M.M マジカルアイズ -Red is for anguish-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 6 83 5〜6 2014/12/1
作品ページ サークルページ

体験版
フリーゲーム夢現



<とにかくシステム面で非常に工夫されている、様々な楽しみ方が出来る恋愛&ミステリー作品>

 この「マジカルアイズ -Red is for anguish-」という作品は同人サークルである「Pomeranian Swingers」で制作されたビジュアルノベルです。Pomeranian SwingersさんはCOMITIA110で同人ゲームのエリアを回っている時が出会った切っ掛けでした。元々Pomeranian Swingersさんの事は存じてなかったのですが、実は各種イベントで毎回お話させていただいている「とらいあんぐる!」さんと話をした時に紹介して頂きまして、帰り支度をしているPomeranian Swingersさんのところに押しかけたという経緯がありました。その時入手したのが今回レビューしている「マジカルアイズ -Red is for anguish-」であり、映画的な演出が光る大変クオリティの高い作品で正直驚いております。

 時は201X年、舞台は架空の日本です。この日本では近頃犯罪率が上がっており、特にこのひと月については昨年度の同月比で倍を超える件数になっております。その理由は解明中ですが、警察はこの件についてある人物に相談を持ちかけます。それが主人公である天河勇であり、異形と呼ばれる化け物のスペシャリストです。勇はマツロワヌモノタチと呼ばれる集団に属し、日々異形と呼ばれる化け物と戦っております。異形とは強い感情によって物理法則を超えた力を有してしまった者の総称です。死して異形となったものが化け物であり、生きたまま異形となったものはマツロワヌモノと呼ばれております。日常生活の中では決してお目見えすることのない異形という存在、そんな日常の中に潜む非日常的な世界観を是非楽しんで頂ければと思います。

 この作品には様々なモードが登場します。マウスクリックでテキストを読み進める通常モードに加え、マップ上から行きたい場所を選択するマップモード、物語の区切りのいいポイントで情報を整理する推理モードとプレイヤーを楽しませる要素が満載です。そしてそれぞれのモードでどのような選択をしたかによって読む事が出来るシナリオが変化していきます。この作品、サイドシナリオが非常に多く有り、是非全てのシナリオを読んでマジカルアイズの世界観や登場人物のキャラクターを味わって頂ければと思います。後はテキスト上の特定用語には注釈がついており、辞書的に活用することも出来ます。そして視点変更もわかりやすく、誰が一人称かも迷う事がありません。とにかくシステム面で非常に工夫されており、大変労力を注がれている事が伺えます。

 最大の魅力は人間と異形、そしてマツロワヌモノタチの関わり方です。それぞれがそれぞれの立場で町で発生している事件についてアプローチしていきますが、各人得意不得意がありますので関わり方が様々です。それでも目的は一緒であり、お互いの得意分野を組み合わせて事件の真相に迫っていく様子はパズルのピースをはめていく様で楽しいです。また上で書いたサイドシナリオがそんなパズルのピースを肉付けしてくれており、本編を読む以上に各登場人物に愛着を持たせてくれます。そしてこの作品はミステリーが主体ではありますが恋愛もテーマにしております。事件を追う傍らで描かれる主人公とヒロインの掛け合いもこそばゆい物があり、ひと時の安らぎを得ることが出来ると思います。

 プレイ時間は私で5時間30分掛かりました。正直な話、一気に休むことなくプレイしてしまいました。それだけ物語の真相が紐解かれていく様子が楽しく快感でした。私は一気にプレイしてしまいましたが、途中何度かある推理モードが一つの区切りとなっておりますのでそこで休憩を取りながら進めるのも良いと思います。どんどん読み進めて物語の真相に進むのもアリ、ミステリーですので途中自分で考察しながらその後の展開を予測して進むのもアリです。自分のスタイルで様々な楽しみ方が出来ると思いますので、是非作品の魅力を存分に味わいながらプレイして頂ければと思います。

→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分が大切にしているものは絶対に見失ってはいけない。例えそれが茨の道だったとしても。>

 最後までドキドキしながら進める事が出来ました。人形の真実、田村という男の内心、そして主人公達マツロワヌモノタチの行動原理、様々な人や物の想いが交差し今回の事件の解決に向かう事が出来ました。大切な事は自分の信じるものに対して突き進む事、そして自分を信じてくれる物を大切にする事、そのような事を伝えたかったのかなと思っております。

 どの人物も苦悩を抱えておりました。人形師である深山蝉丸は最愛の家族を亡くし、唯一心を許せる妹と生きることが人生の全てでした。そんな妹に対する強い想いが形になったのが今回の事件の真相である日本人形であり、彼女もまた自分が正しいと思う事を繰り返しておりました。しかし彼女の行動は現代社会において許されるものではありませんでした。自分を作ってくれた深山蝉丸を残すためだからといって他人の命を犠牲にして良い訳がありません。事件の解決は彼女の生の終わり。最後に勇と戦いトドメをさされる時に浮かんだ顔は果たして誰の顔だったのでしょうか。それを知る事はもはや出来ません。果たして彼女は成仏できたのでしょうか。それを知る事ももはや出来ないのです。

 しかし生き残った人は自分の気持ち一つで彼女をはじめとした故人の気持ちを受け止める事が出来ます。そしてその気持ちを胸に、自分の信念に基づいて生きる事が出来るのです。田村は確かに間違いを犯しました。確証は無かったとは言え自分が理由で2人の人物を死に追いやってしまいます。それでも田村は生きているのです。一度は人形と刺し違えて死のうと思っておりました。ですが死ねませんでした。と言うよりも生き残されました。だからきっと田村は生きなければいけないのだと思います。辛くても逃げ出したくてもそれは許されません。鈴鳴も田村に「いつまでも苦しむしかない」と言ってました。苦しむしかないんです。でも生きる事、それがきっと唯一故人に対して誇れる生き方なのだなと思っております。

 それにしても田村の人形と刺し違える為だけに生きた5年間は確かに後ろ向きな気持ちによる物でしたが、その想いの強さは周りの人にしっかりと届いておりました。結果として勇と鈴鳴が間に合い田村は死なずに済みましたが、そもそも勇と鈴鳴が動いたのは田村の強い気持ちを感じたからです。これだけの信念を持てる男なのですから、たとえ辛くても工作員としてやっていけると思いますね。そしてそれは田村らしい生き方、副島も「田村には、いつまでも不器用なままでいて欲しい」と言ってました。不器用ですけど嘘をつかない信頼できるのが田村の魅力です。それは田村の人生の中で他人から認められた唯一のものであり絶対に大切にしなければいけないものです。もう見失うことは許されませんね。例えそれが茨の道だったとしても、自分が大切にしているものは絶対に見失ってはいけない。この作品はそんな事を言いたかったのかなと思っております。

 という訳で田村を中心としたレビューとなりました。この作品は田村という男が過去と決別し新たな一歩へと進む為の物語だと思っております。ですが勿論ほかの人物達にも物語がありました。信念もありました。一癖も二癖もある人物ばかりでしたが、誰もが愛されるキャラクターだなと思いました。さて、次回は誰にスポットライトが当たるのでしょうか。いよいよ緒川千春が正ヒロインとして活躍するのでしょうか。彼女の持つ異形の力は何なのでしょうか。後は今回サブキャラ扱いだった淳と雫の兄妹はどうなるのでしょうか。この2人にも何かあるみたいですからね。そして昨今犯罪が増えているそもそもの原因は何なのでしょうか。まだ事件は解決しておりません。優秀な登場人物達の力を合わせて、今度こそ事件を解決して欲しいと思っております。次回作を楽しみにしております。ありがとうございました。

→Game Review
→Main