M.M LOST:SMILE 1stEdition BlueBirth+




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 80 6〜7 2015/7/28
作品ページ サークルページ



<夏の田舎の雰囲気タップリであり、その雰囲気の中でのボーイミーツガールは王道で美しい>

 この「LOST:SMILE 1stEdition BlueBirth+」は同人サークルである「Tears Of Mermaid」で制作されたビジュアルノベルです。「Tears Of Mermaid」さんと出会ったのはC87で同人ゲームサークルを回っている時でして、その時に手にとったのがこの「LOST:SMILE 1stEdition BlueBirth+」です。とにかくサークルさんの読み込みに勢いがあり、特に同人ゲームをプレイする方でなくても近くを通った方であれば覗いてみたのではないでしょうか。パッケージも柔らかい塗の女の子が描かれており、その笑顔に対して「LOST:SMILE」というネガティブなタイトルであります。ただ女の子とイチャイチャするだけのシナリオで無いことは間違いなく、サークルさんも「制作に時間を掛けた」と話しているだけあって非常に期待してプレイ始めました。

 舞台は本州から遥か南に位置する星美島と呼ばれる小さな島です。そこは亜熱帯特有の温かい気候であり、都会とは全く時間の流れが違う雰囲気に包まれております。とにかく海と空が美しく、夏はダイバーなど多くの観光客が訪れます。それでも小さな島ですので開発されていることはなく、住人皆が顔なじみであり夏の田舎たっぷりの空気を味わうことが出来ます。主人公はかつてこの星美島に訪れた事がありましたが、その時の記憶はありません。ですが最近あの島にまつわる夢を見るようになり、14年の歳月を経て運命に導かれるように再び星美島の地を踏みます。物語は主人公が星美島にやって来るところから始まり、そこでの出会いが彼の運命を大きく変えていきます。

 プレイして直ぐに思ったのはとにかく背景が美しい事です。舞台は本州から遥か南の島という事で沖縄を想像して頂ければ良いのですが、実際にロケハンに行ったらしく非常に綿密に描かれております。水彩画で書いたかのような柔らかな雰囲気が田舎の空気感とマッチしており、プレイヤー自身もその場にいるかのような雰囲気にさせてくれます。そしてその柔らかな雰囲気はヒロイン達も同様であり、田舎らしい純粋で素直な性格の登場人物ばかりです。勿論人物の書き方も柔らかく、誰もが好感を持つと思います。そしてBGMもオリジナルであり、ピアノを中心としたサウンドも時間の流れをゆったりなものに変えてくれます。夏にプレイするに打って付けの作品ですね。

 そしてシナリオですが、ハッキリ言って青春王道です。主人公はまだ未成年です。そしてヒロインの多くは高校生です。思春期真っ只なキャラクターのボーイミーツガールですのでこそばゆい展開が無いはずがありませんね。もしかしたら玄人プレイヤーの方にはデジャヴに感じる展開もあるかも知れませんが、王道が王道たる所以を再確認することができると思います。むしろあまりビジュアルノベルをプレイされていない方に向いているかも知れません。夏の田舎というキーワードでピンと来る方、思春期の男女の物語という設定が好きな方なら必ずどハマリします。ですがこの作品のタイトルは「LOST:SMILE」、失われた笑顔です。プレイヤーの方には変に勘ぐることなく、ヒロインにとって失われたものは何かを是非素直な気持ちで探りながらプレイして欲しいですね。

 プレイ時間は私で6時間程度掛かりました。この作品はまだ1stEditionという事でメインヒロイン中2人しか攻略する事ができません。加えてC87でパッケージで入手された方は端堀美鈴1人しか攻略出来ませんので、是非プレイ前に公式HPで2人目のヒロインである与那嶺純追加パッチを充てて欲しいですね。そしてこの作品、選択誌の数は割と多いです。加えてフラグ判定も比較的シビアですので、一発でEDにたどり着くには難しいかも知れません。是非要注意だと思った箇所ではセーブをとり、確実に選択肢管理をして攻略して欲しいですね。久しぶりにギャルゲーやっているな〜って気持ちになりました。クリックするても軽快でしたので、是非気になった方はプレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<幸せになること。それがヒロイン達が失われた笑顔を取り戻す為の唯一の方法>



※以下のレビューは端堀美鈴ルート及び与那嶺純ルートの両方の内容を含んでおります。与那嶺純ルート未プレイの方にはネタバレになりますので注意願います。



 本当に直球で王道なシナリオであり最後までクリックする手が止まりませんでした。ヒロインとの出会いから始まり、2人の仲が親密になっていき、相思相愛になったタイミングでヒロインの中にある課題が表面化し、それを主人公と2人で乗り越える。非常に素直で好感の持てるシナリオだったと思います。ですが端堀美鈴ルートは伝奇ものに対して与那嶺純ルートはスポコンもの。同じテーマに対して全く違うプロットのシナリオにも驚かされました。それでも両方から受けた印象はさほど変わらず、伝えたいテーマが一貫している事が伝わりました。

 樋口有紀が持っていた夢見の能力。彼が何故この能力を持っているのかについては詳しく語られてはおりませんでしたが、別にそのルーツを語る必然性はそれ程ないのかも知れません。確かに彼がかつてこの島にやってきて、その事が切っ掛けで父親は死亡しております。この伏線は是非回収して欲しいと思いますし、そこにまたドラマが待っていると思います。ですが結局のところ夢見の能力は自分が選んだたった一人の女の子を助けるための能力であり、それが叶えられたのなら十分だと思いました。端堀美鈴ルートでは永遠の時を生きる彼女とその依り代となった少彦名との架け橋になる事が出来ました。与那嶺純ルートでは純が最後幸せな家庭に戻れた事を母親に伝える手助けになる事が出来ました。それで十分だと思います。その為に彼はこの星美島に帰ってきたのだと思いました。

 そしてヒロインたちを支えたのは樋口有紀の能力だけではありませんでした。彼を始め星美島に住む人々と何よりもこの長閑な島の雰囲気そのものが大切でした。日本全国を旅してきてそれでも答えが見つからなかった端堀美鈴でしたが、最後この最果ての島は何か雰囲気が違うと察し徹底的に調査する原動力となりました。与那嶺純は島では知らない人はいない元気少女であり、彼女の家族については誰もが気にかけていて心配しておりました。彼女たちがもしこの星美島ではなく東京のど真ん中で問題を抱えていたら、その圧倒的な孤独と息苦しい雰囲気に潰されていたと思います。夏の田舎が舞台なのは偶然ではない。星美島だからこそ醸し出せる空気感はヒロインたちにとって必然でした。

 そしてこの作品のテーマは「幸せになること」なのかなと思っております。ヒロインたちの境遇はかなり過酷なものでした。東京大空襲にとって家を焼かれ自身は不老不死になってしまった端堀美鈴、この時点で既に人の道から外れておりました。彼女にとっての幸せは人として当たり前の生活をする事、そんな些細な事すら彼女は叶えられなかったのです。与那嶺純は最愛の母を失い不器用な父親と歪んだ父娘関係を続けておりました。ちょっとしたボタンの掛け違いで修復されるはずの関係です。それすら周囲の人にも出来ずにいました。もしかしたら、幸せとはすぐ傍にあるもので見方を変えれば簡単に見つかるのかも知れません。幸せの数は人の数だけあります。この作品を通して、是非自分にとっての幸せは何か、そしてその幸せはどこにあるのかを探してみるのも良いと思います。

 まとまらなくなりそうですのでそろそろ締めようと思います。夏の田舎の雰囲気たっぷりの描写はそれだけで魅力的であり、是非現地にってみたいと思わせるに十分でした。そして全ての登場人物が素直であり歪んだ人物は一人もいない優しい世界でした。そんな世界で描かれる「幸せになること」をテーマとしたシナリオは直球であり、私の心にダイレクトに響きました。果たして他のヒロインが抱えている課題は何なのか。そして樋口有紀のルーツはどうなっているのか。是非今後の展開で語られて欲しいですね。楽しかったです。ありがとうございました。


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