M.M 魔王、エロ漫画を描く。




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 6 - 75 1〜2 2024/8/14
作品ページ サークルページ



<主人公の初々しく真っ直ぐな性格がほのぼのさせてくれる、読んで楽しいラブコメです。>

 この「魔王、エロ漫画を描く。」という作品は、同人サークルである「えるりんご」で制作されたビジュアルノベルです。えるりんごさんの作品はこれまで幾つかプレイさせて頂き、今作で7作品目となります。ここ最近はえるりんごさんがコミケに参加するたびに売り子をさせて頂いたり、私とcrAsmの倉下さんで行っているビジュアルノベルオンリーでもゲーム実況をさせて頂きました。毎回定期的に作品をリリースされており、制作環境に安定感を感じております。今回レビューしているのはC104の新作であり、過去にえるりんごさんで作成された同名タイトルの漫画である「魔王、エロ漫画を描く。」のゲーム化作品となっております。オリジナルの方も上記リンクに掲載しておりますので、是非興味ありましたら手に取ってみて下さい。

 主人公である浜口太郎(はまぐちたろう)はとある地方大学に通っている3年生です。太郎は「勇者の冒険」という作品に登場する「魔王」というキャラクターが好きで、日常的に魔王のコスプレをしております。その為周囲には冷ややかな目で見られることが多いですが、それでも好きを貫き通す姿勢が印象的です。そんな太郎ですが、片思いしている女の子がいました。名前は天野雫(あまのしずく)と言って、魔王の近くに住んでいる女子校生です。とある切っ掛けで太郎と雫は出会ったのですが、魔王のコスプレをしている風変りな太郎を見ても偏見を持たず笑顔いっぱいに振舞ってくれます。そんな雫に一目惚れしてしまい、気が付けば雫の姿を追うようになっていました。そんな片想いしている様子に業を煮やした大学の先輩であるから、こんな提案をされました。「雫ちゃんへの想いをエロ漫画に込めてみないか?」ここから太郎の漫画家生活が始まったのです。

 この作品のジャンルは「ほのぼのラブコメノベルゲーム」となっております。魔王のコスプレをする太郎の姿は中々強烈なインパクトですが、中身は普通の片想いする純粋な性格でありそのギャップがまさにほのぼのという印象をあたえてくれます。雫も明るい雰囲気の可愛い女子校生で、2人の何となく噛み合っているようで噛み合っていない会話がこそばゆく見ていてほのぼのさせてくれます。何よりも、そんな雫に対するアプローチはエロ漫画を描くという方向性ですからね。真っ直ぐなゆえにどこかズレている気がする、そんな性格が面白いです。基本的に悪人はおらず、先輩も太郎が漫画を完成させるために親身になってくれます。何となく、太郎の性格が雫や先輩といった人を引き寄せたのかなと思っております。そんな太郎の初々しい様子を楽しみながら、漫画と恋の行方を見届けてみて下さい。

 その他の点として、えるりんごさんの作品は背景もBGMも全てオリジナルで準備しているという特徴があります。背景にはどうやらモチーフがあるみたいで、まさに「大学がある地方」という雰囲気そのままの印象とピッタリです。また先輩や雫の部屋のシーンがあるのですが、ダイレクトに自身の作品を紹介しているのも良いですね。特に先輩の部屋の様子は必見です。BGMは日常的な物を中心に色々なジャンルの楽曲が揃っております。個人的に気に入っているのはBGMの変わり目です。日常的な物かと思えば突然シリアス展開になり、そしてまた日常に戻ったりと割と劇的です。それが太郎の心情とリンクしており、場面の様子を表現するのに一役かっております。テキスト表示も最大2行までと個人的には目に優しく、クリックするテンポが掴みやすく読みやすかったです。

 プレイ時間は私で1時間50分でした。この作品における最大の特徴、それは分岐があるという事です。何が言いたいのかと言いますと、原作である漫画版「魔王、エロ漫画を描く。」とは違う結末が用意されているという事です。ネタバレしない程度で書けば、漫画版の2倍程度の尺があり更に登場人物たちの裏側を理解する事が出来ます。是非漫画版のみ知っている方にも、いやむしろ漫画版を知っている方にこそプレイして頂きたいです。勿論魔王シリーズが初めての方にとっても問題なくプレイできます。そんな感じで、漫画版から6年半の月日を経てリメイクされた「魔王、エロ漫画を描く。」を是非お楽しみください。そして繰り返しになりますが是非漫画版も手に取ってみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<魔王も雫も先輩も、いつまでもこの素直な性格のままでいて欲しいなと思いました。>

 最後までプレイして、素直に良かったなと思えました。私は漫画版を知ってましたので、あの可哀想なエンディングとは別にどんなエンディングが待っているんだろうという点が気になってました。最終的に、魔王もそうですが雫の内面も見る事が出来て理解が深まり良かったです。

 始めに全体の構成的として、魔王がエロ漫画を制作していく過程と雫と交流を深めていく過程が丁寧に描かれていると思いました。漫画版ではどうしても尺の都合や単調になりがちという事でここまでのボリュームを捻出するのは難しいので、これはノベルゲームの強みを活かしてました。特にエロ漫画を制作していく過程が丁寧だったのが個人的に良かったです。まず絵が描けないから練習しなければいけない、いきなり下書きではなくネームを作った方が良い、コマ割はこうした方が良い、そうした具体的なステップを踏む事で着実に前に進んでいる実感を感じられるのがお見事でした。これは、流石えるりんごさんという感じですね。つまるところ、実際に漫画を描いている方によるリアルな漫画の描き方を再現している訳です。大変説得力があり、もしかしたら自分も描く事が出来るんじゃないかと思ってしまいました。

 次に、漫画を描いていく過程で先輩の人柄の良さに改めて注目する事が出来ました。自身がエロ漫画家という事もあり適切にアドバイスしてくれるのは勿論ですが、それ以上に魔王が挫折しないように的確なタイミングで励ましてくれる点が良かったです。バッドエンドルートなんて、もう実質魔王×先輩の作品なんじゃないかと思わせてくれましたからね。インクをこぼしてもう駄目だと絶望した魔王に対して「よくある事だ!」と励ましたり、逆に先輩が辛い時に魔王に電話をして元気をもらう事で「先輩も超人ではなく人並みに苦労してるんだ」という事を伝えたり、こんな風にコーチングされれば、誰もがエロ漫画家になる事が出来るかも知れませんね!実際のところ、素人の方が約三ヶ月で一本のエロ漫画を完成させられるんですかね?でもこれを見て行けるのかも知れないと思わせてくれました。

 そして、雫の内面もかなり掘り下げて理解する事が出来ました。漫画版やバッドエンドルートは、正直なところ雫は高嶺の花と言いますか偶像的な存在でありあまりそちらの内面を窺い知る事は出来ませんでした。あくまで主人公は魔王であり雫は結ばれない憧れの人という立ち位置でしたからね。ですけど、今回トゥルーエンドに行くにあたりそんな雫の内面を読む事が出来たのが良かったです。何気に、選択肢難しかったですからね。特に2つ目の選択肢で「隣りの席の人って男か?」は中々選び辛かったのではないでしょうか?続きのテキストを読めば分かりますが、「なんで教科書忘れたんだ?」を選んだことで魔王は雫にしか分からない地雷を踏んでしまった事になります。もしかしたら、プレイヤーにとってはやや理不尽と思ったかもしれません。ですけど、そんなちぐはぐさもまた雫という人格なんだなと改めて理解しております。

 後ほど検証して、どうやら全ての選択肢で正解を選ばないとトゥルーエンドにたどり着けない仕様みたいです。これも個人的に良かったですね。バッドエンドは、漫画版と同じシナリオでしたからね。だからこそのこのトゥルーエンドへ至るまでの難易度なんだろうなと理解しております。そして、前述しております通り多くの方はきっと始めはバッドエンドになってしまったのではないでしょうか。これもまた良い効果を生んでいると思いました。まずはバッドエンドに行く事で漫画の描き方を理解し先輩の人柄を理解する、その後グッドエンドに行く事で雫の人柄を理解する、この2ステップでこの「魔王、エロ漫画を描く。」という作品を余すことなく堪能出来ると思っております。

 最初から最後まで、魔王の不器用だけど素直な性格は変わる事がありませんでした。そして、本当に雫が好きなんだなという事が伝わりました。そのアプローチは下校タイミングを見計らうとか隠れて写真を撮るとかエロ漫画を描くとかやや独特でしたが、お互い信頼関係が出来れば将来的に笑い話になるのではないかと思っております。果たして、この2人の将来はどうなるのでしょうかね?魔王は無事に就職を決めて4年で卒業できるのでしょうか。雫は都会の志望校を受験し合格する事が出来るのでしょうか。その結末は分かりませんが、この2人なら何となく目的を達成し幸せな生活を送っている姿が想像できます。これからも、このままの素直な2人で楽しく暮らしていって欲しいと思いました。ありがとうございました。


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