M.M マリオネットは箱庭で歌う
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
5 | 7 | 6 | 68 | 〜1 | 2018/1/13 |
作品ページ | サークルページ |
<この終わってしまった世界を十二分に歩き、世界の構造と男女2人の行く末を見届けてみて下さい。>
この「マリオネットは箱庭で歌う」という作品は同人サークルである「Project Freya」で制作されたビジュアルノベルです。Project Freyaさんの作品をプレイするのは今作が初めてでして、C93で島サークルを巡っている時に目に止まりました。ジャケットいっぱいに書かれた青空と街の風景はどこか退廃的で、その中で寄り添う男女の姿の対比が印象的でした。あらすじを読んでみましたらどうやら終末ものであるとの事、私が大好きなジャンルでもあります。どのような世界が広がっているのか、その世界の中でこの男女2人はどのような現実と直面するのか、色々な妄想を広げながらプレイし始めました。
あらすじですが、正直ほとんど書けることはありません。何故なら、この作品は終末ものだからです。この作品の中で、世界は一度終焉しております。では何故世界は終焉してしまったのでしょうか?そしてそんな終焉した世界で奇跡的に2人の男女が目を覚まします。では何故この2人の男女が目を覚ましたのでしょうか?これ以上をこのレビュー上で語るのは無粋というものです。是非実際に作品に触れて世界の真実に迫ってみてください。全ての出来事に理由があります。そしてその理由を見つけた後、そこから先の人生をどう生きていくかを掴むかが大切になってきます。
この作品の最大の魅力は、写真を多用した背景描写と水彩画のような柔らかいタッチで書かれた人物描写にあると思っております。終わってしまった世界、それを文字で表現するのはとても手間が掛かります。それならば、実際に絵で見せたほうがずっと分かり易いですね。この作品では、終わってしまった世界を巡る事で様々な姿を見せてくれます。それは自然だったり、街並みだったり、灰色の景色だったりと本当に様々です。そしてそれを写真で表現しておりますので非常にイメージしやすいですね。そして、そんな写真に対して人物描写は水彩画のようなタッチです。この対比がそのまま終わった世界と始まった人間の対比のように感じました。
そしてこの作品には選択肢がありますが、これが個人的に非常に印象深いものでした。これもネタバレになりますので書きませんが、この終わってしまった世界を歩くという事を考えた時にとても大切になる選択でした。もっと言えば、これ以上の選択肢は必要ないのかも知れないと思わせる程でした。そしてその選択はそっくりそのまま彼ら2人の運命を決めてしまいます。エンディングも決まってしまうかも知れません。でも、私たちはプレイヤーです。彼らは同じ人生を歩めませんが、私たちは再び選択肢を選ぶ事が出来ます。是非全ての選択肢を選び、自分の目でこの終わってしまった世界を歩いて欲しいですね。
唯一惜しむべきは、プレイ時間が非常に短い事ですね。私で50分程度でした。どんどんと世界が巡り巡ってその中で世界の真実にたどり着いていくのですが、本当あっという間という感じでした。もっともっとこの終末の世界に触れていたかったです。そして、その中で生きる2人の男女の生き様を見届けていたかったです。作中で流れている時間はかなりのものです。勿論この作品で描写されていないエピソードも沢山あるはずです。そんな細かい世界設定を見てみたいと素直に思いました。見えない部分は、是非皆さんの想像力で補いましょう。歩きやすい道もあれば歩きにくい道もあるはずです。暑いも寒いもあるかも知れません。そんな長い旅路の果てに、この作品のテーマが待っているはずです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<誰にでも間違いはある。だからこそ、そんな間違いを教訓として今の世界が続いている。>
上でも書きましたが、本当に背景描写が綺麗で目まぐるしく変わる様子が見ていて楽しかったです。そして西へ東へ、南へ北へ向かう事で多種多様な世界が見れるのも面白かったです。この東西南北の選択肢が沢山あったらもっと面白くなるよな〜と正直思ってしまいました。そんなオープンワールドのように世界を歩く、それを綺麗な背景描写で表現しエピソードが加わる、そんな妄想をしてしまいました。
ただ、結末についてはちょっと残念だったなと言うのが正直なところです。エリスが体調を崩し血を吐いて死んでしまう理由、それは放射線を浴びて被爆することでした。なるほど、世界の終焉を迎えるにあたって核兵器を使う事は想像できます。放射線は目に見えませんので、実際のところ風に運ばれてそこらじゅうに放射性物質があるのでしょう。そうであるのなら、一時的に体についた放射性物質や内部に潜入した放射性物質を取り除いたところで、何も解決にはなりませんね。ギリギリまで終末世界の雰囲気とAlphaProjectという謎の計画とクローン達の記憶の引き継ぎというファンタジーを作ってきたのに、最後の最後で放射線という現実を持ってくるのに戸惑いました。
たまにレビューや日記の中で書いておりますが、私は大学大学院と物理学科を専攻し学士と修士を取りました。特に大学院では実験核物理の研究室で四六時中研究室に篭っておりましたので、放射線関係については人並み以上の知識は持ち合わせていると思っております。だからこそ、安直に放射線を出してきたのが残念だったのかも知れません。これが放射線ではなく細菌などだったら、また違った印象を持ったのかも知れません。ダメですね、ファンタジーをこんなふうに読んでしまっては。それでも、事実と異なる描写があるのはどうしても気になってしまいます。現実にある物理法則を使っている以上、それに対しいて嘘をついてはいけないと思いました。
それでも、終末世界を渡り歩きエリスを助ける方法を模索する姿は素直に心打たれました。始めは何も手を打てず雨の中で息絶えてしまった2人。BAD ENDという事で終わりましたがタイトル画面に戻り右上のアイコンが変化したとき、このBAD ENDにも意味はあったのだなと思いました。そして次は教会の古書室にて1つの物語に触れました。もしかしたら、ここに書かれている男女2人がエヴァンとエリスなのかも知れません。そんなヒントを貰え、自分が死ぬ理由を見つける事が出来ました。そして3周目でようやく核になる部分に触れました。AlphaProjectの存在を思い出し、クローン達との記憶の引き継ぎを思い出しました。ここで時間切れになりましたので後は次のエヴァンに引き継ぐだけですね。4周目でついに除去装置にたどり着きました。これがイデアの方舟。ようやくエリスが救われる時が来たのです。
この作品は、エヴァンがトライアンドエラーを繰り返すことによって正解への道を選んでいく様子がきっと言いたかったことなのだろうと思っております。私たちは歴史を学びます。それは、過去の失敗を教訓として同じ間違いを繰り返さないためです。ですが人類は間違いました。間違った結果、世界は終わりました。そうであるのなら、もうエヴァンとエリスは間違いを犯すことは出来ませんね。でも大丈夫です。何故なら、エヴァンはちゃんと過去の自分の間違いを引き継いでいるのですから。幾つもの間違いの果てに死んでしまったエヴァンとエリスはまるでマリオネットの様。それでも彼らは終わった世界という箱庭で歌うのです。この気持ちが誰かに届きますようにという願いを込めて。ありがとうございました。