M.M 滅び朽ちる世界に追憶の花束を




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
10 9 - 90 24〜27 2018/11/13
作品ページ(なし) サークルページ(なし)



<8つの物語と8つの花を通して、作者が伝えたかったテーマを噛み締めてみましょう。>

 この「滅び朽ちる世界に追憶の花束を(以下滅花)」という作品は同人サークルである「郷愁花屋」で制作されたビジュアルノベルです。この作品をプレイした切っ掛け、それは私のお知り合いのビジュアルノベルプレイヤーの方の強いオススメがあった事です。元々私はこの滅花という作品を知りませんでした。それこそ、私にオススメしてくれたお知り合いの方に出会えなければ一生巡り合わなかったかも知れません。非常に強烈で印象的なタイトルと、淡いタイトル画面が至高の雰囲気を約束してくれている確信がありました。何よりも、オススメしてくれたお知り合いの方の事を全面的に信用しており、その方の一押しともあればきっと面白いに違いない。そんな約束された名作の予感を感じておりました。ボリュームのあるタイトルである事は聞いておりましたので、私の中でもタイミングを見て計画的にプレイを始めてみました。

 この作品はオムニバス形式のSFファンタジーです。大きな枠組みとして、理想の世界を求めてタイムマシンに乗り込んだ青年が未来へ行く途中に見てきた景色という物があります。本作では、そんな青年が見てきた8つの時代の物語をなぞる事で滅び朽ちる世界を傍観していきます。8つの時代の、どれをどの順番で読むのも皆さんプレイヤーの自由です。是非気になったシナリオから読み始めてみて下さい。それぞれのシナリオで扱っているテーマが違います。勿論時代も登場人物も違いますので、短編小説が8つも詰め合わさっていると言えるかも知れません。これだけで単純にお得ですし、シナリオから何かしら感じるものが最低8個もあるという事です。1つ1つ丁寧に味わいながら読み進める事をオススメします。

 そして、滅花のタイトルにもあります通りこの作品において花は大変大きな意味を持っております。まず、8つの時代を選ぶにあたってモチーフになっている花が決まっております。それは表面的な部分は勿論、シナリオにおいても存在感を放っております。加えて、システム画面やウィンドウ画面、各シナリオで章を選ぶ場面での背景描写、他にも様々な場面でモチーフになっている花を飾っております。素直に綺麗ですし、プレイヤーをいとも簡単にそのシナリオの世界観に引っ張ってくれます。また、この作品には無数のTipsが存在します。それは各シナリオの章選択画面で選べるのですが、そこにも花があしらわれております。物語を読み進めていくなかで増えていくTips、是非全ての物語を読み終えて欲しいですね。

 システム面ですが、まずBGMは全てオリジナルです。そして驚くべきことに、8つのシナリオそれぞれで使用しているBGMが違っております。これだけで相当の曲数がある事が想像できると思います。そのどれもがシナリオの雰囲気を盛り上げる物ばかりであり、ピアノをメインとした曲を中心に多種多様な音楽を楽しむ事が出来ます。これだけで聞きごたえ抜群です。後は効果音が独特だと思いました。この作品はいわゆるウィンドウ画面がありテキストを読み進めるタイプのオーソドックスなビジュアルノベルですが、クリックする度に機械的と言いますか独特の効果音が出ます。それが登場人物の感情や場面で微妙に変化し、テキストだけでは表現しきれない感情の揺れ動きを表現しており制作に非常に時間を費やされた事が伺えます。バックログや途中の専門用語解説がやや読みにくいという部分もありますが、それがプレイに支障を与えるという事はありません。とにかく世界観を大切にしたシステム作りをされていると感じました。

 プレイ時間は私で約24時間程度でした。1つのシナリオで2〜3時間で、それ以外の要素も全て合わせての時間です。日数的にはかなり掛かりました、1ヶ月に迫るくらいだったと思います。私生活が忙しかったという事もありますが、1つ1つのシナリオを終えて直ぐに次とはならなかったからです。それだけどのシナリオも重みがあり考えさせられるテーマだったという事です。噛み締めているうちに日付を超えていたなんてザラにありました。加えてこの作品はSFファンタジーですので、科学的設定や他のシナリオとの関係も丁寧に見る必要がありました。そうした情報整理なども加えてこれだけのプレイ時間と日数になったという事です。なる程、確かにこれは多くの方に進めたい作品ですね。現在サークルさんが解散してしまい入手手段が無いという事が非常に勿体ないです。ある意味隠れた名作として、これからも多くの人に語り継がれていくのかも知れません。素晴らしい世界観とシナリオと雰囲気とテーマでした。お見事でした。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。


























まずは8つのシナリオまでのネタバレになります。隠し要素のネタバレはありません。



























<彼らの精いっぱいの生き方を見て、自分達はどうやってこれからの人生を歩んでいくのでしょうね。>

 最後までプレイして、ここまで読後感が良いと言いますが余韻が美しい作品もそう無かったかも知れません。とにかく美しい雰囲気と登場人物達の生き方が尊かった、それだけがまずは心に残っております。噛み締めれば噛み締める程味わいがある、いつまでも心に置き続けたい作品だと思いました。

 ネタバレ無しでも書きましたが、この作品は8つのシナリオで構成されておりそれぞれで扱っているテーマが違っております。その為、普段は行わないのですが今回は各シナリオごとでレビューを書いてみようと思います。また、レビューを書いた順番は私がプレイした順番となっております(時系列ではありません)。その為読み進めていく中で他のシナリオとの絡みも出てくるかも知れませんのでその点はご了承ください。

----------------

【forever】
 美しくありたい、永遠に生きていたい、それは人間であれば誰しもが心に描く夢だと思います。ですが、どうやら今の科学技術ではそれは叶わないようです。そうであるのなら、美しいものは何時か無くなってしまうのでしょうか?そうではないと本編では提示しておりました。永遠は一瞬である、終わりとは始まりである、まるで正反対の言葉のように思えますが、実はそうではない事が丁寧に書かれておりました。途中物理学の話もありましたので思い出したのですが、宇宙の起源を探る研究は、実は素粒子と呼ばれる最小の粒子を探求する事と等しいのです。宇宙は素粒子である、これも真逆に見えて同じであります。全ての物事は諸行無常、永遠などないと仏教で語られております。大事なのは、一瞬一瞬を積み重ねる事、そしてその一瞬を大切にする事だと感じました。物理学で言えば、速度を積分すると位置になり、位置を微分すると速度になるかのようです。中学高校といじめられた過去を持つ緋依、そして整形によって美しい外見を手に入れた緋依、これもまた、過去のいじめられた経験がなければたどり着けませんでした。何よりも、不老不死の薬を完成させられたのは、中学高校からの地道な勉強の積み重ねと持ち前の負けん気があったからでした。全ては繋がっているんです。一瞬一瞬の出来事を積分する。その先に、きっと永遠はあるのだと思います。赤い薔薇も、積み重ねれば青い薔薇になるのかも知れませんね。振り返った時に、あの一瞬は楽しかった辛かった、そんな事を思える人生を歩みたいと思いました。

【circular】
 「どうして人は親切されると疑いたくなるのだろう」私にとって、7章のこのセリフが一番心に刺さりました。不思議なんですよね。相手は本当に親切心で接しているとしても、どうしてもそこに利益とか損得勘定が入っていると思ってしまうんです。本当の真心なんて存在しないんじゃないか、って思ってしまいます。シナリオで語られていた性善説の考え、これって自分だけではない相手も持っているからこそ成り立つんだなと思いました。だからこそ、マゼンタはどれだけ相手に裏切られても自分の信じる性善説を曲げずに何度も何度も接していったんですね。そして、マゼンタの事が本当に信じられると分かった時、人は本当の意味で親切になれるのかも知れません。本当に、困った人がいたから手を差し伸べただけ。何も難しい事は無く複雑な事もないんですね。みんな、案外考え過ぎなのかも知れません。自分が心配するほど、そんなに周りはあなたの事を悪く思ってませんので。そして、シナリオの中で親切心だけではなくお金も大切だと現実的な側面にも触れてました。どれだけ助けたいと思っていても、経済でこの社会が回っている以上先立つものがなければ何も出来ませんからね。大悟が行っている事は立派な事業であり会社です。困っている人を見極めてお金を差し出す、その事に感謝すれば自ずと自分のところにお金は帰ってくる、肝要なのはお金を稼ぐ事ではなく、気が付いたらお金が集まっているという事です。マゼンタの行った事は、本当に見返りを考えない行動。自分の人生の安泰すらも考えてませんでした。それでも他人を助けたい、その気持ちは確かに大悟や信者の皆さんに伝わったと思います。

【vivid】
 「貴方に鮮やかな命を魅せつけることが、私がここにいる意味なんだって」とても美しいと思いました。人間らしく生きる事、自分らしく生きる事、それを真正面から問うてそして答えを見つけた2人の物語でした。私も、たまに思いますもの。どうしてリア充の人達はリア充のように振る舞えるんだろう?って。私も人と話すのが苦手で、自分の事を話すよりは他人の会話を聞いている方が好きです。だから、見る人が見れば無口・陰キャ・つまらない人間に思うのだと思います。ですけど、それってもう仕方がないんですよね。私は、そういう人間なのですから。紅も同じように思ってました。自分には感情がない、だから普通の人が感じる事が分からない。だから一人で生きていくんだと。私はそれが悪い事だとは思いませんし当たり前だと思っております。それでも自分らしく生きていく事を誰かに見てもらいたい、自分の人生の意味を知りたい、そんな欲求も持ち合わせておりました。紅にとって、あの仮想世界での一週間はそんな自分の人生を生きる意味を見出す一週間だったのではないかと思っております。初めて親友になれた沙乎華、彼女と自分らしく生きると約束しました。沙乎華にとってそれは、紅に命を見せる事でした。紅が大好きな赤、それを最高の形で刻み付けたんです。これこそ友情であり、生きる意味だと思いました。最高に美しいと思いました。そして、そんな沙乎華の問いかけを紅はしっかりと受け止めました。何が何でも生き抜く、それが紅の生きる意味になりました。「この世界で、貴方の生を生きる」そんな答えを見つける一週間が終わりました。紅い魔女は、今日も生きる為に人を殺し続けるのだと思います。自分の大好きな人に、最後まで誇れるように。

【melancholy】
 無いものねだりって、よくあると思うんです。安定した生活を求めていたのに何故かそれがつまらなくなる、平穏な暮らしを求めていたのに何故かそれが退屈になる、それが生きているという事なのかも知れません。そして、そんな自己矛盾とも呼べる事は案外周りの人から気付かされる事が多いと思います。自分が思っている自分と他人が思っている自分は全然違う、そんな事実に自分も他人も驚くのです。雨が嫌いだったはずの蒼子はいつの間にか雨が待ち遠しくなってました。そしてそれは清二郎も同じでした。敷かれたレールをまっすぐ進む事が全てだったはずの清四郎はいつの間にかそれが憂鬱に感じてました。それらは、全て自分だけの世界では気付かなかったもう一つの自分の姿、それを映し出してくれる存在にであることが、人生における喜びなのかも知れないと思いました。そして、何とも切なくて甘酸っぱい恋の物語でした。正直言って、蒼子と清二郎の回想を見ているだけで胸がいっぱいになりました。そしてそれが時代を経て子供から孫に受け継がれ、自分達が叶えられなかった想いを新しい世代が達成するという非常に尊い物語でした。「憂鬱だと思ったら、それを打ち破る楽しさを見つければいい」それを全力で達成しようとした彼らの行動に、胸が熱くなりました。もしかしたら、そんな心持を持った人にこそ、奇跡という物は舞い降りるのかも知れません。物語の最後に彼らの前に現れた虹の姿、これは敷かれたレールの先には絶対にありませんね。私も、自分だけの虹を求めて楽しい事を全力で楽しんでいこうと思いました。

【innocent】
 人は何故議論をするのでしょうか。どうして意見のぶつかり合いをするのでしょうか。恐らく、自分の中で本当に大切な物を見つける為だと思うんです。議論し意見をぶつけ合い、少しずつ自分が信じていたものがそぎ落とされていきます。時には完全に論破され、如何に自分の考えが甘いものだったかを思い知ると思います。ですけど、それでもたった一つでも自分が絶対に譲りたくない物が残るかも知れません。それが、あなたにとっての正義だと思います。百合はA級の審議記録人を目指し平等で客観的な判断が出来るように日々研鑽を積んでおります。ですが、実際は平等になどなれず被告人と陳述人の意見に右往左往してしまうのです。私情だらけの頭の中です。こんな心理状態でA級の審議記録人になどなれるはずがない、そう思っておりました。そんな中での、闇ちゃんと玄兎との戦いが始まってしまいました。正義とは何か、死とは何か、そんな究極的な議題は、アテネの学堂の存在意義にまで膨らんでいきました。自分が目指しているものは本当に正しいのか、今いるこの場所は本当に意味があるのか、ここでも百合は右へ左へフラフラしてしまうのです。それでも、百合は1つの答えを出しました。多数決の正義なんて信じない、私は私が信じた正義に従う、その信念の元。闇ちゃんを脱獄させる決意を固めました。そして、それがA級の審議記録人に必要だったのですね。最後、久々宇さんも言ってました。一番大切な事は、常に自分の中の天秤を揺らし続けること、その中で一つ信念を見つけることだと。自分が間違っているかも知れないという気持ちを持つ事とも言ってましたね。審議記録人はロボットにはとても出来ない、ましてや真実の目には絶対に出来ませんね。双方の話に耳を傾け、それぞれの気持ちに寄り添いながら、自分の正義の元に判決を下す。とてもカッコ良いと思いました。これからも難しい判例が出ると思いますが、きっと悩みながらも後悔しない決断をしてくれると信じております。

【lost】
 これまでの物語の中で一番世界が成熟しておりました。地球は荒廃し、多くの人がユグドラシルと呼ばれる木の上に住んでおり、世界には終末論が蔓延している、未来に対して非常に希望が持てない世界でした。メインの登場人物である臆、翠、幾、終は皆歴史上の天才の遺伝子を掛け合わせられて生まれたホムンクルスです。自分たちの未来もある程度決まっている、そんな中で、自分が生きた証をどのように残せばいいのでしょうか。人間だろうとホムンクルスだろうとクローンだろうと、誰でも死にたくないと思うのは当たり前です。そして、死ぬのであれば誰かに自分が生きていた証を覚えていてほしい、これも当たり前だと思います。そんなやりきれない気持ちが伝わるシナリオでした。2999年7月に、ついに地球が滅びる時が来ました。異常気象を何とか乗り越えた先に待っているのは隕石の衝突でした。せめて、この隕石を壊してヒーローとして生きた証を刻みたい、そんな願いですら臆も幾も叶えられなかったのです。そんな2人が夢見た記憶の世界、その何と穏やかで平凡な事か!あの後、翠は木端微塵君を使って隕石を破壊したのでしょうか?それともテレポートで宇宙ステーションに逃げたのでしょうか?それを確認する人は、もう誰もいないのです。ロストガーデンの片隅にひっそりと咲いていた忘れな草、その存在も、ユグドラシルの倒壊によって忘れられてしまうのでしょう。そんな無常観を感じるシナリオでした。それでも忘れないで欲しい、その願いを叶える事が出来るのは、私たちプレイヤーだけなのかも知れませんね。

【abandoned】
 主人公に凄く好感が持てました。子供が好きで子供の為になる事をしたいという志、純粋で素敵だと思いました。それでも、自分の娘を自分の都合で死なせてしまった負い目もありました。そんな贖罪を抱えた日向陽炎だからこそ、より子供の為に行動したいという気持ちが強かったのだと思います。ですが、そんな陽炎の前に待っていたのは社会からの痛烈な裏切り、そして生と死をめぐる過酷な現実でした。自分の利益優先の為に陽炎を裏切った社長、自分の尊厳の為に自ら死を選んだブルー、どちらも陽炎がこれまで経験した事がありませんでした。ですけど、それでも元来前向きな性格の陽炎なのが素晴らしいですね。最後は新しい娘である夕日・ユリやゲントと一緒に遊んでいるのです。この話では、物事の生と死というものについても丁寧に触れておりました。生きているとはどういう状態なのでしょうか?無機物は生きていないのでしょうか?永遠に死なないという事は、生きていないという事でしょうか?この話の中で一つ答えを出しておりました。それは自分の存在を証明する事です。子供の為に生きるという志を持っている陽炎、物を壊すという事にアイデンティティを持っているブルー、父親が大好きな朝日(夕日)、そのどれもが存在証明であり、他人に誇れるものです。私達の日々の生活も同じですね。仕事が好きである、趣味を持っている、大切なパートナーがいる、家族がいる、そのどれもが存在証明だと思います。家族がいる、この話ではもう一つ大切なテーマがありましたね。血がつながってなくても、顔を合わせて笑い合える関係であれば家族である、とても素敵で尊いと思いました。経済に振り回され自分の存在証明を見失いがちが現代、だからこそ自分の存在証明と家族と思える人を見つけてみては如何でしょうか。

【dear】
 途方もない年月とスケールの先に待っていたのは、普遍的な何気ない日常の大切さだったように思えました。理想の世界を求めてコールドスリープした人々、ですがその先に決して理想の世界がやって来ないと分かったら、これまでの人生に意味などないのでしょうか?そうではないと、この物語では語っておりました。西暦10,000年という途方もない未来。唯一目覚めてしまった人類である未黄。愛を知らず、温もりを知らず、傍にいたのは春という名前の男の子のみ。それでも、古い映画を見たり本を読んだりゲームセンターに行ったりと、怠惰でも楽しい生活を送ってました。そして、そんな慎ましい生活が実は掛け替えのないものだったと、春を失った時に気付きました。これから誰とも会話も出来ず1人寂しく死んでしまう、そんな未来に絶望しました。それでも、未黄は世界を愛する事を諦めなかったんですね。野に咲くタンポポは、地球が崩壊して7,000年経ってもなお花を咲かせ種を飛ばし続けておりました。そうであるのなら、人間も自分はここにいるというメッセージを送る事が出来るはずです。今日もまた、未黄は自分が生きている軌跡を風船に乗せて飛ばし続けるのだと思います。どこかにいるかも知れない、誰かの手に届く事を信じて。物語の最後で「生命は皆等しく尊くて、等しく美しい」と言っておりました。これは、どの生物も自分の軌跡を後世に伝える事が出来るからだと思っております。作中では「愛の伝言ゲーム」と言ってましたね。私も、どのような形かは分かりませんがこの「親愛なる世界」について何かを残せればと思いました。

----------------

 この8つのシナリオに優劣など当然ありません。個人的に好き嫌いの好みはありますが、そんなものは意味をなさないと思っております。大切なのは、彼らが彼らの時代で精一杯悩み苦しみ、考えて生きてきたという事です。不幸な時代もありました、報われない事もありました、理不尽なんて常だったと思います。それでも、自分が生きた証を何かしらの方法で残したい、そんな気持ちをストレートに感じました。どんな環境でもどんな世界でも、今自分が何をしたいのか、相手とどう関わりたいのか、それを考えていく必要があるのだと思いました。非常にスケールの大きなテーマでした。そんなシナリオが8個も詰まっておりました。このような超大作に触れる事が出来て、幸せだなと思いました。彼らの生き方を目の当たりにして、自分はこれからどんな人生を歩めばいいのでしょうね。少なくとも、自分が歩いた軌跡にも何かしらの意味を持つ、そうであると信じて生きていこうと思いました。ありがとうございました。


→Game Review
→Main


以下は更なるネタバレです。
隠し要素やあとがきなど全てを包括した内容となっております。








































<自分は、世界を愛して他人を愛して生きていく事が出来る………のかなぁ?>


「…ifである、……0を歪めた8章など、必要ないのです」


 追憶の花束を完成させ「世界の果て」で語られた一文です。私、正直言ってこの一言だけはどうしても自分の中の想いとそりが合いませんでした。滅花の共通のテーマとして語られていた事、それは「どんな人のどんな行動にも意味があり、それら1つ1つが確かにこの世界の歴史を作っている」だと思っております。例え自分にとって酷い人生だったと思っていても、若しくは周りから見て可哀相と思われてしまう人生だったとしても、無意味な人生なんて1つもありません。むしろ、そうした1人1人の生き方を認め愛する事が、幸福の実現へと繋がっているとうたっております。だからこそ、本当はあったかもしれないifの結末、すなわち8章という存在は必要ないと言えるのも頭では納得できます。

 では、どうして作者は8章を作ったのでしょうか。どのシナリオも始めは7章までしか表示されず、そこで綺麗に物語が終わっております。その後他のシナリオをプレイしTipsをプレイしていく中で少しずつ8章が解禁されていきます。そんな特別な存在が8章であり、これを全てプレイしないと蒔元くんが目指した世界の果てを確認する事が出来ません。当然、意味があります。本当はこんな風になって欲しかったという願望、願い、それが実現した姿が8章です。私は、素直にみんなが8章のような人生を歩めたらと心から思ってしまいました。

 この作品は、いわゆる泣きゲーではないと思っております。むしろ泣いてはいけない作品だと思っております。それぞれの時代の中で彼らが生きた軌跡を、しっかりと我々プレイヤーが心に刻むためには、泣いていては視界が滲みそれを達成できませんからね。むしろ、不幸があったとしてもそれぞれが覚悟し納得しそれを乗り越えていく7章の結末に拍手を送る程でした。だからこそ、もしかしたら達成できたかもしれない8章の姿で、うっかり涙腺が緩んでしまったんですよね。本当はこうありたかったんだよね、そんな彼らの気持ちも痛い程伝わりました。必要なんて無いはずがないんですよ。本当は、こうあってくれたら最高のハッピーエンドだと思うんです。

 ですけどこうも思うんです。全てがいきなり8章の様に理想的な形で終わったら、彼らは世界を愛する事が出来たのかと。どうしても叶わない出来事があるからこそ、世の中の物が尊く思えるのだと思います。初めから全て与えられたら、それに対する感謝の気持ちは生まれないと思いますしね。叶わないからこそ一瞬一瞬を大切に生きていこう、今あるものを愛していこう、そう彼らが思ったからこそ歴史は紡がれたのかも知れません。私が8章を見て涙腺が緩んでしまった理由、それは逆に7章までを見てしまったからなのかも知れませんね。今の生活が幸福か不幸か、そんな事は誰にも分かりません。歴史にifなんてない、それを伝えたかった一文だったのかも知れません。

 だから、自分は不安になってしまいました。滅花の7章までを読んで、そこからその後8章を読むまで、歴史にifはないなんてこんな当たり前の事にすら気付かなかったのです。そんな自分が、これからの自分の人生において世界を愛し人を愛して生きていけるのかな、と。知らず知らずのうちにネガティブな気持ちになってしまって、世の中に悪態をついてしまわないかなと。それでは、余りにも滅花の彼らに申し訳ない、そうとすら思ってしまいます。今を生きるリアルな人間だからこそ、より慎重により後悔の無いように生きていかなければいけないのにですね。

 まあ、そんな事を思ってもあまり意味は無いんですけどね。何故なら、未来なんて誰にも分からないのですから。そして、自分のどんな行動でもそれらが全て歴史として刻まれるだけなのですから。気にしないという事です。どうあがいてもそれが歴史として刻まれるだけなのであれば、後は自分自身の問題なんだと思います。どれだけ自分が後悔しなかったから、どれだけ自分が努力してきたか、どれだけ自分が考えてきたか、どれだけ自分が世界を愛してきたか、結果なんて後から勝手についてくるだけです。それなら、まずは愛してみるんですね。愛せるかな?と不安に思う事すら、意味のない事なのかも知れません。

 私が歩む人生は7章までのものなのか8章のようなものなのかは分かりません。もしかしたら、何十年か経ってそれから振り返ってみても分からないかも知れません。人生って、案外そんなものなのかも知れません。花が咲く場所を選ばなくても美しく咲くように、自分の人生も他人の人生も世界も全てが美しいんです!後は、自分が将来なりたいものに向かうだけですね。「あなたが将来なりたいものは、何でしたか?」その答えを追い求めて、この美しい世界の中で生きていこうではありませんか!好きな物を好きだと言い続けながら、これからもレビューを書いていこうと思います。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


→Game Review
→Main