごとに章が分かれており、それぞれ約2時間のエピソードとなっております。また、章の中で更に幾つかの節が分かれており場面の変化が明確です。各節も20分程度ですので、休憩などを取る時はこのタイミングが調度良いと思います。タイトルにあるMinstrelの意味は作中で語れますのでとりあえず気にしないで良いのですが、その後の壊レタ人ギョウが不穏ですね。主人公ロマが人形であるという事実が、どうしようもなく苦難の道を連想させます。旅の果てに待っているのは崩壊なのでしょうか。そして、ロマは人間になる事が出来るのでしょうか。ファンタジー設定もしっかりしておりますので、そういった世界観とも合わせてお楽しみ頂ければと思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<別に人形でも人間でもどちらでも構いません。自分だけの幸せが見つけられたらそれで良いんだと思います。>

 まだプレイ終わる前ですが、レビュー書く事を見越してこの作品を通して人間らしさや人形について語ろうと思っておりました。もちろんその事については触れますが、終章を読んでいて、もうそれ以上にロマとリーベが不憫過ぎて読んでいてしんどかったです。もうね、どうしてここまで理不尽なんでしょうね。人間か人形か以上に、単純に2人には幸せになって欲しいと思いました。

 私は正直、ロマが人形だって言われなかったら人形だって思わなかったと思います。ロマは確かに人の気持ちが分からなかったかも知れませんけど、その仕草に何も違和感はありませんでした。というよりも、人の気持ちなんて人間だったらみんな分かるかといったら大間違いです。むしろ、人の気持ちなんて分かりませんからね。怖いのは、分かったつもりになって相手の気持ちを推し量る事だと思います。世の中の風潮や空気に合わせて振る舞わなければいけない時があるのが世の中の常だと思っておりますが、人の数だけ個性がありますので本当は誰もがわだかまりを抱えていると言いますか妥協しているのだと思います。そんな表面的な部分だけで人間を理解する事に、どれだけその人を傷つけているのでしょうね。私だったら、むしろロマのように相手の気持ちが分からないとはっきり言ってくれた方が良いです。奥底で物を話すのではなく、自分の事を正直に言える方が私は好きです。そういう意味で、人間らしいなんて事に拘らなくて良いんじゃないかって思いました。

 それでも、ロマにはどうしても人間になる必要がありました。具体的に言えば、父親に人間になる事を認めてもらう必要がありました。失った息子の代わりに作られたロマ、この段階でロマが縋れるのは父親しかいませんでした。父親に認められなければ自分が存在する意味を失ってしまう、そうロマは思っておりました。そして、リーベとの旅を経て、街を滅ぼして兄妹を壊して大切な人を見捨てて、やっと父親に再会出来ました。ですがその父親はとっくの昔に死んでいたのです。父親の為に旅をして全てを犠牲にしたのにその父親がいない、自分もロマだったら壊れていたかも知れません。もう何もかもを捨てたのに唯一欲しかったものが始めから存在しない、そんな残酷な事があるなんて信じられませんでした。それでもロンドに叱咤激励され、リーベを助けようとしました。そのリーベもまた、実は人形でありグリウスに壊されてしまいまいた。全てを失ったロマ、リーベの亡骸と共にこれまで歩んだ軌跡をたどりました。そこで見たのは、自分が関わって壊された人達やクローバーの姿でした。なにもここまで責めなくても……って思いました。

 そんなロマですが、手を差し伸べてくれる存在がいました。それがユッタでした。もしここでユッタが手を差し伸べてくれなかったら、ロマはずっと人間不信のまま自然に壊れるのを待つだけの存在になっていたと思います。この作品は人間らしさについて語った作品ではありますが、裏のテーマは寂しさの克服なのではないかと思っております。物語の随所で辛い場面がありました。その時々で、ロマは人形と人間について問いかけました。思えば、そんな風に問いかけられる余裕があるのは寂しくなかったからなのではないでしょうか。必ず傍にリーベがいるから、誰か会話できる人がいるから、そんな無意識の安心感がまだロマに自問自答させる余裕を与えてくれました。ですがそんな安心感を与えてくれる存在すら失ったロマは、もう人形だとか人間だとかどうでも良くなってました。どうでも良いと言いますか、そんな事を考える意味すら失ったんですね。最後の最後、ロマの傍にはリーベの魔導核が残りました。そして、ヒルデガルドがいました。これだけで、本当これだけでロマにとっては幸せだったのではないかと思います。これがロマの幸せ、誰かに決められたものではなくロマ自信が幸せだと思える結末でした。

 物語全体を通して暗く辛い描写が多い作品でした。沢山の人が死に、沢山の人形が壊されました。人と人が争い、政治によって振り回される姿が辛かったです。そんな様々な出来事があり、何もかもが無くなり、それでも大切なものを手元に残す事が出来ました。もうね、人形でも人間でもどっちでも良いです。別に人形だからといって幸せになれないという事はありませんし、人間だからといって幸せになれる訳でもありませんからね。大切なのは、周りと比べないで自分の幸せを探す事なのかなと思いました。ロマは、リーベの魔導核とヒルデガルドと共に再び旅に出ました。そして、自分が経験した物語を語るMinstrelとなりました。人形とも人間とも違う生き方ですが、もう決して寂しい思いはしませんね。それで良かったのかも知れません。寂しさを感じたら誰か話を聴いてくれる人がいる、それだけで人は救われるのかなと思いました。今度こそ、ロマには幸せを掴んで欲しいと思いますね。ありがとうございました。


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