M.M 真昼の暗黒




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 - 85 5〜7 2020/11/20
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<物事は一面だけ見ても決して分からない、それを神の視点から体感し全ての要素を遊びつくしましょう。>

 この「真昼の暗黒」は同人サークルである「Summertime」で制作されたビジュアルノベルです。Summertimeさんの作品をプレイしたのは本作が初めてです。この作品をプレイする切っ掛けは、実はこれまで幾つもの場面でありました。何故なら、多くの知り合いの方が私にこの作品を勧めてきたからです。そしてつい最近も、私のHPで公募している「プレイして欲しいビジュアルノベル」でリクエストがありました。流石にこれは只物ではないと思いプレイして見る事にしました。調べてみたら、この作品はティラノゲームフェス2018にてグランプリを受賞したとの事。 独特の雰囲気がプレイ開始前からテンションを上げてくれます。間違いなく何か心に残す物があるのだろうという確信と共に、プレイし始めました。

 あなたの目の前には古めかしいPCがあります。それを起動すると、その中にはとある事件についてまとめられたフォルダがありました。あなたは第三者として、神の立ち位置でそのフォルダを見る事によってとある2人の人物を中心とした物語を読む事になります。この作品は物語ではなくあくまで回顧録です、既に起きた出来事を見るだけですので結末は決まっております。それでも、立場を変えて見る事でこの出来事の様々な顔を見る事が出来ます。この作品は、主人公である小学五年生の昼間ミサ(ひるまみさ)やそれ以外の視点で物語が進んでいきます。あなたがどの視点で物語を見るのか、それもまたプレイ開始時の簡単なアンケートで決まります。ゲーム起動時から既に独特の雰囲気とシステムを作り出している作品です、この時からあなたはもうこの作品に取り込まれている筈です。

 そしてこの作品の最大の魅力は、シナリオと人物描写にあると思っております。タイトルとなっている真昼の暗黒、普通真昼というのもは太陽の光が燦燦と降り注ぎ明るい印象があります。それが、暗黒ですからね。真昼と暗黒という相反する物が共存するとはどういう事なのでしょうか。この作品は、表向き普通に見える事でもその内面を見たら決してそんな事は無かったというギャップ、そして物事は一面だけ見ても分からないという真理、それをシナリオと人物描写を通して体感できる事が魅力だと思っております。そういった性質上、極力内容についてはここでは記さない事にします。公式HPで紹介されているあらずじと人物紹介の情報、そこから先は自分の目で確認してみて下さい。そして、真昼の暗黒というタイトルの意味を考えてみて下さい。

 その他の要素としてまして、演出が非常に独特です。上でも書きましたが、この作品は、プレイヤーであるあなたが第三者視点でとある古めかしいPCを起動しそこにある実行ファイルを起動するという設定で進んでいきます。DOSの時代を思い起こさせるようなドット絵の背景描写、微妙に扱い悪いシステム周り、これら全てがこの真昼の暗黒という作品を演出する為に用意されております。BGMも様々なジャンルのものがありますが、その多くは不気味と形容するのが適切なものばかりです。音量も突然大小変化したり、不協和音だらけだったり、他の作品では聴かないようなBGMばかりです。そして微妙に扱いにくいシステム周りは演出の代償ですね。時に既読スキップが効かなかったりバックログが無かったりしますが、これもまたあえての演出に思えてしまいます。今回は目を瞑る事にして、じっくりと演出を味わってみて下さい。

 プレイ時間は私で約5時間40分程度掛かりました。この作品は細かく章が分かれており、1つの章で15〜20分程度となっております。そして、上で書きましたがこの作品はプレイ開始時のアンケートで視点が複数に分かれます。その為一周しただけでは半分も内容を見る事が出来ず、何周もする事になると思います。また本編以外の要素も豊富であり、それら全ての要素を見ようと思うと丁寧にメモを取り進める必要があるかも知れません。そうしたコンプリート要素も豊富ですので最後まで楽しめると思います。勿論全ての要素を見届ける事でより客観的に内容を俯瞰出来ると思いますし、むしろそうしたいと思ってしまうでしょうね。ティラノゲームフェス2018にてグランプリを受賞した作品です、是非隅から隅まで楽しんでみて下さい。面白かったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<事実を公表した深沙と事実を公表しなかった深沙、さてどちらが深沙にとっての幸せだったのでしょうね。>


「何でも良いから私に関わってよ!」


 深沙視点の「7、日が昇る」で深沙が叫んだセリフです。やっと、深沙はここで本音を漏らす事が出来たのかなと思っております。この作品は凶悪な事件があり誰もが心の底に闇を抱えていたり異常者が登場したりとそうした表向き分かりやすい要素が目立っておりますが、本質的にはこのセリフに集約されるのかなと思っております。やっと、深沙はここから自分らしく生きる事が出来るのかなと思っております。

 全ての要素を見終わって、この作品のテーマは「寂しさ」だと思いました。登場人物の殆どは、幼少期に一般的な家庭環境の中で過ごす事が出来ておりませんでした。つまり、愛情に飢えていたのです。その為、表面上は平気なふりをしても心の奥底で寂しさを埋めてくれる存在を求めておりました。深沙の姉であるうたげは、母親と口論し自分の正論をぶつけました。結果母親は警察に連れて行かれ、後に残ったのは喪失感でした。だからこそうたげは深沙に執着し、深沙の為と言いつつ姉の姿を演じながら深沙に依存しておりました。だからこそ心のバランスが歪んでしまったんですね、うたげは偶然出会ったカウンセラーである計に身体を預けてしまいます。その瞬間だけ自分は計に全てを預ければ良いのです。寂しさから解放されるのです。こんな快感、突き放す事なんて出来ませんね。どれだけ背徳的だとしても、この気持ちだけは本当でした。

 ですがそんなうたげの姿を深沙はだらしがないと思いました。お母さんみたいとも言いました。深沙もまた、どこか寂しさを抱えていながらも姉らしく振舞う事が出来ていないうたげを許せないという気持ちを持っていたのです。私達プレイヤーは全てを知っていますので、うたげを責める事など出来る筈がありません。ですが、深沙が知っているのは不正を働いた母親とは違う倫理的で模範的な姉の姿だけです。そんな姉のだらしない姿など、認めたくなかったのかも知れません。この時から、姉に対する盲目的とも言える信頼は崩壊してしまいました。だからこそ、姉が死んだときに素直に悲しいと思う事が出来ずどこか他人事の様に思っていたのでしょうね。

 そして、そんな姉の生き方をなぞる様に深沙は姉が殺されてから10年もの間殺人犯である計の傍で生活する事になります。普通の感覚ではにわかに信じられません。なんせ、自分の大好きだった姉を殺した張本人と一緒に生活するのですから。ですが、この時深沙の周りには誰も信頼できる人がいませんでした。母親は警察に連れて行かれ、父親は既に亡くなっております。近所の人たちは腫れ物のように触れ、唯一心を許せた穣介はよりによって計に殺されてしまいました。もう、誰もいないのです。それだったら、喩え自分の仇であっても寂しさを埋めてくれる存在であれば一緒に居て欲しいと思うのはまだ分かる気がします。別に、自分の人生ですので美しく立派に生きる必要はありません。正しい生き方など存在しませんので、自分が心許せる人が見つかりお互い気持ちがマッチングすればそれで良いのかも知れません。人が見たら狂気に見える光景でも、深沙にとってはいたって真面目に自分の存在意義を見出してくれる大切な存在との同棲だったのです。

 そんな深沙に、最後に普通の生活に戻るのか戻らないのかの分かれ道が提示されました。それが、雑誌記者田辺に事件の全てを曝露するかしないかです。この真昼の暗黒という作品においての唯一の選択肢、上手だなと思いました。普通の生活を取るのか普通の生活を捨てて寂しさからの解放を取るのか、正直唸ってしまいました。この深沙の立場を無理やり自分に当てはめるとしたら、結婚するのか結婚を捨てて趣味に生きるのかといったところでしょうか。自分でも分かっているつもりですが、ビジュアルノベルが好きでレビューを書くという生活をかれこれ14年続ける人間は中々いないと思います。明らかに普通ではない趣味だと思います。勿論結婚には興味がありしてみたいと思いますが、ビジュアルノベルのレビューを捨てて結婚するのか?と問われると正直五分五分です。現実的に、どちらかに思いっきり舵を切らないと続けられなさそうだなと朧気ながらに思っております。自分の話はこの辺にして、深沙にとってはまさにここが運命の分かれ道でした。そして、それぞれの選択でそれなりの結末が待っておりました。

 事実を公表した深沙は、全てを失いました。そして気付きました、本当に大切な部分は、私がお姉ちゃん・穣介・計と過ごした日々だったという事に。ですが、それはもう帰って来ないのです。何故なら、自分でその日々を捨てたのですから。その代わり、犯罪者と一緒に生活する女という異常者としての肩書も消えました。良いも悪いも全て消えて、色で示せば真っ白な状態でしょうか。果たして深沙は満足しているのでしょうか。私はきっといつか寂しさに耐えられなくなるんじゃないかと思っております。これを克服するのは、相当難しいでしょうね。逆に事実を公表しない深沙は、普通の生活に戻れない代わりに計という存在を手に入れました。どれだけ自分が落ちぶれても、どれだけ自分がどうしようもない人間になっても、計だけは傍にいる事を手に入れたのです。少なくとも寂しさからは解放された深沙、これもまた深沙が選んだ結果でした。さて、どちらが深沙にとっての幸せだったのでしょうね。その答えは、深沙しか知らないのです。自分も、本当の幸せというのは何なんだろうなと考えてしまいましたね。何が好きで何が大切なのか、その先に幸せが待っている事を祈って本レビューの終了としたいと思います。ありがとうございました。


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