M.M みのりびよりに




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 8 78 3〜4 2017/5/31
作品ページ サークルページ(作品ページと同じ)



<夏の田舎の雰囲気いっぱいの舞台で、みのりと奏でる不思議な物語を堪能してみてください。>

 この「みのりびよりに」という作品は、同人サークルである「しっぽロボ」で制作されたビジュアルノベルです。みのりびよりにとの出会いは本当に突然でした。去る2017年5月7日、ヨツツジエコーさんというサークル(公式HPはこちらからどうぞ)の代表である四ツ辻さんが蟲ノ目祭というイベントを開催しました。同作品が好きな私も勿論参加し、そこには顔なじみの同人ゲームプレイヤーが集っており皆でお酒を飲みながら楽しんでました。そのときメンバーの1人に突然こう言われました。

「M.Mさんって、ロリコンですよね♪」

勿論私はすぐに反論しました。そしたら隣にいたおすすめ同人紹介のみなみ氏がこう言いました。

「良いゲームありますよ〜♪」

その時に紹介されたのがこの「みのりびよりに」だったのです。公式HPをスマホで確認して開口一番、

「ちっちぇえ!!!ちっちぇえよおおおおお!!(感涙)」

って叫んでしまいましたからね。という訳で非常に下世話な切っ掛けで知りプレイし始めた本作ですが、ただ女の子が小さいだけではなく夏の田舎の雰囲気いっぱいの非常に気持ちの良い空気感が印象的な作品でした。


 主人公である加原夏樹はジャーナリストです。取材のため、都会の喧騒とは無縁の田舎町である梹榔町(ひょうろうちょう)にやって来ました。季節は夏、太陽と青空と緑が眩しい自然豊かな町なのですが、残念ながら目星い名産品も観光地もありませんでした。それでもジャーナリストとして取材しなければいけない、日夜記事になるものを求めて町を散策しておりました。そんなある日に立ち寄った川の浅瀬に一人の少女がいました。名前はみのり。そして彼女の口から語られる「水神様」の話。それは田舎にありがちな伝承でしょうか。それとも本当に実在する者でしょうか。少し不思議な物語がここから幕を開けるのです。

 この作品の魅力は何と言ってもメインヒロインであるみのりの存在です。まだ10歳という無邪気な年頃らしく、毎日を元気いっぱいに過ごしております。そして少しやんちゃで生意気なところもあり、常に主人公を困らせてくるのです。年相応の振る舞いに誰もがなごみほんわかしてしまう事と思います。そしてその雰囲気はテキストだけではなくころころと変化する表情や感情豊かに表現されるボイスからも感じる事が出来ます。夏の青空、川の水色、木々の緑、そしてみのりの肌色が絶妙にマッチしており、まるでこの町がみのりの為に存在しているかのようです。それでもただ毎日みのりとイチャイチャするだけでは物語とは言えません。みのりと一緒に過ごしていく中で明らかになっていく伝承の真実と水神様の正体。その結末の果てに何が待っているのかを確認して欲しいですね。

 その他の点としてはやはり夏の田舎の雰囲気が挙げられます。上でも書いておりますが、舞台である梹榔町は何もない田舎町です。あるのは太陽と青空と川と森とポツポツと点在する民家のみです。これだけでも十分夏の田舎らしいですね。これに加えて、ひまわり・駄菓子屋・瓶ラムネ・ご近所からの差し入れ・虫の鳴き声・伝承・神社・祠など夏をイメージさせる単語が沢山登場します。こんな雰囲気たっぷりの舞台で伝奇を取り扱ったシナリオが展開されるのです。それだけで嬉しくなってしまいます。あなたの実家は田舎ですか?そうであるならば必ず共感できる雰囲気だと思います。もし実家が都会の方であれば、是非この作品から夏の田舎を連想して欲しいですね。

 システム周りについては幾つか注意点があります。この作品の起動には「RPGツクールVXace RTP」の導入が必要です。こちらのページからダウンロード出来ますので持ってないかたらインストールが必要です。そしてインストールに加えてこちらのページの対応を予めしておく事をおすすめします。私はこれを怠った事でムービーが再生されず強制終了してしまいました。次にこの作品には既読スキップがありません。後述しますが、この作品には選択肢がありエンディングが複数ありますので必然的に同じテキストを読み返す事になります。その際に既読テキストを飛ばしたい方には不便に思いました。

 プレイ時間は私で3時間45分掛かりました。この作品には選択肢が比較的多く有り、全部で7つのエンディングが存在します。選択肢を総当りしていけば全てのエンディングを見ることが出来ますが、上記の通りこの作品には既読スキップがありませんのでテキストを読み進めながら分岐を検証するのはちょっと大変かもしれません。また幾つかのエンディングについては割と遠回りしないとたどり着けなかったりします。個人的に注意するべき点をメモに残しましたので、どうしても全てのエンディングにたどり着けない方は参考にご覧になってみて下さい。

分岐メモ(最低限の要点のみ。ややネタバレ注意。)

何よりも、全てのエンディングを見ないと最後のサイドストーリーが解禁せず、必然的に物語の裏側を見る事が出来ません。そして、私はこのサイドストーリーの最後に流れる主題歌が非常にお気に入りなのです。この作品を象徴するような一曲であり、素敵な余韻に導いてくれます。これを聞くためだけでも全てのエンディングを見る価値があります。是非夏の野山を駆け回るような感覚で、全ての選択肢を選び全てのテキストを駆け回るように読み切ってください。きっと心に残るシナリオが待っていると思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。




















なお「記憶√sideB」のネタバレを見たくない方は先に進まないで下さい。





















<長い長い運命の中で、幾つもの恨みと愛を背負ってきたからこそ、水虎は必ず幸せにならなければいけませんね。>

 私、こういうどうしようもない運命に抗う系の物語に割と弱いんですよね。たとえ愛する人と一緒に生きられなくてもせめて想いだけは繋いでいきたい。そのように頑張る姿に心打たれます。この作品には幾つもの愛が詰まっておりました。それは親子愛であったり、恋愛であったり、兄弟愛であったり、形は違えど全て大切にしなければいけない想いでした。

 振り返れば、誰もが悲しい過去と運命を背負っておりました。主人公である夏樹は最愛の妹を最悪の形で失ってしまいました。その出来事は今でも夢として繰り返され、後悔として積もり積もっておりました。だからこそ、もう二度と大切な人を失いたくないと思ったのだと思います。たとえその大切な人が水虎になっていたとしても、その中に残っているみのりの気持ちは残してあげたい。その気持ちが最後の祠を燃やす行動に繋がったのだと思います。放っておけばみのりを完全に失ってしまう。だからと言って死体を取り出せば自分がみのりに喰われてしまう。であるなら、今の状態で消滅させてあげればいい。誰も試みなかった行動でした。そして夏樹は水虎に「生きて償え」と言いました。目の前にいるのはみのりではないのです。みのりを食べた水虎です。それでもみのりの気持ちを一番理解している存在です。憎いけど憎めない。だからこそ死んではいけない。葛藤の末の決断でした。

 野本俊も最愛の人を失っておりました。生徒と教師という禁断の関係を乗り越え、ようやく子宝に恵まれた時でした。とても悔しかったろうと思います。広恵が未薙苔として食われるのが運命付けられている。水虎に対する怒りは夏樹以上だと思いました。だからこそ、もう二度と広恵が戻ってこないと知った時は辛かったろうと思います。であるならば、せめて自分と同じ道を夏樹とみのりに歩ませるわけには行かない。その決死の想いが猿猴の討伐に繋がったのだと思います。人知を超えた存在である猿猴によくもまあ単身で戦えたものです。無慈悲に未薙苔を消し指す猿猴の気持ちが、一番許せなかったのだろうと感じました。

 この一連の伝承に翻弄され続けた広恵とみのりも、一つの決断をしなければいけませんでした。その時頭の中にあったのは愛する人の事だけでした。今自分が留まり続けたら野本俊をも巻き込んでしまう。そうならない用に一人家を離れ、川に身を投じました。みのりも自分が衰弱するくらいなら、せめて水虎に自分の気持ちを引き継いでもらおう。その想いが広恵の死体を祠に戻すことをやめさせました。愛する人を悲しませないためなら自分の命だって惜しくはない。この2人には未薙苔の運命に負けない決意と覚悟がありました。そしてその気持ちを知る人は誰もいないのです。それはまるで絵本「あたたかい海の底で」に登場する化物のよう。最後記憶√sideBで流れる主題歌「あたたかい海の底で」には、そんな2人の届きそうで届かない気持ちが綴られているように思えました。消えゆきそうな儚い歌声、最低限のメロディライン、この音を聞き取れるのは、目の前のあなたしかいないのです。

 そしてこの作品の中で最も辛い運命を背負っていたのは、他ならぬ水虎だったと思っております。水虎も好きでこんな化物のような格好になりたくなかったに違いありません。それでも水神様としての伝承と運命に縛られ、本当の意味で人間になることは出来ませんでした。それなのに、自分が喰った人間の記憶や気持ちを人間以上に理解できるのです。いったい何人もの未薙苔の気持ちを背負ってきたのでしょうね。一番この運命から解放されたかったのは水虎でした。広恵の気持ちも理解しみのりの気持ちも理解し、愛する人の為に行動したいのに運命から逃れられない。どうしようもなく人の恨みを買ってしまう。見た目が化物だから悪いのでしょうか?人間を食べたくなる本能が悪いのでしょうか?そんな事でこの残酷な運命が続いてしまうなんて、余りにも悲しすぎると思いました。

 最後、大好きな夏樹と一緒に手を繋ぐ水虎の姿を見て本当に「良かった」と思いました。長い長い運命を断ち切ったのは夏樹でした。そして、運命を断ち切るために多くの犠牲がありました。野本俊・広恵・そしてみのり、勿論これだけではなくこれまで存在した未薙苔の数だけ物語がありました。幾つもの恨みと愛を背負ってきた水虎です。きっと彼女であれば決して自分や相手の命を軽んずる事はありませんね。幸せに生きること、それこそが運命を断ち切った水虎の義務だと思いました。それこそが償いであり、愛する人への最大の想いの表現だと思います。今まで辛い運命を歩んできた分、これからは人間としていつまでも末永く幸せに過ごして欲しいと心から思いました。ありがとうございました。


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