M.M まいてつ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 8 | 10+ | 86 | 18〜20 | 2016/5/3 |
作品ページ(R-18注意) | ブランドページ |
<鉄道の魅力に触れ、キャラクターの動きに触れ、熊本弁の温かさに触れながら是非癒しの物語を楽しんで欲しいですね。>
この「まいてつ」はLoseで制作されたビジュアルノベルです。Loseの作品はこれまでプレイした事はありませんでしたが、2作目である「ものべの」が丁寧な作り込みと動きのある演出で一定の人気がある事は知っておりました。その後このまいてつが発売されても当初はあまり注目しておりませんでした。ですがその後秋葉原の街で広告が掲示されたり、OPムービー等を見たりしてとても琴線に触れる部分が多くありました。ああ、これはきっとやらないと後悔するとどこかで警鐘が鳴っておりましたのでまだ新品が残っている内にギリギリ購入し現在のレビューに至っております。
まいてつというタイトルの通り、この作品は鉄道というものをテーマにしております。キャッチフレーズは「癒しの鉄道復興物語」となっており、一度廃れた鉄道を復興させながら街を発展させていく物語が幕を開けるのです。主人公である右田双鉄は大廃線時代の鉄道事故を契機に、隈本県は御一夜市の焼酎酒造である右田家の養子となった少年です。そんな彼も成長し帝大へと進学するのですが、御一夜市の水質汚染を救うべく再びこの故郷へと帰ってきます。帰ってきた故郷で出会ったのはレイルロオドと呼ばれる鉄道車輌を制御する人型モジュールのハチロクでした。彼女との出会いがその後の鉄道復興への切っ掛けとなり、温かい物語の幕開けとなるのです。
この作品の特徴はとにかく温かい雰囲気です。主題歌である「レイル・ロマネスク」の落ち着きながらも軽快なリズムはまいてつという作品そのものを表現しており、ヒロインを始め登場人物に悪人はおりません。まさに癒しの鉄道復興物語の名前に相応しい雰囲気となっております。御一夜という町も田舎の小さな都市という事で時間の流れがゆっくりであり、安心してこの身を任せられる場所です。背景やBGMも落ち着いたものとなっており、シナリオやキャラクターをバックアップしてくれます。肩肘を張らず、伏線などもあまり気にせずにのんびりとした気持ちで読んで欲しいと思いますね。
そしてまいてつの魅力といえば何と言ってもE-moteによってヌルヌル動くキャラクターです。公式HPでご覧になれますが、とにかく全てのシーンでE-moteが使われており感情豊かにキャラクターが動いてくれます。勿論ボイスも全てE-moteに合っており、本当に喋っているかのようです。実は私、E-moteが搭載された作品をプレイするのは初めてだったのですがこれは確かに衝撃ですね。唯でさえ可愛らしいキャラクターに対してますます愛着が増してしまいます。この作品の癒しというのは物語や御一夜の雰囲気だけではなく、むしろキャラクターがメインなのかも知れません。この動きを見るだけでも価値があると思いますね。
後はこのまいてつという作品の舞台が熊本県の人吉市であるという事も大切な要素です。まいてつの世界は架空の日本が舞台であり、日本は日ノ本と呼ばれ熊本県は隈元県、人吉は御一夜と呼ばれております。それでも地形や文化はそのままであり、本当に人吉市へ来たかのようです。一番それを実感出来るのは方言ですね。ネイティブの方がどう思うかは分かりませんが、声優さんのプロの仕事を感じる事が出来ました。ヒロインも街の人も全員熊本弁を喋ります。スタッフに熊本出身の方がいるとしか思えない程の徹底ぶりに強い拘りを感じましたね。折角E-moteでヌルヌルキャラクターが動きますので、熊本弁の温かさに触れながらオートプレイで楽しむのもまた良いのではないかと思います。
プレイ時間は私で18時間50分程度掛かりました。共通ルートで4時間でメインヒロインが3人で1人辺り約3時間、その他の要素が4時間程度といったところでした。ですがこの作品は鉄道を扱っているという事で固有名詞がとても多いです。テキスト上にTipsという形で言葉の解説を読む事は出来ますが、慣れない方は中々すいすいとシナリオを読み進められないかも知れません。逆に言えばそれだけ鉄道に対して調査をしているという事であり、この専門性もまたまいてつの魅力となっております。鉄道の魅力に触れ、キャラクターの動きに触れ、熊本弁の温かさに触れながら是非癒しの物語を楽しんで欲しいですね。大変オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<さあ、次は私たちがこの「未来行き☆列車」に乗って新しい景色を見つける番です!>
とても沢山の元気を貰いました。鉄道が寸断され目立たない産業しかない御一夜が8620を起点として力を合わせて復興していく姿はとても温かいものであり、主人公である双鉄やレイルロオドであるハチロクを始め全ての登場人物のこれからの活躍を祈念するものでした。またシナリオだけではなくBGMやE-moteを活用したキャラクター描写もとても丁寧であり、全体で御一夜の発展を願っている様子が伝わりました。
そして個人的にこの作品の最大の魅力はボーカル曲にあると思っております。主題歌である「レイル・ロマネスク」に始まり、各ヒロインのOP曲とED曲は作品を良くイメージできるものであり、曲を聴くだけでまいてつという作品を思い出せるものでした。ですが私はその中でも一番最後に聴くことができる「未来行き☆列車」という曲に大変惚れ込んでしまい、この曲を通して色々な言葉や想いが溢れ出してきました。他に色々言いたかった事もあったのですが何だか全て色褪せてしまったかのようで、もうこのネタバレ有りのレビューではこの「未来行き☆列車」という曲についてのみ書こうと決めました。何よりもこの曲こそが、まいてつという作品が私たちプレイヤーに伝えたかったメッセージを代弁してくれていると思うのです。
「未来行き☆列車」については各ヒロインのEDクレジットを見ている段階で存在は知っておりました。そしてグランドOPとありましたので恐らくグランドルートを選択した段階で流れるのだろうと思っておりました。ですが実際はグランドルートを選択してもボーカル曲は流れず、そのまま物語は終わりを迎えグランドEDである「ナインスターズ」が流れてました。ナインスターズもまた非常に快活な曲で物語の最後にふさわしい楽曲だと思っておりました。ですが同時に未来行き☆列車はどこで流れるのだろうと疑問に思っておりました。そしてEDクレジットが終わってタイトル画面に戻り、SLの汽笛が聞こえて暫く余韻に浸っていたらこの曲が流れてきたのです。
まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けました。冒頭のSLの音と荘厳なコーラスに始まり、それはまさに列車の出発前の汽笛のようです。そして再びのSLの音の後、トランペットの華やかな音とともに始まった変ロ長調の軽快なテンポはどんどん加速し目的地へ向けて走り抜けるSLの姿そのものです。Bメロの後半、B♭で一度和音が終着しながらもサビに向かって最高点がCまで上がり、サビで更にD→Fと上がる構成は嫌が応にもテンションを上げてくれます。展開部では音だけではなく和音も変ロ長調→ロ長調→ハ長調と一つずつ上がっていき、最高点では#を6つ使った嬰ヘ長調となりそこでの賛美歌は荘厳の極みです。再び変ロ長調に戻りそのまま最後、再びのSLの音で締めくくられます。SLが始発駅を発車し終着駅に到着するまでを描いた物語のようなこの曲はまさにまいてつの総評であり、荘厳さも含めて非常に興奮しました。
ですがこの曲の素晴らしさは曲単体だけではないと思っております。まいてつは主題歌である「レイル・ロマネスク」に代表される様に基本的には癒しの物語であり、盛り上がり盛り下がりも勿論ありますがそこまでドラマチックではないと思っております。あまり深い考察を必要とせず、あくまで御一夜の優しい雰囲気を味わって癒される作品です。各ヒロインのED曲はそれぞれのヒロインの性格を象徴した曲ばかりであり、例えば日々姫の快活な性格を象徴した「Run with our dreams」はポップな曲であり、れいなの無邪気な性格を象徴した「しゅっぱつしんこう!!」はこれでなければ許されない児童曲です。グランドEDである「ナインスターズ」も長い物語の末にたどり着いた九洲全土を巻き込んだナインスターズの完成とヒロイン達との決着を象徴した軽快かつ高速な曲であり、十分この作品の締めを任せられる一曲でした。何が言いたいかと言いますと、まいてつのボーカル曲には全てに役割があり作品の雰囲気やキャラクターやシナリオと密接に関わっているという事です。
では最後に解禁された「未来行き☆列車」にはどのような役割が与えられているのでしょうか。思うにこの曲はまいてつという作品を超えて、皆さん一人一人が未来へ進んで欲しいという意味が込められていると思っております。過去のトラウマにより感情をあまり表に出さなくなった双鉄、その双鉄がレイルロオドであるハチロクと共に8620を復活させながら御一夜の発展の為に奮闘しておりました。そして奮闘の中で各ヒロインだけではなく御一夜に住む全ての人々の助けを借り、最終的には全員で手を取り合ってナインスターズを作り上げました。グランドルートでの「沢山の誰かの行動で今がある」「全てはお互い様」「人は、ただまっすぐに伸びゆくものに憧れる」というセリフはそんな奮闘と助け合いの象徴であり、まいてつが表現したかった人との関わり合いの大切さが十二分に伝わるシナリオでした。
そのようなまいてつのシナリオと双鉄の努力と御一夜の温かさを私たちプレイヤーは感じる事が出来ました。ではこの作品を終えた今の私たちは何をしなければいけないのでしょうか。それは彼らのように私たちもまた未来へと向かって足を進める事だと思います。グランドルートの中でも「すれ違い、食い違い、間違うからこそ、行くべき場所を、本当の意味で見いだせる。」と語っておりました。未来へ一歩踏み出すのはとても怖いことです。間違いもたくさん起こすと思います。それでも人を信じて自分の目標を見失わなければたどり着けるものがあります。仕事でも趣味でも、やりたい事や夢というものを諦めないで是非新しい事に挑戦してみようと思わせてくれました。
「未来行き☆列車」という曲の役割は、そんな私たちに対する応援歌だと思っております。まいてつという作品を通して感じた夢に向かう姿勢、それを実行するのは私たちの役割です。「まだ お話は はじまった ばかりなの」と言っております。まるで背中を押してくれる様ではありませんか!折角まいてつが用意してくれた曲、いや用意してくれた列車です。もう発車時刻はすぐそこに迫っております。後は勇気を出して乗り込むだけです。この「未来行き☆列車」に乗って、まだ見ぬ景色を見つけられるように頑張っていこうと強く思う事が出来ました。素敵な曲、素敵な作品をありがとうございました。