M.M マダム・ポプスキンの憂鬱
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 7 | - | 81 | 2〜3 | 2022/7/10 |
作品ページ | サークルページ |
<プレイヤーに易しい洗練されたシステム周りで、ローレルの雰囲気を堪能しながら調査を進めましょう。>
この「マダム・ポプスキンの憂鬱」は、同人ゲームサークルである「TOTETIKE」で制作されたビジュアルノベルです。TOTETIKEさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けは、私とフォロワーの倉下さんで行いました「crAsM.Mビジュアルノベルオンリー」に参加頂いた事です。TOTETIKEさんには、イベントの開催前から関係するツイートに注目・拡散頂き大変お世話になりました。今回レビューしているマダム・ポプスキンの憂鬱は、ビジュアルノベル界隈において一大勢力となっているミステリージャンルです。コミケ等のリアルイベントでは数多くのサークルさんがミステリー作品を発表している印象ですが、当イベントでのミステリージャンルの割合はやや低く逆にレアな位置づけとなっております。探偵の主人公が依頼主の依頼を達成するために足を使い頭を使う本格的な内容です。現在ノベルゲームコレクションやふりーむで入手・プレイする事が出来ますので、是非アクセスしてみて下さい。
舞台となっているのは、山に囲まれた鉄鋼の街「ローレル」です。欧米をイメージした世界観であり、時代は明確に書かれておりません。鉄道が走り電話がありますが携帯電話やスマートフォンが無い辺りから、現代より少々遡り20世紀中頃といったところでしょうか。ローレルは、豊富な鉱物資源を背景にポプスキン家によって発展してきた街です。何百年も前から続いてきたポプスキン家は現在29代目のオディール・ポプスキンによって統治されております。彼女の手腕や行動力は素晴らしく、街の人は敬愛を畏怖を込めて「マダム・ポプスキン」と読んでおります。そんなマダム・ポプスキンから、主人公であるミシェル・ヴィドック(変更可)に依頼がありました。依頼内容は「40年前に我が身に起きた出来事を調査して欲しい」というものでした。鳴かず飛ばずの実績だった主人公に対して舞い込んできた大口の案件、それでも依頼内容はどこか平凡に見えます。しかし、調査を進めていく中でポプスキン家の実態やローレルの歴史が紐解かれ驚くべき真実が顔を出すのです。
この作品はミステリーホラー・アドベンチャーゲームとなっております。主人公は、マダム・ポプスキンの依頼を達成するために1日の行動を選択して調査を行います。始めに与えられた情報は僅かですが、調査を進めていく中で情報が増え行動範囲や関係する人物との繋がりが増えていきます。この辺りの攻略していく感覚がワクワクし楽しいです。また、主人公は大変なメモ魔であり全ての行動を詳細に記録してくれます。それは常に調査手帳や行動指針という形でプレイヤーが確認する事が出来、ミステリーが苦手な方でも次に進むべき道のりを把握する事が出来ます。とにかくこの調査手帳と行動指針のマメな更新と見やすさが素晴らしく、情報を見落とすという事がありません。私も普段プレイ中はメモを取るのですが、今作については自分の感想やレビューに書こうと思っている事柄のみメモを取り作品の中身に関するメモは1つも取りませんでした。素晴らしく計算され完成されたシステム周りに唯々感動しました。
また舞台については上記の通り欧米の20世紀中頃をイメージした物と書きましたが、背景描写で実際の舞台を撮影したものを使用しております。この辺りのリアリティな描写が作品に没頭させてくれます。また登場人物は老若男女10人以上登場します。始めは初対面の主人公に対して警戒する素振りもありましたが、次第に打ち解けていきそれぞれの個性を見せてくれました。これも勿論調査手帳に詳細に記録しておりますのでどんな人物か見返す事が出来ます。BGMは最小限であり、基本的には1つのBGMがずっと流れておりこれが作者がイメージするローレルの雰囲気なんだなと思いました。逆に、BGMが変化する場面は転換点や緊迫する場面という事になりますので緊張感が走りました。全体的に世界観を大切にしており、またプレイヤーのサポート体制がしっかりしている作り込みがお見事だと思いました。
プレイ時間は私で2時間15分くらいでした。この作品には幾つものエンディングが用意されており、主人公が選んだ行動や選択で分岐していきます。私がたどり着いたエンディングはいわゆる依頼を成功させたもので、ここまでたどり着いた時間が2時間15分でした。割とエンディングの数は多いので、全てのエンディングを見ようと思うと大変かもしれません。とりあえず、依頼を達成出来たので良かったです。公式HPにも書いておりますが、依頼を達成するという大きな目的がありますが敢えて依頼を無視してマッタリローレルの街で過ごしたりとプレイヤーの数だけ進め方があります。マダム・ポプスキンへ良い報告をするのであればそれなりの努力は必要ですが、この辺りは自由に遊んでみて下さい。そして1点コメントですが、この作品はミステリーホラー・アドベンチャーです。ミステリーでありアドベンチャーですが、ホラー要素が登場するような雰囲気には思えませんでした。これについては、最後までプレイしてのお楽しみという事でここでは伏せます。正直驚きの展開でした。そういう意味でも、是非マダム・ポプスキンの依頼を達成して欲しいです。楽しかったです。ありがとうございました。。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<人と比べる事を止めることは出来なくても、せめて嫉みだけは持ちたくないなと思いました。>
調査の後半に登場したルネ・ルーが発した「幽霊の声が聴こえる」という言葉から、一気にホラーになってビックリしました。まさか19代目の当主ポプスキンがあの呪われた古城の諸悪の根源だったとは思いませんでした。事実は小説より奇なり、ミシェル・ヴィドックの丁寧で曇りの無い調査が真実を解き明かしました。
基本的に悪人は登場しませんでしたね。というよりも、悪人とされている人はみんな既にこの世に存在してませんでした。マダム・ポプスキンは、本当に兄弟殺しはしてませんでした。どうしてもマダム・ポプスキンに権力を集中させたくないという一部の利己的な人達が流した噂でした。むしろ、兄弟の方がマダム・ポプスキンを追い詰めておりました。そんな、血で血を洗う様な抗争は確かに存在し40年前のポプスキン家は混乱しておりました。しかし、そんな兄弟たちはもういません。もし因果応報という物が存在するとしたら、それはきっとこの兄弟に帰って来たのだと思います。私としても、利己的な事を考えている人がのさばるのは気持ちが良いとは思いません。社会の為、他者の為に考えることが出来た人が報われる社会であって欲しいと思います。
しかし、利己的な人が仮に断罪されたとしてもそれでハイ終わりとはなりません。人が生きている限り何を思い同行するかを制限することは出来ないからです。今回、そんな人々の思いが溜まりに溜まったのがあの古城であり怨念なんだろうと思いました。結果として誘導したのは19代目のポプスキンですが、彼がいてもいなくても恨みを持つ人はいたと思います。END7の直前、呪いから解放された古城ですが完全に怨念が消えた訳ではありませんでした。世の中とはそういう物なのかも知れません。呪いの無い世界が理想ですが、人間が一人ひとり違う以上上下感覚や優等劣等の考えは消えないと思います。そして、他人と比べてしまう以上呪いは必ず生まれます。後は、そういう物だと一人ひとりが認識してそれでもこの社会で生きていくしかないかなと思っております。
その観点から、このローレルに住んでいる人の視点ではこの古城の呪いを解く事はきっと出来なかったのではないかと思っております。ローレルにおけるポプスキン家の力は絶大です。そして、ポプスキン家の力が絶大だという事がもはや常識となっておりました。もはや恨みや嫉みすら生じない、後はつかず離れずの関係を保つしかありませんでした。古城なんてその最たるものですね。ただでさえ不気味なうえにポプスキン家の所有物であるのなら、関わらない方が良いに決まってます。これに首を突っ込む人なと、主人公の様な外部の人間しかいません。だからこそ、今回マダム・ポプスキンがミシェル・ヴィドックに依頼したのは正解だったと思います。別にミシェル・ヴィドックは特別な事をした訳ではありませんでした。操作の基本通り、情報収集して足を使って調査して整理してたどり着いた結論でした。ただ、ミシェル・ヴィドックには曇りガラスがありませんでした。真実をそのまま見通す目を持っていたんですね。ミシェル・ヴィドックがいなければ、オカルトなんて誰も信じなかったと思いますしね。
この作品を通して、社会は本当に複雑な要素が絡み合ってるんだなと思いました。流石にここまで直接的なオカルトはこの世に存在しないかも知れませんけど、呪いは確実に存在します。そして、力のある人がいる以上少なからず周囲はその影響を受けます。時代のタイミングや人間活動のほんの些細な偶然が重なり、一言では言い表す事が出来ない環境が出来ておりました。今回、ミシェル・ヴィドックの活躍で古城の呪いは解放されましたので、少しだけローレルの歪みは弛んだのかなと思います。ですけど、人間が活動する以上どこかで呪いが蓄積されそれが表に出るかも知れません。せめて、相手を無碍に攻撃したり逆恨みするような事は無ければ良いなと思います。自分も、他者に対して憧れは持ちつつも嫉みは持たないようにしたいなと思いました。ありがとうございました。