M.M Lost Friends2 -Reason for Tears-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 77 1〜2 2022/12/29
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<前作同様丁寧に作られた世界観。その中で、後味の悪い不毛なシナリオが展開されます。>

 この「Lost Friends2 -Reason for Tears-」は、同人ゲームサークルである「渦女屋本舗」で制作されたビジュアルノベルです。渦女屋本舗さんの作品をプレイするのは、前作である「Lost Friends1 -Disappeared Name-」に引き続き2作品目です。渦女屋本舗を知った切っ掛けは、私とcrAsmという個人サークルを運営している倉下さんで行っているcrAsM.M ビジュアルノベルオンリーに参加頂いた事です。Lost Friends1をプレイしたのもcrAsM.M ビジュアルノベルオンリーが切っ掛けでして、こうして何度もご参加頂き嬉しく思っております。Lost Friendsシリーズは、タイトルの通り明るいどころか不穏で暗い内容となっております。そんなシリーズの第2段という事で、どんな人間模様が展開されるのか楽しみにプレイし始めました。

 主人公であるリカルドは、とある領主の使用人として働く青年です。何故か半年以上前の記憶が無いのですが、失った過去よりも未来に向かって生きようとしている前向きな性格です。リカルドには夢があり、それは立派な庭師になる事です。領主の館で先輩から庭師になる為の手ほどきを受け、充実した生活を送っておりました。また、リカルドには秘密の時間がありました。それは夜、森にいるナナシと呼んでいる異形の友達と会話する事です。そんな感じで順風満帆な生活を送っていたリカルドですが、ある日領主の息子であるコンラッドのお世話係を命じられます。この時間はリカルドにとってはとても退屈なものであり、ここから少しずつリカルドの運命が変わり始めるのです。

 この作品のジャンルは「不毛系ファンタジーADV」となっております。前作のLost Friends1は胸糞系ファンタジーADVでして、同様の後味の悪いシナリオになる事が想像できます。不毛とは、土地がやせていて作物や草木が育たないことという意味で、そこから転じてなんの進歩も成果も得られないことを差します。人生の中でも、どうしても不毛な事はあると思います。自分の為に行う活動はそこまで不毛な事は無いと思いますが、他人の為に行う活動は割と不毛な事が多い気がします。何かしてやっている気、というのが理由なのでしょうね。この作品でも、主人公リカルドは領主の息子であるコンラッドや異形の友達であるナナシを始め多くの人物と関わっていきます。人との変わりが不毛になるとは思っておりませんが、どのように人間関係がズレていくのかや認識が掛け違っていくのかを見届けて頂ければと願います。併せてこの作品はファンタジーとなっており、世界間の作り方がとても丁寧です。ナナシを始めとした異形の存在が何者なのかといった点にも注目して欲しいです。

 その他の要素ですが、ビジュアルが大変きれいだと思いました。全体的に映画を見ているかのような作られたウィンドウだと思いました。その中で登場人物の立ち絵は顔が大きく、存在感があります。背景描写も全てオリジナルで、日中や夕方などで色合いを丁寧に変え場面を説明してくれます。スチルも枚数も多く、特にエンディングを迎えた後にギャラリーで解放される登場人物の紹介はありがたいと思いました。BGMはフリー素材を始め様々なものを使用しております。ファンタジーな世界にマッチしており、場面のイメージを膨らませてくれます。システム周りもとても丁寧で、スキップなどの機能も快適です。この辺りはエンジンがLight.vnという事で安定感がありますね。総じてプレイしやすい環境でした。

 プレイ時間は私で1時間50分くらいでした。この作品は選択肢があり、エンディングも複数あります。タイトルがLost Friends2となっておりますが、Lost Friends1と直接的な繋がりはありませんのでLost Friends1をプレイしていなくても問題ありません。世界観などは共通ですので、Lost Friends1をプレイしていたらその辺り導入しやすいかも知れません。上でも書きましたが、この作品は不毛系ファンタジーADVですので決して後味が良いシナリオではありません。エンディングが複数ありますが、どのエンディングでも一考する事になると思います。何が不毛なのか、何故不毛なのか、そしてタイトルにあります通り失った友達と涙の理由を考えてみて下さい。何かしら、心に残るものがあると思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間関係においてすれ違いは付き物、後はその現実を認知してなお不毛な道を突き進むかどうかですね。>

 最後までプレイして、やっぱり人間は最終的には分かり合えない物なのかなと思ってしまいました。他人である以上、考え方や信念が違うのは当たり前です。それを頭では分かっていても、どこかで自分の心を分かってくれるはずと期待してしまうのが人間なのかも知れません。

 リカルドは、元は確かに妖精でしたが今は人間です。それを他の誰でもないリカルド自身が自覚し願っております。そこに、元は妖精なのだから妖精としてのリカルドに戻ってくれるかも知れないとコンラッドとナナシが思ってしまった事が不毛の始まりでした。リカルドは根本的に自分の事が大好きで、他人も好きですがそこまで強い興味はありませんでした。勿論良識は持ってましたので目立つ行動は取りませんし義理は持ち合わせてましたが、それ以上の行動に対してとても後ろ向きでした。ナナシも話し相手程度であればとても良い友達でしたが、強引に妖精の国へ連れていこうという辺りから不信感を覚えました。コンラッドはそもそも得体が知れませんでしたのでストレスでした。リカルドとしては不毛な事は特にしておりません。周りが勝手に手を費やして、それが実らなかったのです。

 ナナシ=トビアスは、兄であるリカルドに対して負い目を持っておりました。兄リカルドは元々妖精としての使命を全うしようという意識が高く、だからこそ自分の根や枝が出来損ないである事実を悔しく思ってました。そしてそれが、弟トビアスが寝や枝を自ら折るという行為を許せないと思う理由でした。トビアスにとって、妖精としての使命よりも兄の側に居る事の方が大切だったのです。寝や枝が腐ってしまった兄リカルドが迫害を受けている事に耐えられないからこの行動だったのに、それを兄リカルドが望んでなかったのはボタンの掛け違いですね。ナナシED直前でも、持っている者は持っていない者の気持ちは分からないという言葉がありました。これはリカルドとトビアスだけではなく全ての人が納得できる事ではないでしょうか?結局のところ、相手の気持ちを想像するのも限界があるんですよ。分かっているつもりはどこまでいってもつもりです。最後はどこかで認識がズレるので、後はその現実を受け入れることですね。

 コンラッドもまた、妖精であるリカルドに夢を持ってしまった不幸な存在でした。コンラッドがリカルドを傍に置いたのは、いつかリカルドは妖精としての記憶を取り戻し要請に戻ってくれると信じたからです。時間が解決するとはまさにこの事で、コンラッドがリカルドに説明すれば良いという問題ではありません。だからこそ、コンラッドは自分の事を話さずリカルドをお世話係にした理由も話さず、それをリカルドが不審に思っても我慢して耐えてきました。その後にナナシがいなくなり妖精の国への門も閉じ、いよいよリカルドが妖精としての記憶を取り戻すのを待つだけの時間となりました。ですが2年経ってもその兆候は表れず、ますます人間としてのリカルドが色濃くなっていきます。対人恐怖症のコンラッドはついに心が折れました。そしてあっけなくリカルドを解雇しました。リカルドにとってはたまったものではありませんね。ですけどコンラッドには解雇するだけの理由があったのです。まさに不毛、コンラッドEDはこの作品のジャンルを象徴するシナリオだったと思っております。

 では、コンラッドが不毛にならない為にはどうすればよかったのでしょうか。それはお互いの適切な距離感を保つ事でした。リカルドは根本的にコンラッドに興味がありません。またコンラッドも人間のリカルドには興味がありません。そうであるのなら、お互い利害関係だけは一致させてそれ以上踏み込まない事です。寂しいように感じますが、これが2人にとっての適切な距離感でした。作中でも微妙な距離感と言ってましたが、別にそれが良い悪いという事がありませんね。良い悪いは、2人が決める物なのですから。そしてコンラッドは元々病弱だったこともあり死亡してしまいました。その時、リカルドは妖精としての記憶を思い出してました。もしかしたら、それをコンラッドに告白すればコンラッドと新しい距離感で付き合う事が出来たのかも知れません。しかしそうはしませんでした。人間としての自分を選択し夢に向かって一歩突き進む。リカルドが見せた涙は、コンラッドと妖精としての自分への決別の証だったのかも知れません。

 この作品を通して、人間関係の距離感について改めて考えさせられました。自分がこうあって欲しいと願っても、相手がそれを望んでなければ成立しません。そして、そういう事は人生において往々にしてあります。片想いなんてその最たるものですね。自分はあなたが好きなのにあなたは自分が好きではない、でももしかしたらあなたが自分を好きになってくれるかも知れない。そう思って多くの時間とお金を費やすのです。ですけど、その先に大体良い結末は待っておりません。不毛と言い切ってしまうのは寂しいですが、周りから見たらそう思うと思います。自分の望みは受け入れられない、その現実を認知して適切に軌道修正するのは人生にとって必要ですね。それでも自分の想いを貫き通したいという信念があるのであれば、いばらの道を突き進むのだと思います。あなたにとって大切な物は何でしょうか?そしてそこに他人という要素は入っているでしょうか?その場合は、是非慎重に見極めて不毛にならないよう気を付けて頂きたいと思います。ありがとうございました。


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